四周目 壱
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さつまいもの畑だけにとどまらず、広い庭に家庭菜園を開拓する許可をもぎ取ってしばらく。
杏寿郎さんとは兄妹として過ごすうち、精神的および肉体的距離が再び近くなった。
何それ?って思うでしょ。
簡単に言えば、また床を共にするようになったってこと。といっても、色っぽいあれやそれの気配は一つもない。この歳からあったら怖いわ。
ううん、私からすれば彼以外見えなくなる程に杏寿郎さんは魅力に溢れてるけども。
それにだ。
令和や平成生まれの者には想像がつかないだろうけれど、明治大正昭和初期。第二次世界大戦前の時代の夜はとても暗い。
帝都や都会はともかくとして、幾つかの街を跨いだ先には未だ街頭一つなく真っ暗で。
薮や森、ちょっとした林の様子も想像つかないと思う。進んだ未来のように綺麗に整備なんてされていない未開の地の状態で、風に揺れる草木の音すら幽霊の声に聞こえる。
家の中だってそうだ。
月明かりにぼんやりと浮かぶ天井のシミは目のようにこちらを睨みつけてくるし、井戸は某髪の長い女幽霊が出てくるものどころではなく恐ろしい。夜中なんかに目を向けた日には、白装束の幽霊がこちらを凝視している気がしてやまない。
私は幽霊が大嫌いだ。鬼は斬れるから怖くない、でも幽霊は斬れない。
実態がないから対処のしようがない。前から来るぞ!と思ったら背後から現れるし何をしてくるかわからないの怖すぎる。
何度ちびりそうになったことか。実際、夜中に行きたくなった廁を我慢した挙句、おねしょしてしまったことが数回ある。
この歳でおねしょ!杏寿郎さんと寝る様になる前で良かった。絶対に知られたくない。
長くなったけれど、そのくらいこの時代の夜は身近な物で暗くて、大変な恐怖だった。
あ、この世界ではそれプラス鬼の恐怖もあるのか……最悪ね!
そんなわけで杏寿郎さんと眠るようになったら夜の恐怖はかなり落ち着いた。同じ布団といっても最初は隙間を開けて離れていたものの、どちらからだったか。いつしか抱きついて眠るまでになっていって。
杏寿郎さんの体ってあったかくて安心できるから仕方ないのだけれども。んー、大好き!
そんな感じに張っていた気の角が取れだからだろう、ちょっとした瞬間にも自然と杏寿郎さんに触れるようになるまでそう時間はかからなかった。『前』だって恋仲になって恋愛のあれやそれを経験しているもんねぇ。距離も近くなるってもんよ!
私の悪い子なこのおてては、つい杏寿郎さんの手を求めて繋いでしまう。……触れ合うのが手だけで良かった。でも慣れって怖いね。
「あ、ごめんなさい」
ほら、今日もまた。
杏寿郎さんの鍛錬の休憩として、縁側でのお茶に誘いながらもその手を握ってしまった。誘うだけなら別に手を繋ぐ必要なんてないのにね。
鍛錬で少しずつ肉刺だらけになってきた杏寿郎さんの手のひらが懐かしくて愛しい。
あー、私もそろそろ鍛錬し始めないと。
鍛錬の内容はよくわかってるからある程度自己流でやれているけれど、それだって家事や勉学の合間で槇寿朗さん達にバレぬ様こっそりだし、何より自己流でやれるのは炎の呼吸の分のみ。
他の呼吸の鍛錬内容は完全に手探りで。
どんな修行から始めたのか、冨岡さんや炭治郎に聞けばよかったな。
水の呼吸だし泳いだり、滝行したりするのだろうか。気になるなあ。
「わはは!別に謝る必要はないぞ!
朝緋は手を繋ぐのが好きなのか?気がつくと手を取られていることが多い気がする!!
朝起きた時もよく手が繋がっているが、朝餉に向かう時も庭に出る時も昼も夜も。隣にいる時は大抵手が繋がっている!!」
「はう……そこまで詳しく言わないでほしい……お外に出かける時は繋いでないもん……」
私がいかに手を繋いでいるかバレバレだ。
「それに確かに手を繋ぐのも好きですけど、私が本当に好きなのって手を繋ぐことじゃないんだぁ」
「??」
ああ。そうやって首を傾げる姿も愛しい。もうすぐで尋常小学校通学を終えるとはいえ、まだまだ幼い杏寿郎さん、かわいいなあ。
子供の姿でも大人の姿でも。どんな姿の貴方でも大好き。
『貴方のそばにいるのが好き。貴方のことが好き。お慕いしております。家族としてではなく、ひとりの殿方として』
そう言いたい。言えない。
今の幼い杏寿郎さんに言っても大して伝わらない。普通はそんなことを言うような年頃ではない。
早く気持ちを伝えられる年齢になりたい。
でもこれだけは今も言える。言わなくちゃ。
「私は杏寿郎兄さんと一緒にいること自体が大好きなのです。
太陽や向日葵みたいなそのあたたかい眼差しが、真っ直ぐに見てくれる瞳が大好きです」
此方も真っ直ぐ目を見つめながら、気持ちを伝える。
なぜだかわからないけれど、これがきっかけでお互いの心が相手の心へと向き合っていく。今までもそうだった気がする。
「そんなことは初めて言われた」
初めてかぁ。貴方は知らないと思うけれど、この話は『毎回』伝えていることなんだよ。
「俺は他の人間より眼力が少々強いようでな。だからわざと視線を外して話したりもするんだがそれが却ってどこを見ているのかわからなくて怖いとよく言われるんだ」
それを言ったら槇寿朗さんや千寿郎も怖いになる。だって、貴方達そっくりだもの。
「朝緋は怖いと思わないのか?本当に俺の目も好きなのか?」
「それは見る目のない他人の話。一部の人の話であって、私の話ではありません!信用ありませんか?太陽や向日葵に例えたこの気持ちに、嘘偽りはないのです!」
「朝緋……」
『毎回』そうやって同じ不安を抱く貴方を励ましたかった。
誰か何と言おうとも私にとっては先を明るく照らす太陽で、元気にしてくれる向日葵なのだと。
視線が絡み合った瞬間、より好意であふれそうになり、更に手を繋ぐ力が強くなった気がする。
今度は貴方も握り返してくれた。
……手を繋ぐ癖は余計消えなくなった気がする。私からも、杏寿郎さんからも。
その後、鍛錬を始めなくてはとはやる気持ちはより一層強くなり。
杏寿郎さんの学校通いが早めに終わりを迎える頃になって、私は槇寿朗さんに鬼殺隊に入りたい旨、修行をつけてほしいとの話をした。
ちなみに私が自己流の鍛錬をしていたのは、しっかりバレていた。
うっ、鋭い。さすが現炎柱……その現場を直接見ていたわけでもないのに、私を見ただけで見抜くとは。
『前』もそうだったけど、槇寿朗さんを出し抜くのは難しい。
やはりこの時代、女性の社会進出はまだまだ浸透しておらず、家の主人の言葉に意見する人間への馴染みもあまりない。女性隊士や女性の柱が認められている鬼殺隊が特殊なだけで。
槇寿朗さんの考えもまた、この時代の男児らしく古風に傾いたもので、かなーーーり渋られた。瑠火さんの口添えがなかったら承諾は得られなかったろう。
母は……ううん、瑠火さんは強し。
ただ結局、学業と家事優先は免れず、教えるのも炎の呼吸での修行のみになった。
いいもん。自己流で他の呼吸の修行も続けるから。学業も学校には通うだけ。試験をしてもいつも満点を取れる。花道も茶道もお習字お琴、家事だって。一通りのことは今の私はなんでもこなせる。
そんな私の炎の呼吸の基礎は、すでに完璧なものとなっていた。……基礎だけね。
杏寿郎さんとは兄妹として過ごすうち、精神的および肉体的距離が再び近くなった。
何それ?って思うでしょ。
簡単に言えば、また床を共にするようになったってこと。といっても、色っぽいあれやそれの気配は一つもない。この歳からあったら怖いわ。
ううん、私からすれば彼以外見えなくなる程に杏寿郎さんは魅力に溢れてるけども。
それにだ。
令和や平成生まれの者には想像がつかないだろうけれど、明治大正昭和初期。第二次世界大戦前の時代の夜はとても暗い。
帝都や都会はともかくとして、幾つかの街を跨いだ先には未だ街頭一つなく真っ暗で。
薮や森、ちょっとした林の様子も想像つかないと思う。進んだ未来のように綺麗に整備なんてされていない未開の地の状態で、風に揺れる草木の音すら幽霊の声に聞こえる。
家の中だってそうだ。
月明かりにぼんやりと浮かぶ天井のシミは目のようにこちらを睨みつけてくるし、井戸は某髪の長い女幽霊が出てくるものどころではなく恐ろしい。夜中なんかに目を向けた日には、白装束の幽霊がこちらを凝視している気がしてやまない。
私は幽霊が大嫌いだ。鬼は斬れるから怖くない、でも幽霊は斬れない。
実態がないから対処のしようがない。前から来るぞ!と思ったら背後から現れるし何をしてくるかわからないの怖すぎる。
何度ちびりそうになったことか。実際、夜中に行きたくなった廁を我慢した挙句、おねしょしてしまったことが数回ある。
この歳でおねしょ!杏寿郎さんと寝る様になる前で良かった。絶対に知られたくない。
長くなったけれど、そのくらいこの時代の夜は身近な物で暗くて、大変な恐怖だった。
あ、この世界ではそれプラス鬼の恐怖もあるのか……最悪ね!
そんなわけで杏寿郎さんと眠るようになったら夜の恐怖はかなり落ち着いた。同じ布団といっても最初は隙間を開けて離れていたものの、どちらからだったか。いつしか抱きついて眠るまでになっていって。
杏寿郎さんの体ってあったかくて安心できるから仕方ないのだけれども。んー、大好き!
そんな感じに張っていた気の角が取れだからだろう、ちょっとした瞬間にも自然と杏寿郎さんに触れるようになるまでそう時間はかからなかった。『前』だって恋仲になって恋愛のあれやそれを経験しているもんねぇ。距離も近くなるってもんよ!
私の悪い子なこのおてては、つい杏寿郎さんの手を求めて繋いでしまう。……触れ合うのが手だけで良かった。でも慣れって怖いね。
「あ、ごめんなさい」
ほら、今日もまた。
杏寿郎さんの鍛錬の休憩として、縁側でのお茶に誘いながらもその手を握ってしまった。誘うだけなら別に手を繋ぐ必要なんてないのにね。
鍛錬で少しずつ肉刺だらけになってきた杏寿郎さんの手のひらが懐かしくて愛しい。
あー、私もそろそろ鍛錬し始めないと。
鍛錬の内容はよくわかってるからある程度自己流でやれているけれど、それだって家事や勉学の合間で槇寿朗さん達にバレぬ様こっそりだし、何より自己流でやれるのは炎の呼吸の分のみ。
他の呼吸の鍛錬内容は完全に手探りで。
どんな修行から始めたのか、冨岡さんや炭治郎に聞けばよかったな。
水の呼吸だし泳いだり、滝行したりするのだろうか。気になるなあ。
「わはは!別に謝る必要はないぞ!
朝緋は手を繋ぐのが好きなのか?気がつくと手を取られていることが多い気がする!!
朝起きた時もよく手が繋がっているが、朝餉に向かう時も庭に出る時も昼も夜も。隣にいる時は大抵手が繋がっている!!」
「はう……そこまで詳しく言わないでほしい……お外に出かける時は繋いでないもん……」
私がいかに手を繋いでいるかバレバレだ。
「それに確かに手を繋ぐのも好きですけど、私が本当に好きなのって手を繋ぐことじゃないんだぁ」
「??」
ああ。そうやって首を傾げる姿も愛しい。もうすぐで尋常小学校通学を終えるとはいえ、まだまだ幼い杏寿郎さん、かわいいなあ。
子供の姿でも大人の姿でも。どんな姿の貴方でも大好き。
『貴方のそばにいるのが好き。貴方のことが好き。お慕いしております。家族としてではなく、ひとりの殿方として』
そう言いたい。言えない。
今の幼い杏寿郎さんに言っても大して伝わらない。普通はそんなことを言うような年頃ではない。
早く気持ちを伝えられる年齢になりたい。
でもこれだけは今も言える。言わなくちゃ。
「私は杏寿郎兄さんと一緒にいること自体が大好きなのです。
太陽や向日葵みたいなそのあたたかい眼差しが、真っ直ぐに見てくれる瞳が大好きです」
此方も真っ直ぐ目を見つめながら、気持ちを伝える。
なぜだかわからないけれど、これがきっかけでお互いの心が相手の心へと向き合っていく。今までもそうだった気がする。
「そんなことは初めて言われた」
初めてかぁ。貴方は知らないと思うけれど、この話は『毎回』伝えていることなんだよ。
「俺は他の人間より眼力が少々強いようでな。だからわざと視線を外して話したりもするんだがそれが却ってどこを見ているのかわからなくて怖いとよく言われるんだ」
それを言ったら槇寿朗さんや千寿郎も怖いになる。だって、貴方達そっくりだもの。
「朝緋は怖いと思わないのか?本当に俺の目も好きなのか?」
「それは見る目のない他人の話。一部の人の話であって、私の話ではありません!信用ありませんか?太陽や向日葵に例えたこの気持ちに、嘘偽りはないのです!」
「朝緋……」
『毎回』そうやって同じ不安を抱く貴方を励ましたかった。
誰か何と言おうとも私にとっては先を明るく照らす太陽で、元気にしてくれる向日葵なのだと。
視線が絡み合った瞬間、より好意であふれそうになり、更に手を繋ぐ力が強くなった気がする。
今度は貴方も握り返してくれた。
……手を繋ぐ癖は余計消えなくなった気がする。私からも、杏寿郎さんからも。
その後、鍛錬を始めなくてはとはやる気持ちはより一層強くなり。
杏寿郎さんの学校通いが早めに終わりを迎える頃になって、私は槇寿朗さんに鬼殺隊に入りたい旨、修行をつけてほしいとの話をした。
ちなみに私が自己流の鍛錬をしていたのは、しっかりバレていた。
うっ、鋭い。さすが現炎柱……その現場を直接見ていたわけでもないのに、私を見ただけで見抜くとは。
『前』もそうだったけど、槇寿朗さんを出し抜くのは難しい。
やはりこの時代、女性の社会進出はまだまだ浸透しておらず、家の主人の言葉に意見する人間への馴染みもあまりない。女性隊士や女性の柱が認められている鬼殺隊が特殊なだけで。
槇寿朗さんの考えもまた、この時代の男児らしく古風に傾いたもので、かなーーーり渋られた。瑠火さんの口添えがなかったら承諾は得られなかったろう。
母は……ううん、瑠火さんは強し。
ただ結局、学業と家事優先は免れず、教えるのも炎の呼吸での修行のみになった。
いいもん。自己流で他の呼吸の修行も続けるから。学業も学校には通うだけ。試験をしてもいつも満点を取れる。花道も茶道もお習字お琴、家事だって。一通りのことは今の私はなんでもこなせる。
そんな私の炎の呼吸の基礎は、すでに完璧なものとなっていた。……基礎だけね。