四周目 壱
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死とは痛く寒く冷たく暗く、恐ろしいものだった。あの時、そばに瑠火さんがいてくれたから寂しくはなかっただけで。一人だったなら、どんなに短い時間だったとしても耐えきれなかった。幼少期に戻れることを瑠火さんから聞かなければ、こうして戻った瞬間にも発狂していただろう。
「……へぶしっ!!」
それにしても寒い。いつもこの、血塗れの女児の寝巻き状態で戻るのはなんとかならないものなのだろうか。おかげで毎回このあと風邪にかかってこんこんと眠りに落ちてしまう。
記憶を取り戻した弊害たる頭痛はもうとっくにないけれど、風邪からの頭痛は多少ある。
『前前回』は三日。『前回』は二日。今回はどのくらい寝てしまうのだろう。一日かな?でも仕方ない、まだ体力のない呼吸も碌に使えない子供の体なのだから。
でもせめて意識が遠のく前に情報やこれからについてを整理し、考えておこう。きっと槇寿朗さんが直にここにやってくる。倒れた後のことは槇寿朗さんに任せよう……。
ああそうだ。できる範囲で呼吸法も今からし始めておかなくてはね。
「すぅーーー……」
うっ、肺が全く仕上がっていないから全集中の呼吸が痛い……!もちろん、『前』よりは楽だし力もあるみたいだけど。繰り返すごとに強さも多少は蓄積されるのかな?だったら嬉しい。力の上に胡座をかかず、鍛錬を続けていればあるいは……。
時間は有限だ。『前』に死んだからといって、俯いてなんていられない。
戻ってきたのなら、やる事だらけだ。
病気で瑠火さんを失いたくない。落ちぶれた槇寿朗さんを見たくない。
上弦の弐も襲ってくる。カナエさんも助けたい。
早いうちから常中をマスターしなければ。他の呼吸も取り入れる勢いで鍛錬して、更に強くならなければ。
次こそ私の一番の望みを叶えられるようにする。泣かせないし、泣きたくない。
杏寿郎さんには死なんてもう、決して選ばせない。だから私も死なない。
……次は私も我慢しない。心のままに。思うままにわがままに生きる。
私は彼と見たいもの。食べたいもの。行きたいところがたくさんある。
杏寿郎さんと生を分かち合いたい。今度は私から愛を伝えたい。
誰もが、そして私の一番大切な人が幸せに笑う世界。それを目指してやり遂げる。そう約束した。
心を燃やせ。煉獄家の女ならば絶対に出来る!
私の四周目が始まった。
「って、なんで前より起きるの遅くなってるの!?」
起きたのは、次の日でも二日後でもなく三日後のそれも昼!おそっ!?
いや、理由は明確。弱くだけど眠りに落ちるその時まで全集中の呼吸が続くギリギリのラインを保っていたせいだ。体が限界だったのだろう。そりゃあ、こんこんと眠りについていても文句は言えない。
そして私の目覚めを待っていた槇寿朗さん、瑠火さんには先ほどの開口一番の言葉も聞かれたし、槇寿朗さんに至っては呼吸のことがバレてしまっていた。
水差しを手渡され喉を潤しながら向けられる目には心配だけでなく、此方を探るようなものが感じられた。
「君は多少、炎の呼吸の全集中が出来るのだな」
「あ、いや……その……、」
「ああいい。言わなくともわかる。親の元で教わるか覚えるかしたのだろう?その歳頃でよく出来ているものだ」
「ありがとう、ございます……」
その後同じように自己紹介を経て、状況や鬼殺隊について、柱について、そして鬼についてを説明された。もう、このあたりの内容は変わらない。そらで覚えている。
槇寿朗さんは相変わらず今は優しくてかっこいいし、瑠火さんは聡明そうで美しいし、乳飲み子の千寿郎はふくふくしてかわいい。
けれど足りない。もう一人がいない。
同じ過去ならあの人が部屋の中に飛び込んでくるはずで。でもいつまで経ってもその様子、気配は皆無だった。
『前回』私が死んだから、その弊害で貴方の存在ごと消え去ってしまった?まさかもう会えないのだろうか?
不安からなのか、凍えるほどに体が冷えてくる。寒い。恐怖ゆえの震えが止まらない。
いや、そんな不安に思う必要はない。私の。ううん、私と明槻の中心は彼なのだ。いないなんて事、あり得るはずがない。彼を助けるが為、私達は過去からやり直している。
布団の端を握り締めながら、目の前にいる槇寿朗さん達に聞いてみた。
「あの、他のご家族は……?」
杏寿郎さんの名前は出さない。千寿郎の兄という単語も出さず聞く。今の私が知っていたらおかしい。
「杏寿郎という俺の子供がいる。朝緋にとっては兄に当たる。他にも家族がいるとわかるとは、朝緋はすごいなあ」
「えっと、その……そんな気がしただけです」
「ほう?」
またも探るような目を向けられてギクリとする。相手は現役の柱だ。下手な事は言えない。
それよりも危惧するほどではなかったのが嬉しい。杏寿郎さんはこの世界でもしっかりと存在している。
体に血液が巡る感覚。冷え切っていた体に熱が戻る。
でも一体どこに……?まだ一人で鍛錬中?きょろりと視線を彷徨わせて家の中の気配を探れば。
「杏寿郎ならば今は尋常小学校に行っていて不在ですが、そろそろ……」
「!!そろそろ帰ってくるのですね!?」
居ても立っても居られない!会いたい、会いたい……貴方に会いたい!!
「「朝緋っ!?」」
気がつけば私は布団を跳ね除け部屋を飛び出していた。裸足のまま、寝巻きという着の身着のままという、はしたない格好で。
「……行ってしまいましたね。そんなに杏寿郎に会いたかったのでしょうか?」
「さあなあ。しかし、会ったことのない杏寿郎がわかるのだろうか……いや、俺そっくりだから一発でわかるはずだが」
「ただ、まだ朝緋は病み上がりですし裸足な上にお着物も寝巻きのままですよ。病み上がりとは思えない動きでしたが……」
「うむ。元気そうで何よりではあるが、裸足と寝巻きについては厳しく言って聞かせんといかんな。煉獄家の娘になるのだから尚更だ」
槇寿朗さんと瑠火さんの間でそんな会話が繰り広げられているとは露知らず、私は往来へと飛び出す。
黄金色の稲穂、炎のように燃えるような朱。どんな時も変わらず美しい貴方の髪が、遠くからでもはっきりと見えた。
貴方だけが輝いている。私の世界の中心。
「……へぶしっ!!」
それにしても寒い。いつもこの、血塗れの女児の寝巻き状態で戻るのはなんとかならないものなのだろうか。おかげで毎回このあと風邪にかかってこんこんと眠りに落ちてしまう。
記憶を取り戻した弊害たる頭痛はもうとっくにないけれど、風邪からの頭痛は多少ある。
『前前回』は三日。『前回』は二日。今回はどのくらい寝てしまうのだろう。一日かな?でも仕方ない、まだ体力のない呼吸も碌に使えない子供の体なのだから。
でもせめて意識が遠のく前に情報やこれからについてを整理し、考えておこう。きっと槇寿朗さんが直にここにやってくる。倒れた後のことは槇寿朗さんに任せよう……。
ああそうだ。できる範囲で呼吸法も今からし始めておかなくてはね。
「すぅーーー……」
うっ、肺が全く仕上がっていないから全集中の呼吸が痛い……!もちろん、『前』よりは楽だし力もあるみたいだけど。繰り返すごとに強さも多少は蓄積されるのかな?だったら嬉しい。力の上に胡座をかかず、鍛錬を続けていればあるいは……。
時間は有限だ。『前』に死んだからといって、俯いてなんていられない。
戻ってきたのなら、やる事だらけだ。
病気で瑠火さんを失いたくない。落ちぶれた槇寿朗さんを見たくない。
上弦の弐も襲ってくる。カナエさんも助けたい。
早いうちから常中をマスターしなければ。他の呼吸も取り入れる勢いで鍛錬して、更に強くならなければ。
次こそ私の一番の望みを叶えられるようにする。泣かせないし、泣きたくない。
杏寿郎さんには死なんてもう、決して選ばせない。だから私も死なない。
……次は私も我慢しない。心のままに。思うままにわがままに生きる。
私は彼と見たいもの。食べたいもの。行きたいところがたくさんある。
杏寿郎さんと生を分かち合いたい。今度は私から愛を伝えたい。
誰もが、そして私の一番大切な人が幸せに笑う世界。それを目指してやり遂げる。そう約束した。
心を燃やせ。煉獄家の女ならば絶対に出来る!
私の四周目が始まった。
「って、なんで前より起きるの遅くなってるの!?」
起きたのは、次の日でも二日後でもなく三日後のそれも昼!おそっ!?
いや、理由は明確。弱くだけど眠りに落ちるその時まで全集中の呼吸が続くギリギリのラインを保っていたせいだ。体が限界だったのだろう。そりゃあ、こんこんと眠りについていても文句は言えない。
そして私の目覚めを待っていた槇寿朗さん、瑠火さんには先ほどの開口一番の言葉も聞かれたし、槇寿朗さんに至っては呼吸のことがバレてしまっていた。
水差しを手渡され喉を潤しながら向けられる目には心配だけでなく、此方を探るようなものが感じられた。
「君は多少、炎の呼吸の全集中が出来るのだな」
「あ、いや……その……、」
「ああいい。言わなくともわかる。親の元で教わるか覚えるかしたのだろう?その歳頃でよく出来ているものだ」
「ありがとう、ございます……」
その後同じように自己紹介を経て、状況や鬼殺隊について、柱について、そして鬼についてを説明された。もう、このあたりの内容は変わらない。そらで覚えている。
槇寿朗さんは相変わらず今は優しくてかっこいいし、瑠火さんは聡明そうで美しいし、乳飲み子の千寿郎はふくふくしてかわいい。
けれど足りない。もう一人がいない。
同じ過去ならあの人が部屋の中に飛び込んでくるはずで。でもいつまで経ってもその様子、気配は皆無だった。
『前回』私が死んだから、その弊害で貴方の存在ごと消え去ってしまった?まさかもう会えないのだろうか?
不安からなのか、凍えるほどに体が冷えてくる。寒い。恐怖ゆえの震えが止まらない。
いや、そんな不安に思う必要はない。私の。ううん、私と明槻の中心は彼なのだ。いないなんて事、あり得るはずがない。彼を助けるが為、私達は過去からやり直している。
布団の端を握り締めながら、目の前にいる槇寿朗さん達に聞いてみた。
「あの、他のご家族は……?」
杏寿郎さんの名前は出さない。千寿郎の兄という単語も出さず聞く。今の私が知っていたらおかしい。
「杏寿郎という俺の子供がいる。朝緋にとっては兄に当たる。他にも家族がいるとわかるとは、朝緋はすごいなあ」
「えっと、その……そんな気がしただけです」
「ほう?」
またも探るような目を向けられてギクリとする。相手は現役の柱だ。下手な事は言えない。
それよりも危惧するほどではなかったのが嬉しい。杏寿郎さんはこの世界でもしっかりと存在している。
体に血液が巡る感覚。冷え切っていた体に熱が戻る。
でも一体どこに……?まだ一人で鍛錬中?きょろりと視線を彷徨わせて家の中の気配を探れば。
「杏寿郎ならば今は尋常小学校に行っていて不在ですが、そろそろ……」
「!!そろそろ帰ってくるのですね!?」
居ても立っても居られない!会いたい、会いたい……貴方に会いたい!!
「「朝緋っ!?」」
気がつけば私は布団を跳ね除け部屋を飛び出していた。裸足のまま、寝巻きという着の身着のままという、はしたない格好で。
「……行ってしまいましたね。そんなに杏寿郎に会いたかったのでしょうか?」
「さあなあ。しかし、会ったことのない杏寿郎がわかるのだろうか……いや、俺そっくりだから一発でわかるはずだが」
「ただ、まだ朝緋は病み上がりですし裸足な上にお着物も寝巻きのままですよ。病み上がりとは思えない動きでしたが……」
「うむ。元気そうで何よりではあるが、裸足と寝巻きについては厳しく言って聞かせんといかんな。煉獄家の娘になるのだから尚更だ」
槇寿朗さんと瑠火さんの間でそんな会話が繰り広げられているとは露知らず、私は往来へと飛び出す。
黄金色の稲穂、炎のように燃えるような朱。どんな時も変わらず美しい貴方の髪が、遠くからでもはっきりと見えた。
貴方だけが輝いている。私の世界の中心。