二周目 壱
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あれよあれよという間に、煉獄家本家の子供として引き取られることになった。『前』と同じだ。
あ、『前』は小さい時にととさまかかさま呼びだった気がする!
でもまあいいか。精神は十を越えているんだし、そこまで幼ない子供にはなりきれない。周りだけでなく自分までも騙したくはない。
「ぅあ〜」
「!?」
その時、隣の部屋から赤子の泣き声が聞こえてきた。
「む。起きたようだ」
「ええ、お乳の時間のようです」
えっ赤ちゃん……?もしかしなくても、千寿郎……だよね。
思えば私がこの歳なのに、千寿郎が産まれていないはずないのだ。
しばらくして瑠火さんは隣の部屋から、小さな赤ん坊を抱いて戻ってきた。
包まれた衣服の端からは黄金色眩しい綿毛のような髪が見える。
千寿郎だ。千寿郎だ……!
千寿郎がちっちゃい。感動する!『前』も見たはずなのに、どうしてかこう、感動して涙が出そう。
「朝緋、貴方の弟の千寿郎です」
「まだ生まれて一年程だ。かわいいだろう」
「うん、とってもかわいい……」
かわいくて、それでいて槇寿朗さんに似たかっこいい男になると思う。
だって、その兄の杏寿郎さんがあんなにかっこいいんだもの。兄にも父にも似た千寿郎は成長したらかっこいいに決まってる。
何より、煉獄家本家の男子は先祖代々同じ顔。まるでマトリョーシカだものね。
指をそっと差し出せば、小さな手のひらが指をぎゅっと強く握った。
赤ちゃんって、どこにこんな力があるのってくらい、指の力が強い。
ふくふくもちもち、ミルクを飲んだばかりだからかな?甘くて優しいいい匂いもする。
見てるだけで幸せ。
この愛しい子を守りたいと、もうすでにこの心と体は、『前』と同じで姉の気分になっていた。
そしてその様子を見ている者が一人。
視線に気がついた時には、襖は勢いよく開いた後だった。
弾丸のように、これまた黄金色の頭部を持つ子が飛び込んできた!
あっ!!!!きょ、杏寿郎さんだ……っ!
そうだよね、千寿郎がこんなに小さいんだもの、杏寿郎さんだって小さいに決まっているよね!ただし私よりは大きい。
「父上母上!
お話は終わりましたか!言いつかった剣の稽古は全部終わりました!!」
ハキハキ喋るおっきな声が、ビリビリと鼓膜を震わせる。相変わらず存在感抜群の杏寿郎さんの声が聞こえないと思ったら、稽古に励んでいたのか。
父である槇寿朗さんがいなくとも自主的に稽古をすることは物心がつく前からやっていたと前に聞いたし、この歳では当然だった。
「全く、杏寿郎は騒々しいなあ。話は先ほど終わったところだ」
「一人でよく頑張りました。手と足は洗ってからきましたか?」
「はいっ!」
シュバッと手を上げていい返事をしているけど、顔にはまだ水滴が伝っている。手と足どころか全身丸ごと水を軽く浴びて、そのあとちゃんと拭かずに来たとわかる。せっかちな杏寿郎さんらしいなあ。
「この子は杏寿郎。朝緋の兄にあたる子だ」
「杏寿郎、今日から貴方の妹になる朝緋です。仲良くするのですよ」
「いもうと……はい!
よろしく頼む!!」
「……うん、よろしくお願いします、杏寿郎さ、」
差し出された手を取る。まっすぐに私だけを見てくる貴方に向かって、私は言い直した。
「杏寿郎兄さん」
幼い者同士だし家族なのに杏寿郎さんと呼ぶのもなんだかなあ。彼の死の直前で想いが通じ合っただけとはいえ、なんともこそばゆいものがあった。
そのため呼び方を『兄』としてのものにしてみたが。
杏寿郎さん……、本物だ。生きてる。杏寿郎さんがいきてる。目の前で元気に喋っている…。
目の前にはあの時喪った最愛の人。
私の心が、体が。感情に打ち震えて止まらなかった。
水滴がまだついていると口実を作り、袖口で拭くついでに頬にそっと触れる。
いきなり触ってびっくりしたよね、ごめんなさい。でもどうしても、目の前の人が本物かどうか確かめないと気が済まなかった。
……暖かい。あの時のぬくもりと一緒だった。よく知った体温だった。
もう止まらなかった。
溢れ出る涙をそのままに、杏寿郎さんに抱きついてしまった。
「??
父上母上。彼女はなぜ泣いているのですか!」
「わ、わからん!る、瑠火……っ!」
「私も存じません。ですが、杏寿郎の事が嫌いなわけではないのは確かです」
不思議そうに目を見開いたまま親二人に聞くも、槇寿朗さんはおろおろ、瑠火さんは少し困ったように微笑むだけだったようだ。
「朝緋!もしかして、俺の目が怖いのだろうか!」
まだ声変わりもしておらず、いつも聞いていた声音ではないものの。再び名を呼ばれ、泣く声に拍車がかかる。これは嬉し涙だ。
「全然……ッ、全然怖くないです……!明るくてあったかくて、大好きな目ですっ!」
「なんと……っ」
あとから思えば、この時の言葉はまるで愛の告白のようだった。だがその事に気がついたのは、悲しいかな。私を除いた全員だった。
力むように顔を赤く染めながら、杏寿郎さんは聞いてきた。
「なっ、なら!もしかしてお腹が空いてるのか!?俺は空いてる!」
「ちょっとは空いて、るけど……でもこの涙は、そういうのとは違くて……っ」
「どこか痛いのか!?」
「ううんどこも痛くない……!」
泣いていれば、よしよしポンポン。あやすように杏寿郎さんに頭を撫でられた。おかげでまた涙が止まらなくなった。
ほんっと、あの時から涙腺緩くなったなあ。自分でも思う。
「よもっ!余計に泣いたっ!?父上母上ぇ!どうしたらいいですか!
朝緋、泣かないでくれ……っ!」
なかなか泣き止まぬままいれば、つられて瑠火の腕の中の千寿郎も泣き出してしまった。
兄たる杏寿郎さんの不安な気持ちを察したのかもしれない。
自分のせいとはいえ、申し訳ない……。
「あらあら、朝緋の涙が移ってしまいましたね。
槇寿朗さん、貴方が笑わせてあげてください。娘の笑顔を引き出すのも親の役目。炎柱である貴方にならできるはずです」
「えっ俺がか!炎柱は関係あるのか!?」
「あります。我が子を笑顔にする事も、強き者の責務です」
「むっ!責務ならば仕方ない…………う、うむ……。
朝緋!泣き止みなさい!」
他の人には見えない位置。私だけに見えるようなそんな位置。杏寿郎さんの背後から、飛び出した槇寿朗さんの顔。
その顔を見た途端に涙が引っ込んだ。
「ふっ、あはは……っありがとうございます……っ」
はしたないので口元を押さえて控えめに笑うが、まさか槇寿朗さんのあんな顔を見ることになるとは。一生忘れられなくなりそうだ。
「やれやれ、あんな顔をする事になろうとは思いもせなんだ。しかしやっと笑ったか。その表情は瑠火によく似てるなあ」
「まあ……朝緋と似ているのですか?」
「並んでもらうと……うむ、目元がそっくりで母娘にしか見えないな」
その言葉に私の顔を見て、そして瑠火さんを見て。また私を見て。
「父上、本当ですね!」
杏寿郎さんも納得したようだった。似てるかなあ?でも嬉しい。
「ああ、朝緋はうちの娘だ」
槇寿朗さんはそう言って、私だけでなく瑠火さん杏寿郎さん千寿郎……全員をぎゅうぎゅうに抱きこみ、私が寝ていた布団に一家総出でばたんと倒れ込んだ。
ああ、またこんな幸せな時間が送れるなんて。そんなこと考えもしなかった。
一度踏んだ轍をなぞるとしても、この瞬間だけは行き先を変えずにそのまま進みたい。
そりゃあ叶うなら生みの親にも生きていてほしかった。とはいえ意図はわからなくてもこうして、人生のやり直しができる。大好きな人たちと、もう一度過ごすことができる。
ありがとう。
あ、『前』は小さい時にととさまかかさま呼びだった気がする!
でもまあいいか。精神は十を越えているんだし、そこまで幼ない子供にはなりきれない。周りだけでなく自分までも騙したくはない。
「ぅあ〜」
「!?」
その時、隣の部屋から赤子の泣き声が聞こえてきた。
「む。起きたようだ」
「ええ、お乳の時間のようです」
えっ赤ちゃん……?もしかしなくても、千寿郎……だよね。
思えば私がこの歳なのに、千寿郎が産まれていないはずないのだ。
しばらくして瑠火さんは隣の部屋から、小さな赤ん坊を抱いて戻ってきた。
包まれた衣服の端からは黄金色眩しい綿毛のような髪が見える。
千寿郎だ。千寿郎だ……!
千寿郎がちっちゃい。感動する!『前』も見たはずなのに、どうしてかこう、感動して涙が出そう。
「朝緋、貴方の弟の千寿郎です」
「まだ生まれて一年程だ。かわいいだろう」
「うん、とってもかわいい……」
かわいくて、それでいて槇寿朗さんに似たかっこいい男になると思う。
だって、その兄の杏寿郎さんがあんなにかっこいいんだもの。兄にも父にも似た千寿郎は成長したらかっこいいに決まってる。
何より、煉獄家本家の男子は先祖代々同じ顔。まるでマトリョーシカだものね。
指をそっと差し出せば、小さな手のひらが指をぎゅっと強く握った。
赤ちゃんって、どこにこんな力があるのってくらい、指の力が強い。
ふくふくもちもち、ミルクを飲んだばかりだからかな?甘くて優しいいい匂いもする。
見てるだけで幸せ。
この愛しい子を守りたいと、もうすでにこの心と体は、『前』と同じで姉の気分になっていた。
そしてその様子を見ている者が一人。
視線に気がついた時には、襖は勢いよく開いた後だった。
弾丸のように、これまた黄金色の頭部を持つ子が飛び込んできた!
あっ!!!!きょ、杏寿郎さんだ……っ!
そうだよね、千寿郎がこんなに小さいんだもの、杏寿郎さんだって小さいに決まっているよね!ただし私よりは大きい。
「父上母上!
お話は終わりましたか!言いつかった剣の稽古は全部終わりました!!」
ハキハキ喋るおっきな声が、ビリビリと鼓膜を震わせる。相変わらず存在感抜群の杏寿郎さんの声が聞こえないと思ったら、稽古に励んでいたのか。
父である槇寿朗さんがいなくとも自主的に稽古をすることは物心がつく前からやっていたと前に聞いたし、この歳では当然だった。
「全く、杏寿郎は騒々しいなあ。話は先ほど終わったところだ」
「一人でよく頑張りました。手と足は洗ってからきましたか?」
「はいっ!」
シュバッと手を上げていい返事をしているけど、顔にはまだ水滴が伝っている。手と足どころか全身丸ごと水を軽く浴びて、そのあとちゃんと拭かずに来たとわかる。せっかちな杏寿郎さんらしいなあ。
「この子は杏寿郎。朝緋の兄にあたる子だ」
「杏寿郎、今日から貴方の妹になる朝緋です。仲良くするのですよ」
「いもうと……はい!
よろしく頼む!!」
「……うん、よろしくお願いします、杏寿郎さ、」
差し出された手を取る。まっすぐに私だけを見てくる貴方に向かって、私は言い直した。
「杏寿郎兄さん」
幼い者同士だし家族なのに杏寿郎さんと呼ぶのもなんだかなあ。彼の死の直前で想いが通じ合っただけとはいえ、なんともこそばゆいものがあった。
そのため呼び方を『兄』としてのものにしてみたが。
杏寿郎さん……、本物だ。生きてる。杏寿郎さんがいきてる。目の前で元気に喋っている…。
目の前にはあの時喪った最愛の人。
私の心が、体が。感情に打ち震えて止まらなかった。
水滴がまだついていると口実を作り、袖口で拭くついでに頬にそっと触れる。
いきなり触ってびっくりしたよね、ごめんなさい。でもどうしても、目の前の人が本物かどうか確かめないと気が済まなかった。
……暖かい。あの時のぬくもりと一緒だった。よく知った体温だった。
もう止まらなかった。
溢れ出る涙をそのままに、杏寿郎さんに抱きついてしまった。
「??
父上母上。彼女はなぜ泣いているのですか!」
「わ、わからん!る、瑠火……っ!」
「私も存じません。ですが、杏寿郎の事が嫌いなわけではないのは確かです」
不思議そうに目を見開いたまま親二人に聞くも、槇寿朗さんはおろおろ、瑠火さんは少し困ったように微笑むだけだったようだ。
「朝緋!もしかして、俺の目が怖いのだろうか!」
まだ声変わりもしておらず、いつも聞いていた声音ではないものの。再び名を呼ばれ、泣く声に拍車がかかる。これは嬉し涙だ。
「全然……ッ、全然怖くないです……!明るくてあったかくて、大好きな目ですっ!」
「なんと……っ」
あとから思えば、この時の言葉はまるで愛の告白のようだった。だがその事に気がついたのは、悲しいかな。私を除いた全員だった。
力むように顔を赤く染めながら、杏寿郎さんは聞いてきた。
「なっ、なら!もしかしてお腹が空いてるのか!?俺は空いてる!」
「ちょっとは空いて、るけど……でもこの涙は、そういうのとは違くて……っ」
「どこか痛いのか!?」
「ううんどこも痛くない……!」
泣いていれば、よしよしポンポン。あやすように杏寿郎さんに頭を撫でられた。おかげでまた涙が止まらなくなった。
ほんっと、あの時から涙腺緩くなったなあ。自分でも思う。
「よもっ!余計に泣いたっ!?父上母上ぇ!どうしたらいいですか!
朝緋、泣かないでくれ……っ!」
なかなか泣き止まぬままいれば、つられて瑠火の腕の中の千寿郎も泣き出してしまった。
兄たる杏寿郎さんの不安な気持ちを察したのかもしれない。
自分のせいとはいえ、申し訳ない……。
「あらあら、朝緋の涙が移ってしまいましたね。
槇寿朗さん、貴方が笑わせてあげてください。娘の笑顔を引き出すのも親の役目。炎柱である貴方にならできるはずです」
「えっ俺がか!炎柱は関係あるのか!?」
「あります。我が子を笑顔にする事も、強き者の責務です」
「むっ!責務ならば仕方ない…………う、うむ……。
朝緋!泣き止みなさい!」
他の人には見えない位置。私だけに見えるようなそんな位置。杏寿郎さんの背後から、飛び出した槇寿朗さんの顔。
その顔を見た途端に涙が引っ込んだ。
「ふっ、あはは……っありがとうございます……っ」
はしたないので口元を押さえて控えめに笑うが、まさか槇寿朗さんのあんな顔を見ることになるとは。一生忘れられなくなりそうだ。
「やれやれ、あんな顔をする事になろうとは思いもせなんだ。しかしやっと笑ったか。その表情は瑠火によく似てるなあ」
「まあ……朝緋と似ているのですか?」
「並んでもらうと……うむ、目元がそっくりで母娘にしか見えないな」
その言葉に私の顔を見て、そして瑠火さんを見て。また私を見て。
「父上、本当ですね!」
杏寿郎さんも納得したようだった。似てるかなあ?でも嬉しい。
「ああ、朝緋はうちの娘だ」
槇寿朗さんはそう言って、私だけでなく瑠火さん杏寿郎さん千寿郎……全員をぎゅうぎゅうに抱きこみ、私が寝ていた布団に一家総出でばたんと倒れ込んだ。
ああ、またこんな幸せな時間が送れるなんて。そんなこと考えもしなかった。
一度踏んだ轍をなぞるとしても、この瞬間だけは行き先を変えずにそのまま進みたい。
そりゃあ叶うなら生みの親にも生きていてほしかった。とはいえ意図はわからなくてもこうして、人生のやり直しができる。大好きな人たちと、もう一度過ごすことができる。
ありがとう。