一周目 壱
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「出発したみたいね。戻ろ」
連結部分を軽く確認し終える頃、汽笛が響き渡り、無限列車が夜に向けて出発した。
もう陽はとうに暮れて鬼の活動時間だ。太陽はどこにも見当たらない。
ここで四十もの人間の命が消えた。隊士の姿含めて……。
十中八九鬼の手……それも強力な血鬼術によってだとわかりそうな状態でだ。
その事実と暗闇の中を走っていく列車の様は、まるで大口を開けた鬼の口の中へと真っ直ぐに向かっているかのようで。
寒くもないのに身震いしてしまい、思わず隊服に包まれた腕を摩った。
杏寿郎さんの「美味い!!」の大きな声は、私が車両の中に入った時にはすでに聞こえなくなっていた。
もう食べ終わったのね、相変わらず早食いだなぁ。
せっかちなだけはあるけれど、もっとよく噛んで食べて欲しいと言うのが私の願いだ。
座席に近づくと、杏寿郎さんはちょうど市松模様の羽織を着た子と会話をしているようだった。
箱を背負った市松模様の子に、黄色い蒲公英のような頭の子、それに……猪頭で裸!?
随分と変わったナリをしてる子達だけど、中に隊服を着ているから鬼殺隊の一員のよう。
猪頭君も一部は隊服だし。
蒲公英頭がぺこりとお辞儀をして、猪頭が鼻息を荒くしてふんぞり返っている。
うーん、仕草を見るにとても若そう。まだ新人さんなのかな?
見ているだけで微笑ましくも思えて、なんだかほわほわする。
「あの、師範……」
「朝緋!戻ったようだな!!問題はなかったか!」
そう言う杏寿郎さんの声色はどこかほっとしたものだ。
心配性だなあ。これでも鬼殺隊に入って三年以上経っているんだから、そこまで心配しなくても。
稀血だとはいえ少々過保護すぎやしないか。
もっと自分の継子を信じて欲しい。
「はい。何の問題もなく、確認も終わりました。
ところでその方達は、もしや今回の任務同行の隊士ですか?」
追加の人員なんて聞いてましたっけ?
と、首を傾げながら三人に目を向けると。
「かっ、かわいい女の子が俺に話しかけてきたーーー!!ひゃーーー!!ここが天国ゥーーー!!
俺の名前は我妻善逸!!君の名前は!?教えて教えて〜!!」
「はい?」
蒲公英色の頭をした、我妻善逸という隊士が大興奮で体をくねくねさせながら、私の手を取ってきた。
なんなのだろう、この軟体生物のような動きの隊士は。顔も赤いし茹で蛸かしら。
不審に思いさらに首を傾げると。
「ひいいい!首傾げて俺を見てるゥーー!!ここここれ!絶対俺のこと好きだよね!?」
声も少しうるさい。杏寿郎さんとは全く違ううるささだなあ。うーん、どうしたものか。
「あの、えーっと……?」
その瞬間、猪頭の少年の毛が、ブワッと逆立ったように見えた。
そして市松模様の羽織の彼の鋭い声。
「やめろ善逸!煉獄さんからチリチリ焦げ付くような匂いがしてる!」
「ギャーーー!わかってるんだよォーーー!!こわい!柱怖い!!超怖い音させてるーー!!」
「む?なんのことだろうか!」
「しかも無自覚ゥーー!!?ウッソだろオイ!こんな音してるのに無自覚とかあり得ないだろーーーっ!!?」
「善逸!周りの人の迷惑になるから騒ぐな!!」
「炭治郎も声抑えろよな!?」
騒いでるし怖いと連呼する割には離そうとしてくれない。
何が何だかわからないけど、我妻君とやら……そろそろ私の手を離して欲しいな。
大体、杏寿郎さんを怖がるのは柱相手だし仕方ないとしてそこな君、チリチリ焦げ付くような匂いってなに。
確かに炎の呼吸を使うけれど、燃えているわけではないし、焦げてない。杏寿郎さんからそんな匂いがしたことは一度もない。
彼はいつだって、おひさまのような暖かい匂いがしているんだから。
困惑しながらも杏寿郎さんの方へ顔を向けると、あれ?笑顔だ。
でも一瞬、笑顔の奥で怒ってるように見えたのは気のせいじゃないと思う。
「もしかして、これ私から手を離せば大丈夫な感じ?」
「ハイ……お手数おかけしてすみません、お願いします。
あと、俺の名前は竈門炭治郎で、猪の被り物をしているのが嘴平伊之助です」
「親分と呼ぶことを許す!」
恐怖で気を失いかけている我妻君の意識を刈り取り、手を離して竈門君に渡す。
軽くだからすぐさま目覚めるだろう。
「ちょっと賑やかだけど、いい子達だね」
「はい!自慢の仲間です!ありがとうございます!!」
「ふふふ」
「……朝緋、座りなさい」
「あ、ハイ」
いい子って言って笑いかけた瞬間、杏寿郎さんの眉毛がぴくりと動いたけど、問題ある発言だったかな。
杏寿郎さん、よくよく見ればやっぱり怒ってる時の顔してるし。
笑顔なのに、喉の奥でぐるると唸る獅子のような肉食獣の顔をしてる。
こういう時は素直に従うに限る。私は出来た継子だもの。
「それでその箱に入っているのが」
「はい、妹の禰󠄀豆子です」
私が大人しく座るのを見届け、杏寿郎さんは竈門君との話に戻った。
だが、妹が狭い箱に入っている。だなんて聞いて、私は立ち上がりそうな勢いだった。
「えっ妹さんが箱に?それってどういう……?」
まさか折檻で?そんな可愛い顔して、竈門君は加虐趣味を……。
今思えば、大変失礼な考えである。
「朝緋、この少年の妹は鬼だ」
「お、鬼ですって!?」
杏寿郎さんからもたらされた言葉に、今度こそ私は立ち上がった。
手は、いつでも抜刀できるように日輪刀の柄に添えて。
「お館様がお認めになっている。落ち着け」
「お館様が……?鬼なのに?」
「ああ」
それから、鬼を連れている経緯や人間を食べていない事などを、竈門君ではなくここで一番信用できる杏寿郎さんにご説明いただいた。
まさか、もしも禰󠄀豆子ちゃんが人を傷つけてしまったら、水柱の冨岡さん含む水の呼吸一派が腹を斬るとは寝耳に水だったけども。
一人の鬼に、これほどまでに命がかけられている。
話の最中には、私が刀を抜かないようにだろう、妹の入った箱は我妻君と嘴平君の元へと預けられた。
さすが杏寿郎さんは賢い。
私は代々鬼殺を生業にしてきた煉獄家とは違い、実際に家族を鬼に殺されている鬼殺隊の典型だ。恨みがあるから、鬼と聞けば頸を刎ねるのは当然だ。
……ただ、箱に向かって「禰󠄀豆子ちゃーん」と緩んだ顔を向ける我妻君は一体?意識を刈り取る時軽くだったとはいえ、もう起きたのにも吃驚だ。
その隣で窓を叩いて騒いでいる嘴平君もなんだか変わっている子だ。
よくはわからないけれど、我妻君も嘴平君も、そして竈門君も悪い子じゃなさそう。私は刀から手を離した。
それでも鬼は鬼。風柱の不死川さんの稀血でも平気だったと聞いたけれど、自分の目で見たものしか私は信じられない。実際に妹の禰󠄀豆子が人の前に出たら……私の稀血の前に出たらどうなるのか気になる。
妹さんのことを私も見極めなくては。
「お館様や師範が認めていても、私はこの目で確かめなければ、人を襲わない鬼だなんてすぐに信じることはできません。
竈門君、ごめんなさい」
「いや!いいんです!!
貴女は結果的に刀を抜かないでくれた!それだけで十分です!!」
うーん……ほんとにいい子だな。目がきらきらしてるよ。
連結部分を軽く確認し終える頃、汽笛が響き渡り、無限列車が夜に向けて出発した。
もう陽はとうに暮れて鬼の活動時間だ。太陽はどこにも見当たらない。
ここで四十もの人間の命が消えた。隊士の姿含めて……。
十中八九鬼の手……それも強力な血鬼術によってだとわかりそうな状態でだ。
その事実と暗闇の中を走っていく列車の様は、まるで大口を開けた鬼の口の中へと真っ直ぐに向かっているかのようで。
寒くもないのに身震いしてしまい、思わず隊服に包まれた腕を摩った。
杏寿郎さんの「美味い!!」の大きな声は、私が車両の中に入った時にはすでに聞こえなくなっていた。
もう食べ終わったのね、相変わらず早食いだなぁ。
せっかちなだけはあるけれど、もっとよく噛んで食べて欲しいと言うのが私の願いだ。
座席に近づくと、杏寿郎さんはちょうど市松模様の羽織を着た子と会話をしているようだった。
箱を背負った市松模様の子に、黄色い蒲公英のような頭の子、それに……猪頭で裸!?
随分と変わったナリをしてる子達だけど、中に隊服を着ているから鬼殺隊の一員のよう。
猪頭君も一部は隊服だし。
蒲公英頭がぺこりとお辞儀をして、猪頭が鼻息を荒くしてふんぞり返っている。
うーん、仕草を見るにとても若そう。まだ新人さんなのかな?
見ているだけで微笑ましくも思えて、なんだかほわほわする。
「あの、師範……」
「朝緋!戻ったようだな!!問題はなかったか!」
そう言う杏寿郎さんの声色はどこかほっとしたものだ。
心配性だなあ。これでも鬼殺隊に入って三年以上経っているんだから、そこまで心配しなくても。
稀血だとはいえ少々過保護すぎやしないか。
もっと自分の継子を信じて欲しい。
「はい。何の問題もなく、確認も終わりました。
ところでその方達は、もしや今回の任務同行の隊士ですか?」
追加の人員なんて聞いてましたっけ?
と、首を傾げながら三人に目を向けると。
「かっ、かわいい女の子が俺に話しかけてきたーーー!!ひゃーーー!!ここが天国ゥーーー!!
俺の名前は我妻善逸!!君の名前は!?教えて教えて〜!!」
「はい?」
蒲公英色の頭をした、我妻善逸という隊士が大興奮で体をくねくねさせながら、私の手を取ってきた。
なんなのだろう、この軟体生物のような動きの隊士は。顔も赤いし茹で蛸かしら。
不審に思いさらに首を傾げると。
「ひいいい!首傾げて俺を見てるゥーー!!ここここれ!絶対俺のこと好きだよね!?」
声も少しうるさい。杏寿郎さんとは全く違ううるささだなあ。うーん、どうしたものか。
「あの、えーっと……?」
その瞬間、猪頭の少年の毛が、ブワッと逆立ったように見えた。
そして市松模様の羽織の彼の鋭い声。
「やめろ善逸!煉獄さんからチリチリ焦げ付くような匂いがしてる!」
「ギャーーー!わかってるんだよォーーー!!こわい!柱怖い!!超怖い音させてるーー!!」
「む?なんのことだろうか!」
「しかも無自覚ゥーー!!?ウッソだろオイ!こんな音してるのに無自覚とかあり得ないだろーーーっ!!?」
「善逸!周りの人の迷惑になるから騒ぐな!!」
「炭治郎も声抑えろよな!?」
騒いでるし怖いと連呼する割には離そうとしてくれない。
何が何だかわからないけど、我妻君とやら……そろそろ私の手を離して欲しいな。
大体、杏寿郎さんを怖がるのは柱相手だし仕方ないとしてそこな君、チリチリ焦げ付くような匂いってなに。
確かに炎の呼吸を使うけれど、燃えているわけではないし、焦げてない。杏寿郎さんからそんな匂いがしたことは一度もない。
彼はいつだって、おひさまのような暖かい匂いがしているんだから。
困惑しながらも杏寿郎さんの方へ顔を向けると、あれ?笑顔だ。
でも一瞬、笑顔の奥で怒ってるように見えたのは気のせいじゃないと思う。
「もしかして、これ私から手を離せば大丈夫な感じ?」
「ハイ……お手数おかけしてすみません、お願いします。
あと、俺の名前は竈門炭治郎で、猪の被り物をしているのが嘴平伊之助です」
「親分と呼ぶことを許す!」
恐怖で気を失いかけている我妻君の意識を刈り取り、手を離して竈門君に渡す。
軽くだからすぐさま目覚めるだろう。
「ちょっと賑やかだけど、いい子達だね」
「はい!自慢の仲間です!ありがとうございます!!」
「ふふふ」
「……朝緋、座りなさい」
「あ、ハイ」
いい子って言って笑いかけた瞬間、杏寿郎さんの眉毛がぴくりと動いたけど、問題ある発言だったかな。
杏寿郎さん、よくよく見ればやっぱり怒ってる時の顔してるし。
笑顔なのに、喉の奥でぐるると唸る獅子のような肉食獣の顔をしてる。
こういう時は素直に従うに限る。私は出来た継子だもの。
「それでその箱に入っているのが」
「はい、妹の禰󠄀豆子です」
私が大人しく座るのを見届け、杏寿郎さんは竈門君との話に戻った。
だが、妹が狭い箱に入っている。だなんて聞いて、私は立ち上がりそうな勢いだった。
「えっ妹さんが箱に?それってどういう……?」
まさか折檻で?そんな可愛い顔して、竈門君は加虐趣味を……。
今思えば、大変失礼な考えである。
「朝緋、この少年の妹は鬼だ」
「お、鬼ですって!?」
杏寿郎さんからもたらされた言葉に、今度こそ私は立ち上がった。
手は、いつでも抜刀できるように日輪刀の柄に添えて。
「お館様がお認めになっている。落ち着け」
「お館様が……?鬼なのに?」
「ああ」
それから、鬼を連れている経緯や人間を食べていない事などを、竈門君ではなくここで一番信用できる杏寿郎さんにご説明いただいた。
まさか、もしも禰󠄀豆子ちゃんが人を傷つけてしまったら、水柱の冨岡さん含む水の呼吸一派が腹を斬るとは寝耳に水だったけども。
一人の鬼に、これほどまでに命がかけられている。
話の最中には、私が刀を抜かないようにだろう、妹の入った箱は我妻君と嘴平君の元へと預けられた。
さすが杏寿郎さんは賢い。
私は代々鬼殺を生業にしてきた煉獄家とは違い、実際に家族を鬼に殺されている鬼殺隊の典型だ。恨みがあるから、鬼と聞けば頸を刎ねるのは当然だ。
……ただ、箱に向かって「禰󠄀豆子ちゃーん」と緩んだ顔を向ける我妻君は一体?意識を刈り取る時軽くだったとはいえ、もう起きたのにも吃驚だ。
その隣で窓を叩いて騒いでいる嘴平君もなんだか変わっている子だ。
よくはわからないけれど、我妻君も嘴平君も、そして竈門君も悪い子じゃなさそう。私は刀から手を離した。
それでも鬼は鬼。風柱の不死川さんの稀血でも平気だったと聞いたけれど、自分の目で見たものしか私は信じられない。実際に妹の禰󠄀豆子が人の前に出たら……私の稀血の前に出たらどうなるのか気になる。
妹さんのことを私も見極めなくては。
「お館様や師範が認めていても、私はこの目で確かめなければ、人を襲わない鬼だなんてすぐに信じることはできません。
竈門君、ごめんなさい」
「いや!いいんです!!
貴女は結果的に刀を抜かないでくれた!それだけで十分です!!」
うーん……ほんとにいい子だな。目がきらきらしてるよ。