三周目 漆
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〜その後の煉獄杏寿郎の話〜
すっかり明るくなった無限列車の沿線上、俺はずっとずっと朝緋を抱いていた。それは隠にもやってきた胡蝶にも、眠る朝緋の体を決して渡さなかったほどで。
眠っているわけではない?亡骸だ?そんなわけない!まだ朝緋の体はこんなにも温かいのに。
早く俺達の炎柱邸に連れて帰らねば……。
しかし、次いで駆けつけた他の柱達に取り押さえられ、戦闘の疲れや痛みもあった俺はあっさりと意識を刈り取られて……気がつけばお館様の元へと運ばれていた。
手当され布団に寝かされ目が覚めたところが鬼殺隊本部で……ありえないほどに動揺してしまった。
そしてお館様の不思議と心落ち着く声に導かれ、俺はスゥッと心に染み込むように理解をする。
朝緋がもう、この世にいないということを。
あんなに燃えていた心の炎が燻ってしまったかのようだ。消火のための液体をかけられ、真っ黒で嫌な匂いのする煙をあたり一面に撒き散らされている気分。
……いや、お館様を前にしている時に考えていい内容ではないな。
「杏寿郎」
「はっ」
この度の任務についての報告を終えたのち、お館様に頭を上げるようにと名を呼ばれ、おずおずとお顔を拝見する。
「私はね、朝緋は無限列車の任務に上弦の鬼がやってくることを知っていたのではないかと思っているんだよ。
……ううん、もしかしたら無限列車の任務の展開自体を知っていたのかもしれない」
憂うような表情で言われた言葉が頭の中で反芻される。
「無限列車の任務で何が起こるかを、上弦の参が来ること朝緋が知っていた……!?
そんなまさか!お館様、ご冗談が過ぎませんか!?」
「杏寿郎は知らないだろうけれど、任務の前に朝緋がここに来たんだ。
無限列車の任務に他の柱を多く投下して欲しいと。そう、お願いしにね」
上弦の鬼には柱が三人ほどついても敵わないと聞く。それは朝緋も、他の隊士ですらも知っていることだ。
そうなるとお館様の言うとおりだ。他の柱を多く投下してほしいだなんて、それ即ち上弦が来るとわかっていたことになる。
……そういえば下弦の壱の後に、まだこれから他にも鬼がくると想定した物言いをしていた。朝緋が無限列車の任務内容を細かく知っていたのでは?と思い当たる節があった。
俺が上弦の鬼と戦う際、朝緋は「より万全な状態」と。「今度こそ勝ち星を」とそう言った。
そして、俺がかつて最期に朝緋の笑顔が見たいと言ったと。
他にも朝緋は昔から、不思議な物言いをする子だった。まるで何度も同じような場面を見てきたようなーー。
無限列車の任務を知っていただけではない。
なんらかの方法で無限列車や他の時間を繰り返し経験していたのではなかろうか。
いや、さすがにあり得ないか。そんな御伽噺や血鬼術のような……。朝緋は妖怪でも鬼でもなく人間だぞ。
鬼の仕業だったとしてもそんな鬼側に有利すぎる血鬼術、どうして鬼舞辻無惨に利用されない?
それでも可能性がないとも限らない。俺はこの突拍子もない考えをお館様に話してみた。
信じてもらえるかどうかはわからずとも……。
しかし、お館様も同じようなことをお考えになられていたのには心底驚いた!
会ったことがないはずなのに、朝緋とは何度か顔を合わせている。そんな気がする初対面だったとの話だ。
先見の力あるお館様でさえ言うことだ。きっと、朝緋は俺の読み通り……。
なぜ、俺に教えてくれなかった……!!君の言う事ならば俺は信じたとも!!
だがもう遅い。朝緋はもうどこにもいない。
心にポッカリと穴が空いた。俺の心臓はあるべき場所に埋まっているのだろうか。いや、心臓はある。
しかし、その場所にあった他の大事なものは失われてしまった。
体すら重い。全集中の呼吸は出来ているのに、動くのすら億劫なほど。気怠い……。
「……御館様、申し訳ありません。鬼との戦いは未だ続いている状況なのはわかっておりますが、自分はしばし休暇をいただきたく思います」
「ああ、いいよ。朝緋の葬儀もあることだし、杏寿郎はゆっくり休むといい。君は朝緋とただの継子の関係ではなく、良い仲だったのだからね。
でも出来れば杏寿郎には『戻って欲しかった』な」
「戻って……?」
「ううん。気にしないでね」
あいもかわらず朝緋同様、不思議な物言いをする御人だ。
話を終えた俺は炎柱邸でなく、朝緋の体が待つ生家・煉獄家へ急いだ。
急いでいるはずなのに全身の倦怠感激しく、歩みも走りも非常に遅く感じたが。
ああ、朝緋に会いたい。
本当なら、君は炎柱邸で俺を笑顔で迎えて入れてくれたはずなのに。
俺が帰還を知らせながら抱き込めば、あたたかい抱擁を返してくれたはずなのに。
なのにもうあの邸にもどこにも生きる朝緋の姿はない。
こんなにも会いたくてたまらないのに。
すっかり明るくなった無限列車の沿線上、俺はずっとずっと朝緋を抱いていた。それは隠にもやってきた胡蝶にも、眠る朝緋の体を決して渡さなかったほどで。
眠っているわけではない?亡骸だ?そんなわけない!まだ朝緋の体はこんなにも温かいのに。
早く俺達の炎柱邸に連れて帰らねば……。
しかし、次いで駆けつけた他の柱達に取り押さえられ、戦闘の疲れや痛みもあった俺はあっさりと意識を刈り取られて……気がつけばお館様の元へと運ばれていた。
手当され布団に寝かされ目が覚めたところが鬼殺隊本部で……ありえないほどに動揺してしまった。
そしてお館様の不思議と心落ち着く声に導かれ、俺はスゥッと心に染み込むように理解をする。
朝緋がもう、この世にいないということを。
あんなに燃えていた心の炎が燻ってしまったかのようだ。消火のための液体をかけられ、真っ黒で嫌な匂いのする煙をあたり一面に撒き散らされている気分。
……いや、お館様を前にしている時に考えていい内容ではないな。
「杏寿郎」
「はっ」
この度の任務についての報告を終えたのち、お館様に頭を上げるようにと名を呼ばれ、おずおずとお顔を拝見する。
「私はね、朝緋は無限列車の任務に上弦の鬼がやってくることを知っていたのではないかと思っているんだよ。
……ううん、もしかしたら無限列車の任務の展開自体を知っていたのかもしれない」
憂うような表情で言われた言葉が頭の中で反芻される。
「無限列車の任務で何が起こるかを、上弦の参が来ること朝緋が知っていた……!?
そんなまさか!お館様、ご冗談が過ぎませんか!?」
「杏寿郎は知らないだろうけれど、任務の前に朝緋がここに来たんだ。
無限列車の任務に他の柱を多く投下して欲しいと。そう、お願いしにね」
上弦の鬼には柱が三人ほどついても敵わないと聞く。それは朝緋も、他の隊士ですらも知っていることだ。
そうなるとお館様の言うとおりだ。他の柱を多く投下してほしいだなんて、それ即ち上弦が来るとわかっていたことになる。
……そういえば下弦の壱の後に、まだこれから他にも鬼がくると想定した物言いをしていた。朝緋が無限列車の任務内容を細かく知っていたのでは?と思い当たる節があった。
俺が上弦の鬼と戦う際、朝緋は「より万全な状態」と。「今度こそ勝ち星を」とそう言った。
そして、俺がかつて最期に朝緋の笑顔が見たいと言ったと。
他にも朝緋は昔から、不思議な物言いをする子だった。まるで何度も同じような場面を見てきたようなーー。
無限列車の任務を知っていただけではない。
なんらかの方法で無限列車や他の時間を繰り返し経験していたのではなかろうか。
いや、さすがにあり得ないか。そんな御伽噺や血鬼術のような……。朝緋は妖怪でも鬼でもなく人間だぞ。
鬼の仕業だったとしてもそんな鬼側に有利すぎる血鬼術、どうして鬼舞辻無惨に利用されない?
それでも可能性がないとも限らない。俺はこの突拍子もない考えをお館様に話してみた。
信じてもらえるかどうかはわからずとも……。
しかし、お館様も同じようなことをお考えになられていたのには心底驚いた!
会ったことがないはずなのに、朝緋とは何度か顔を合わせている。そんな気がする初対面だったとの話だ。
先見の力あるお館様でさえ言うことだ。きっと、朝緋は俺の読み通り……。
なぜ、俺に教えてくれなかった……!!君の言う事ならば俺は信じたとも!!
だがもう遅い。朝緋はもうどこにもいない。
心にポッカリと穴が空いた。俺の心臓はあるべき場所に埋まっているのだろうか。いや、心臓はある。
しかし、その場所にあった他の大事なものは失われてしまった。
体すら重い。全集中の呼吸は出来ているのに、動くのすら億劫なほど。気怠い……。
「……御館様、申し訳ありません。鬼との戦いは未だ続いている状況なのはわかっておりますが、自分はしばし休暇をいただきたく思います」
「ああ、いいよ。朝緋の葬儀もあることだし、杏寿郎はゆっくり休むといい。君は朝緋とただの継子の関係ではなく、良い仲だったのだからね。
でも出来れば杏寿郎には『戻って欲しかった』な」
「戻って……?」
「ううん。気にしないでね」
あいもかわらず朝緋同様、不思議な物言いをする御人だ。
話を終えた俺は炎柱邸でなく、朝緋の体が待つ生家・煉獄家へ急いだ。
急いでいるはずなのに全身の倦怠感激しく、歩みも走りも非常に遅く感じたが。
ああ、朝緋に会いたい。
本当なら、君は炎柱邸で俺を笑顔で迎えて入れてくれたはずなのに。
俺が帰還を知らせながら抱き込めば、あたたかい抱擁を返してくれたはずなのに。
なのにもうあの邸にもどこにも生きる朝緋の姿はない。
こんなにも会いたくてたまらないのに。