三周目 漆
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杏寿郎さんの戦いに目を向けた時には遅かった。
猗窩座の攻撃が刀を逸れて、杏寿郎さんの左目に入った。
血を噴き出しながら、杏寿郎さんの太陽のような目がひとつ、永遠に失われてしまった……。私の大好きな、貴方の目が。
「ああ……っ!杏寿郎さんの目が……っ!」
止めた炭治郎達を恨むことはできない。こんな状態の私にはきっと何もできなかった。
貴方の痛みは私の痛みでもある。
全く潰れていない私の目から、ポロポロと涙がこぼれた。それは貴方が戦いに熱中して感じる暇がなかった痛みの代わり。
痛いだろうにつらいだろうに、順繰りに次々と型を繰り出して応戦している。
さすがの杏寿郎さんも疲弊してきているようで。
暗く冷たく真っ黒な死の影が、私から見える周りのすべてを覆う。杏寿郎さんにもまた、べっとりはりつくかのように覆い尽くしていた。
暗い空に炎虎が吼え、猗窩座の乱式という技とぶつかり消えた。
駄目だ、思い切り噛みついたけれど杏寿郎さんの炎虎が負けてしまった。杏寿郎さんの血がポタポタと地に滴り落ちる。
風に靡く羽織もまた、血と埃にまみれ、ひどく草臥れていた。
このままでは、奥義を出すまでになってしまう。私の世界は同じ轍を踏み始めてる!
同じ展開はもういや!!この未来だけは変えなくちゃいけないの!!
杏寿郎さんは息を切らしている。
ううん、すでにあの呼吸を繰り返している。
奥義を繰り出すための、炎の呼吸、全集中の呼吸を。
鬼が何か吠えている。うるさい。鬼になるよう誘うな。お前の甘言は甘言じゃない。聞いたりしない!
杏寿郎さんの呼吸が体の隅々まで完全に巡ったのを、同じ呼吸を使う私の体は理解してしまった。
炎が勢いよく油に燃え移った時のように、杏寿郎さんの全身を炎が包みこみ燃え広がる。猗窩座が至高の領域に近いと称した、杏寿郎さんの燃える闘気だ。きっと炭治郎達にすら目に見えていることだろう。
それは実際に燃えているわけではないのに、離れたここまでも熱く、心地いいほどあたたかく感じた。
けれどそれは奥義を放つためのものであって、ただあたたかく守ってくれる絶対的なものではない。
奥義なんて、諸刃の剣。使わせてはいけない!
杏寿郎さんの元へと動くべく呼吸を行おうとして、けれど上手くいかずにその場にうずくまる。炭治郎達も私を押さえているから余計動けない。
「え、なに、どうして……?」
「朝緋さん!?おとなしくしていてください……!」
「行っちゃ駄目だ!ひでぇ怪我だろ!」
「う、るさい……離してっ!!」
呼吸するたびに体が軋む。肋が折れて肺を圧迫していたのが、ここまでの症状に……!?
階級が遥か下の隊士二人にすら、動きを止められる私では何もできないかもしれない。
けれど、こんなところで躓いているわけにいかないのに!頼むから離してよ!!
杏寿郎さんが日輪刀を奥義の姿勢に構えた。
「俺は、俺の責務を全うする!!ここにいる誰も、死なせない!!」
ここにいる誰も死なせないの誰もという言葉に、杏寿郎さん自身も入れなくては意味がない。
奥義は命懸け。鬼を斬ることはできるけれど、攻撃力が高い分隙が大きくて、負ければ確実にこちらが……。
そして過去、何度も、杏寿郎さんは猗窩座に負けた。
今の杏寿郎さんは確かに『前』より強い。それは他でもない見てきた私が一番よくわかってる。
でもだめ。猗窩座の方が結局強い。今回もまだ力は足りていない。
だから奥義は打たせてはいけない。止めなきゃ。助けなきゃ。なんとかしなきゃ!
なのに。
「炎の呼吸、奥義!」
膨大な闘気が周りに溢れ出た。
力強い、杏寿郎さんの生命そのものの熱が、闇夜を明るく照らす。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎!玖ノ型・煉獄!」
「破壊殺、滅式!」
いやだいやだいやだ!
誰か!誰でもいい、杏寿郎さんを助けて!!
ううん、違う!ここにいる隊士で杏寿郎さんの次に強いのは私だ!
私がやらないと……誰でもない、他でもない私が助けるんだ!!
私が動かずして、他に誰が動くというの!?
血を吐こうとあとで動けなくなろうとどうなったっていい!今が大事な時!!
「二人とも離しなさいっ!うぁぁぁぁっ!!」
「朝緋さん!駄目だ……っわぁっ!?」
「なんて馬鹿力を……っ、まだら!行くんじゃねぇ!!」
無理やり全集中の呼吸を行い、炭治郎達を突き飛ばす。
足を、手を動かした。
あと少しで技と技がぶつかる。砂煙が舞う中、突撃する。
「させない!!!!」
「っ!?朝緋何を……っ!!」
猗窩座の攻撃が刀を逸れて、杏寿郎さんの左目に入った。
血を噴き出しながら、杏寿郎さんの太陽のような目がひとつ、永遠に失われてしまった……。私の大好きな、貴方の目が。
「ああ……っ!杏寿郎さんの目が……っ!」
止めた炭治郎達を恨むことはできない。こんな状態の私にはきっと何もできなかった。
貴方の痛みは私の痛みでもある。
全く潰れていない私の目から、ポロポロと涙がこぼれた。それは貴方が戦いに熱中して感じる暇がなかった痛みの代わり。
痛いだろうにつらいだろうに、順繰りに次々と型を繰り出して応戦している。
さすがの杏寿郎さんも疲弊してきているようで。
暗く冷たく真っ黒な死の影が、私から見える周りのすべてを覆う。杏寿郎さんにもまた、べっとりはりつくかのように覆い尽くしていた。
暗い空に炎虎が吼え、猗窩座の乱式という技とぶつかり消えた。
駄目だ、思い切り噛みついたけれど杏寿郎さんの炎虎が負けてしまった。杏寿郎さんの血がポタポタと地に滴り落ちる。
風に靡く羽織もまた、血と埃にまみれ、ひどく草臥れていた。
このままでは、奥義を出すまでになってしまう。私の世界は同じ轍を踏み始めてる!
同じ展開はもういや!!この未来だけは変えなくちゃいけないの!!
杏寿郎さんは息を切らしている。
ううん、すでにあの呼吸を繰り返している。
奥義を繰り出すための、炎の呼吸、全集中の呼吸を。
鬼が何か吠えている。うるさい。鬼になるよう誘うな。お前の甘言は甘言じゃない。聞いたりしない!
杏寿郎さんの呼吸が体の隅々まで完全に巡ったのを、同じ呼吸を使う私の体は理解してしまった。
炎が勢いよく油に燃え移った時のように、杏寿郎さんの全身を炎が包みこみ燃え広がる。猗窩座が至高の領域に近いと称した、杏寿郎さんの燃える闘気だ。きっと炭治郎達にすら目に見えていることだろう。
それは実際に燃えているわけではないのに、離れたここまでも熱く、心地いいほどあたたかく感じた。
けれどそれは奥義を放つためのものであって、ただあたたかく守ってくれる絶対的なものではない。
奥義なんて、諸刃の剣。使わせてはいけない!
杏寿郎さんの元へと動くべく呼吸を行おうとして、けれど上手くいかずにその場にうずくまる。炭治郎達も私を押さえているから余計動けない。
「え、なに、どうして……?」
「朝緋さん!?おとなしくしていてください……!」
「行っちゃ駄目だ!ひでぇ怪我だろ!」
「う、るさい……離してっ!!」
呼吸するたびに体が軋む。肋が折れて肺を圧迫していたのが、ここまでの症状に……!?
階級が遥か下の隊士二人にすら、動きを止められる私では何もできないかもしれない。
けれど、こんなところで躓いているわけにいかないのに!頼むから離してよ!!
杏寿郎さんが日輪刀を奥義の姿勢に構えた。
「俺は、俺の責務を全うする!!ここにいる誰も、死なせない!!」
ここにいる誰も死なせないの誰もという言葉に、杏寿郎さん自身も入れなくては意味がない。
奥義は命懸け。鬼を斬ることはできるけれど、攻撃力が高い分隙が大きくて、負ければ確実にこちらが……。
そして過去、何度も、杏寿郎さんは猗窩座に負けた。
今の杏寿郎さんは確かに『前』より強い。それは他でもない見てきた私が一番よくわかってる。
でもだめ。猗窩座の方が結局強い。今回もまだ力は足りていない。
だから奥義は打たせてはいけない。止めなきゃ。助けなきゃ。なんとかしなきゃ!
なのに。
「炎の呼吸、奥義!」
膨大な闘気が周りに溢れ出た。
力強い、杏寿郎さんの生命そのものの熱が、闇夜を明るく照らす。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎!玖ノ型・煉獄!」
「破壊殺、滅式!」
いやだいやだいやだ!
誰か!誰でもいい、杏寿郎さんを助けて!!
ううん、違う!ここにいる隊士で杏寿郎さんの次に強いのは私だ!
私がやらないと……誰でもない、他でもない私が助けるんだ!!
私が動かずして、他に誰が動くというの!?
血を吐こうとあとで動けなくなろうとどうなったっていい!今が大事な時!!
「二人とも離しなさいっ!うぁぁぁぁっ!!」
「朝緋さん!駄目だ……っわぁっ!?」
「なんて馬鹿力を……っ、まだら!行くんじゃねぇ!!」
無理やり全集中の呼吸を行い、炭治郎達を突き飛ばす。
足を、手を動かした。
あと少しで技と技がぶつかる。砂煙が舞う中、突撃する。
「させない!!!!」
「っ!?朝緋何を……っ!!」