三周目 漆
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「なあ朝緋。会いたかった、最愛……鬼を相手にそれはどういうことだ」
「上弦の参、猗窩座。奴こそが私が殺したくてたまらなかった、大嫌いな鬼だというだけです。別に浮気でもなんでもないので、どうかお気になさらず」
杏寿郎さんがどんな気持ちで聞いてきたのかは、顔を見ていないからわからない。ただただ敵である奴から目を逸らさずそう述べる。
「女相手に恨みを買う真似はしていないはずだが?……まあいい。女など弱い生き物は戦いの場に不釣り合いだ。
市松模様のそいつは邪魔だから殺しておこうと思ったが、お前もろとも消えてくれるなら今だけは見逃してやる。即刻退け」
「炭治郎は殺させやしないし私だって絶対退くもんですか!私はこの人の弟子で妹で……こ、恋人です!!絶対離れない!!
この人と戦いたかったら、私を殺してみなさいよ!
気炎万しょ……、」
「朝緋!」
杏寿郎さんの制止を振り切り、再び刀を向ける。けれど今度は腕を硬化され、上空からの必殺の斬り下ろしの刃がひとつも通らなかった。
「俺は決して女は殺さんのだ。弱いくせにいちいち噛みついてくるな、わずらわしい」
腕を振りながら心底嫌そうにねめつけられた。
女は殺さない。それは『前』にも聞いた気がするが、確かにそうなのかもしれない。現に私への視線には一つとして殺気が乗っていなかった。
「朝緋、頼むからあとは俺に任せてくれ。君の血は流させるわけにいかない……」
「でもあいつ女は殺さないって言ってます」
「そんなのわからんだろう!相手は上弦だぞ!?刺激するな!!」
「ッ……ごめんなさい……っ」
猗窩座、お前のせいで杏寿郎さんに叱られちゃったじゃないか。後ろに下がらせられ、刀まで鞘に戻すよう命令された!
「ふん。お前の女なら、しっかり手綱くらい握っておけ」
「……うちの朝緋を弱いなどと侮辱してくれるな」
私を、そして炭治郎を庇うように立ち、杏寿郎さんが猗窩座と相対する。
「君とは初対面のはずだがどういうわけか朝緋が君を嫌っている。ならば俺も朝緋に倣い嫌うべき鬼だと判断した。
俺も初対面だが既に君のことが嫌いだ。まあ、鬼に好く要素なぞ一つもないがな!」
杏寿郎さんが猗窩座に「嫌い!」を連発すれば、『前回』同様の流れがやってきた。猗窩座が自分の嫌いな人間について話し、杏寿郎さんが価値基準についての話をし、そしていつものように鬼になるよう誘う。
「柱だな?その闘気が練り上げられている。至高の領域に近い。女にしてはそいつも闘気が濃い。そこだけは認めてやろう」
「当たり前だ。朝緋には俺のもてる限りを伝授し、与えている。柱に次ぐ実力者だぞ」
鬼なぞに認められても全く嬉しくないけれど、杏寿郎さんにそこまで言われると恥ずかしさを飛び越えて嬉しくて小躍りすらしたくなる。
このシリアスな場面でさすがに感情は露わにしないけれどね。
杏寿郎さんがそのまま名乗りをあげた。鬼なぞに名乗ることはないけれど、いつまでもお前と呼ばれるのも嫌だったのかもしれない。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
「俺は猗窩座。杏寿郎、何故お前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろうーー」
相変わらずイラつく。その上から目線、言葉全てが腹立たしい。極め付けに。
「ーー鬼になろう、杏寿郎」
あ、もう無理。
ブチッッ!!……人間を小馬鹿にする数々の言葉、そして極め付けの馴れ馴れしい呼び方を前にキレた。
「鬼如きが杏寿郎さんを呼び捨てにするなぁーー!!」
不知火が走り抜けるかと思うほどの速さで駆けた私が繰り出したのは、日輪刀でもなく拳でもなかった。
拳を振り上げるフリこそしたけどもそれはフェイント。私が出したのは足だった。
「朝緋!?君はまた……、っ!!?!?」
「朝緋さ、……ヒッ!」
飛び出した私に杏寿郎さんと炭治郎がギョッとするも、その次の瞬間には二人揃ってサッと青い顔になった。
ゴスッッッ!といい音したもんね。
思い切り猗窩座にクリーンヒットした私の足。さすがに場所が悪くて痛かったか、相手は悶絶していた。
「嫌な感触ね」
「ゥ、グァァ……!?な、お前……なんという事をしてくれたんだ!?」
私が繰り出した足が直撃したのは男性にとっての弱点。猗窩座の下半身だ。
どこか涙目の猗窩座は初めて見るな。あそこまで青い顔をする杏寿郎さんもだ。
「ふん、すぐ治るならいいでしょ」
「お前女じゃないな!?……いや、女だが普通の女はこんな真似しない……!!」
どうせ鬼殺隊士の女は、女としての普通の幸せを諦めてまで鬼を狩っている者も多いですよーっだ。だから普通ってなに?状態である。どうとでも言え。
「私の敬愛する武士には、流派なんてものを気にしない戦い方をする人がいるの。鬼殺の際に必要な呼吸の技、剣技作法、ありとあらゆるすべてを捨ててでも、鬼を痛めつけ嬲り、そして頸を刎ねる!頸をとったものの勝ち!!
だからアンタの頸を取れるならいくらでも、ソコだって蹴り飛ばすし、握り潰してあげる!!」
「「「えっコワ」」」
初めて炭治郎や杏寿郎さん、猗窩座の声が重なったのを聞いた。
そして敬愛する武士の事だ。正確には、私のかつての幼馴染であり双子の兄としてこの地に生まれた明槻が、敬愛する武士の事。更に突き詰めていえばその武士や侍達が所持していたという刀の付喪神様……を題材にしたゲームの子達のことだけれども。
明槻との他愛のない話の中で少しだけ話題に出たから思い出したのよね。年に一回くらいしか一般公開しない刀を、連れられて何度見に行ったことか。
使えるものはなんでも使え。殺し合いに正攻法なんて利かない。砂を投げての目潰しに闇討ち、暗殺、焼き討ちだろうがなんだってする。
それが、私とその武士に共通する信条。
「悪いけどさぁ、杏寿郎さんは。師範は。アンタがどんなに鬼になろうと誘ったところで、自分から首を縦に振るようなことはない!!
ねっ!!?」
「あ、ああ、もちろんだ。
俺はいかなる理由があろうとも鬼にならない!」
自分の恋人の金蹴りショックから立ち直った杏寿郎さんがそう断言した。痛みから回復した鬼もその頃には気を取り直していた。
ずっと痛がってその辺ぴょんぴょん跳ね回っていればよいものを……。
そしたら杏寿郎さんと二人、鬼の頸を刎ねるべく動いていたろう。
目を細め、猗窩座が血鬼術を発動させる。
「そうか……。術式展開、破壊殺・羅針!
鬼にならないなら殺す」
氷の結晶の紋様が奴を中心として展開された。紋様を中心として、殺気が溢れた。
杏寿郎さんと猗窩座の戦いが始まる……。
本当なら戦わせたくない。けれど、杏寿郎さんは柱だ。そういうわけにいかない。
猗窩座が逃してくれるとも思えないし。
ただわかっているのは。
ここにいてはさすがに杏寿郎さんの戦いの邪魔になる事だ。荷物になるわけにいかない。
私は疲労で倒れる炭治郎を引っ掴み、そこから退いた。
今の杏寿郎さんならあるいは。
『前』よりも少しでも余力のある杏寿郎さんなら今回こそ勝てるかもしれない。
勝てなくても鬼を引かせることができるかもしれない!
「朝緋っ!君達は後ろにっ!!」
声だけでそう指示した杏寿郎さんが、猗窩座と攻防を繰り広げ始めた。
「ええわかっています!
私達の心配は要らない!存分に戦って!!今の貴方はより万全な状態!今度こそ勝ち星をあげて!!」
とうとう、始まってしまった……。私は私にできることをするしかない。
けれど決して、杏寿郎さんの命が失われることだけはあってはならない。
「上弦の参、猗窩座。奴こそが私が殺したくてたまらなかった、大嫌いな鬼だというだけです。別に浮気でもなんでもないので、どうかお気になさらず」
杏寿郎さんがどんな気持ちで聞いてきたのかは、顔を見ていないからわからない。ただただ敵である奴から目を逸らさずそう述べる。
「女相手に恨みを買う真似はしていないはずだが?……まあいい。女など弱い生き物は戦いの場に不釣り合いだ。
市松模様のそいつは邪魔だから殺しておこうと思ったが、お前もろとも消えてくれるなら今だけは見逃してやる。即刻退け」
「炭治郎は殺させやしないし私だって絶対退くもんですか!私はこの人の弟子で妹で……こ、恋人です!!絶対離れない!!
この人と戦いたかったら、私を殺してみなさいよ!
気炎万しょ……、」
「朝緋!」
杏寿郎さんの制止を振り切り、再び刀を向ける。けれど今度は腕を硬化され、上空からの必殺の斬り下ろしの刃がひとつも通らなかった。
「俺は決して女は殺さんのだ。弱いくせにいちいち噛みついてくるな、わずらわしい」
腕を振りながら心底嫌そうにねめつけられた。
女は殺さない。それは『前』にも聞いた気がするが、確かにそうなのかもしれない。現に私への視線には一つとして殺気が乗っていなかった。
「朝緋、頼むからあとは俺に任せてくれ。君の血は流させるわけにいかない……」
「でもあいつ女は殺さないって言ってます」
「そんなのわからんだろう!相手は上弦だぞ!?刺激するな!!」
「ッ……ごめんなさい……っ」
猗窩座、お前のせいで杏寿郎さんに叱られちゃったじゃないか。後ろに下がらせられ、刀まで鞘に戻すよう命令された!
「ふん。お前の女なら、しっかり手綱くらい握っておけ」
「……うちの朝緋を弱いなどと侮辱してくれるな」
私を、そして炭治郎を庇うように立ち、杏寿郎さんが猗窩座と相対する。
「君とは初対面のはずだがどういうわけか朝緋が君を嫌っている。ならば俺も朝緋に倣い嫌うべき鬼だと判断した。
俺も初対面だが既に君のことが嫌いだ。まあ、鬼に好く要素なぞ一つもないがな!」
杏寿郎さんが猗窩座に「嫌い!」を連発すれば、『前回』同様の流れがやってきた。猗窩座が自分の嫌いな人間について話し、杏寿郎さんが価値基準についての話をし、そしていつものように鬼になるよう誘う。
「柱だな?その闘気が練り上げられている。至高の領域に近い。女にしてはそいつも闘気が濃い。そこだけは認めてやろう」
「当たり前だ。朝緋には俺のもてる限りを伝授し、与えている。柱に次ぐ実力者だぞ」
鬼なぞに認められても全く嬉しくないけれど、杏寿郎さんにそこまで言われると恥ずかしさを飛び越えて嬉しくて小躍りすらしたくなる。
このシリアスな場面でさすがに感情は露わにしないけれどね。
杏寿郎さんがそのまま名乗りをあげた。鬼なぞに名乗ることはないけれど、いつまでもお前と呼ばれるのも嫌だったのかもしれない。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
「俺は猗窩座。杏寿郎、何故お前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろうーー」
相変わらずイラつく。その上から目線、言葉全てが腹立たしい。極め付けに。
「ーー鬼になろう、杏寿郎」
あ、もう無理。
ブチッッ!!……人間を小馬鹿にする数々の言葉、そして極め付けの馴れ馴れしい呼び方を前にキレた。
「鬼如きが杏寿郎さんを呼び捨てにするなぁーー!!」
不知火が走り抜けるかと思うほどの速さで駆けた私が繰り出したのは、日輪刀でもなく拳でもなかった。
拳を振り上げるフリこそしたけどもそれはフェイント。私が出したのは足だった。
「朝緋!?君はまた……、っ!!?!?」
「朝緋さ、……ヒッ!」
飛び出した私に杏寿郎さんと炭治郎がギョッとするも、その次の瞬間には二人揃ってサッと青い顔になった。
ゴスッッッ!といい音したもんね。
思い切り猗窩座にクリーンヒットした私の足。さすがに場所が悪くて痛かったか、相手は悶絶していた。
「嫌な感触ね」
「ゥ、グァァ……!?な、お前……なんという事をしてくれたんだ!?」
私が繰り出した足が直撃したのは男性にとっての弱点。猗窩座の下半身だ。
どこか涙目の猗窩座は初めて見るな。あそこまで青い顔をする杏寿郎さんもだ。
「ふん、すぐ治るならいいでしょ」
「お前女じゃないな!?……いや、女だが普通の女はこんな真似しない……!!」
どうせ鬼殺隊士の女は、女としての普通の幸せを諦めてまで鬼を狩っている者も多いですよーっだ。だから普通ってなに?状態である。どうとでも言え。
「私の敬愛する武士には、流派なんてものを気にしない戦い方をする人がいるの。鬼殺の際に必要な呼吸の技、剣技作法、ありとあらゆるすべてを捨ててでも、鬼を痛めつけ嬲り、そして頸を刎ねる!頸をとったものの勝ち!!
だからアンタの頸を取れるならいくらでも、ソコだって蹴り飛ばすし、握り潰してあげる!!」
「「「えっコワ」」」
初めて炭治郎や杏寿郎さん、猗窩座の声が重なったのを聞いた。
そして敬愛する武士の事だ。正確には、私のかつての幼馴染であり双子の兄としてこの地に生まれた明槻が、敬愛する武士の事。更に突き詰めていえばその武士や侍達が所持していたという刀の付喪神様……を題材にしたゲームの子達のことだけれども。
明槻との他愛のない話の中で少しだけ話題に出たから思い出したのよね。年に一回くらいしか一般公開しない刀を、連れられて何度見に行ったことか。
使えるものはなんでも使え。殺し合いに正攻法なんて利かない。砂を投げての目潰しに闇討ち、暗殺、焼き討ちだろうがなんだってする。
それが、私とその武士に共通する信条。
「悪いけどさぁ、杏寿郎さんは。師範は。アンタがどんなに鬼になろうと誘ったところで、自分から首を縦に振るようなことはない!!
ねっ!!?」
「あ、ああ、もちろんだ。
俺はいかなる理由があろうとも鬼にならない!」
自分の恋人の金蹴りショックから立ち直った杏寿郎さんがそう断言した。痛みから回復した鬼もその頃には気を取り直していた。
ずっと痛がってその辺ぴょんぴょん跳ね回っていればよいものを……。
そしたら杏寿郎さんと二人、鬼の頸を刎ねるべく動いていたろう。
目を細め、猗窩座が血鬼術を発動させる。
「そうか……。術式展開、破壊殺・羅針!
鬼にならないなら殺す」
氷の結晶の紋様が奴を中心として展開された。紋様を中心として、殺気が溢れた。
杏寿郎さんと猗窩座の戦いが始まる……。
本当なら戦わせたくない。けれど、杏寿郎さんは柱だ。そういうわけにいかない。
猗窩座が逃してくれるとも思えないし。
ただわかっているのは。
ここにいてはさすがに杏寿郎さんの戦いの邪魔になる事だ。荷物になるわけにいかない。
私は疲労で倒れる炭治郎を引っ掴み、そこから退いた。
今の杏寿郎さんならあるいは。
『前』よりも少しでも余力のある杏寿郎さんなら今回こそ勝てるかもしれない。
勝てなくても鬼を引かせることができるかもしれない!
「朝緋っ!君達は後ろにっ!!」
声だけでそう指示した杏寿郎さんが、猗窩座と攻防を繰り広げ始めた。
「ええわかっています!
私達の心配は要らない!存分に戦って!!今の貴方はより万全な状態!今度こそ勝ち星をあげて!!」
とうとう、始まってしまった……。私は私にできることをするしかない。
けれど決して、杏寿郎さんの命が失われることだけはあってはならない。