三周目 漆
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今回の私は列車の横転での怪我は一つもない。
乗客も、鬼の協力者さん達も、伊之助も無事のよう。あ、禰󠄀豆子ちゃんを庇うようにして善逸も倒れ伏して休んでいる。
怪我の程度は気になるけれど、私が今一番お側にいるべきなのは。
炭治郎と杏寿郎さんの姿を見つけた。横転時に転がって汚れたのだろう、ぼろぼろな状態で倒れる炭治郎を杏寿郎さんが上から見下ろしていた。炭治郎は疲労こそ激しそうだが、杏寿郎さんはピンピンしている。いや、少しは技の連続放出等で疲れているかもしれないけれど。柱はその辺も上手く隠すからなあ。
「師範……!炭治郎も!無事でよか、」
声をかけた瞬間に振り向いてくれたその顔。
ほっとしたのか、凛々しい眉根が柔らかく下がっているのが見えた。
けれどその顔も一瞬だけ。そこから杏寿郎さんの姿は消え、その次の瞬間には彼に抱きしめられていた。
戦いを物語る汗と埃の匂いの底に、ふわりと鼻に届く大好きな杏寿郎さんの香り。
「きょ、杏寿ろさ……、師範っ!」
「朝緋!信じてはいたが朝緋が食われやしないか。傷を負ってはいないか心配だった!
頼むから、もっとよく顔を見せてくれ……」
温かい腕でぎゅうぎゅうに抱きしめられて思わず私からも抱擁を返していると、顔を覗き込まれる。
太陽燃ゆる瞳の中に私の姿が映ってる……。きっと私の目の中にも、杏寿郎さんが……杏寿郎さんだけが映っていることだろう。
自然と唇が重なっていた。
「んん、っは、……あ、」
「……ああ、朝緋…………っ」
貪って味わい尽くすような激しい、それでいて互いの存在を確かめるような優しく甘いキス。舌先が吸われるたびにチリチリと痺れ、全身の力が徐々に抜けていく……。
この愛に応えたい。自分からも杏寿郎さんの頭を引き寄せて口づけにもっと、もっととおねだりしようとして。
炭治郎の真っ赤に染まった顔と目が合った。
そ、そうだった!炭治郎が側にいるんだったーー!!抱きしめ合っている姿は百歩譲って良しとしよう!けれどキスは嫌ぁー!恥ずかしい!見られたくないーー!!
「し、師範っ!さすがにこれ以上は、炭治郎がいるので……っ」
「む。すまんな!!だが、やめない!!
朝緋も応えようとしてくれていたではないか!!」
ガブッ!
んぢゅううう〜〜〜!!
「んんん゛ーーー!?」
この人は良くも悪くも人の目を気にしない。
それが、体面が悪くなるならまだしも、下の階級の隊士相手程度ならこうなる。
吸い付いて離れない磁石のように、杏寿郎さんの唇はなかなか私から離れようとしなかった。離れようとすればするほどに抱きしめる強さすらあがり、呼吸も苦しくなってく。
炭治郎には見えない位置からだったけれど、同時にスカートから侵入してきた手が私のお尻をさすさすと何度も撫でさすってきて……。
結局、腰砕けのふにゃふにゃにされた。いや!他には何もしてないけどね!
「何もしていないのにこの程度でへばるとは情けないぞ朝緋!」
「ハァーー!?何も!?」
あれだけ私のお尻撫でといてそれはないよね!ちゅーだって、あんなに激しいの炭治郎に見せつけちゃってさ!
ぷりぷり怒る私の事は無視し、お肌ツヤッツヤ状態の杏寿郎さんが炭治郎に声をかけていた。
「ふむ、竈門少年は全集中の常中ができるようだな。感心感心!
だが疲労が激しいようだ。どこか怪我はしていないか?」
「してません……体のあちこち打ちましたが、くたくたで体が動かないだけで」
「そうか。なら君はもう無理せずゆっくり体を休めろ」
うう、私も休みたい……この後を思うと休めないけど。
「私もどっかの炎柱のせいで一気に疲れたわー。炭治郎のは、ヒノカミ神楽を使った影響ってことよね?」
「朝緋は俺のせいにしすぎだ!!「はぁん?」すまん!この話はこれで終いだなっ!!!」
杏寿郎さんを思い切り睨んだら、話を終わりにしてそれについては黙った。
「ヒノカミ神楽。君の家に伝わっているという呼吸の事なのだろう。
……もしかしたら俺の生家にある歴代の炎柱が残した手記に何か記してあるやもしれ……、」
その瞬間、空気が鋭く尖りピンと張り詰めた。
ゾクリと背筋が寒くなるようなこの気配はっ!!
ドオオオン!!
杏寿郎さんと二人、気配の方へと向いたと同時、土煙を上げて『奴』が降り立った。
その顔、その髪色、その衣服、その刺青、その着地ポーズ、『いつも』と同じ『そっくりそのまま』!!
上弦の……参!!
にこぉ……。弧を描くように私の口角があがる。
杏寿郎さんは出方を窺うように日輪刀の柄に手をかけ警戒しているけれど、その姿を認めた私の行動は早かった。スピードに特化させた炎の呼吸の走りで駆け抜ける。
ーーヒュッ!!
「朝緋!!?」
杏寿郎さんの声が聞こえたが私の足はもう止まらない。日輪刀を抜き憎い鬼を斬りつけんと躍り出た。
「あははは!猗窩座ぁ!会いたかったわ、私の最愛 !!!!」
今の私は瞳孔が開いているはずだ。
私こそが鬼。鬼を殺す鬼か、いいだろう!喜んでこの身を鬼に転じようではないか!!
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火ッ!!」
不意打ちだったからか咄嗟のことだったからか猗窩座の腕が一本飛んだ。
まあどうせ腕くらいならすぐに生やすしね。上弦は回復も再生も早くていらっしゃる。次こそ確実に頸を狙わないと!
「……ッ女!?俺はお前など知らんぞ!なのになぜお前は俺の名前を知っている!?」
「アンタが私の宿敵だからじゃないかし、らぁっっっ!!けど私の事は知る必要ない!お前はここで死ぬ運命なのだから……っ!!」
続け様に放つ技!頸を斬り落とさんと肉薄する私だったけれど、それはすんでのところでかわされ、そして逆に摘み上げられて投げ飛ばされてしまった。
「朝緋っ!!」
「朝緋さんっ!」
「くっ、……大丈夫っ」
足の一本でも『また』折られると思ったけれど、そんなことはなく受け身が取られるギリギリの強さ。
憎き鬼殺隊士を投げ飛ばすにしては、随分とお優しいことだ。
「悪くはない刀だが、いまいち強さに欠けるな。斬られた痛みすらない」
ああやはり再生が早い、早すぎる。斬ったはずの腕がもう生えている。手に付着した血を舐めてそれをわざと主張している!腹立つ。
「しかしいきなり飛びかかってくるとは、なんて女だ」
お前に言われたくない。かつて手負いの炭治郎を狙って拳を振り下ろそうとしたお前には。
「いや、待て……、何の記憶だ。無惨様の記憶か?『頸を洗って待て?』何だこれは」
「!!……さあ、知らないわね」
私が『前』に言った「お前の頸はもらう。頸を洗って待っていろ」。その言葉が、魂にでも刻まれているかのようだ。
鬼には記憶が少し残るのかもしれない。明槻だって元は鬼舞辻無惨の血から鬼になって血鬼術を得た存在。
もしも鬼舞辻に私や明槻が過去からやり直しをしていることが知られれば面倒だ。奴に利用されてしまうかもしれない。私が鬼にされてしまうかも……。
まあ、今はまだよくよく思い出さねばその意味はわからないほどの小さな記憶だろうけれど。
……早く鬼を、鬼舞辻無惨を根絶しなければ。
乗客も、鬼の協力者さん達も、伊之助も無事のよう。あ、禰󠄀豆子ちゃんを庇うようにして善逸も倒れ伏して休んでいる。
怪我の程度は気になるけれど、私が今一番お側にいるべきなのは。
炭治郎と杏寿郎さんの姿を見つけた。横転時に転がって汚れたのだろう、ぼろぼろな状態で倒れる炭治郎を杏寿郎さんが上から見下ろしていた。炭治郎は疲労こそ激しそうだが、杏寿郎さんはピンピンしている。いや、少しは技の連続放出等で疲れているかもしれないけれど。柱はその辺も上手く隠すからなあ。
「師範……!炭治郎も!無事でよか、」
声をかけた瞬間に振り向いてくれたその顔。
ほっとしたのか、凛々しい眉根が柔らかく下がっているのが見えた。
けれどその顔も一瞬だけ。そこから杏寿郎さんの姿は消え、その次の瞬間には彼に抱きしめられていた。
戦いを物語る汗と埃の匂いの底に、ふわりと鼻に届く大好きな杏寿郎さんの香り。
「きょ、杏寿ろさ……、師範っ!」
「朝緋!信じてはいたが朝緋が食われやしないか。傷を負ってはいないか心配だった!
頼むから、もっとよく顔を見せてくれ……」
温かい腕でぎゅうぎゅうに抱きしめられて思わず私からも抱擁を返していると、顔を覗き込まれる。
太陽燃ゆる瞳の中に私の姿が映ってる……。きっと私の目の中にも、杏寿郎さんが……杏寿郎さんだけが映っていることだろう。
自然と唇が重なっていた。
「んん、っは、……あ、」
「……ああ、朝緋…………っ」
貪って味わい尽くすような激しい、それでいて互いの存在を確かめるような優しく甘いキス。舌先が吸われるたびにチリチリと痺れ、全身の力が徐々に抜けていく……。
この愛に応えたい。自分からも杏寿郎さんの頭を引き寄せて口づけにもっと、もっととおねだりしようとして。
炭治郎の真っ赤に染まった顔と目が合った。
そ、そうだった!炭治郎が側にいるんだったーー!!抱きしめ合っている姿は百歩譲って良しとしよう!けれどキスは嫌ぁー!恥ずかしい!見られたくないーー!!
「し、師範っ!さすがにこれ以上は、炭治郎がいるので……っ」
「む。すまんな!!だが、やめない!!
朝緋も応えようとしてくれていたではないか!!」
ガブッ!
んぢゅううう〜〜〜!!
「んんん゛ーーー!?」
この人は良くも悪くも人の目を気にしない。
それが、体面が悪くなるならまだしも、下の階級の隊士相手程度ならこうなる。
吸い付いて離れない磁石のように、杏寿郎さんの唇はなかなか私から離れようとしなかった。離れようとすればするほどに抱きしめる強さすらあがり、呼吸も苦しくなってく。
炭治郎には見えない位置からだったけれど、同時にスカートから侵入してきた手が私のお尻をさすさすと何度も撫でさすってきて……。
結局、腰砕けのふにゃふにゃにされた。いや!他には何もしてないけどね!
「何もしていないのにこの程度でへばるとは情けないぞ朝緋!」
「ハァーー!?何も!?」
あれだけ私のお尻撫でといてそれはないよね!ちゅーだって、あんなに激しいの炭治郎に見せつけちゃってさ!
ぷりぷり怒る私の事は無視し、お肌ツヤッツヤ状態の杏寿郎さんが炭治郎に声をかけていた。
「ふむ、竈門少年は全集中の常中ができるようだな。感心感心!
だが疲労が激しいようだ。どこか怪我はしていないか?」
「してません……体のあちこち打ちましたが、くたくたで体が動かないだけで」
「そうか。なら君はもう無理せずゆっくり体を休めろ」
うう、私も休みたい……この後を思うと休めないけど。
「私もどっかの炎柱のせいで一気に疲れたわー。炭治郎のは、ヒノカミ神楽を使った影響ってことよね?」
「朝緋は俺のせいにしすぎだ!!「はぁん?」すまん!この話はこれで終いだなっ!!!」
杏寿郎さんを思い切り睨んだら、話を終わりにしてそれについては黙った。
「ヒノカミ神楽。君の家に伝わっているという呼吸の事なのだろう。
……もしかしたら俺の生家にある歴代の炎柱が残した手記に何か記してあるやもしれ……、」
その瞬間、空気が鋭く尖りピンと張り詰めた。
ゾクリと背筋が寒くなるようなこの気配はっ!!
ドオオオン!!
杏寿郎さんと二人、気配の方へと向いたと同時、土煙を上げて『奴』が降り立った。
その顔、その髪色、その衣服、その刺青、その着地ポーズ、『いつも』と同じ『そっくりそのまま』!!
上弦の……参!!
にこぉ……。弧を描くように私の口角があがる。
杏寿郎さんは出方を窺うように日輪刀の柄に手をかけ警戒しているけれど、その姿を認めた私の行動は早かった。スピードに特化させた炎の呼吸の走りで駆け抜ける。
ーーヒュッ!!
「朝緋!!?」
杏寿郎さんの声が聞こえたが私の足はもう止まらない。日輪刀を抜き憎い鬼を斬りつけんと躍り出た。
「あははは!猗窩座ぁ!会いたかったわ、私の
今の私は瞳孔が開いているはずだ。
私こそが鬼。鬼を殺す鬼か、いいだろう!喜んでこの身を鬼に転じようではないか!!
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火ッ!!」
不意打ちだったからか咄嗟のことだったからか猗窩座の腕が一本飛んだ。
まあどうせ腕くらいならすぐに生やすしね。上弦は回復も再生も早くていらっしゃる。次こそ確実に頸を狙わないと!
「……ッ女!?俺はお前など知らんぞ!なのになぜお前は俺の名前を知っている!?」
「アンタが私の宿敵だからじゃないかし、らぁっっっ!!けど私の事は知る必要ない!お前はここで死ぬ運命なのだから……っ!!」
続け様に放つ技!頸を斬り落とさんと肉薄する私だったけれど、それはすんでのところでかわされ、そして逆に摘み上げられて投げ飛ばされてしまった。
「朝緋っ!!」
「朝緋さんっ!」
「くっ、……大丈夫っ」
足の一本でも『また』折られると思ったけれど、そんなことはなく受け身が取られるギリギリの強さ。
憎き鬼殺隊士を投げ飛ばすにしては、随分とお優しいことだ。
「悪くはない刀だが、いまいち強さに欠けるな。斬られた痛みすらない」
ああやはり再生が早い、早すぎる。斬ったはずの腕がもう生えている。手に付着した血を舐めてそれをわざと主張している!腹立つ。
「しかしいきなり飛びかかってくるとは、なんて女だ」
お前に言われたくない。かつて手負いの炭治郎を狙って拳を振り下ろそうとしたお前には。
「いや、待て……、何の記憶だ。無惨様の記憶か?『頸を洗って待て?』何だこれは」
「!!……さあ、知らないわね」
私が『前』に言った「お前の頸はもらう。頸を洗って待っていろ」。その言葉が、魂にでも刻まれているかのようだ。
鬼には記憶が少し残るのかもしれない。明槻だって元は鬼舞辻無惨の血から鬼になって血鬼術を得た存在。
もしも鬼舞辻に私や明槻が過去からやり直しをしていることが知られれば面倒だ。奴に利用されてしまうかもしれない。私が鬼にされてしまうかも……。
まあ、今はまだよくよく思い出さねばその意味はわからないほどの小さな記憶だろうけれど。
……早く鬼を、鬼舞辻無惨を根絶しなければ。