三周目 漆
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
誰相手にでもなく呟きを落とす。
逃げた、と。
聞こえたのだろうか。列車が走る勢いの風の音だけが響く中、炭治郎が斬り落とした頸が言葉を放った。
「俺が逃げるばかりの鬼だと思った?」
にたり、目に刻まれた数字が歪んでこちらを見据える。
ここでの台詞が違う。
確かここでは、柱と炭治郎を殺せ……などと鬼舞辻無惨に命じられた話をしていたはず。
そして斬られた肉体や頸から肉塊を溢れさせて。
ーーなのに。なのにどうして肉の塊が私の足元から湧き出すの?
「ッ!?」
ごぼり、足に絡みついた触腕が素早く上がってきて、私の体を拘束し締め付ける。
「捕まえた」
「朝緋さんッ!!」
「う、くぅ……はな、せ……っ」
ぐるぐると蛇のようにとぐろを巻いた鬼の触腕が、私の様子を楽しそうに眺めながら、炭治郎を煽った。
「ねえ花札の君。こいつがどうなってもいいなら別だけど、術にかかったままずっと起きないでくれないかなぁ。じゃないと乗客を食べられないじゃない?あ、もちろん最後には君達も殺して食べてあげるけど」
「くそ、卑怯者!彼女を離せ!!」
ああもう、捕まるなんて継子として不甲斐ない!
けれどそれより……太い蚯蚓、ううん。触腕の先についた顔が至近距離でおしゃべりしているこの状況……気持ち悪すぎる!
締め付ける痛みより何より我慢ならない!!
「変な耳栓が邪魔だね、外しちゃおうか」
「な、……っ、やだ、やめ…………ア゛っ」
耳の中、細長くした触腕が侵入してきて這いずり回りゾクゾクする。そして折角設置した耳栓を回収していく。
代わりに届くのは、脳に染み込むような鬼の甘言。
「ねぇ、さっきの続き、見たいよね?気持ちいいもんね?いいよ、どんな助平な夢だって望むまま見せてあげる。
女の子だって一皮剥けばいやらしい欲にまみれているものだものね?……ほら、おねむりぃ〜」
「あ……きょ、うじゅろ、さ……、」
目の前が現実と違う甘い光景で塗りつぶされていく。
ありえない光景。でも私が望む光景。
鬼による拘束の強さも、この夢の前ではただの抱擁や愛撫に変わる。体を這い回る触腕すら、快感を拾うための材料。
もっと欲しい。その先の先まで。体が熱く疼いてる。
ああ、杏寿郎さんといつまでもこうしていたい。ずっとずっと……。
ーー違う!これは夢!夢!夢!!
眠りに!落ちるな!!
「うあああ!!盛っ、盛炎のうねりっ!!」
全力の肆ノ型で、夢の光景もろとも拘束する鬼の肉を引っぺがす。
完全に落ちていなければ、夢で自分の頸を刎ねずとも現実に戻れるようで助かった。
「君も相当な胆力だねぇ?欲深い君が一番望む夢だったのにそれを振り払うなんて!」
「はあっ、はあ、褒めてくれてどーも」
しかし技を放つ際に刃をも掴んでしまったようで、自分の手に傷がついた。血が滲んでいる。稀血が。
「あれぇ?……もしかして稀血かな?」
さすがにバレてしまったか。こいつにだけは知られたくなかったというに。
「鬼狩りなのに稀血!おまけに女!栄養たっぷりだね!?
なら今すぐ食べないと損だよねぇぇ!捕まえた瞬間に食べておけばよかったよ!!」
再び捕らえようと伸びてくる鬼の触腕。ご丁寧にも、その先端にはすでに八目鰻のような口と牙がびっしり生えて食う気満々だった。オエー、気持ちわる。
「朝緋さんっ!!」
「大丈夫よ炭治郎。ふん……アンタの肉塊になんか、二度と捕まるもんか!」
ええ、二度とね。もう油断しない!
全てを型も使わぬ一太刀で両断し尽くす。ああやだ、汚いものを斬って日輪刀が汚れちゃったわ。
「それは残念。でも、乗客はどうかなあ?」
「乗客!?どういう事だ!!」
「ふふっ!お前達がすやすやと眠っている間に俺はこの汽車と融合したんだよ!!」
やはり出来上がってしまった。この汽車の乗客すべてが餌であり人質になりえる状況が。
「稀血ちゃん、君も餌だよ?それも優先すべき極上の、ね。乗客を守りながら自分も守るのは凄く大変そうだけど……頑張ってねぇ?」
とぷん。
にやにや笑みを浮かべた鬼の顔が肉塊の中に消える。
「ちっ!他人事みたいに……!」
消えたところを日輪刀で刺しても意味はない。
「朝緋さんは安全なところにいた方がいいです!鬼が集中して狙ってきます!!」
「狙ってきてるのは見ればわかる、よっ!」
もう既に直後から私を狙って触腕がどこからともなく伸びてくる。
見もせず気配だけで斬り落とした。それでも際限なく湧いてくるのね。キリないわ。
「けど下の階級の君達が頑張ってるのに私が休むだなんて、そんなわけにいかないでしょ。そんなのこっちが食べられるより先に鬼の頸をスパーンと斬っちゃえば済むこと!」
それにこの汽車に安全な場所なんてもうない。え、降りればいい?降りませーん!
「そ、そうですねっ!
あの!まだ顔赤いですけど朝緋さんは今何の夢を見させられていたんで「うわあああ聞かないでええええ!
そ、そんなこと聞いてる暇あったら、直に起きる他の隊士とともに、貴方は鬼の頸を取りに行って!周りの乗客を守りながらよ!」は、はいっ!!」
必死だった。嗅覚で感情を読み取る炭治郎には通用しないというに……。
案の定、炭治郎は私の感情を読み取り、自身もみるみるうちに顔を赤くしていた。
ねぇ君は一体どこまで読み取れるの?聞くのは怖い。
「じゃあ、私は寝坊助柱を今度こそ起こしてくる!!」
「煉獄さんですね!わかりました!
……朝緋さん、どうか気をつけて」
突然、手を握って真剣な眼差しで言われた。
甘酸っぱいようなものではない。心底、心配しているようなそれ。
「うん……ありがとう。炭治郎もね!」
炭治郎には一体何が見えているのだろう。赫が美しい炭治郎の目に映る私の姿に、ふと疑問が湧く。
なぜだか、私の姿には黒い影が付き纏っているように見えた。
逃げた、と。
聞こえたのだろうか。列車が走る勢いの風の音だけが響く中、炭治郎が斬り落とした頸が言葉を放った。
「俺が逃げるばかりの鬼だと思った?」
にたり、目に刻まれた数字が歪んでこちらを見据える。
ここでの台詞が違う。
確かここでは、柱と炭治郎を殺せ……などと鬼舞辻無惨に命じられた話をしていたはず。
そして斬られた肉体や頸から肉塊を溢れさせて。
ーーなのに。なのにどうして肉の塊が私の足元から湧き出すの?
「ッ!?」
ごぼり、足に絡みついた触腕が素早く上がってきて、私の体を拘束し締め付ける。
「捕まえた」
「朝緋さんッ!!」
「う、くぅ……はな、せ……っ」
ぐるぐると蛇のようにとぐろを巻いた鬼の触腕が、私の様子を楽しそうに眺めながら、炭治郎を煽った。
「ねえ花札の君。こいつがどうなってもいいなら別だけど、術にかかったままずっと起きないでくれないかなぁ。じゃないと乗客を食べられないじゃない?あ、もちろん最後には君達も殺して食べてあげるけど」
「くそ、卑怯者!彼女を離せ!!」
ああもう、捕まるなんて継子として不甲斐ない!
けれどそれより……太い蚯蚓、ううん。触腕の先についた顔が至近距離でおしゃべりしているこの状況……気持ち悪すぎる!
締め付ける痛みより何より我慢ならない!!
「変な耳栓が邪魔だね、外しちゃおうか」
「な、……っ、やだ、やめ…………ア゛っ」
耳の中、細長くした触腕が侵入してきて這いずり回りゾクゾクする。そして折角設置した耳栓を回収していく。
代わりに届くのは、脳に染み込むような鬼の甘言。
「ねぇ、さっきの続き、見たいよね?気持ちいいもんね?いいよ、どんな助平な夢だって望むまま見せてあげる。
女の子だって一皮剥けばいやらしい欲にまみれているものだものね?……ほら、おねむりぃ〜」
「あ……きょ、うじゅろ、さ……、」
目の前が現実と違う甘い光景で塗りつぶされていく。
ありえない光景。でも私が望む光景。
鬼による拘束の強さも、この夢の前ではただの抱擁や愛撫に変わる。体を這い回る触腕すら、快感を拾うための材料。
もっと欲しい。その先の先まで。体が熱く疼いてる。
ああ、杏寿郎さんといつまでもこうしていたい。ずっとずっと……。
ーー違う!これは夢!夢!夢!!
眠りに!落ちるな!!
「うあああ!!盛っ、盛炎のうねりっ!!」
全力の肆ノ型で、夢の光景もろとも拘束する鬼の肉を引っぺがす。
完全に落ちていなければ、夢で自分の頸を刎ねずとも現実に戻れるようで助かった。
「君も相当な胆力だねぇ?欲深い君が一番望む夢だったのにそれを振り払うなんて!」
「はあっ、はあ、褒めてくれてどーも」
しかし技を放つ際に刃をも掴んでしまったようで、自分の手に傷がついた。血が滲んでいる。稀血が。
「あれぇ?……もしかして稀血かな?」
さすがにバレてしまったか。こいつにだけは知られたくなかったというに。
「鬼狩りなのに稀血!おまけに女!栄養たっぷりだね!?
なら今すぐ食べないと損だよねぇぇ!捕まえた瞬間に食べておけばよかったよ!!」
再び捕らえようと伸びてくる鬼の触腕。ご丁寧にも、その先端にはすでに八目鰻のような口と牙がびっしり生えて食う気満々だった。オエー、気持ちわる。
「朝緋さんっ!!」
「大丈夫よ炭治郎。ふん……アンタの肉塊になんか、二度と捕まるもんか!」
ええ、二度とね。もう油断しない!
全てを型も使わぬ一太刀で両断し尽くす。ああやだ、汚いものを斬って日輪刀が汚れちゃったわ。
「それは残念。でも、乗客はどうかなあ?」
「乗客!?どういう事だ!!」
「ふふっ!お前達がすやすやと眠っている間に俺はこの汽車と融合したんだよ!!」
やはり出来上がってしまった。この汽車の乗客すべてが餌であり人質になりえる状況が。
「稀血ちゃん、君も餌だよ?それも優先すべき極上の、ね。乗客を守りながら自分も守るのは凄く大変そうだけど……頑張ってねぇ?」
とぷん。
にやにや笑みを浮かべた鬼の顔が肉塊の中に消える。
「ちっ!他人事みたいに……!」
消えたところを日輪刀で刺しても意味はない。
「朝緋さんは安全なところにいた方がいいです!鬼が集中して狙ってきます!!」
「狙ってきてるのは見ればわかる、よっ!」
もう既に直後から私を狙って触腕がどこからともなく伸びてくる。
見もせず気配だけで斬り落とした。それでも際限なく湧いてくるのね。キリないわ。
「けど下の階級の君達が頑張ってるのに私が休むだなんて、そんなわけにいかないでしょ。そんなのこっちが食べられるより先に鬼の頸をスパーンと斬っちゃえば済むこと!」
それにこの汽車に安全な場所なんてもうない。え、降りればいい?降りませーん!
「そ、そうですねっ!
あの!まだ顔赤いですけど朝緋さんは今何の夢を見させられていたんで「うわあああ聞かないでええええ!
そ、そんなこと聞いてる暇あったら、直に起きる他の隊士とともに、貴方は鬼の頸を取りに行って!周りの乗客を守りながらよ!」は、はいっ!!」
必死だった。嗅覚で感情を読み取る炭治郎には通用しないというに……。
案の定、炭治郎は私の感情を読み取り、自身もみるみるうちに顔を赤くしていた。
ねぇ君は一体どこまで読み取れるの?聞くのは怖い。
「じゃあ、私は寝坊助柱を今度こそ起こしてくる!!」
「煉獄さんですね!わかりました!
……朝緋さん、どうか気をつけて」
突然、手を握って真剣な眼差しで言われた。
甘酸っぱいようなものではない。心底、心配しているようなそれ。
「うん……ありがとう。炭治郎もね!」
炭治郎には一体何が見えているのだろう。赫が美しい炭治郎の目に映る私の姿に、ふと疑問が湧く。
なぜだか、私の姿には黒い影が付き纏っているように見えた。