三周目 漆
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「うっクサッ!!」
「えっ臭い!?私臭い!!?」
客車から外に出た瞬間、そう炭治郎が言った。
ここに来て久しぶりに言われた言葉だけど、もしかして私の体臭が臭いの?汗臭い?鬼の臭い血浴びてた?落ちてない??
それとももしや稀血ってにおうのかな……くさやみたいに、臭いけど美味みたいな。
「あ、いえ!外に出たら鬼のひどい匂いがここまで届いてきて!それに朝緋さんからは花のような甘くていい匂いがします!!」
「えっと……ありがとう?」
かつても臭くないとは言われたけれど『今回』は臭かったらと少し不安だった。女子はいつでも身だしなみが気になるものなのです!
でも花の匂いって、人に渡す用に持ち歩いてる開けてない藤の御守りかな?かなり密閉してるから違うはずなんだけど……。
そんな中、匂いこそわからないものの風上から鬼の気配が流れてきた。上弦ほどの強さでないものの、そこそこの強さを持つ下弦の壱の気配だ。
「鬼は上にいるようね」
こくり、頷いて上に飛んだ炭治郎に続くように、私も飛び上がって追う。
「私も行くわ」
「心強いです。……禰󠄀豆子は待ってろ」
「うん。禰󠄀豆子ちゃん、その内起きると思うけど皆を叩き起こしていてね」
煉獄さんも叩いていいんだ……。
炭治郎と禰󠄀豆子の心の声はひとつだったそうな。
車両の上を走り先の方まで行く。
そこにはやはり、下弦の壱の鬼がいた。
燕尾服のような衣装の端を風にはためかせながら、こちらに振り向く。
「あれぇ?起きたの?おはよう〜!まだ眠っててもよかったのに」
にこりと笑うのは、その顔だけにあらず。
手のひらについたもう一つの口が、大きく口を開けて笑みを浮かべていた。
「おはようですって?私眠ってないからおはようじゃないんだけど?」
「そうだね、君は眠らなかったみたいだね。なぜ切符を使った遠隔術がわかったの?
俺の血鬼術はそう簡単に見破れるものじゃないのにィ」
ああ、やはり気付かれていたか。切符を切りにきた車掌が話したわけではないだろうし、私の切符は捨ててある。なら縄かな?あれを燃やしたからか、それともあの男性が私の夢に侵入できなかったのを感じ取ったか。
どちらでもいい!私からは教える気はない!!
「なぜでしょーか。……勘かしら?」
「ふぅん?まあいいや、直接眠らせれば済むことだもんね?」
「へー!それで幸せな夢を見せてくれるってこと、なのかなっ!!」
炎の呼吸、参ノ型・気炎万象。
素早く抜いた日輪刀で、上部から鬼の頸を狙った。
動きが速いーー、避けられた!!
「そうだよ。見たいでしょ?なら眠りなよ!!強制昏倒、催眠の囁き!」
至近距離から、手のひらが私に突きつけられた。
急いで耳栓をつけて凌ぐも、それは完璧ではなかった。技の一部が耳の奥、脳にまでじわじわと染み込んでくる。
「ーーッ!?」
「朝緋さん!!」
びくん、体が跳ねる。目の前が白く濁りーー。
はっ、不覚!少しの間夢見心地にされた……!現実と夢がまじり、混乱する。
見えたのは、真夏の夜に肌を重ねた記憶。杏寿郎さんとの甘い甘い夢……。あ、駄目、意識が飛んじゃう。
「う……ぁ、」
力が入らない。その場に座り込んでしまうと、もう動けない。夢見心地から抜け出せない。絡めとられる。
「君はそこで気持ちのいい夢を見て這いつくばってなよ。女の子だから男よりは美味しいよね。あとでゆっくり食べてあげる……」
「おこ、とわり……っ、ね!」
私が咄嗟につけた耳栓は、血鬼術対策の特別なものだ。
これをしているおかげで術にかかったのも半分で済んでいる状況。あとは自分の力で跳ね除けなくては。
え、耳栓なんて卑怯だって?鬼殺に卑怯も何もない。ただ、量産ができないのが玉に瑕で。
とりあえずこのふわふわした意識を現実に引き戻し、体勢を整えなくては。
炭治郎なら私がいなくとも乗り越えられるとわかっている。だけれども……。
「お前もそうだよ。せっかく良い夢を見せてやったのに。……今度は父親が生き返った夢を見せてやろうか?」
ああ、その言葉は炭治郎の逆鱗に触れる言葉だ。
「人の心の中に土足で踏み入るな!俺はお前を許さない!!」
家族のことに関して沸点の低い炭治郎は、案の定顔に青筋を浮かべて刀を抜いた。怒りは力の原動力になるとはいえ、煽りに弱い主人公さまだ。
「水の呼吸、拾ノ型・生生流転!」
水の肉体を持つ龍神様が、虚空に出現する。
私は夢と現実の狭間でクラクラしながらも、炭治郎の技を出す時の動き、呼吸、コツを学び取ろうとそれを必死に眺めた。
対する鬼が私にかけたものと同じ技を炭治郎にかける。けれど彼は……。
「催眠の囁き!おーねーむーりぃー!
……っ、眠らない……!?」
そう、炭治郎は術にかかってもその並はずれた胆力をもってして、現実に戻ってくる。
夢の中で自分自身の首を、躊躇なく刎ねて。
鬼が狼狽え、一瞬とはいえ術の拘束が和らいだ。ーー今だ。
「はぁっ!!壱ノ型・不知火!!」
「女っ!お前もか……っ!!」
炭治郎の刃と共に振り下ろし、挟み討ちにして頸を狙う。またも間一髪避けられた!
「すばしっこいわね!?」
「お前達、眠れ、眠れ、ねーーーむーーーれーーーぇぇぇ!!」
技が当たったはずなのに向かってくる炭治郎の真実に鬼が気づいた。
だから今度は趣向を変えて変な夢を見せたらしい。炭治郎の動きが止まる。
「炭治郎!?起きなさい。起きて!」
動きが再開した炭治郎の目が血走る。回転数が増しに増した生生流転の攻撃力が怒りで上がった。
「言うはずがないだろそんなこと!俺の家族が!俺の家族を侮辱!するなぁ!!」
その刃が鬼の頸に届き、勢いよく斬り飛ばした。
けれど一歩遅かった。これはダミーの一部になってしまったようだ。
直前で鬼の気配が、四方八方に広がり逃げたのを感じる。
炭治郎もまた、斬った感触はあまりなかった様子だった。
「えっ臭い!?私臭い!!?」
客車から外に出た瞬間、そう炭治郎が言った。
ここに来て久しぶりに言われた言葉だけど、もしかして私の体臭が臭いの?汗臭い?鬼の臭い血浴びてた?落ちてない??
それとももしや稀血ってにおうのかな……くさやみたいに、臭いけど美味みたいな。
「あ、いえ!外に出たら鬼のひどい匂いがここまで届いてきて!それに朝緋さんからは花のような甘くていい匂いがします!!」
「えっと……ありがとう?」
かつても臭くないとは言われたけれど『今回』は臭かったらと少し不安だった。女子はいつでも身だしなみが気になるものなのです!
でも花の匂いって、人に渡す用に持ち歩いてる開けてない藤の御守りかな?かなり密閉してるから違うはずなんだけど……。
そんな中、匂いこそわからないものの風上から鬼の気配が流れてきた。上弦ほどの強さでないものの、そこそこの強さを持つ下弦の壱の気配だ。
「鬼は上にいるようね」
こくり、頷いて上に飛んだ炭治郎に続くように、私も飛び上がって追う。
「私も行くわ」
「心強いです。……禰󠄀豆子は待ってろ」
「うん。禰󠄀豆子ちゃん、その内起きると思うけど皆を叩き起こしていてね」
煉獄さんも叩いていいんだ……。
炭治郎と禰󠄀豆子の心の声はひとつだったそうな。
車両の上を走り先の方まで行く。
そこにはやはり、下弦の壱の鬼がいた。
燕尾服のような衣装の端を風にはためかせながら、こちらに振り向く。
「あれぇ?起きたの?おはよう〜!まだ眠っててもよかったのに」
にこりと笑うのは、その顔だけにあらず。
手のひらについたもう一つの口が、大きく口を開けて笑みを浮かべていた。
「おはようですって?私眠ってないからおはようじゃないんだけど?」
「そうだね、君は眠らなかったみたいだね。なぜ切符を使った遠隔術がわかったの?
俺の血鬼術はそう簡単に見破れるものじゃないのにィ」
ああ、やはり気付かれていたか。切符を切りにきた車掌が話したわけではないだろうし、私の切符は捨ててある。なら縄かな?あれを燃やしたからか、それともあの男性が私の夢に侵入できなかったのを感じ取ったか。
どちらでもいい!私からは教える気はない!!
「なぜでしょーか。……勘かしら?」
「ふぅん?まあいいや、直接眠らせれば済むことだもんね?」
「へー!それで幸せな夢を見せてくれるってこと、なのかなっ!!」
炎の呼吸、参ノ型・気炎万象。
素早く抜いた日輪刀で、上部から鬼の頸を狙った。
動きが速いーー、避けられた!!
「そうだよ。見たいでしょ?なら眠りなよ!!強制昏倒、催眠の囁き!」
至近距離から、手のひらが私に突きつけられた。
急いで耳栓をつけて凌ぐも、それは完璧ではなかった。技の一部が耳の奥、脳にまでじわじわと染み込んでくる。
「ーーッ!?」
「朝緋さん!!」
びくん、体が跳ねる。目の前が白く濁りーー。
はっ、不覚!少しの間夢見心地にされた……!現実と夢がまじり、混乱する。
見えたのは、真夏の夜に肌を重ねた記憶。杏寿郎さんとの甘い甘い夢……。あ、駄目、意識が飛んじゃう。
「う……ぁ、」
力が入らない。その場に座り込んでしまうと、もう動けない。夢見心地から抜け出せない。絡めとられる。
「君はそこで気持ちのいい夢を見て這いつくばってなよ。女の子だから男よりは美味しいよね。あとでゆっくり食べてあげる……」
「おこ、とわり……っ、ね!」
私が咄嗟につけた耳栓は、血鬼術対策の特別なものだ。
これをしているおかげで術にかかったのも半分で済んでいる状況。あとは自分の力で跳ね除けなくては。
え、耳栓なんて卑怯だって?鬼殺に卑怯も何もない。ただ、量産ができないのが玉に瑕で。
とりあえずこのふわふわした意識を現実に引き戻し、体勢を整えなくては。
炭治郎なら私がいなくとも乗り越えられるとわかっている。だけれども……。
「お前もそうだよ。せっかく良い夢を見せてやったのに。……今度は父親が生き返った夢を見せてやろうか?」
ああ、その言葉は炭治郎の逆鱗に触れる言葉だ。
「人の心の中に土足で踏み入るな!俺はお前を許さない!!」
家族のことに関して沸点の低い炭治郎は、案の定顔に青筋を浮かべて刀を抜いた。怒りは力の原動力になるとはいえ、煽りに弱い主人公さまだ。
「水の呼吸、拾ノ型・生生流転!」
水の肉体を持つ龍神様が、虚空に出現する。
私は夢と現実の狭間でクラクラしながらも、炭治郎の技を出す時の動き、呼吸、コツを学び取ろうとそれを必死に眺めた。
対する鬼が私にかけたものと同じ技を炭治郎にかける。けれど彼は……。
「催眠の囁き!おーねーむーりぃー!
……っ、眠らない……!?」
そう、炭治郎は術にかかってもその並はずれた胆力をもってして、現実に戻ってくる。
夢の中で自分自身の首を、躊躇なく刎ねて。
鬼が狼狽え、一瞬とはいえ術の拘束が和らいだ。ーー今だ。
「はぁっ!!壱ノ型・不知火!!」
「女っ!お前もか……っ!!」
炭治郎の刃と共に振り下ろし、挟み討ちにして頸を狙う。またも間一髪避けられた!
「すばしっこいわね!?」
「お前達、眠れ、眠れ、ねーーーむーーーれーーーぇぇぇ!!」
技が当たったはずなのに向かってくる炭治郎の真実に鬼が気づいた。
だから今度は趣向を変えて変な夢を見せたらしい。炭治郎の動きが止まる。
「炭治郎!?起きなさい。起きて!」
動きが再開した炭治郎の目が血走る。回転数が増しに増した生生流転の攻撃力が怒りで上がった。
「言うはずがないだろそんなこと!俺の家族が!俺の家族を侮辱!するなぁ!!」
その刃が鬼の頸に届き、勢いよく斬り飛ばした。
けれど一歩遅かった。これはダミーの一部になってしまったようだ。
直前で鬼の気配が、四方八方に広がり逃げたのを感じる。
炭治郎もまた、斬った感触はあまりなかった様子だった。