三周目 陸
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それから日が落ちて夜になり、三人で駅へ向かった。
『前』と違う展開も多々あることだし、いま一度辺りの様子を調べてみた。でも、異常はまったくもってなかった。
あの切り裂き魔の鬼の気配も情報もなく。やはり行くべきは整備工場だろう、早く行かなくちゃ男の子が危ないんだよね。
「鬼なんかいない!」
その時、『前』と同じ。鬼を探す私達の前に、狙い澄ましたかのような声が届いた。今思えばこれは、定められた運命のようにも感じる。
彼女のおばあさんもまた、槇寿朗さんに助けられた過去を持つ事だし、巡り巡って私達の元に繋がる、鬼の頸取りの為の決められたレールのようなものなのかも。
杏寿郎さんが単刀直入に声をかけに行った。
来るぞ、来るぞ……。
ぶつけられる杏寿郎さんにはちょっと悪いけれど、期待しているわたしがいた。
そうして少女の叫びと共に、あんぱんがフルスイングーーー!!パァン!!
杏寿郎さんの顔に思い切り当たった。
全員が固まった。
また笑いそうになったけれど、固まるふりをして心の中で盛大に吹き出した。
ふう……これでお仕置きは回避されたね。
あんぱんを食べる「美味い!」の声が相変わらずシュールで、でも杏寿郎さんが言う通り相変わらず美味しそうで。
木村屋のあんぱん食べたいなあ。
このあと全てのお弁当を買うんだよね?あんぱんの代わり、お弁当を一個くらい私にくれないかしら……?
その後、和解して私達は駅を後にする事にした。
お弁当を買い占めたので、半分は隊士君に。もう半分は杏寿郎さんが手にした。
……おっと、そうだった。
少女に振り返り、懐から二つ藤の御守りを取り出す。
「あんぱんの代わりにはならないだろうけれども、これ、商売繁盛と健康祈願にもなる御守りなの。肌身離さず身につけているととても効果があるからどうぞ」
「朝緋、それは鬼避けの……ウ゛ッ!?」
私の手元を覗き込んで言ってきた杏寿郎さんの腹に肘鉄を入れる。いきなりの攻撃に呻き声が聞こえた。
藤の御守りではあるが、表面には商売繁盛や健康祈願の刺繍がしてある。申し訳程度にだが。
こうして駅に検分に寄った時のためにと、今回多めに藤の御守りを作って持っていたのだ。彼女達に渡そうと、そう思って。
「おばあちゃんの分と……えっと、「ふくと申します」福来たる……かな?いいお名前ね。
ふくちゃんの分。よかったらもらって?」
「いいんですか?……わあ、お花のいい匂いがする」
「うん、藤の香りだよ。ただし、身につけてないと効果がないから気をつけてね!」
「ありがとうございます」
ふくちゃんの頭をぽんぽんと撫で、ようやくその場を離れる。まずは廻送列車か。
「なあ、ここに鬼の気配はなかったがあげてしまってよかったのか?」
「あの方達は日が昇らない朝早い内からこうして夜遅くまでお弁当を売りに歩いています。貴方も言っていたことですよ。
なら今ここに鬼がいなくとも、いつか出会わないとも限らないと思って」
「そこまで考えることができるとは、朝緋は優しい子だな」
温かい手のひらが頭に乗り、何度も優しく撫でてくる。顔を見れば、そこにあるのは私を慈しみ、愛しいと見つめてくる太陽の瞳。
私も、貴方が愛しくてたまらない。でも。
「別に優しくなんて……」
ただ私は過去に則り、このあとに鬼が来る可能性が高いからと渡したにすぎない。
けれどこの手のひらを甘受できるこの位置は何者にも代え難い幸せだ。
大人しく甘えて擦り寄るのは、私だけの特権。
乗り込んだ廻送列車の中、『今度』は私から貴方にこの言葉をかける。かつては貴方から私にかけてくれた愛の言葉を。
「ねぇ杏寿郎さん。月が綺麗ですね」
空に浮かぶ月はあの時と変わらない。けれど言い終えてすぐ、私の目は月とは真逆。列車の中の杏寿郎さんの顔へと向かされた。
「そうだな。でも俺は朝緋の目に映る月を見ていたいよ。いや、君自身をだ。ずっと、ずっとな」
覆いかぶさってきた杏寿郎さんに、唇を奪われた。
「ん、……、杏寿郎さん……私もずっと、貴方だけを見ていたいです」
唇を重ねながら言葉を返す。
頬に添えられていた手は、いつのまにか頭の後ろや背中に回され、抱き合って口づけを送り合うまでになっていた。
角度を変え舌を入れられて施される甘いキスに、脳が痺れ思考が溶けそうだ。
かつてここで与えられたお仕置きとは違うけれど、このまままた貴方と甘い時間を過ごしたい。
私の女としての部分が、貴方を望んでいる。
「朝緋、この任務が終わったら……俺と、むぐっ!?」
一旦唇を離してから言われたその言葉に、脳が覚醒する。
その先を言わせてはならないと、自ら唇を押し付け舌を差し出す。
くちゅり、じゅる。
杏寿郎さんの口の中を弄るように荒らし、言葉を吐かせない。
でも私から仕掛けたのに、杏寿郎さんはそれに応えてくれて、最終的には主導権を握られた。舌を捕われ、逆に私の口内を荒々しく動き回られる。
その後、互いの唾液を散々絡ませてから、ようやく解放してもらった。
「はぁっ……朝緋!なぜ言わせてくれない?いや、嬉しいのだがな!」
それは死亡フラグというもの。
鬼の魔の手が。地獄の門が列車の形をして、私達の全てを飲み込もうとして口を開けて待っているの。
だから言わせないし聞きたくない。
「ん、はぁ……ご、ごめんなさい杏寿郎さん。それは今聞けないの……、だから代わりに私の唇に応えてほしいなって」
そう言ってまたも自分から唇を重ねてみせる。決して続きを言わせぬために。
「ぷは、朝緋はなかなかの魔性の女だな!どこでこんなことを覚えたんだか。
だがわかった。車掌さんが来るまで、君の唇に応えるとしよう……」
杏寿郎さんはぺろりと舌舐めずりをしてから、私の唇に噛み付く。
あたたかくて蕩けそうな甘い口づけの時間は、車掌さんが見回りにやってくるその時まで続いた。
本当にこの客室に入る直前まで続けてしまったのでもし見られてたらどうしよう。
……恥ずかしい。けれど、気持ちのいい時間だった。
『前』と違う展開も多々あることだし、いま一度辺りの様子を調べてみた。でも、異常はまったくもってなかった。
あの切り裂き魔の鬼の気配も情報もなく。やはり行くべきは整備工場だろう、早く行かなくちゃ男の子が危ないんだよね。
「鬼なんかいない!」
その時、『前』と同じ。鬼を探す私達の前に、狙い澄ましたかのような声が届いた。今思えばこれは、定められた運命のようにも感じる。
彼女のおばあさんもまた、槇寿朗さんに助けられた過去を持つ事だし、巡り巡って私達の元に繋がる、鬼の頸取りの為の決められたレールのようなものなのかも。
杏寿郎さんが単刀直入に声をかけに行った。
来るぞ、来るぞ……。
ぶつけられる杏寿郎さんにはちょっと悪いけれど、期待しているわたしがいた。
そうして少女の叫びと共に、あんぱんがフルスイングーーー!!パァン!!
杏寿郎さんの顔に思い切り当たった。
全員が固まった。
また笑いそうになったけれど、固まるふりをして心の中で盛大に吹き出した。
ふう……これでお仕置きは回避されたね。
あんぱんを食べる「美味い!」の声が相変わらずシュールで、でも杏寿郎さんが言う通り相変わらず美味しそうで。
木村屋のあんぱん食べたいなあ。
このあと全てのお弁当を買うんだよね?あんぱんの代わり、お弁当を一個くらい私にくれないかしら……?
その後、和解して私達は駅を後にする事にした。
お弁当を買い占めたので、半分は隊士君に。もう半分は杏寿郎さんが手にした。
……おっと、そうだった。
少女に振り返り、懐から二つ藤の御守りを取り出す。
「あんぱんの代わりにはならないだろうけれども、これ、商売繁盛と健康祈願にもなる御守りなの。肌身離さず身につけているととても効果があるからどうぞ」
「朝緋、それは鬼避けの……ウ゛ッ!?」
私の手元を覗き込んで言ってきた杏寿郎さんの腹に肘鉄を入れる。いきなりの攻撃に呻き声が聞こえた。
藤の御守りではあるが、表面には商売繁盛や健康祈願の刺繍がしてある。申し訳程度にだが。
こうして駅に検分に寄った時のためにと、今回多めに藤の御守りを作って持っていたのだ。彼女達に渡そうと、そう思って。
「おばあちゃんの分と……えっと、「ふくと申します」福来たる……かな?いいお名前ね。
ふくちゃんの分。よかったらもらって?」
「いいんですか?……わあ、お花のいい匂いがする」
「うん、藤の香りだよ。ただし、身につけてないと効果がないから気をつけてね!」
「ありがとうございます」
ふくちゃんの頭をぽんぽんと撫で、ようやくその場を離れる。まずは廻送列車か。
「なあ、ここに鬼の気配はなかったがあげてしまってよかったのか?」
「あの方達は日が昇らない朝早い内からこうして夜遅くまでお弁当を売りに歩いています。貴方も言っていたことですよ。
なら今ここに鬼がいなくとも、いつか出会わないとも限らないと思って」
「そこまで考えることができるとは、朝緋は優しい子だな」
温かい手のひらが頭に乗り、何度も優しく撫でてくる。顔を見れば、そこにあるのは私を慈しみ、愛しいと見つめてくる太陽の瞳。
私も、貴方が愛しくてたまらない。でも。
「別に優しくなんて……」
ただ私は過去に則り、このあとに鬼が来る可能性が高いからと渡したにすぎない。
けれどこの手のひらを甘受できるこの位置は何者にも代え難い幸せだ。
大人しく甘えて擦り寄るのは、私だけの特権。
乗り込んだ廻送列車の中、『今度』は私から貴方にこの言葉をかける。かつては貴方から私にかけてくれた愛の言葉を。
「ねぇ杏寿郎さん。月が綺麗ですね」
空に浮かぶ月はあの時と変わらない。けれど言い終えてすぐ、私の目は月とは真逆。列車の中の杏寿郎さんの顔へと向かされた。
「そうだな。でも俺は朝緋の目に映る月を見ていたいよ。いや、君自身をだ。ずっと、ずっとな」
覆いかぶさってきた杏寿郎さんに、唇を奪われた。
「ん、……、杏寿郎さん……私もずっと、貴方だけを見ていたいです」
唇を重ねながら言葉を返す。
頬に添えられていた手は、いつのまにか頭の後ろや背中に回され、抱き合って口づけを送り合うまでになっていた。
角度を変え舌を入れられて施される甘いキスに、脳が痺れ思考が溶けそうだ。
かつてここで与えられたお仕置きとは違うけれど、このまままた貴方と甘い時間を過ごしたい。
私の女としての部分が、貴方を望んでいる。
「朝緋、この任務が終わったら……俺と、むぐっ!?」
一旦唇を離してから言われたその言葉に、脳が覚醒する。
その先を言わせてはならないと、自ら唇を押し付け舌を差し出す。
くちゅり、じゅる。
杏寿郎さんの口の中を弄るように荒らし、言葉を吐かせない。
でも私から仕掛けたのに、杏寿郎さんはそれに応えてくれて、最終的には主導権を握られた。舌を捕われ、逆に私の口内を荒々しく動き回られる。
その後、互いの唾液を散々絡ませてから、ようやく解放してもらった。
「はぁっ……朝緋!なぜ言わせてくれない?いや、嬉しいのだがな!」
それは死亡フラグというもの。
鬼の魔の手が。地獄の門が列車の形をして、私達の全てを飲み込もうとして口を開けて待っているの。
だから言わせないし聞きたくない。
「ん、はぁ……ご、ごめんなさい杏寿郎さん。それは今聞けないの……、だから代わりに私の唇に応えてほしいなって」
そう言ってまたも自分から唇を重ねてみせる。決して続きを言わせぬために。
「ぷは、朝緋はなかなかの魔性の女だな!どこでこんなことを覚えたんだか。
だがわかった。車掌さんが来るまで、君の唇に応えるとしよう……」
杏寿郎さんはぺろりと舌舐めずりをしてから、私の唇に噛み付く。
あたたかくて蕩けそうな甘い口づけの時間は、車掌さんが見回りにやってくるその時まで続いた。
本当にこの客室に入る直前まで続けてしまったのでもし見られてたらどうしよう。
……恥ずかしい。けれど、気持ちのいい時間だった。