三周目 陸
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昔気質風の店主がいるあの蕎麦屋にはすぐに辿り着いた。
隊士君も直に来るだろうと踏んでるので、私はまた真ん中に座っておこう。理由もまた同じように、調理しているところを見たいから!ということにしておいた。
杏寿郎さんはおろし蕎麦を頼んだ。シンプルながら蕎麦の香りが引き立つ味わい深い一杯だけど、私は違う。ちょっとリッチに初めから天麩羅蕎麦を頼む。
だってしょうがないじゃない?かき揚げを愛しく思うあまり、天麩羅食べたくなったんだもの。それに私は、次に来ることがあったら天麩羅蕎麦にしようって決めてたんだから!
「「美味い!」」
届いた蕎麦は美味しかった。
サックサクの天麩羅はよく見る衣が分厚いものじゃない。薄い衣が満遍なく具材の旨味を包み込んでいる。
ぷりぷりの海老天最高。かしわ天も芋天も茄子天も全部が最高!……芋天は目の前でジーーーッと穴が開くほど見つめてくる人に半分あげた。
で。聞いたからわかるだろうけれど、美味いの感想はその言葉もタイミングも被った。
真似に近いけれど、真似じゃない。これは声が重なっているだけ。
『前』は女性だから少しくらいお淑やかに食べないと、という女としての恥のようなものがちょっぴり先行して大人しく食べていたけれど、今回は自分に素直になりました。
それに、実際唸りたくなるほど今回も美味しいんだもの。美味しさは飾ることなく心のままに言葉にしないと失礼だ。
差し込む夕陽の光加減や鬼のせいでお店の中は閑散として寂れているが、隊士君も大絶賛していた通り、上野の激戦区でもやっていける蕎麦の美味しさで。私は美味しいものが大好きなので、お世辞も嘘も言わない。
「朝緋!良い店を見つけてくれたな!」
「えへへ、ありがとうございます」
……元は貴方が見つけたお店なんですけどね。
杏寿郎さんが数杯のおろし蕎麦を平らげる頃、あの隊士君が無限列車の情報片手に合流しに来た。
あちこち回ったのだろう、その顔には空腹と疲労の文字がそこはかとなく滲み出ていた。
「お食事中失礼します」
「君か!ここに座るといい!」
「お疲れ様ですー」
「ありがとうございます」
私が引いた椅子に、ぺこぺこお辞儀を繰り返しながら座る。
私如きにお辞儀なんかしなくていいのに。だって君ってばほんと、お疲れ様なんだもの。
「親父さん!この若者にも同じものを!」
「お腹空いてますよね?」
「えっえっ!?」
囲め囲めー!逃すなー!
臆する彼を制して話を進めるが、やっぱりあれなのかな。柱やその下の階級の隊士、それも継子相手だと、多少緊張するのかも。
でも知らん!私達がおかわりを頼みやすくするための礎となるのだ!!
「俺ももう一杯もらおう!」
「私もおかわりをー!」
そう、炎柱とその継子は健啖家である。
「アンタ達、気持ちのいい食いっぷりだな」
空いた器を片しながら店主が、にこりと笑って声をかけてきた。厨房に戻る姿を見送っていると、昨日の話から始まり双方ねぎらいの言葉が送られていた。
それより『達』って……わくわく!
横で二人の話を聞きながら、蕎麦を作る様子を眺める。
粉がはたかれた蕎麦を一人分ずつ手に取りよく湯がいて勢いよく振って水気を飛ばす様は、かつてラーメン屋でよく見ていた光景と同じ。
未来ではそこまで食いしん坊じゃなかったけど、今は違う。目の前の蕎麦も食べたいけどラーメンも食べたいなあ。二郎系ラーメン全マシマシ豚マシお願いします。
……隊士になってからというもの、随分とまぁ食いしん坊になったものだ。
同時にかき揚げが揚がり始めてる。あれ?杏寿郎さんだけの分にしては多くない?やっぱりわくわく止まらない。
澄んだおつゆに大根おろしと小口切りの葱を丁寧に添え、お蕎麦が出来上がる。蕎麦と共にかき揚げの皿も置かれた。
「嬢ちゃんにも、あと坊ちゃんにもな。奢りだ」
杏寿郎さんにだけでなく、結局みんながらかき揚げをいただいてしまった!いよっ!太っ腹だねおやっさん!!
「わーい!やったー!!今回は食べられたー!!」
「朝緋、今回は、とは?」
「あっ!ううん、なんでもないでーす!
それよりせっかくの揚げたてなんだから、早く食べなきゃもったいないですよ?」
食事は一番美味しいタイミングで摂りたいもんね。
上野に店を出したってやっていけるという隊士君の絶賛する声を聞き流しつつ、私の意識はかき揚げに向いていた。
はっ!?かき揚げの具材が変わっている!
これは海老!?そして烏賊に南瓜に隠元!?
ちょっと豪華になっている!杏寿郎さんが食べてたのって、確か干し桜海老と牛蒡だったような……。
うん、そうだ。今回、幼少期に戻ってからも覚えていたから、火を扱ってもいいと言われた時に早速作っていたもの。
ベースを玉ねぎに、トッピングとしてたっぷり混ぜ込んだ桜海老と牛蒡の香ばしさがすごく食欲をそそるものだった。通とかじゃないけれど、揚げたてをお塩でサクッと頬張った時の幸せと言ったら……。
あの時は初めてなのに揚げ物を!?と、瑠火さんがびっくりしていたっけ。
でもそれほどまでに杏寿郎さんが食べていたかき揚げが羨ましかったんだと思うと、私の食い意地には呆れかえる。
天麩羅蕎麦の時の車海老とはまた違う海老のようだけど、小ぶりなのにぷりぷりの海老に噛みごたえあるのに柔らかな烏賊。そこに加わる南瓜の甘みと隠元の食感。んーーおいしいーー。これは塩じゃないね、蕎麦つゆにちょんちょん浸して食べるのが正解だわ。
空腹時の美味しいご飯は、人を変える。それしか考えられなくなる。
ああそうか!鬼も同じなんだ。だから稀血を前にすると、本能的に食事のことだけ考えるようになっちゃうんだ。本能だからといって見逃したりはしないけども。
私の日輪刀で、その頸全て斬り落とす。
その後、杏寿郎さんが物騒だと称した無限列車についての話を店主から聞いた。その過程で隊士君の話も無限列車のことに移る。
機関庫に搬入されたとの話だけれど、それは少し間違いだ。私の記憶が正しければ、無限列車は既に整備工場にあるはずだ。
杏寿郎さんを誘導して、このあと行かないとね。整備工場へ向かう廻送列車には乗りたいような、乗りたくないような。だけれども。
けれどどうして無限列車の所在地を知っているのかの説明はしにくい。どうしたものか。
どう言っていいかわからないうちに、杏寿郎さんが駅構内の検分をしたいと言いはじめてしまった。鬼が出ているところだから仕方ない。
「ぷふっ!」
でもまたあんぱんをぶつけられる杏寿郎さんが見られるのか……今度は笑わないようにしないと。代わりに思い出して今笑った。
「ん?突然笑って朝緋はどうかしたのか?」
「ふふっ!なんでもありませんよ!」
……バレたら『また』お仕置きされちゃうかもしれないものね。
隊士君も直に来るだろうと踏んでるので、私はまた真ん中に座っておこう。理由もまた同じように、調理しているところを見たいから!ということにしておいた。
杏寿郎さんはおろし蕎麦を頼んだ。シンプルながら蕎麦の香りが引き立つ味わい深い一杯だけど、私は違う。ちょっとリッチに初めから天麩羅蕎麦を頼む。
だってしょうがないじゃない?かき揚げを愛しく思うあまり、天麩羅食べたくなったんだもの。それに私は、次に来ることがあったら天麩羅蕎麦にしようって決めてたんだから!
「「美味い!」」
届いた蕎麦は美味しかった。
サックサクの天麩羅はよく見る衣が分厚いものじゃない。薄い衣が満遍なく具材の旨味を包み込んでいる。
ぷりぷりの海老天最高。かしわ天も芋天も茄子天も全部が最高!……芋天は目の前でジーーーッと穴が開くほど見つめてくる人に半分あげた。
で。聞いたからわかるだろうけれど、美味いの感想はその言葉もタイミングも被った。
真似に近いけれど、真似じゃない。これは声が重なっているだけ。
『前』は女性だから少しくらいお淑やかに食べないと、という女としての恥のようなものがちょっぴり先行して大人しく食べていたけれど、今回は自分に素直になりました。
それに、実際唸りたくなるほど今回も美味しいんだもの。美味しさは飾ることなく心のままに言葉にしないと失礼だ。
差し込む夕陽の光加減や鬼のせいでお店の中は閑散として寂れているが、隊士君も大絶賛していた通り、上野の激戦区でもやっていける蕎麦の美味しさで。私は美味しいものが大好きなので、お世辞も嘘も言わない。
「朝緋!良い店を見つけてくれたな!」
「えへへ、ありがとうございます」
……元は貴方が見つけたお店なんですけどね。
杏寿郎さんが数杯のおろし蕎麦を平らげる頃、あの隊士君が無限列車の情報片手に合流しに来た。
あちこち回ったのだろう、その顔には空腹と疲労の文字がそこはかとなく滲み出ていた。
「お食事中失礼します」
「君か!ここに座るといい!」
「お疲れ様ですー」
「ありがとうございます」
私が引いた椅子に、ぺこぺこお辞儀を繰り返しながら座る。
私如きにお辞儀なんかしなくていいのに。だって君ってばほんと、お疲れ様なんだもの。
「親父さん!この若者にも同じものを!」
「お腹空いてますよね?」
「えっえっ!?」
囲め囲めー!逃すなー!
臆する彼を制して話を進めるが、やっぱりあれなのかな。柱やその下の階級の隊士、それも継子相手だと、多少緊張するのかも。
でも知らん!私達がおかわりを頼みやすくするための礎となるのだ!!
「俺ももう一杯もらおう!」
「私もおかわりをー!」
そう、炎柱とその継子は健啖家である。
「アンタ達、気持ちのいい食いっぷりだな」
空いた器を片しながら店主が、にこりと笑って声をかけてきた。厨房に戻る姿を見送っていると、昨日の話から始まり双方ねぎらいの言葉が送られていた。
それより『達』って……わくわく!
横で二人の話を聞きながら、蕎麦を作る様子を眺める。
粉がはたかれた蕎麦を一人分ずつ手に取りよく湯がいて勢いよく振って水気を飛ばす様は、かつてラーメン屋でよく見ていた光景と同じ。
未来ではそこまで食いしん坊じゃなかったけど、今は違う。目の前の蕎麦も食べたいけどラーメンも食べたいなあ。二郎系ラーメン全マシマシ豚マシお願いします。
……隊士になってからというもの、随分とまぁ食いしん坊になったものだ。
同時にかき揚げが揚がり始めてる。あれ?杏寿郎さんだけの分にしては多くない?やっぱりわくわく止まらない。
澄んだおつゆに大根おろしと小口切りの葱を丁寧に添え、お蕎麦が出来上がる。蕎麦と共にかき揚げの皿も置かれた。
「嬢ちゃんにも、あと坊ちゃんにもな。奢りだ」
杏寿郎さんにだけでなく、結局みんながらかき揚げをいただいてしまった!いよっ!太っ腹だねおやっさん!!
「わーい!やったー!!今回は食べられたー!!」
「朝緋、今回は、とは?」
「あっ!ううん、なんでもないでーす!
それよりせっかくの揚げたてなんだから、早く食べなきゃもったいないですよ?」
食事は一番美味しいタイミングで摂りたいもんね。
上野に店を出したってやっていけるという隊士君の絶賛する声を聞き流しつつ、私の意識はかき揚げに向いていた。
はっ!?かき揚げの具材が変わっている!
これは海老!?そして烏賊に南瓜に隠元!?
ちょっと豪華になっている!杏寿郎さんが食べてたのって、確か干し桜海老と牛蒡だったような……。
うん、そうだ。今回、幼少期に戻ってからも覚えていたから、火を扱ってもいいと言われた時に早速作っていたもの。
ベースを玉ねぎに、トッピングとしてたっぷり混ぜ込んだ桜海老と牛蒡の香ばしさがすごく食欲をそそるものだった。通とかじゃないけれど、揚げたてをお塩でサクッと頬張った時の幸せと言ったら……。
あの時は初めてなのに揚げ物を!?と、瑠火さんがびっくりしていたっけ。
でもそれほどまでに杏寿郎さんが食べていたかき揚げが羨ましかったんだと思うと、私の食い意地には呆れかえる。
天麩羅蕎麦の時の車海老とはまた違う海老のようだけど、小ぶりなのにぷりぷりの海老に噛みごたえあるのに柔らかな烏賊。そこに加わる南瓜の甘みと隠元の食感。んーーおいしいーー。これは塩じゃないね、蕎麦つゆにちょんちょん浸して食べるのが正解だわ。
空腹時の美味しいご飯は、人を変える。それしか考えられなくなる。
ああそうか!鬼も同じなんだ。だから稀血を前にすると、本能的に食事のことだけ考えるようになっちゃうんだ。本能だからといって見逃したりはしないけども。
私の日輪刀で、その頸全て斬り落とす。
その後、杏寿郎さんが物騒だと称した無限列車についての話を店主から聞いた。その過程で隊士君の話も無限列車のことに移る。
機関庫に搬入されたとの話だけれど、それは少し間違いだ。私の記憶が正しければ、無限列車は既に整備工場にあるはずだ。
杏寿郎さんを誘導して、このあと行かないとね。整備工場へ向かう廻送列車には乗りたいような、乗りたくないような。だけれども。
けれどどうして無限列車の所在地を知っているのかの説明はしにくい。どうしたものか。
どう言っていいかわからないうちに、杏寿郎さんが駅構内の検分をしたいと言いはじめてしまった。鬼が出ているところだから仕方ない。
「ぷふっ!」
でもまたあんぱんをぶつけられる杏寿郎さんが見られるのか……今度は笑わないようにしないと。代わりに思い出して今笑った。
「ん?突然笑って朝緋はどうかしたのか?」
「ふふっ!なんでもありませんよ!」
……バレたら『また』お仕置きされちゃうかもしれないものね。