三周目 陸
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とうとう無限列車の任務が回ってきた。
ある程度予感はしていた。だってもう、数回はあの列車に乗っているのだもの。いい加減その時期くらいわかる。
もう、取り乱すことはない。
まだ強さは足りないけれど、死地に赴く覚悟はできている。
それに、まず対峙するは、下弦の壱より先に、食べ物を粗末にした地獄に堕ちるべきあの鬼だ。あの鬼のおかげで心構えはできている。
早めに行動すれば、あの鬼によって傷つく人々もきっと減らせる。
とりあえずのところ私がまずしたことは。
「お館様、此度の列車の任務ですが。どうか他の柱の追加投入をお願いできませんか」
隠に頼んで本部に連れて行ってもらい、お館様に柱の追加投入を直談判したのだ。杏寿郎さんに知られたらお咎めでは済まないだろうなぁ。なぜ勝手な真似をした!と烈火の如く怒られる光景が見える……。
「出来そうならそうするよ。ただ、柱は皆忙しいからね……期待はしないように」
何も映さなくなってしまった。けれどどこか全てを見透かすような瞳で私を見つめながらお館様は答えてくれた。
ああきっと無理なのね。聞かなくてももうわかった。
ならばやはり自分でなんとかしなくては。
既に数名隊士が行方不明。だからこそ、柱である杏寿郎さんにこの任務が回ってきたわけだけれど。
その隊士達も任務として任される前に。せめて列車の情報が鬼殺隊に回ってきたその瞬間に私達が……いや、私だけでも向かっていたなら、何か変わっていたのかな。
そう思いながらも杏寿郎さんと二人、無限列車が走るという沿線上へと出立する。
向かった沿線上にはやはり、あの切り裂き魔の鬼の情報が目立っていた。
道沿いに貼ってある大半の張り紙は、いなくなった隊士達と同じ、下弦の壱による犯行と思われる行方不明者についてが多いけれども。
けれど、実際に傷つけられ、殺され、その遺体が残るのは切り裂き魔の鬼。そちらが先に話題に上がるのは目に見えていた。
先回り気味で行動はしていたのだけれど、あの女性が襲われるのは結果的に言うと避けることはできなかった。
間一髪、襲われているその瞬間に私のみ駆けつけることはできたからよしとしよう。『以前』より傷は少ないはずだ。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火ッ!!」
見つけたその瞬間に技を放つが、それは女性を盾にされたことで防がれた。
「ちっ、卑怯な鬼め。その女性を離しなさい!今なら痛くないように頸を一瞬で刎ねてあげる」
「頸を刎ねると言われてはいそうですか、なんて言うわけねぇだろ。お前、鬼狩りだな。お前らは鬼の頸よりも人間の命優先、だったよなぁ?なら、此奴の命を救うのを優先した方がいいぜぇ……!!」
ザシュッッッ!!
鬼の鋭い爪が、女性の柔肌に強く一閃された。飛び散る夥しい血液。
そして鬼が投げて寄越したその体。
「くっ!?なんて酷いことを……!!」
刀を捨てて慌てて受け止める。
完全に気を失っていた。傷から溢れる血の多さにこの身が震えた。
「大丈夫ですか!?……駄目、怪我が酷い!!」
止血しなくちゃ!ああでも、鬼を追わないと……せっかくそこまで追い詰めたのに!!
そうしてもたついている間に、鬼が逃げた。速さに自信がある鬼だからか逃げ足は早く、見失うのも早かった。
自分の不甲斐なさに落ち込みつつ傷口を押さえて必死に手当てを続けていれば、その内杏寿郎さんや隠が合流した。
「朝緋!交戦したのか!頸は取ったか!?」
女性を受け止める時に地面に投げたままだった私の日輪刀。それをみて、言ったのだろう。でも結果は。
「いえ……すみません、逃しました」
それも、私が駆けつけてしまったからこそ、このような深い傷を新たに負わせる羽目になってしまった。『前』なら負わないで済んだ傷を。傷跡が残るようなことがあれば、取り返しがつかない。
「いや、いい。傷ついた民間人を助けることを優先したことは偉いぞ」
偉いと言われても素直に喜べなかった。速くなろうと強くなろうと、杏寿郎さんほどの判断力や気迫が私にはない。
「ありがとうございます……」
「それにな。軽い見立てだが隠によると、傷は深くとも痕は残らず済むそうだ。出血も多いが命に別状ないのは、君の手当てが早かったおかげもある!」
「……よかった」
その杏寿郎さんの言葉だけでどれほど私が救われるか。心が少し軽くなったところで。
「炎柱!!」
「むっ!君は今回の任務の……?」
あの可愛い感じの隊士君が現れた。
そろそろ来るとは思っていた。また挨拶を交わして自己紹介し合う。
年下扱いしたくなるけれど、年上だろうと踏んでいるから、馴れ馴れしくするのだけはやめておこう。愛着湧いちゃうし。何より、年上相手だと杏寿郎さんが嫉妬してくる。
彼とは任務内容が少しだけ違うようで一旦別れた。
きっとあとでまた、蕎麦屋で落ちあうことだろう。あの蕎麦を思い出すと涎が出る。
今回は私もかき揚げをいただけるよう、『気持ちのいい食いっぷり』とやらに挑戦だ。
え?目的が変わってるって?そ、そんなことないよ?体は食べたものでできてるからね!ちゃんとしっかり食べて、栄養取らないとなのだ!!
ちなみに蕎麦屋の二階の話はタブーです。
翌日、沿線上を調査していると杏寿郎さんのお腹がグォーーと唸り声のような音を立てた。腹の虫、私のと違って恐ろしい声だね。地獄門と繋がってるの?
「よもや!腹が鳴ってしまったな!!」
「私もさっきからお腹がきゅるきゅる鳴ってますよ。美味しいお蕎麦屋さんを知っているのでそこに行きましょ」
「蕎麦屋だと!?二階はあるのか!!」
蕎麦屋と聞いた瞬間に、目がキラキラ輝いた。非常にわくわくしている。いや、目はキラキラというよりギラギラ、わくわくというより大興奮だ。
もうこの杏寿郎さんは、蕎麦屋の二階についてご存知なんだね。でも残念、あの蕎麦屋に二階はありません。
「一階しかないお蕎麦屋さんですが?二階に何かあるので?」
「いや!?何もないな!!
……ああ、ないのかぁ……そうかぁ……」
目に見えて落ち込んでる……えっ、そこまでしたかったの?普段からしてるじゃん。
まあ、杏寿郎さんとお外でもいちゃいちゃしたい気持ちは私にもある。けれどやっぱり任務中だし無限列車に乗る前にしていいことと違う気がする。あ、『前』のことは引き合いに出さないでね?
したからといって体力がなくなることは全くなかったけれど、体のどこかは疲れていたはずで。少しでも体力を温存して鬼の討伐に挑みたい。
上弦の参は万全の状態で殺しにかからないとだめなのだから。
「朝緋?とてつもなく怖い顔をしているぞ。どうした?そんなに腹が減っているのか」
黙りこくりながらしていた顔は、死地に赴く戦士のごとく険しいものだったそうだ。杏寿郎さんですら少し引き気味だった。
ある程度予感はしていた。だってもう、数回はあの列車に乗っているのだもの。いい加減その時期くらいわかる。
もう、取り乱すことはない。
まだ強さは足りないけれど、死地に赴く覚悟はできている。
それに、まず対峙するは、下弦の壱より先に、食べ物を粗末にした地獄に堕ちるべきあの鬼だ。あの鬼のおかげで心構えはできている。
早めに行動すれば、あの鬼によって傷つく人々もきっと減らせる。
とりあえずのところ私がまずしたことは。
「お館様、此度の列車の任務ですが。どうか他の柱の追加投入をお願いできませんか」
隠に頼んで本部に連れて行ってもらい、お館様に柱の追加投入を直談判したのだ。杏寿郎さんに知られたらお咎めでは済まないだろうなぁ。なぜ勝手な真似をした!と烈火の如く怒られる光景が見える……。
「出来そうならそうするよ。ただ、柱は皆忙しいからね……期待はしないように」
何も映さなくなってしまった。けれどどこか全てを見透かすような瞳で私を見つめながらお館様は答えてくれた。
ああきっと無理なのね。聞かなくてももうわかった。
ならばやはり自分でなんとかしなくては。
既に数名隊士が行方不明。だからこそ、柱である杏寿郎さんにこの任務が回ってきたわけだけれど。
その隊士達も任務として任される前に。せめて列車の情報が鬼殺隊に回ってきたその瞬間に私達が……いや、私だけでも向かっていたなら、何か変わっていたのかな。
そう思いながらも杏寿郎さんと二人、無限列車が走るという沿線上へと出立する。
向かった沿線上にはやはり、あの切り裂き魔の鬼の情報が目立っていた。
道沿いに貼ってある大半の張り紙は、いなくなった隊士達と同じ、下弦の壱による犯行と思われる行方不明者についてが多いけれども。
けれど、実際に傷つけられ、殺され、その遺体が残るのは切り裂き魔の鬼。そちらが先に話題に上がるのは目に見えていた。
先回り気味で行動はしていたのだけれど、あの女性が襲われるのは結果的に言うと避けることはできなかった。
間一髪、襲われているその瞬間に私のみ駆けつけることはできたからよしとしよう。『以前』より傷は少ないはずだ。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火ッ!!」
見つけたその瞬間に技を放つが、それは女性を盾にされたことで防がれた。
「ちっ、卑怯な鬼め。その女性を離しなさい!今なら痛くないように頸を一瞬で刎ねてあげる」
「頸を刎ねると言われてはいそうですか、なんて言うわけねぇだろ。お前、鬼狩りだな。お前らは鬼の頸よりも人間の命優先、だったよなぁ?なら、此奴の命を救うのを優先した方がいいぜぇ……!!」
ザシュッッッ!!
鬼の鋭い爪が、女性の柔肌に強く一閃された。飛び散る夥しい血液。
そして鬼が投げて寄越したその体。
「くっ!?なんて酷いことを……!!」
刀を捨てて慌てて受け止める。
完全に気を失っていた。傷から溢れる血の多さにこの身が震えた。
「大丈夫ですか!?……駄目、怪我が酷い!!」
止血しなくちゃ!ああでも、鬼を追わないと……せっかくそこまで追い詰めたのに!!
そうしてもたついている間に、鬼が逃げた。速さに自信がある鬼だからか逃げ足は早く、見失うのも早かった。
自分の不甲斐なさに落ち込みつつ傷口を押さえて必死に手当てを続けていれば、その内杏寿郎さんや隠が合流した。
「朝緋!交戦したのか!頸は取ったか!?」
女性を受け止める時に地面に投げたままだった私の日輪刀。それをみて、言ったのだろう。でも結果は。
「いえ……すみません、逃しました」
それも、私が駆けつけてしまったからこそ、このような深い傷を新たに負わせる羽目になってしまった。『前』なら負わないで済んだ傷を。傷跡が残るようなことがあれば、取り返しがつかない。
「いや、いい。傷ついた民間人を助けることを優先したことは偉いぞ」
偉いと言われても素直に喜べなかった。速くなろうと強くなろうと、杏寿郎さんほどの判断力や気迫が私にはない。
「ありがとうございます……」
「それにな。軽い見立てだが隠によると、傷は深くとも痕は残らず済むそうだ。出血も多いが命に別状ないのは、君の手当てが早かったおかげもある!」
「……よかった」
その杏寿郎さんの言葉だけでどれほど私が救われるか。心が少し軽くなったところで。
「炎柱!!」
「むっ!君は今回の任務の……?」
あの可愛い感じの隊士君が現れた。
そろそろ来るとは思っていた。また挨拶を交わして自己紹介し合う。
年下扱いしたくなるけれど、年上だろうと踏んでいるから、馴れ馴れしくするのだけはやめておこう。愛着湧いちゃうし。何より、年上相手だと杏寿郎さんが嫉妬してくる。
彼とは任務内容が少しだけ違うようで一旦別れた。
きっとあとでまた、蕎麦屋で落ちあうことだろう。あの蕎麦を思い出すと涎が出る。
今回は私もかき揚げをいただけるよう、『気持ちのいい食いっぷり』とやらに挑戦だ。
え?目的が変わってるって?そ、そんなことないよ?体は食べたものでできてるからね!ちゃんとしっかり食べて、栄養取らないとなのだ!!
ちなみに蕎麦屋の二階の話はタブーです。
翌日、沿線上を調査していると杏寿郎さんのお腹がグォーーと唸り声のような音を立てた。腹の虫、私のと違って恐ろしい声だね。地獄門と繋がってるの?
「よもや!腹が鳴ってしまったな!!」
「私もさっきからお腹がきゅるきゅる鳴ってますよ。美味しいお蕎麦屋さんを知っているのでそこに行きましょ」
「蕎麦屋だと!?二階はあるのか!!」
蕎麦屋と聞いた瞬間に、目がキラキラ輝いた。非常にわくわくしている。いや、目はキラキラというよりギラギラ、わくわくというより大興奮だ。
もうこの杏寿郎さんは、蕎麦屋の二階についてご存知なんだね。でも残念、あの蕎麦屋に二階はありません。
「一階しかないお蕎麦屋さんですが?二階に何かあるので?」
「いや!?何もないな!!
……ああ、ないのかぁ……そうかぁ……」
目に見えて落ち込んでる……えっ、そこまでしたかったの?普段からしてるじゃん。
まあ、杏寿郎さんとお外でもいちゃいちゃしたい気持ちは私にもある。けれどやっぱり任務中だし無限列車に乗る前にしていいことと違う気がする。あ、『前』のことは引き合いに出さないでね?
したからといって体力がなくなることは全くなかったけれど、体のどこかは疲れていたはずで。少しでも体力を温存して鬼の討伐に挑みたい。
上弦の参は万全の状態で殺しにかからないとだめなのだから。
「朝緋?とてつもなく怖い顔をしているぞ。どうした?そんなに腹が減っているのか」
黙りこくりながらしていた顔は、死地に赴く戦士のごとく険しいものだったそうだ。杏寿郎さんですら少し引き気味だった。