三周目 陸
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そうして私が『今回』新たに力を得るためにと試した鍛錬がこれ。
私が使えるのは炎の呼吸だけど、派生を編み出すのとは違う。他の呼吸も使えるようになるための鍛錬だ。
炭治郎は水の呼吸、そしてヒノカミ神楽という、炎の呼吸にもどこか通ずる美しい呼吸の二つを使っていた。
同じことを私もしたいと思ったのだ。
炎の呼吸だけでなく、他の呼吸も使えれば、技にバリエーションが出る。力になる。
もしかしたら、上弦の参の頸にもこの日輪刀が届くかもしれない。
ただ、私の日輪刀は炎の呼吸に合うようになっているので、他の呼吸を無理に使おうとすれば折れる可能性がある。
もしも刀を折ったりしたら……。
あの火男の面と大量の風鈴が脳裏に浮かんだ。胃が痛い。
というわけで鍛錬は木刀で行っていたけれど。
とにかく反動がすごい……。きっと炭治郎も同じなのね。
それと、見よう見まねだけでは他の呼吸の仕方がよくわからないのはネックだ。困ったな……。
まさか自分が軽くとはいえ他の呼吸の取得に着手するとは思わなかった。
宇髄さんには雷の呼吸も合うかもなんてちらりと言われたけれど、かつて槇寿朗さんに言われたことによると、水の呼吸あたりが合う可能性があると聞いた。
雷の呼吸の技はあまり知らないことだし、とりあえずは水の呼吸の仕方、基本の型を教わりに行くしかないのかも。
炎柱の継子だとはいえ別に他の柱との任務をしてはいけない、なんてルールもないことだし、お館様に文を送ってなんとかしてもらった。
比較的すぐに冨岡さんとの任務になってよかった。
ただ、杏寿郎さんは冨岡さんとの任務には口だししてこなかったけれど、これもまた浮気に当たるとかだったらどうしよう。
不死川さんの時や宇髄さんの時の杏寿郎さんを思い出すと、心臓がヒュッとする。
任務はすぐに終わり、空いた時間に冨岡さんに稽古をつけていただいた。
といっても水の呼吸の仕方を教えてもらい、なんとか身につけたことと、水の呼吸の基本の型を何度か見せてもらったくらいだ。
いやしかし、言葉が少なすぎて彼の言いたいことがなかなかわからず苦労した……。
杏寿郎さんとは真逆の位置にいる人に感じる。まさに炎と水だった。
でも、とても良い人だ。言葉が少ないだけで教え方も下手じゃないし、丁寧で親切だった。
そして強い。
炎柱邸に帰ってからというもの、道場にこもってひたすら打ち込み、そして水の呼吸の仕方での呼吸を続けた。
いや、炎の呼吸と水の呼吸を交互に行い、基本の型を繰り出していた。壱ノ型・不知火と、壱ノ型・水面斬りだ。
ただし、水の呼吸、壱ノ型・水面斬りは一度も成功しなかった上に、木刀が真っ二つに割れた。
木刀が割れるほどだからわかると思うけど、私への反動はちょっと齧った時の比ではなかった。
立っていられないほどの疲労感。脱力感。息苦しさ。手も足も上げられない。体を動かすのがひどく気怠くて……。
三徹で任務に当たった時よりも、炎の呼吸、全ての型を連続で一日中鍛錬し続けた時よりもひどい。
でもそういう日に限って、杏寿郎さんは夜のお誘いをしてくる。
まあ、私達鬼殺隊士だと、『夜の』お誘いとは限らない。朝や昼間にする事の方が圧倒的に多いのだが。
体に這わされた手を振り払うことはせず、だけどやんわりとどかして目を逸らす。
先にお風呂には入ったものの疲れはなかなかとれず。疲労感の滲むこの顔は見られたくない。
「ごめんなさい、今日は『無し』でお願いします」
いつもと違う私の断り方に訝しげな杏寿郎さん。いや、そもそもあまり断ることもしてこなかったから、疑問は湧くだろうとは思った。
「やだ、見ないでください……」
結果、無理やり顔を覗き込まれた。白粉の一つでもぽんぽんぱたぱたしておくべきだった。
「ふむ。いつもより疲れているようだが。
今日は確か、水柱の冨岡とのものだったろう。簡単な任務ですぐに解散になったとも聞いているが、帰ってから朝緋は一体何をしていたんだ?
……どこか悪いのか?月一で具合が悪くなるものとは別物か?」
「大丈夫です、別物です。少しばかり無理な鍛錬をしてしまいまして……」
「そうか。鍛錬することはいいことだが無理はいかん。
他にも何かあったらすぐに言うんだぞ!」
浮気は疑われなかったけれど、心配はかけてしまったようだ。
大丈夫。ただ、私は貴方との未来のため、力を得るため、鬼の頸を斬り落とすため、少しばかり励んでいたにすぎないの。
ただ、水の呼吸を扱うのは無理そうだ。この分だと、他の呼吸を身につけることも難しかろう。せっかくお稽古つけてもらったけれど、鍛錬しても無駄。
冨岡さん、言葉は少なくとも私が水の呼吸を習得することにやたら乗り気だったけれど。
なんかこう、私を水柱に据えてしまいたいというオーラのようなものが透けて見えたような……。さすがにそれは気のせいか。
二つの呼吸を使うには、鍛錬し始める時期が遅すぎたことだけは確かか。
そうして杏寿郎さんが二十歳を超えてしばらく。刻一刻と無限列車の任務の時期が近づき、木々や風景、食卓にも秋色が並び始めた頃のことだ。
「えっお酒?」
「うむ。鬼から助けた御人が、酒屋の主人でな。飲み口の良い上等なものを俺にと寄越してくれたのだ!」
綺麗な瓶に入った日本酒がそこにはあった。いくら綺麗だろうと、私は料理酒以外のお酒相手には渋い顔をしてしまうのだが。
「朝緋が酒を飲むことに難色を示す気持ちはよくわかる。父上だろう?」
「……よくお分かりで」
「君が酒による依存症の話をしていたからな。俺はそこまで飲まないが、嗜む程度には酒を飲むこともある。
良い酒だし共に飲まないか?残念ながら昼間なので、風流に月見酒とはいかんがな!」
杏寿郎さんがお酒を嗜まれるとは知らなかった。でもそうか、そんなお年か。
彼の言う通り、槇寿朗さんのこともあってお酒にはあまりいい思い出はないけれど、加減して飲めば怖いことなんて何もないのよね。
日本の神様はお酒好きだから神棚や神社、奉納の間などにもお供えするし、お供えしたあとのお酒は神主さん達で分け合っていた。
私の『ここ』での産みの親達も飲んでいた気がする。……でも。
「私は二十歳になっていないからお酒は飲めません」
「二十歳?どういうことだ」
ああ、そういえばまだ未成年禁酒法などはないんだっけか。でも、頭に根付いた知識が消えることはない。子供の内に……特に二十歳にならない内に飲むと脳がきちんと成長しない、とかだった気がする。
「せめて二十歳になるまではお酒は飲まないと決めていたので、今は飲みません」
「なるほど。つまり俺と三三九度を交わす時に。夫婦になる際に飲むと、そういうことだな」
ぼそり、何か呟かれる。
「今なんて?」
「いや、此方の話だ。
そういう考え方をしているなら仕方ないな!朝緋が二十歳になるのを楽しみにしている!二十歳になったら共に飲もう!約束だ!!」
「ええ、もちろんです。では共に飲めぬ代わりに、お酌いたしますね」
「ふふふ、朝緋が酌をしてくれるとは最高の贅沢だな。……んっ、美味い!」
良い飲みっぷりです炎柱様。
けれど猪口の酒をあおったその口で、私に口づけを送るのはどうかと思う。辛くて苦い。
「これくらいは酒を飲んだ内に入らんだろう?」
「んぅ、ちょっとお酒の味がします……」
酔ったふりだろうか。杏寿郎さんが体重をかけて私に覆いかぶさってきた。どさくさに紛れて手を太ももに這わせてくる。
「酒のつまみも朝緋とは、なんという幸せなのだろうなぁ」
「お酒の勢いでというのはだめですよ?」
ぺしむっ!はたき落とす。
「さすがに流されんか」
「そりゃもう。ここは縁側ですからねー、往来に声が聞こえちゃう」
再び酌をして酒に戻らせるも、すぐ飲んでまた私に触ろうとする。結局抱きしめられて、気がついたら杏寿郎さんがかいた胡座の中に座らせられた。
「なら床の間に移動しようか」
「だからお酒に流されてするのは嫌ですって!そりゃ、こうやって抱きしめられると幸せですけど……」
「そうかそうか。仕方のない子だ。酌をしてくれる女中さんに手を出せぬのは残念だが、こうして抱いて、君の温もりを堪能させてもらうとするか」
お酒はそっちのけで、私に構ってくる杏寿郎さん。
ぎゅうぎゅうに抱きしめられるだけで幸福感は最骨頂。腹に回る手に自分の手を重ね、降りてきた顔に頬擦りする。
ああ、なんて幸せ。
この時間が永遠に続けばいいのに。
けれど幸せな時間はいつまでも続かない。いつのまにか過ぎ去っていく。
私が二十になったら。なんて約束は、このままでは果たされない。
無限列車という地獄へ向かう列車への入り口が、私達を今また飲み込もうと大きく口を開いて待っていた。
私が使えるのは炎の呼吸だけど、派生を編み出すのとは違う。他の呼吸も使えるようになるための鍛錬だ。
炭治郎は水の呼吸、そしてヒノカミ神楽という、炎の呼吸にもどこか通ずる美しい呼吸の二つを使っていた。
同じことを私もしたいと思ったのだ。
炎の呼吸だけでなく、他の呼吸も使えれば、技にバリエーションが出る。力になる。
もしかしたら、上弦の参の頸にもこの日輪刀が届くかもしれない。
ただ、私の日輪刀は炎の呼吸に合うようになっているので、他の呼吸を無理に使おうとすれば折れる可能性がある。
もしも刀を折ったりしたら……。
あの火男の面と大量の風鈴が脳裏に浮かんだ。胃が痛い。
というわけで鍛錬は木刀で行っていたけれど。
とにかく反動がすごい……。きっと炭治郎も同じなのね。
それと、見よう見まねだけでは他の呼吸の仕方がよくわからないのはネックだ。困ったな……。
まさか自分が軽くとはいえ他の呼吸の取得に着手するとは思わなかった。
宇髄さんには雷の呼吸も合うかもなんてちらりと言われたけれど、かつて槇寿朗さんに言われたことによると、水の呼吸あたりが合う可能性があると聞いた。
雷の呼吸の技はあまり知らないことだし、とりあえずは水の呼吸の仕方、基本の型を教わりに行くしかないのかも。
炎柱の継子だとはいえ別に他の柱との任務をしてはいけない、なんてルールもないことだし、お館様に文を送ってなんとかしてもらった。
比較的すぐに冨岡さんとの任務になってよかった。
ただ、杏寿郎さんは冨岡さんとの任務には口だししてこなかったけれど、これもまた浮気に当たるとかだったらどうしよう。
不死川さんの時や宇髄さんの時の杏寿郎さんを思い出すと、心臓がヒュッとする。
任務はすぐに終わり、空いた時間に冨岡さんに稽古をつけていただいた。
といっても水の呼吸の仕方を教えてもらい、なんとか身につけたことと、水の呼吸の基本の型を何度か見せてもらったくらいだ。
いやしかし、言葉が少なすぎて彼の言いたいことがなかなかわからず苦労した……。
杏寿郎さんとは真逆の位置にいる人に感じる。まさに炎と水だった。
でも、とても良い人だ。言葉が少ないだけで教え方も下手じゃないし、丁寧で親切だった。
そして強い。
炎柱邸に帰ってからというもの、道場にこもってひたすら打ち込み、そして水の呼吸の仕方での呼吸を続けた。
いや、炎の呼吸と水の呼吸を交互に行い、基本の型を繰り出していた。壱ノ型・不知火と、壱ノ型・水面斬りだ。
ただし、水の呼吸、壱ノ型・水面斬りは一度も成功しなかった上に、木刀が真っ二つに割れた。
木刀が割れるほどだからわかると思うけど、私への反動はちょっと齧った時の比ではなかった。
立っていられないほどの疲労感。脱力感。息苦しさ。手も足も上げられない。体を動かすのがひどく気怠くて……。
三徹で任務に当たった時よりも、炎の呼吸、全ての型を連続で一日中鍛錬し続けた時よりもひどい。
でもそういう日に限って、杏寿郎さんは夜のお誘いをしてくる。
まあ、私達鬼殺隊士だと、『夜の』お誘いとは限らない。朝や昼間にする事の方が圧倒的に多いのだが。
体に這わされた手を振り払うことはせず、だけどやんわりとどかして目を逸らす。
先にお風呂には入ったものの疲れはなかなかとれず。疲労感の滲むこの顔は見られたくない。
「ごめんなさい、今日は『無し』でお願いします」
いつもと違う私の断り方に訝しげな杏寿郎さん。いや、そもそもあまり断ることもしてこなかったから、疑問は湧くだろうとは思った。
「やだ、見ないでください……」
結果、無理やり顔を覗き込まれた。白粉の一つでもぽんぽんぱたぱたしておくべきだった。
「ふむ。いつもより疲れているようだが。
今日は確か、水柱の冨岡とのものだったろう。簡単な任務ですぐに解散になったとも聞いているが、帰ってから朝緋は一体何をしていたんだ?
……どこか悪いのか?月一で具合が悪くなるものとは別物か?」
「大丈夫です、別物です。少しばかり無理な鍛錬をしてしまいまして……」
「そうか。鍛錬することはいいことだが無理はいかん。
他にも何かあったらすぐに言うんだぞ!」
浮気は疑われなかったけれど、心配はかけてしまったようだ。
大丈夫。ただ、私は貴方との未来のため、力を得るため、鬼の頸を斬り落とすため、少しばかり励んでいたにすぎないの。
ただ、水の呼吸を扱うのは無理そうだ。この分だと、他の呼吸を身につけることも難しかろう。せっかくお稽古つけてもらったけれど、鍛錬しても無駄。
冨岡さん、言葉は少なくとも私が水の呼吸を習得することにやたら乗り気だったけれど。
なんかこう、私を水柱に据えてしまいたいというオーラのようなものが透けて見えたような……。さすがにそれは気のせいか。
二つの呼吸を使うには、鍛錬し始める時期が遅すぎたことだけは確かか。
そうして杏寿郎さんが二十歳を超えてしばらく。刻一刻と無限列車の任務の時期が近づき、木々や風景、食卓にも秋色が並び始めた頃のことだ。
「えっお酒?」
「うむ。鬼から助けた御人が、酒屋の主人でな。飲み口の良い上等なものを俺にと寄越してくれたのだ!」
綺麗な瓶に入った日本酒がそこにはあった。いくら綺麗だろうと、私は料理酒以外のお酒相手には渋い顔をしてしまうのだが。
「朝緋が酒を飲むことに難色を示す気持ちはよくわかる。父上だろう?」
「……よくお分かりで」
「君が酒による依存症の話をしていたからな。俺はそこまで飲まないが、嗜む程度には酒を飲むこともある。
良い酒だし共に飲まないか?残念ながら昼間なので、風流に月見酒とはいかんがな!」
杏寿郎さんがお酒を嗜まれるとは知らなかった。でもそうか、そんなお年か。
彼の言う通り、槇寿朗さんのこともあってお酒にはあまりいい思い出はないけれど、加減して飲めば怖いことなんて何もないのよね。
日本の神様はお酒好きだから神棚や神社、奉納の間などにもお供えするし、お供えしたあとのお酒は神主さん達で分け合っていた。
私の『ここ』での産みの親達も飲んでいた気がする。……でも。
「私は二十歳になっていないからお酒は飲めません」
「二十歳?どういうことだ」
ああ、そういえばまだ未成年禁酒法などはないんだっけか。でも、頭に根付いた知識が消えることはない。子供の内に……特に二十歳にならない内に飲むと脳がきちんと成長しない、とかだった気がする。
「せめて二十歳になるまではお酒は飲まないと決めていたので、今は飲みません」
「なるほど。つまり俺と三三九度を交わす時に。夫婦になる際に飲むと、そういうことだな」
ぼそり、何か呟かれる。
「今なんて?」
「いや、此方の話だ。
そういう考え方をしているなら仕方ないな!朝緋が二十歳になるのを楽しみにしている!二十歳になったら共に飲もう!約束だ!!」
「ええ、もちろんです。では共に飲めぬ代わりに、お酌いたしますね」
「ふふふ、朝緋が酌をしてくれるとは最高の贅沢だな。……んっ、美味い!」
良い飲みっぷりです炎柱様。
けれど猪口の酒をあおったその口で、私に口づけを送るのはどうかと思う。辛くて苦い。
「これくらいは酒を飲んだ内に入らんだろう?」
「んぅ、ちょっとお酒の味がします……」
酔ったふりだろうか。杏寿郎さんが体重をかけて私に覆いかぶさってきた。どさくさに紛れて手を太ももに這わせてくる。
「酒のつまみも朝緋とは、なんという幸せなのだろうなぁ」
「お酒の勢いでというのはだめですよ?」
ぺしむっ!はたき落とす。
「さすがに流されんか」
「そりゃもう。ここは縁側ですからねー、往来に声が聞こえちゃう」
再び酌をして酒に戻らせるも、すぐ飲んでまた私に触ろうとする。結局抱きしめられて、気がついたら杏寿郎さんがかいた胡座の中に座らせられた。
「なら床の間に移動しようか」
「だからお酒に流されてするのは嫌ですって!そりゃ、こうやって抱きしめられると幸せですけど……」
「そうかそうか。仕方のない子だ。酌をしてくれる女中さんに手を出せぬのは残念だが、こうして抱いて、君の温もりを堪能させてもらうとするか」
お酒はそっちのけで、私に構ってくる杏寿郎さん。
ぎゅうぎゅうに抱きしめられるだけで幸福感は最骨頂。腹に回る手に自分の手を重ね、降りてきた顔に頬擦りする。
ああ、なんて幸せ。
この時間が永遠に続けばいいのに。
けれど幸せな時間はいつまでも続かない。いつのまにか過ぎ去っていく。
私が二十になったら。なんて約束は、このままでは果たされない。
無限列車という地獄へ向かう列車への入り口が、私達を今また飲み込もうと大きく口を開いて待っていた。