三周目 陸
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ただ、おかげさまで恋仲になってからというもの、杏寿郎さんは少しばかりわがままが増えた。
私については湧いた欲を特に我慢しない、というのは本当のことだったようだ。
空気は読んでその時その時の関係性を代える、とはいいつつも。
見られても困らない場所での杏寿郎さんは、外国の人ですか?と言ってもおかしくないほど触れ合いのバリエーションに富んでいた。
かつて杏寿郎さんが目撃した浅草で口付けを交わし合っていたという男女達。彼らのせいでもあるはずだ。
やっぱり杏寿郎さんの貞操教育に悪影響だったのね!
「ん、ちょっと食べてみたけど美味しっ。
あとは形作って焼くだけかな……。あ、火用の炭が少ないから取ってこよう」
スイートポテトはあれからよく作るようになって、今日もまた作っているんだけど。
炭を取ってくるのにほんのちょっぴり席を外したら。
「芋!美味い!わっしょい!!わっしょーい!!」
つまみ食いというレベルではない量をつまみ食いする輩が出現していた。
焼く量が……足りなくなっていく……。
炭がぼとぼとと腕から落ちた。
「何してるの杏寿郎さんーー!!」
「む!朝緋か!!美味しい芋菓子があったので食べている!!」
「それスイートポテトの材料…………」
「何っ今のままで十分美味いぞ!?」
「いいから食べるの止めようか?」
怒りを滲ませて言い切る。EAT OR DIE!!
「我慢などもぐもぐ!出来るわけがなかもぐもぐ!ろう!!こんなに美味いのにわっしょいもぐもぐ!!」
なのになんで食べるのやめるどころか食べるスピードアップしてんの?
オーケー、今から杏寿郎さんは鬼役ね。日輪刀で頸斬られたいとそういうことね。
冗談だけど。
「焼いたら!美味しいんだから!ちょっとは我慢してください!!」
声を荒げて言い、スイートポテト生地と杏寿郎さんの間に身を滑り込ませれば、やっと行動が止まった。中身は……。
「あーあ、三割は減ったわ」
「俺の芋……朝緋はけちだ……腹がなる!」
殆どが杏寿郎さんの胃袋に入るものとはいえ、俺の芋表現はいただけない。今回あげるのやめちゃおうかしら。
「これだけ食べておいてけちはないです。
それに空腹は食事をより美味しくさせます。我慢も大事ですよ」
炭で汚れた手を水で洗い落としながら、作れる数がどのくらいに減ったのか考えてみる。
……あっ、やっぱりつまみ食いにしては多すぎる。杏寿郎さん悪い子!!
これが自分の子供ならおしりぺんぺんよ!!
「俺は今食べたいのだがな。……むっ!?
いいところに芋を発見した!此方からもらうとしよう!!」
「えっどこにお芋が……、」
ピチャ、くちゅ。
唇ごと口の周りを舐められ、食われた。
「やはり芋の味がするな。わっしょい!」
「は……?な、な……何を……」
「油断大敵だぞ!
何とは何だ。口の端についていたから食べただけだ。朝緋もつまみ食いしていたということではないのか?」
「私は味見をしたまでで……っ、ん、ぅ……」
食べただけ、と言いながら私の顔に手をやり、再度唇を食んできた。
舌が隙間から入り込み、上顎や私の舌、喉の奥までもぞりぞりと這いずり回って愛撫してくる。
あ、やばい。気持ちよくてこの愛に応えてしまいたくなる……。しっかりしなくちゃ。
「はな、れて下さい……っ」
「嫌だ。俺は今、ここで君を料理したい」
その目に獣が潜んでいる。だめだ、突き飛ばしてでも離れないと。
なのに、抱きしめてくる腕を拒否できない。もう力が入らない。腰も砕けてくる……。
つつつ、首筋から胸元まで滑り降りる指に体が跳ねる。着物の合わせ目からその手が入り込み、胸へと到達しようと言う時。
「杏寿郎サマ!次ノ任務ガ言イ渡サレマシタッ!!
要が飛び込んできた。この甘い空気を払拭するかのように!よくやった要君!!
よし、この機会にこの腕から逃れなくちゃ……って、離してくれない!?
「……急ぎの任務か?」
「チガイマスッ!詳シクハ此方ノ書ニ書イテアリマスッ!!」
「ならばそれを置いてどこかで待機していてくれ。俺は見た通り料理中だ」
「ワカリマシタ!ゴユックリ〜!」
咥えていた蛇腹折の書を置くと、すぐ飛び立ってしまう。ええっ要君ごゆっくりじゃないよ、ごゆっくりじゃ!
……ウッ、あの甘い空気がまた漂い始めた。この桃色の空気は杏寿郎さんの血鬼術に違いない。鬼じゃないから炎柱術??
「見た通り料理って……っ、もしかして私、ですか……っ?」
「そうだが?」
私の腰を掴んで離さない杏寿郎さんの手を外そうと力を入れる。指一本一本をなんとか外して、前へ前へと押し返す。
杏寿郎さんは遊んでいる。私の力を甘く見ているから、私が今全力を出せば杏寿郎さんを凌駕することができる。
「ここはっ!男子禁制って!言ってますよねっっっ!!私のことも料理禁止っ!」
炎の呼吸、奥義!煉獄!!……を繰り出す勢いで、杏寿郎さんの手、そして体を押し返して強制的に距離を取らせた。
「!?
朝緋はなかなか力が強くなったな!?よもや押し返されてしまうとは……」
「やった杏寿郎さんから強いって言われた〜、じゃなくてさあ!もうっ!」
わがままが過ぎますぞ煉獄杏寿郎殿!!
はあ……ドッと疲れてしまったけれど、おかげさまで甘ったるい雰囲気は霧散してくれた。
杏寿郎さんの目に潜む獣も、どこかへ隠れてしまった。それに少しだけ残念に思いながらも、ほっとした私がいる。
「今みたいなことするなら、出来上がっても一個もあげませんからね〜」
「よもや!それは困る!!」
「困るなら要君からの書でもそこでおとなしく読んでてください。特別に、厨から出ていかなくてもいいので」
ぐいっ。要が置いた書を突きつけると、そのまま読み始めた。もう柱の顔だ。
凛々しくてかっこいい……好き。
おっと、私は私でお料理しなくちゃ。
「ふむ……調査任務か!なるほど!」
よしよし、大人しく読んでくれている。そのかっこいい顔をそばでずっと見ていたいけれど、私はこっちに集中しないと。
でも使いにくいなぁ、この調理器具。
軽快な音とは違う、もたつくような不協和音が気になったようで、杏寿郎さんでさえ気がついた。
「なぁ朝緋、その道具は使いにくくないのか?」
「使いにくいです。
生家には使いやすい道具があったけど持ってきたら千寿郎が困りますからね。
……合羽橋でも行ってこようかな」
合羽橋は調理器具に限らず、生活に使う細々した道具を扱う店が軒を連ねる問屋街だ。
令和や平成の時代にはもう暗渠となってなくなってしまった新堀川の両端に、店が立ち並んで活気を見せていた。
大正初期の今は変わった道具とかは売っているお店の数は少ないだろうけど、言えば菓子用の型とかも作ってもらえるかも。ただ、特注になりそう。
「合羽橋とは、確か浅草のあたりだったな!
ならばちょうどいい!今回来た調査任務は、俺たち二人へのものなのだが、場所がその付近だ!」
「そうなの?」
「ああ、朝緋も読むといい。鬼のため人身売買をしていると言う噂の人間の調査だ」
そこに二人でということは、『前回』恋仲になってすぐ言い渡された任務と似たような感じか。ただあの時と場所が違うから、今回も鬼が関係しないものとは限らない。
「どこにでも、そういう悪い人は湧くんですねぇ。
げに恐ろしきは鬼よりも人間也、か」
人間は簡単に鬼になれる。その感情や行動一つ変えるだけで、恐ろしいほど残酷な悪鬼になりえる。
鬼も元は人間だから、恐ろしさは変わらないかもしれないけれど。
私については湧いた欲を特に我慢しない、というのは本当のことだったようだ。
空気は読んでその時その時の関係性を代える、とはいいつつも。
見られても困らない場所での杏寿郎さんは、外国の人ですか?と言ってもおかしくないほど触れ合いのバリエーションに富んでいた。
かつて杏寿郎さんが目撃した浅草で口付けを交わし合っていたという男女達。彼らのせいでもあるはずだ。
やっぱり杏寿郎さんの貞操教育に悪影響だったのね!
「ん、ちょっと食べてみたけど美味しっ。
あとは形作って焼くだけかな……。あ、火用の炭が少ないから取ってこよう」
スイートポテトはあれからよく作るようになって、今日もまた作っているんだけど。
炭を取ってくるのにほんのちょっぴり席を外したら。
「芋!美味い!わっしょい!!わっしょーい!!」
つまみ食いというレベルではない量をつまみ食いする輩が出現していた。
焼く量が……足りなくなっていく……。
炭がぼとぼとと腕から落ちた。
「何してるの杏寿郎さんーー!!」
「む!朝緋か!!美味しい芋菓子があったので食べている!!」
「それスイートポテトの材料…………」
「何っ今のままで十分美味いぞ!?」
「いいから食べるの止めようか?」
怒りを滲ませて言い切る。EAT OR DIE!!
「我慢などもぐもぐ!出来るわけがなかもぐもぐ!ろう!!こんなに美味いのにわっしょいもぐもぐ!!」
なのになんで食べるのやめるどころか食べるスピードアップしてんの?
オーケー、今から杏寿郎さんは鬼役ね。日輪刀で頸斬られたいとそういうことね。
冗談だけど。
「焼いたら!美味しいんだから!ちょっとは我慢してください!!」
声を荒げて言い、スイートポテト生地と杏寿郎さんの間に身を滑り込ませれば、やっと行動が止まった。中身は……。
「あーあ、三割は減ったわ」
「俺の芋……朝緋はけちだ……腹がなる!」
殆どが杏寿郎さんの胃袋に入るものとはいえ、俺の芋表現はいただけない。今回あげるのやめちゃおうかしら。
「これだけ食べておいてけちはないです。
それに空腹は食事をより美味しくさせます。我慢も大事ですよ」
炭で汚れた手を水で洗い落としながら、作れる数がどのくらいに減ったのか考えてみる。
……あっ、やっぱりつまみ食いにしては多すぎる。杏寿郎さん悪い子!!
これが自分の子供ならおしりぺんぺんよ!!
「俺は今食べたいのだがな。……むっ!?
いいところに芋を発見した!此方からもらうとしよう!!」
「えっどこにお芋が……、」
ピチャ、くちゅ。
唇ごと口の周りを舐められ、食われた。
「やはり芋の味がするな。わっしょい!」
「は……?な、な……何を……」
「油断大敵だぞ!
何とは何だ。口の端についていたから食べただけだ。朝緋もつまみ食いしていたということではないのか?」
「私は味見をしたまでで……っ、ん、ぅ……」
食べただけ、と言いながら私の顔に手をやり、再度唇を食んできた。
舌が隙間から入り込み、上顎や私の舌、喉の奥までもぞりぞりと這いずり回って愛撫してくる。
あ、やばい。気持ちよくてこの愛に応えてしまいたくなる……。しっかりしなくちゃ。
「はな、れて下さい……っ」
「嫌だ。俺は今、ここで君を料理したい」
その目に獣が潜んでいる。だめだ、突き飛ばしてでも離れないと。
なのに、抱きしめてくる腕を拒否できない。もう力が入らない。腰も砕けてくる……。
つつつ、首筋から胸元まで滑り降りる指に体が跳ねる。着物の合わせ目からその手が入り込み、胸へと到達しようと言う時。
「杏寿郎サマ!次ノ任務ガ言イ渡サレマシタッ!!
要が飛び込んできた。この甘い空気を払拭するかのように!よくやった要君!!
よし、この機会にこの腕から逃れなくちゃ……って、離してくれない!?
「……急ぎの任務か?」
「チガイマスッ!詳シクハ此方ノ書ニ書イテアリマスッ!!」
「ならばそれを置いてどこかで待機していてくれ。俺は見た通り料理中だ」
「ワカリマシタ!ゴユックリ〜!」
咥えていた蛇腹折の書を置くと、すぐ飛び立ってしまう。ええっ要君ごゆっくりじゃないよ、ごゆっくりじゃ!
……ウッ、あの甘い空気がまた漂い始めた。この桃色の空気は杏寿郎さんの血鬼術に違いない。鬼じゃないから炎柱術??
「見た通り料理って……っ、もしかして私、ですか……っ?」
「そうだが?」
私の腰を掴んで離さない杏寿郎さんの手を外そうと力を入れる。指一本一本をなんとか外して、前へ前へと押し返す。
杏寿郎さんは遊んでいる。私の力を甘く見ているから、私が今全力を出せば杏寿郎さんを凌駕することができる。
「ここはっ!男子禁制って!言ってますよねっっっ!!私のことも料理禁止っ!」
炎の呼吸、奥義!煉獄!!……を繰り出す勢いで、杏寿郎さんの手、そして体を押し返して強制的に距離を取らせた。
「!?
朝緋はなかなか力が強くなったな!?よもや押し返されてしまうとは……」
「やった杏寿郎さんから強いって言われた〜、じゃなくてさあ!もうっ!」
わがままが過ぎますぞ煉獄杏寿郎殿!!
はあ……ドッと疲れてしまったけれど、おかげさまで甘ったるい雰囲気は霧散してくれた。
杏寿郎さんの目に潜む獣も、どこかへ隠れてしまった。それに少しだけ残念に思いながらも、ほっとした私がいる。
「今みたいなことするなら、出来上がっても一個もあげませんからね〜」
「よもや!それは困る!!」
「困るなら要君からの書でもそこでおとなしく読んでてください。特別に、厨から出ていかなくてもいいので」
ぐいっ。要が置いた書を突きつけると、そのまま読み始めた。もう柱の顔だ。
凛々しくてかっこいい……好き。
おっと、私は私でお料理しなくちゃ。
「ふむ……調査任務か!なるほど!」
よしよし、大人しく読んでくれている。そのかっこいい顔をそばでずっと見ていたいけれど、私はこっちに集中しないと。
でも使いにくいなぁ、この調理器具。
軽快な音とは違う、もたつくような不協和音が気になったようで、杏寿郎さんでさえ気がついた。
「なぁ朝緋、その道具は使いにくくないのか?」
「使いにくいです。
生家には使いやすい道具があったけど持ってきたら千寿郎が困りますからね。
……合羽橋でも行ってこようかな」
合羽橋は調理器具に限らず、生活に使う細々した道具を扱う店が軒を連ねる問屋街だ。
令和や平成の時代にはもう暗渠となってなくなってしまった新堀川の両端に、店が立ち並んで活気を見せていた。
大正初期の今は変わった道具とかは売っているお店の数は少ないだろうけど、言えば菓子用の型とかも作ってもらえるかも。ただ、特注になりそう。
「合羽橋とは、確か浅草のあたりだったな!
ならばちょうどいい!今回来た調査任務は、俺たち二人へのものなのだが、場所がその付近だ!」
「そうなの?」
「ああ、朝緋も読むといい。鬼のため人身売買をしていると言う噂の人間の調査だ」
そこに二人でということは、『前回』恋仲になってすぐ言い渡された任務と似たような感じか。ただあの時と場所が違うから、今回も鬼が関係しないものとは限らない。
「どこにでも、そういう悪い人は湧くんですねぇ。
げに恐ろしきは鬼よりも人間也、か」
人間は簡単に鬼になれる。その感情や行動一つ変えるだけで、恐ろしいほど残酷な悪鬼になりえる。
鬼も元は人間だから、恐ろしさは変わらないかもしれないけれど。