三周目 伍
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「いや、乱れている。斬り口がバラバラの藁がそれを物語っている。
どうしてだ?一人で鍛錬できていたなら、精神統一はできていたはずだろう。そんなでは鬼の頸は斬れんぞ」
「……やっ…………!」
そう言った杏寿郎さんが、一瞬で私に詰め寄り手首を掴んできた。
拘束するのと違う。血の流れを確認された……。
呼吸、目の動き。それだけじゃない、血の流れる速さでもって、私の感情を見透かそうとしてくる。
「朝緋……君は嫉妬したのだな。
無感情状態での着物選び。棘のある言葉での出迎え。ここに来ていきなりの炎柱呼び。低い調子の声。食事にしては遅い帰還にも悋気を覚え、気持ちを紛らわせようとした鍛錬」
「!?し、嫉妬なんてしてません……っ!」
「ほう……?また脈が速くなったぞ。常中の呼吸は上手く整えられたとしても君の血は正直だな。ここを押さえている今、朝緋は嘘をつくことはできない。血鬼術などを使って血の動きすら変えられると言うなら別だがな」
それはもう人間ではなくて鬼だわ。ただ、嫉妬してないといいながら、嫉妬の鬼に軽く身を転じていた私に言えたことではない。
「大丈夫だ、別に何もしていないよ。食事だけをして女性隊士とは別れた。
確かに出合茶屋にも誘いは受けたが、しっかり断りを入れて終わりにした。それを酷いと?ずっと思わせぶりな態度で接する方がよほど酷いと思ってな。
ま、朝緋に嫉妬させるためとはいえ、人の気持ちを利用したのは悪いと思っているがな」
……私を嫉妬させるためにわざと食事に行ったと?
杏寿郎さんは嬉しそうに、そして流暢に言葉を紡ぐ。私が聞きたいと思っていた事を聞かずとも話して聞かせてくれた。
聞きたいと思っていた事?ううん、確かに聞きたい事ではあったけれど、同時にそれは悟られたくなかった。
この分だと嫉妬したという事実だけではなく、その気持ちすら杏寿郎さんにはバレているだろうけども。
ええそうよ、嫉妬しましたとも!!白状します!!
けれどそれを認めたからと言って、はいそうですかと、素直になるような私じゃない。
「い、いい加減離してっ!」
掴まれた手首を振り払い、私は鍛錬を終いにした。杏寿郎さんは私の気持ちの変化を、それはもう楽しそうに眺めていた。
ああ、もうだめだ。
かつてジップロックに入れた私の気持ちを、破きぶちまけた杏寿郎さん。今度は鍵をつけた箱に厳重に詰め直して地中深くに埋めたはずのそれを、掘り起こして掘り起こして。
そして鍵をも壊してこじ開け、再び中身をぶちまけられた気分。
自分の感情を抑えるのが難しくなってきている……。
ここにいてはいけない。継子だからとこの炎柱邸に逗留していてはいけない。
そう思うのに体や足には根っこが生えているかのように、ここから一つも動けない。
修行するにも最高の環境を、私は捨てきれなかった。
もちろん、私がここを出ることは杏寿郎さんが絶対に許さないけれどもね。
出ようとしたが最後、閉じ込められかねない。それこそ、槇寿朗さんがかつて私を蔵の中に閉じ込めようとした時のように。いや、あれ以上か。
そうして過ごすうちに、私の階級がとうとう甲に上がった。
鍛錬、任務、たまの休養。その繰り返しが身を結び、柱に継ぐ実力者までのし上がることができたのだ。なんと喜ばしい!
これでまた、肩を並べて戦える。今度こそあの鬼に貴方の命を奪われずに済むかもしれない。いや、奪われてたまるものか。
勿論のこと、ここまでくるのに怪我もたくさんした。泣き言を言う日もあった。杏寿郎さんとぶつかり合う日も。なんてったって、ただの柱と継子じゃなくって、元は家族だものね。好き勝手言い合うこともある。
そして家族以上に近しい関係でもある。
お互い両片思いというのを知っている関係の中、一つ屋根の下で暮らしているのだ。付かず離れずの距離は緊張の連続だった。
手首を掴まれて以来、それがたとえ鍛錬での出来事だろうと決して触れはせずにお互いが気をつけていたけれども。
だけれど。
だけれどだ。私が甲という階級に上がり気持ちに余裕が出た事で、その緊張の薄い膜を杏寿郎さんが壊しにきた。強化硝子で作っていたはずのそれは針で風船を突き破るかのように、ある日突然簡単に割れてしまった。
「朝緋」
非番の日。夕食の準備にと勤しんでいると、厨の入り口から杏寿郎さんが呼びかけてきた。
別に厨の入口に杏寿郎さん立ち入り禁止の線は引かれていない。炎柱邸ではそんなもの引かずとも、杏寿郎さんが料理をすることはないからね。
するりと入ってきて背後に立つ杏寿郎さんに内心どきどきだ。だってすぐ手が届く距離にいるんだもの。緊張するでしょ。
「?なんでしょう、師範。食事はまだ出来上がらないので、貴方の興味が向くものは今は何もありませんが」
「目的は食事じゃない。まあ、興味の向くものはここにあるがな」
「はあ……」
食事以外に興味の湧くものってあるのかな。
ご飯を炊くのに火をつけたばかりで、まだつまみ食いもできないのだから、ほんと用なんてないはずなんだけどなあ。
「朝緋。階級『甲』への昇格おめでとう。……これは上がった時も言ったがな」
「うん?うん、ありがとう……ございます……?」
「これで君の不安事が一つ解消されたな。
朝緋は柱に継ぐ実力の『甲』の階級にずっとなりたかったのだろう?」
「確かにそうですが……。あの、何が言いたいんでしょう?
意図がわからな、」
杏寿郎さんの手が私のお腹に回る。ゼロ距離。
後ろから抱きしめられた。
あ、杏寿郎さんの匂い……。汗と彼自身が放つ香りが、脳を痺れさせてくる。
って違う!
「ちょっと、何を……っ」
「もう触れてもいい頃合いかと思ったのでこうして来たんだ」
抱きすくめて、髪、そしてうなじにと杏寿郎さんが鼻頭をうずめる。
私の気持ちという感情が溶け込んだ匂いを嗅ぎ分けるかのように動かし、鼻でくすぐってこられて肌が粟立った。
「不安事、いや、君の夢が一つ叶ったならば、次は俺との関係を前に進ませよう。君が嫉妬でおかしくなった日に、俺は改めて願ったんだ。君の気持ちが落ち着いた暁には前に進むべく動きたいと。
なあ朝緋。たまには俺の願いを叶えてくれてもいいのではないか?」
「願いって……そこまでおかしくなってませ、っ、ヒぁっーー」
ヌルッ、ちゅく……じゅるるる〜〜〜!!
うなじに舌を這わせ、そして強く激しく吸いつかれた。
背筋に電撃が走る。
「ぁっ、やめ、やめてくださ……っ!嫌っーー!」
「はっ、……君も俺と同じ気持ちを内に秘めているのは知っているんだからな!逃げることは決して許さんぞ!!」
ジタバタともがいて暴れて。でも鬼殺隊士として本気を出しての暴れ方はできなかった。
この体はまだ未通だ。なのに頭と心は既に杏寿郎さんの雄を既に知っている。知りすぎている。
その形も大きさも匂いすらも。
女の部分が反応して雄を欲しがって……奥が疼いてたまらない。
「口では嫌と言いながら、君は本気で俺を拒まない」
ーー見透かされている。
そうだ、私は杏寿郎さんを本気で拒めない。拒絶しようとも体が勝手に喜んで、先を先をと望み始める。
声にもほら、艶が混じり始めて止まらない。
「そ、れは……今、料理中だから下手に動けないだけ、で……っ、んん、」
「いいや、料理中だろうとも本当に嫌なら、君は迷うことなく俺を突き飛ばすなり何なりするはずだ!拒まないのが答えだろう!!」
言いながらちゅるちゅると舐め上げられ、着物の上からだが腹をさすられ。腰がずくん、一際強く疼いた。
杏寿郎さんが撫でるその腹の奥は、女性にとって大切なものがある場所。そんなに大事そうに撫でないで。貴方が欲しくなってきゅうきゅう鳴いてしまうから。
ああだめだいけない。流されてはいけない。
ここはどこだ?厨だ。布団の上でも蕎麦屋の二階でもない。男女がむつみ合う場所じゃない、食事を生産する女の聖域!!場を弁えろ!TPOを考えろ!!
「ッッ!ーー今私が何をしてるのか見て言ってくださいませんか!?そのほとんどを貴方が食べることになる食事を作っていますっ!!」
炎の呼吸を強引に吐き出し、半ば懇願するように叫び言えば。
「………………」
背後からは無言の圧が返ってきた。
こっちはもう既にヘトヘトで、壱ノ型から伍ノ型あたりを連続で放ったような気分だ。鍛錬でだって、ここまで息は切れない。
走りそうになる快感を耐え切った……。けど心臓ばくばくする……。
「退く気はないと、そういうことですか。…………火を消します。少し待ってくださいませんか」
「ああ、逃げぬならいい」
やっと拘束が緩んだ。離れる直前にまた、首筋に強く吸いつかれたが。
嗚呼、体が火照る。
どうしてだ?一人で鍛錬できていたなら、精神統一はできていたはずだろう。そんなでは鬼の頸は斬れんぞ」
「……やっ…………!」
そう言った杏寿郎さんが、一瞬で私に詰め寄り手首を掴んできた。
拘束するのと違う。血の流れを確認された……。
呼吸、目の動き。それだけじゃない、血の流れる速さでもって、私の感情を見透かそうとしてくる。
「朝緋……君は嫉妬したのだな。
無感情状態での着物選び。棘のある言葉での出迎え。ここに来ていきなりの炎柱呼び。低い調子の声。食事にしては遅い帰還にも悋気を覚え、気持ちを紛らわせようとした鍛錬」
「!?し、嫉妬なんてしてません……っ!」
「ほう……?また脈が速くなったぞ。常中の呼吸は上手く整えられたとしても君の血は正直だな。ここを押さえている今、朝緋は嘘をつくことはできない。血鬼術などを使って血の動きすら変えられると言うなら別だがな」
それはもう人間ではなくて鬼だわ。ただ、嫉妬してないといいながら、嫉妬の鬼に軽く身を転じていた私に言えたことではない。
「大丈夫だ、別に何もしていないよ。食事だけをして女性隊士とは別れた。
確かに出合茶屋にも誘いは受けたが、しっかり断りを入れて終わりにした。それを酷いと?ずっと思わせぶりな態度で接する方がよほど酷いと思ってな。
ま、朝緋に嫉妬させるためとはいえ、人の気持ちを利用したのは悪いと思っているがな」
……私を嫉妬させるためにわざと食事に行ったと?
杏寿郎さんは嬉しそうに、そして流暢に言葉を紡ぐ。私が聞きたいと思っていた事を聞かずとも話して聞かせてくれた。
聞きたいと思っていた事?ううん、確かに聞きたい事ではあったけれど、同時にそれは悟られたくなかった。
この分だと嫉妬したという事実だけではなく、その気持ちすら杏寿郎さんにはバレているだろうけども。
ええそうよ、嫉妬しましたとも!!白状します!!
けれどそれを認めたからと言って、はいそうですかと、素直になるような私じゃない。
「い、いい加減離してっ!」
掴まれた手首を振り払い、私は鍛錬を終いにした。杏寿郎さんは私の気持ちの変化を、それはもう楽しそうに眺めていた。
ああ、もうだめだ。
かつてジップロックに入れた私の気持ちを、破きぶちまけた杏寿郎さん。今度は鍵をつけた箱に厳重に詰め直して地中深くに埋めたはずのそれを、掘り起こして掘り起こして。
そして鍵をも壊してこじ開け、再び中身をぶちまけられた気分。
自分の感情を抑えるのが難しくなってきている……。
ここにいてはいけない。継子だからとこの炎柱邸に逗留していてはいけない。
そう思うのに体や足には根っこが生えているかのように、ここから一つも動けない。
修行するにも最高の環境を、私は捨てきれなかった。
もちろん、私がここを出ることは杏寿郎さんが絶対に許さないけれどもね。
出ようとしたが最後、閉じ込められかねない。それこそ、槇寿朗さんがかつて私を蔵の中に閉じ込めようとした時のように。いや、あれ以上か。
そうして過ごすうちに、私の階級がとうとう甲に上がった。
鍛錬、任務、たまの休養。その繰り返しが身を結び、柱に継ぐ実力者までのし上がることができたのだ。なんと喜ばしい!
これでまた、肩を並べて戦える。今度こそあの鬼に貴方の命を奪われずに済むかもしれない。いや、奪われてたまるものか。
勿論のこと、ここまでくるのに怪我もたくさんした。泣き言を言う日もあった。杏寿郎さんとぶつかり合う日も。なんてったって、ただの柱と継子じゃなくって、元は家族だものね。好き勝手言い合うこともある。
そして家族以上に近しい関係でもある。
お互い両片思いというのを知っている関係の中、一つ屋根の下で暮らしているのだ。付かず離れずの距離は緊張の連続だった。
手首を掴まれて以来、それがたとえ鍛錬での出来事だろうと決して触れはせずにお互いが気をつけていたけれども。
だけれど。
だけれどだ。私が甲という階級に上がり気持ちに余裕が出た事で、その緊張の薄い膜を杏寿郎さんが壊しにきた。強化硝子で作っていたはずのそれは針で風船を突き破るかのように、ある日突然簡単に割れてしまった。
「朝緋」
非番の日。夕食の準備にと勤しんでいると、厨の入り口から杏寿郎さんが呼びかけてきた。
別に厨の入口に杏寿郎さん立ち入り禁止の線は引かれていない。炎柱邸ではそんなもの引かずとも、杏寿郎さんが料理をすることはないからね。
するりと入ってきて背後に立つ杏寿郎さんに内心どきどきだ。だってすぐ手が届く距離にいるんだもの。緊張するでしょ。
「?なんでしょう、師範。食事はまだ出来上がらないので、貴方の興味が向くものは今は何もありませんが」
「目的は食事じゃない。まあ、興味の向くものはここにあるがな」
「はあ……」
食事以外に興味の湧くものってあるのかな。
ご飯を炊くのに火をつけたばかりで、まだつまみ食いもできないのだから、ほんと用なんてないはずなんだけどなあ。
「朝緋。階級『甲』への昇格おめでとう。……これは上がった時も言ったがな」
「うん?うん、ありがとう……ございます……?」
「これで君の不安事が一つ解消されたな。
朝緋は柱に継ぐ実力の『甲』の階級にずっとなりたかったのだろう?」
「確かにそうですが……。あの、何が言いたいんでしょう?
意図がわからな、」
杏寿郎さんの手が私のお腹に回る。ゼロ距離。
後ろから抱きしめられた。
あ、杏寿郎さんの匂い……。汗と彼自身が放つ香りが、脳を痺れさせてくる。
って違う!
「ちょっと、何を……っ」
「もう触れてもいい頃合いかと思ったのでこうして来たんだ」
抱きすくめて、髪、そしてうなじにと杏寿郎さんが鼻頭をうずめる。
私の気持ちという感情が溶け込んだ匂いを嗅ぎ分けるかのように動かし、鼻でくすぐってこられて肌が粟立った。
「不安事、いや、君の夢が一つ叶ったならば、次は俺との関係を前に進ませよう。君が嫉妬でおかしくなった日に、俺は改めて願ったんだ。君の気持ちが落ち着いた暁には前に進むべく動きたいと。
なあ朝緋。たまには俺の願いを叶えてくれてもいいのではないか?」
「願いって……そこまでおかしくなってませ、っ、ヒぁっーー」
ヌルッ、ちゅく……じゅるるる〜〜〜!!
うなじに舌を這わせ、そして強く激しく吸いつかれた。
背筋に電撃が走る。
「ぁっ、やめ、やめてくださ……っ!嫌っーー!」
「はっ、……君も俺と同じ気持ちを内に秘めているのは知っているんだからな!逃げることは決して許さんぞ!!」
ジタバタともがいて暴れて。でも鬼殺隊士として本気を出しての暴れ方はできなかった。
この体はまだ未通だ。なのに頭と心は既に杏寿郎さんの雄を既に知っている。知りすぎている。
その形も大きさも匂いすらも。
女の部分が反応して雄を欲しがって……奥が疼いてたまらない。
「口では嫌と言いながら、君は本気で俺を拒まない」
ーー見透かされている。
そうだ、私は杏寿郎さんを本気で拒めない。拒絶しようとも体が勝手に喜んで、先を先をと望み始める。
声にもほら、艶が混じり始めて止まらない。
「そ、れは……今、料理中だから下手に動けないだけ、で……っ、んん、」
「いいや、料理中だろうとも本当に嫌なら、君は迷うことなく俺を突き飛ばすなり何なりするはずだ!拒まないのが答えだろう!!」
言いながらちゅるちゅると舐め上げられ、着物の上からだが腹をさすられ。腰がずくん、一際強く疼いた。
杏寿郎さんが撫でるその腹の奥は、女性にとって大切なものがある場所。そんなに大事そうに撫でないで。貴方が欲しくなってきゅうきゅう鳴いてしまうから。
ああだめだいけない。流されてはいけない。
ここはどこだ?厨だ。布団の上でも蕎麦屋の二階でもない。男女がむつみ合う場所じゃない、食事を生産する女の聖域!!場を弁えろ!TPOを考えろ!!
「ッッ!ーー今私が何をしてるのか見て言ってくださいませんか!?そのほとんどを貴方が食べることになる食事を作っていますっ!!」
炎の呼吸を強引に吐き出し、半ば懇願するように叫び言えば。
「………………」
背後からは無言の圧が返ってきた。
こっちはもう既にヘトヘトで、壱ノ型から伍ノ型あたりを連続で放ったような気分だ。鍛錬でだって、ここまで息は切れない。
走りそうになる快感を耐え切った……。けど心臓ばくばくする……。
「退く気はないと、そういうことですか。…………火を消します。少し待ってくださいませんか」
「ああ、逃げぬならいい」
やっと拘束が緩んだ。離れる直前にまた、首筋に強く吸いつかれたが。
嗚呼、体が火照る。