三周目 伍
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この違いはどこからやってくるのだろうとは思うけれど、それからは『前』と違う展開もあり同じ展開もあった。
寒い寒い冬。凍る川の下に潜む鬼を杏寿郎さんと共に倒したり、ちょこっと風邪をひいたり、千寿郎の色変わりの儀を炎柱邸で執り行ったり。
風邪をひいた時はそれはもう大変だった。
主に、私でなく杏寿郎さんがだ。
彼は母親である瑠火さんを病気で亡くしている。私も病に臥したあの姿は見ているからわかるけど、女子が病気で寝込む姿は杏寿郎さんにとって。否、槇寿朗さんやまだ物心ついていなかったはずの千寿郎にとってさえも、トラウマ案件である。
たかが風邪。されど風邪。
私の体の心配をしすぎて、杏寿郎さんの様子は任務に支障が出そうなほどだった。
炎柱ー!しっかりしろー!!
なのに、病人の食事のことなどわからず、適切な看病もできず。
結局は千寿郎を呼んだっけ。聞くところによると、槇寿朗さんも心配していたそうで、千寿郎に大量の林檎を持たせていた。
……あと、残念ながらその千寿郎の日輪刀は、今回も色変わりはしなかった。千寿郎には悪いけれど内心ホッとしている。杏寿郎さんもだ。
この心の内は決して知られてはならないと、杏寿郎さんと固く誓った。
順に蛇柱、霞柱、恋柱も就任が決まった。
もちろん、蛇柱は伊黒さん、霞柱は時透君……年下だから心の中でくらい君付けでいいよね?そして、恋柱は蜜璃だ。
同時に恋柱である蜜璃は伊黒さんと文通もしだしたようで、恋路のほうもなかなか順風満帆といえる。
初々しい恋文のような言葉の羅列を見せられ、甘酸っぱい空気をぶつけられた時は蜜璃が発するラブパワーで滅されるかと思った。
恋をすればするほど強くもなれる恋柱、か。羨ましいな。
文通自体も少し羨ましいとそう言えば、「煉獄さんに貰えばいいじゃない」と返ってきたっけ。それは恥ずかしすぎる。
蜜璃は自分の恋路だけでなく、私の。そして杏寿郎さんの恋路をやたらと気にする。
「朝緋ちゃんのことを好きな恋敵でも現れて二人の仲が進展してくれればいいのに!きゃー!!」
とは、蜜璃の言葉だ。
それを人はフラグという。それに同じ未来を歩んでいるとしたら、そろそろ告白される……。
「朝緋さん!お慕いしております!!」
ほら早速告白された。
蜜璃は一級フラグ建築士なのねぇ。覚えておこう。
この人、『前』にも告白してきたな……。
申し訳ないけれどもその時の事はもう忘れてしまった。だからこの人の名前も階級もわからない。でも顔と水の呼吸使いである事は覚えている。声を聞き顔を見た瞬間、この人だとすぐわかった。
「私の恋人は日輪刀です。愛しいのは鬼の頸……。だから誰ともお付き合いをする気はないです。そんな暇があるならば、より強くなるべく鍛錬します」
これは、少し離れたところから見ている杏寿郎さんにも言いたい言葉だ。どうせ聞いているのでしょう?だからハッキリキッパリと言い切る。
「自分は、鬼の頸を求めただひたすらに狩る、貴女のそんな姿にも惚れています。ただ、気持ちを知っていて欲しかっただけで……」
んお?今回ぐいぐい来ないな。気持ちを伝えたかっただけならよかっ……、
「でもせめて一晩の情けはくれませんか!」
と思ったらぐいぐいきた!
もちろん断った。なかなか退いてはくれなかったけれどもね!?
強くいえば二度はアプローチしてくることもなく、その人とはそこで終わりにできた。
今回は友達になることすら考えないほうがいい。そういう隙を与えてはいけない。
男女間では、否、鬼殺隊という命のやりとりが発生する場では間違いも起きやすいのだから。
***
……朝緋が隊士の一人に好意を向けられていた。
嫉妬の気持ちはこれ以上ないほどに大きかったが、同時に自分がそうして告白をしていたらどうなるのか。朝緋が恋路に対してどういう考えを持つのか。
それがわかったからよしとしたい。
結果的に告白をすっぱり断っていたしな。
しかし、誰とも付き合う気はない。暇があれば鍛錬したい……とは、なんとも色気のない言葉だ。日輪刀や鬼の頸を愛しいと求めるなど、無機物を愛して何になる。
朝緋はどうしてそこまで鬼殺にこだわる?親兄弟が鬼にやられたことが大きいとはいえ何が朝緋を駆り立てる?
などと、柱として思ってはならない事を思ってしまうほどには、朝緋の思いはどこか違和感を感じるものだった。
俺が何を言おうと、押して押してさらに押しても、この隊士と同じ道を歩む事になるのだろう。
いつか俺の気持ちに応えてくれる。そう思っていたが、それは難しいのだろうか……?
俺は君以外、好きになれないというに。
そんな折、一人の女性隊士から好意を向けられた。
前の任務の際、俺に助けられて以来、俺の事が好きらしい。あまり覚えていないが、確かに先日駆けつけた任務先では何名かの隊士が鬼に追い詰められていた気がする。その中にいたのかもな。
歳の頃は朝緋と変わらないであろう女子。
長いまつ毛に、大きな瞳、体型も甘露寺と変わらぬくらい豊満な部類に入る。他の男性隊士が放っておかぬようなおなごだった。
だが、俺の興味は目の前の女子ではなく、朝緋のみ。
「え、炎柱様、好きです、私と恋仲になってくださいませんか……?」
「申し訳ないが君の想いに応える事はできない。恋仲になどなれん」
「恋仲が無理ならどうか、一度で構いません。非番の日にお時間をくださりませんか。思い出として、お食事に出かけたいです」
こうして好意を告げられている間も、どうすれば朝緋が振り向いてくれるかを考えていた。
この隊士のように、朝緋も素直に好意を口にしてくれたなら。俺に抱きついてきてくれたのならどんなに良いだろう。どんなに愛しいだろう。
こんなに愛を伝えているのに、なんとつれない子だ。
その時、宇髄の言葉を思い出した。
押してだめなら引きな。
お前さんが他の女性隊士と仲良くしてる姿を見せつけて、朝緋に嫉妬させるんだよ。俺もよく嫁達に使う手だ。刺激になっていいぜ。
そんな事を言っていたな。
しかし嫁達とは。初めて聞いた時は驚いたが嫁が三人は多すぎやしないか?
ふむ。嫉妬か……果たしてどこまで朝緋が嫉妬してくれるか。
いや、朝緋が俺に少なからず好意を抱いているのは一目瞭然。ただ、うまく隠そうとしているだけで。
……反応してくれなかったら意味がないどころか、目の前の隊士にも物凄く失礼だろうなあ。
いや、背に腹は変えられん。この隊士には悪いが利用させてもらおう。
「うむ!一度くらいならよかろう!!食事くらいなら喜んで行こうではないか!!」
「ありがとうございます!」
そのまま出合茶屋に行きたいという気持ちがひしひしと伝わってくるが、その先は決して望ませはしない。その位置に収まるのは、朝緋でなくてはならない。
「師範は今日非番、でしたよね。昼餉は要らないのですか?どこかへお出かけ……?」
いつもの非番だったなら昼餉に何が食べたいなどの話が飛び交う席で、食事が必要ないことを伝えた。
不思議そうに首を傾ぐ朝緋に向かって、トドメにも似た言葉を放つ。さてどう出る?
「朝緋、俺はこれから女性隊士と食事をしてこようと思う。逢引に合う着物を選んではくれまいか?」
「えっ」
できるだけ楽しみにしているように見えるよう声音を弾ませていえば、朝緋の周りの空気がゆっくりと落ち込んだ。
「……あい、びき……ですか」
「ああそうだ!先日、とある女性隊士から好意を伝えられてな!逢引の約束を取り付けたのだ!!」
女性隊士。逢引。
この言葉で、朝緋の瞳が揺れた。呼吸も明らかに乱れた。ふふ、こんなことで常中を乱すようではまだまだだなぁ。
「……わかりました」
思うところはたくさんあるはずだ。
けれど朝緋は、それをおくびにも出さずに着物を選んでくれた。
他の女に見せるための着物をだ。
俺が朝緋ならば、怒りで着物を切り刻んでいたろう。部屋から一歩も出さんだろうに、この子はよく我慢しているな。
食事を終えたあと、時間を潰してから帰った。時間を潰す際は一人でだ。出合茶屋などに行くわけがない。
だが、朝緋を嫉妬させる作戦はまだ続いている。
食事だけしてきたにしては少し遅い時間に帰れば、その空白時間に何をしてきたのかを勘ぐり、不安に陥って余計に嫉妬することになるそうだ。
これもまた、宇髄の作戦だった。あの男、自分のおなごを嫉妬させるだなんて、碌な事を思いつかんな……いや、今回は助かったが。
「ただいま!!」
炎柱邸に帰れば、口をへの字に引き結んだ朝緋が一心不乱に刀を振っていた。
切った藁を見るとわかるが、太刀筋が乱れている。
「……おかえりなさいませ、炎柱様。
そのお顔、楽しかったようで何よりです。お夕飯も要らないのかと思いました」
顔には出ていないが朝緋の心が嫉妬心で穏やかでないのが、手に取るようにわかる。
言葉には少し棘がまじり、その声の高さもいつもより若干低い。
何より、呼吸が早い。
おそらく心を落ち着かせようとして早くなっているのだ。
うむ、いい感じに怒りも覚えているようだ。
まるでいつもの俺だな。
俺が嫉妬で気が狂う思いをしているのを、これで朝緋も思い知ったろう。少しかわいそうだがな。
君がつれないから、こうするしかなかったのだ。許せ。
まあ、そんなことを思ったところで、全ては推察にすぎないから直接聞く必要があるが。
「夕飯が要らないわけがなかろう?
さて、俺も共に鍛錬しよう!その乱れに乱れた呼吸、きちんと整えられるようにな」
「乱れてなんかいません……ッ!」
俺が射抜くように視線を向ければ、また乱れた。
寒い寒い冬。凍る川の下に潜む鬼を杏寿郎さんと共に倒したり、ちょこっと風邪をひいたり、千寿郎の色変わりの儀を炎柱邸で執り行ったり。
風邪をひいた時はそれはもう大変だった。
主に、私でなく杏寿郎さんがだ。
彼は母親である瑠火さんを病気で亡くしている。私も病に臥したあの姿は見ているからわかるけど、女子が病気で寝込む姿は杏寿郎さんにとって。否、槇寿朗さんやまだ物心ついていなかったはずの千寿郎にとってさえも、トラウマ案件である。
たかが風邪。されど風邪。
私の体の心配をしすぎて、杏寿郎さんの様子は任務に支障が出そうなほどだった。
炎柱ー!しっかりしろー!!
なのに、病人の食事のことなどわからず、適切な看病もできず。
結局は千寿郎を呼んだっけ。聞くところによると、槇寿朗さんも心配していたそうで、千寿郎に大量の林檎を持たせていた。
……あと、残念ながらその千寿郎の日輪刀は、今回も色変わりはしなかった。千寿郎には悪いけれど内心ホッとしている。杏寿郎さんもだ。
この心の内は決して知られてはならないと、杏寿郎さんと固く誓った。
順に蛇柱、霞柱、恋柱も就任が決まった。
もちろん、蛇柱は伊黒さん、霞柱は時透君……年下だから心の中でくらい君付けでいいよね?そして、恋柱は蜜璃だ。
同時に恋柱である蜜璃は伊黒さんと文通もしだしたようで、恋路のほうもなかなか順風満帆といえる。
初々しい恋文のような言葉の羅列を見せられ、甘酸っぱい空気をぶつけられた時は蜜璃が発するラブパワーで滅されるかと思った。
恋をすればするほど強くもなれる恋柱、か。羨ましいな。
文通自体も少し羨ましいとそう言えば、「煉獄さんに貰えばいいじゃない」と返ってきたっけ。それは恥ずかしすぎる。
蜜璃は自分の恋路だけでなく、私の。そして杏寿郎さんの恋路をやたらと気にする。
「朝緋ちゃんのことを好きな恋敵でも現れて二人の仲が進展してくれればいいのに!きゃー!!」
とは、蜜璃の言葉だ。
それを人はフラグという。それに同じ未来を歩んでいるとしたら、そろそろ告白される……。
「朝緋さん!お慕いしております!!」
ほら早速告白された。
蜜璃は一級フラグ建築士なのねぇ。覚えておこう。
この人、『前』にも告白してきたな……。
申し訳ないけれどもその時の事はもう忘れてしまった。だからこの人の名前も階級もわからない。でも顔と水の呼吸使いである事は覚えている。声を聞き顔を見た瞬間、この人だとすぐわかった。
「私の恋人は日輪刀です。愛しいのは鬼の頸……。だから誰ともお付き合いをする気はないです。そんな暇があるならば、より強くなるべく鍛錬します」
これは、少し離れたところから見ている杏寿郎さんにも言いたい言葉だ。どうせ聞いているのでしょう?だからハッキリキッパリと言い切る。
「自分は、鬼の頸を求めただひたすらに狩る、貴女のそんな姿にも惚れています。ただ、気持ちを知っていて欲しかっただけで……」
んお?今回ぐいぐい来ないな。気持ちを伝えたかっただけならよかっ……、
「でもせめて一晩の情けはくれませんか!」
と思ったらぐいぐいきた!
もちろん断った。なかなか退いてはくれなかったけれどもね!?
強くいえば二度はアプローチしてくることもなく、その人とはそこで終わりにできた。
今回は友達になることすら考えないほうがいい。そういう隙を与えてはいけない。
男女間では、否、鬼殺隊という命のやりとりが発生する場では間違いも起きやすいのだから。
***
……朝緋が隊士の一人に好意を向けられていた。
嫉妬の気持ちはこれ以上ないほどに大きかったが、同時に自分がそうして告白をしていたらどうなるのか。朝緋が恋路に対してどういう考えを持つのか。
それがわかったからよしとしたい。
結果的に告白をすっぱり断っていたしな。
しかし、誰とも付き合う気はない。暇があれば鍛錬したい……とは、なんとも色気のない言葉だ。日輪刀や鬼の頸を愛しいと求めるなど、無機物を愛して何になる。
朝緋はどうしてそこまで鬼殺にこだわる?親兄弟が鬼にやられたことが大きいとはいえ何が朝緋を駆り立てる?
などと、柱として思ってはならない事を思ってしまうほどには、朝緋の思いはどこか違和感を感じるものだった。
俺が何を言おうと、押して押してさらに押しても、この隊士と同じ道を歩む事になるのだろう。
いつか俺の気持ちに応えてくれる。そう思っていたが、それは難しいのだろうか……?
俺は君以外、好きになれないというに。
そんな折、一人の女性隊士から好意を向けられた。
前の任務の際、俺に助けられて以来、俺の事が好きらしい。あまり覚えていないが、確かに先日駆けつけた任務先では何名かの隊士が鬼に追い詰められていた気がする。その中にいたのかもな。
歳の頃は朝緋と変わらないであろう女子。
長いまつ毛に、大きな瞳、体型も甘露寺と変わらぬくらい豊満な部類に入る。他の男性隊士が放っておかぬようなおなごだった。
だが、俺の興味は目の前の女子ではなく、朝緋のみ。
「え、炎柱様、好きです、私と恋仲になってくださいませんか……?」
「申し訳ないが君の想いに応える事はできない。恋仲になどなれん」
「恋仲が無理ならどうか、一度で構いません。非番の日にお時間をくださりませんか。思い出として、お食事に出かけたいです」
こうして好意を告げられている間も、どうすれば朝緋が振り向いてくれるかを考えていた。
この隊士のように、朝緋も素直に好意を口にしてくれたなら。俺に抱きついてきてくれたのならどんなに良いだろう。どんなに愛しいだろう。
こんなに愛を伝えているのに、なんとつれない子だ。
その時、宇髄の言葉を思い出した。
押してだめなら引きな。
お前さんが他の女性隊士と仲良くしてる姿を見せつけて、朝緋に嫉妬させるんだよ。俺もよく嫁達に使う手だ。刺激になっていいぜ。
そんな事を言っていたな。
しかし嫁達とは。初めて聞いた時は驚いたが嫁が三人は多すぎやしないか?
ふむ。嫉妬か……果たしてどこまで朝緋が嫉妬してくれるか。
いや、朝緋が俺に少なからず好意を抱いているのは一目瞭然。ただ、うまく隠そうとしているだけで。
……反応してくれなかったら意味がないどころか、目の前の隊士にも物凄く失礼だろうなあ。
いや、背に腹は変えられん。この隊士には悪いが利用させてもらおう。
「うむ!一度くらいならよかろう!!食事くらいなら喜んで行こうではないか!!」
「ありがとうございます!」
そのまま出合茶屋に行きたいという気持ちがひしひしと伝わってくるが、その先は決して望ませはしない。その位置に収まるのは、朝緋でなくてはならない。
「師範は今日非番、でしたよね。昼餉は要らないのですか?どこかへお出かけ……?」
いつもの非番だったなら昼餉に何が食べたいなどの話が飛び交う席で、食事が必要ないことを伝えた。
不思議そうに首を傾ぐ朝緋に向かって、トドメにも似た言葉を放つ。さてどう出る?
「朝緋、俺はこれから女性隊士と食事をしてこようと思う。逢引に合う着物を選んではくれまいか?」
「えっ」
できるだけ楽しみにしているように見えるよう声音を弾ませていえば、朝緋の周りの空気がゆっくりと落ち込んだ。
「……あい、びき……ですか」
「ああそうだ!先日、とある女性隊士から好意を伝えられてな!逢引の約束を取り付けたのだ!!」
女性隊士。逢引。
この言葉で、朝緋の瞳が揺れた。呼吸も明らかに乱れた。ふふ、こんなことで常中を乱すようではまだまだだなぁ。
「……わかりました」
思うところはたくさんあるはずだ。
けれど朝緋は、それをおくびにも出さずに着物を選んでくれた。
他の女に見せるための着物をだ。
俺が朝緋ならば、怒りで着物を切り刻んでいたろう。部屋から一歩も出さんだろうに、この子はよく我慢しているな。
食事を終えたあと、時間を潰してから帰った。時間を潰す際は一人でだ。出合茶屋などに行くわけがない。
だが、朝緋を嫉妬させる作戦はまだ続いている。
食事だけしてきたにしては少し遅い時間に帰れば、その空白時間に何をしてきたのかを勘ぐり、不安に陥って余計に嫉妬することになるそうだ。
これもまた、宇髄の作戦だった。あの男、自分のおなごを嫉妬させるだなんて、碌な事を思いつかんな……いや、今回は助かったが。
「ただいま!!」
炎柱邸に帰れば、口をへの字に引き結んだ朝緋が一心不乱に刀を振っていた。
切った藁を見るとわかるが、太刀筋が乱れている。
「……おかえりなさいませ、炎柱様。
そのお顔、楽しかったようで何よりです。お夕飯も要らないのかと思いました」
顔には出ていないが朝緋の心が嫉妬心で穏やかでないのが、手に取るようにわかる。
言葉には少し棘がまじり、その声の高さもいつもより若干低い。
何より、呼吸が早い。
おそらく心を落ち着かせようとして早くなっているのだ。
うむ、いい感じに怒りも覚えているようだ。
まるでいつもの俺だな。
俺が嫉妬で気が狂う思いをしているのを、これで朝緋も思い知ったろう。少しかわいそうだがな。
君がつれないから、こうするしかなかったのだ。許せ。
まあ、そんなことを思ったところで、全ては推察にすぎないから直接聞く必要があるが。
「夕飯が要らないわけがなかろう?
さて、俺も共に鍛錬しよう!その乱れに乱れた呼吸、きちんと整えられるようにな」
「乱れてなんかいません……ッ!」
俺が射抜くように視線を向ければ、また乱れた。