三周目 伍
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「やあ!俺の継子が世話になったようだな!!」
「煉獄……」
何で、というか『また』迎えに来られてしまった。
杏寿郎さんの腕の中、ちらりとその顔を見やる。視線で気がついた彼からは獰猛な獣の表情を向けられた。
蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまって動けない中、なんとか視線を外して耐え切る。
「音柱殿は今、朝緋に何をしようとした?」
「別に何も。それともやらしーことしようとした、とでも言って欲しいのか?」
宇髄さんが揶揄えば、地の底から這うような声だけではない。獣以上、鬼以上に恐ろしい顔が、彼に向けられた。うわ、視線で人が殺せそう。
鬼舞辻無惨を前にした時もこんな感じなのではないだろうか?と、そう思うほどに恐ろしくて。杏寿郎さんの腕の中、私の体はマナーモード状態に陥ってしまった。
「おお怖。お前そういう顔もできたんだな」
その恐ろしさも跳ね除けるように、宇髄さんは笑い飛ばす。
やはり場数を踏んだ柱は違う。杏寿郎さんのこのおっそろしい顔にも耐性ができるのね。私には無理です。
そんな中で次の瞬間には、杏寿郎さんの腕の中を離れ、私は宇髄さんによって地面に下ろされていた。え、何の感覚もなかったけど?
「あーあ、震えてんじゃねぇか。かわいそうだろ。降ろしてやれよな。……ほれ」
「あ、ありがとうございます……?」
杏寿郎さんですら気が付かなかった。縄抜けの要領かな?あとで教わらなくちゃ。
そのまま宇髄さんの後ろに隠れたら、少しホッとした。今の杏寿郎さんの顔はずっと怖い。すごく怖い。見てるの嫌……。
「なっ!?返してくれ!」
「返すも何もお前のか?
ていうか柱になったばっかのお前。柱歴がお前より長い俺。実力も経験も俺が上だぞ。その手が届くと思ってんのかよ」
「……くっ……」
くるくる回って私を逃す手助けをしてくれる宇髄さん。多分だけど、宇髄さんは私を真に助けたいからというより、杏寿郎さんを揶揄って遊んでいるだけだと思う。にやにやしてるし。
なら、飽きてこない内に逃げなくては。
「朝緋!いつまで柱の影に隠れている!いい加減出てこい!!共に帰るぞ!?」
「嫌です助けて宇髄さん!」
「ははは!助けてだってさ。女子に助けを乞われたら応えないわけにいかねぇな。
どっこらしょ」
なんと肩車された!!たしかにこれなら杏寿郎さんの手はより一層届かなくなる!そう!物理的にね。
目線も高ぁい〜。宇髄さんに肩車してもらった時の視点は、悲鳴嶼さんに抱っこされた時と同じくらいかもしれなかった。
「朝緋、君という子は……!他の者に助けを乞い、挙句太ももで他の男の顔を挟むとは……。俺にどれだけの悋気を覚えさせれば気が済むのだ……?」
「ひぃっ!」
あばばばば!杏寿郎さんの背後に炎虎がみえーる。血管が浮いて青筋立った額や皮膚が末恐ろしい……。
いつまでも宇髄さんの上にいても逃げ場はないし余計に怒りを買うだけ。私はすぐに飛び降りた。
「ほーん。新しい炎柱様は、朝緋のことが大層好きなようだなぁ」
「ああ好きだが!それより朝緋と呼んでいるのか!?馴れ馴れしいな!!」
捕まりそうなのを避け切り、代わりに宇髄さんの腕を充てがう。
「わぁー!!好きなようだな、じゃない!宇髄さん!師範をっ、頼むからそのまましばらく押さえていてください!!報告書は後で追って送りますお疲れ様でしたー!!」
「おー、しばらくな。報告書はそこまで急がなくっていいぞーお疲れ!」
後のことを宇髄さんに任せ、三十六計逃げるに如かずだと、その場から逃走する。
宇髄さんは楽しそうに杏寿郎さんの腕を拘束して協力してくれた。
よーし急いで逃げろー!
といっても、逃げたところであとで継子修行だから顔合わせるんだけどね。
「音柱殿……っいや、宇髄っ!!この手を離してはくれないか!!」
「いいぜ」
「は?」
「なんだよ。離せって言われたから放したんだろうが。朝緋にはしばらくって言われたけどそのしばらくってのがどのくらいか言われてねぇし?
それより愛しの継子を追わなくていいのかよ。炎柱の速さを見せつける時……って、もういねぇ!?
……朝緋以上、いや、ともすれば俺より速くね?鬼殺の時以上の速度が出ていそうだな」
猫にまたたび、煉獄に朝緋ってことか。
だなんて、宇髄さんが走り去る炎の師弟に向かってつぶやいていたなんてこと、私もそして杏寿郎さんも知らない。
かなりの距離を全速力で走った。
今は町外れの川にかかる橋。その下の影に隠れて休憩中だ。夜だからだーれもいない。鬼の気配も……うん、ないね。って、そうそう鬼の気配なんてあってたまりますか。
「ここまで来ればなんとか撒けた、よね。宇髄さんがどのくらい足止めしてくれてるかにもよるけど。
お世話になってる藤の家いこ……」
一呼吸置いて今現在滞在している藤の家を目指す。その方角は住もうとして杏寿郎さんに却下された長屋と同じで。ついつい思い出しては恨み言を吐いてしまう。
「あの長屋、住みたかったなぁ……好立地、好条件の場所だったのに。ああもう、杏寿郎さんのせいだ」
「俺が何かしたか?」
ぬっ。
橋の上から煉獄杏寿郎。
「ぎょわーーっ!?」
心臓がまろび出るかと思った!
「声が大きいな!夜中だぞ!!」
「いや、だって、ええー!なんでここがわかったの!?あずま!あずまがまたスパイを!?
それとも袖口に発信機でも付けた!?ここ体が子供で頭脳が大人の探偵の世界と違うけどね!!」
私は明槻と違ってそこまでヲタクじゃないけれど、国民的アニメのことくらいは知っている。あの設定でこの大正時代が進んでたら、絶対杏寿郎さんも発信機で追ってきてると思うんだぁ。何それ嫌だわ。
「朝緋が何を言っているのかわからない!あずまに聞いてもいないし俺はただ君の気配を追っただけだな!」
わははと彼が笑っている内にと、継子パワーと持ち前の逃げ足でトンズラしようとしたけれど、やっぱりだめだった。相手は柱だし私よりも速い。
簡単に捕まって捻り上げられてしまった。
「ぅぐえ……っ」
「朝緋……俺は任務後に迎えに行っただけなのに逃げるとは酷いぞ。しかも宇髄とあんなに仲良く……。
藤の家でもあのように他の男と仲良くしているのではと思うと、腸が煮えそうだ」
拘束の仕方が、『前』の時に生家を出る前の槇寿朗さんと一緒だ。それも、力は槇寿朗さんにやられた時よりも強くって息がしにくい。呼吸が乱れて力が出ない!
「継子でもあるのだから、やはり君は俺と住むべきだ。俺と住もう、朝緋」
うわ最後ー!どこぞの鬼と誘い方が似てる!
私にとっての史上最悪の鬼を思い出したおかげか、思い切り酸素を吸い込めて呼吸が戻ってきた。声が出せる。
「わ、……私は一緒に住みませんっ!
継子だからって一緒に住んだりしなくたっていいでしょ!
柱と継子特権でどうせこれから任務も一緒になること多いんですよ!普段から一緒にいなくたっていいです!貞操の危機も感じる!!」
杏寿郎さんだって今夜、任務で鬼を斬ってきた後のはず。鬼殺後で興奮した獰猛な目が物語っていたもの。
あの目はこれ以上向けられたくない。
それに杏寿郎さんが私に向ける感情や欲と同じで私にもそういった欲はあるし、心の奥に隠す杏寿郎さんへの気持ちがある。なら共にいたらいつか間違いを起こしてしまう。
それは今かもしれないし、明日かもしれない。
「これまで任務後に俺を煙にすぐ撒いてきた君が言うな!任務でも一緒にいられる時間が少なすぎる!!稽古をつける際もそうだ!稽古が終わるといつのまにか消えている!!これは師と継子の関係といえるのだろうか!?
あと俺を節操のない獣扱いしないでくれ!!」
「これまであれだけ迫ってきといて何言ってんの!獣扱いの一つや二つするわ!!」
「大体今までは共に住んでいたろう!寝所も共にした!思春期か君は!!」
「寝所を共にって、言い方ぁー!!一緒に住んでたのは家族だからだし!一緒に寝てたのも幼かったからだし!!
思春期!ええそうですね思春期ですよ!!」
誰もいないし誰も通ることもない場所、しかも真夜中だからと、ヒートアップする私達。なんだか最近、こういうやりとりばかりな気がする。
「もういい!俺は君に修行をつけたりしない!継子解消だ!
君は自分の力で強くなるといい!ただし俺の邪魔が入っても修行が続けられるのならな!!やれるものならやってみろ!!」
炎柱職権濫用の巻。
「えっ何それわけがわからないしずるくない!?
継子解消だけじゃなくって、私の鍛錬の邪魔してくるの?炎柱ともあろう御方が??」
「する!!いや。してみせよう!!」
この人はすると言ったらする男だ。柱だからと忙しかろうとだ。
どんな手を使っても私をただの弱い女にしてくる。弱くなるのはごめんなのに。
早く、階級を『甲』まであげたいのに。
「ていうか解消するならするで、拘束を解いて離してください!」
「それは嫌だ!!」
「ああああもうーーっ」
そりゃあね、いろんなメリットを考えると確かに炎柱邸に住んだ方がいいのはわかってるよ。あそこは勝手知ったる、という場所でもあるし。
メリットとデメリットを瞬時に判断しようとするこの癖、なんとかしたい。杏寿郎さんを、ううん。うちの炎柱達を見習いすぎた……。
はぁ、そうね。危なくなったら、逃げるなりなんなりすればいいか。
杏寿郎さんだって無理やり、なんて真似しないだろうし。……多分。
「わかった!わかりましたよ!炎柱邸に住みます。住まわせていただきますとも!
住みますから手を退けてください。そんなに捻り上げられると痛いです!!」
「本当だろうな……?」
「降参ですよ、師範。約束破ったら針千本飲むでもなんでもします」
「『なんでも』だな。ならよかろう」
あっ。なんかやばいこと言ったかも。いや、今は忘れよう。忘れたい……。
「ね、よかろうとかいうなら、手首を離してくれません?折れちゃう折れちゃうイダダダダ!」
「首輪で繋いで引いていきたいくらいだ!手首なだけましだろう!!」
杏寿郎さんはそう言って笑うだけだった。
ちなみに手首は捻挫した。
「煉獄……」
何で、というか『また』迎えに来られてしまった。
杏寿郎さんの腕の中、ちらりとその顔を見やる。視線で気がついた彼からは獰猛な獣の表情を向けられた。
蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまって動けない中、なんとか視線を外して耐え切る。
「音柱殿は今、朝緋に何をしようとした?」
「別に何も。それともやらしーことしようとした、とでも言って欲しいのか?」
宇髄さんが揶揄えば、地の底から這うような声だけではない。獣以上、鬼以上に恐ろしい顔が、彼に向けられた。うわ、視線で人が殺せそう。
鬼舞辻無惨を前にした時もこんな感じなのではないだろうか?と、そう思うほどに恐ろしくて。杏寿郎さんの腕の中、私の体はマナーモード状態に陥ってしまった。
「おお怖。お前そういう顔もできたんだな」
その恐ろしさも跳ね除けるように、宇髄さんは笑い飛ばす。
やはり場数を踏んだ柱は違う。杏寿郎さんのこのおっそろしい顔にも耐性ができるのね。私には無理です。
そんな中で次の瞬間には、杏寿郎さんの腕の中を離れ、私は宇髄さんによって地面に下ろされていた。え、何の感覚もなかったけど?
「あーあ、震えてんじゃねぇか。かわいそうだろ。降ろしてやれよな。……ほれ」
「あ、ありがとうございます……?」
杏寿郎さんですら気が付かなかった。縄抜けの要領かな?あとで教わらなくちゃ。
そのまま宇髄さんの後ろに隠れたら、少しホッとした。今の杏寿郎さんの顔はずっと怖い。すごく怖い。見てるの嫌……。
「なっ!?返してくれ!」
「返すも何もお前のか?
ていうか柱になったばっかのお前。柱歴がお前より長い俺。実力も経験も俺が上だぞ。その手が届くと思ってんのかよ」
「……くっ……」
くるくる回って私を逃す手助けをしてくれる宇髄さん。多分だけど、宇髄さんは私を真に助けたいからというより、杏寿郎さんを揶揄って遊んでいるだけだと思う。にやにやしてるし。
なら、飽きてこない内に逃げなくては。
「朝緋!いつまで柱の影に隠れている!いい加減出てこい!!共に帰るぞ!?」
「嫌です助けて宇髄さん!」
「ははは!助けてだってさ。女子に助けを乞われたら応えないわけにいかねぇな。
どっこらしょ」
なんと肩車された!!たしかにこれなら杏寿郎さんの手はより一層届かなくなる!そう!物理的にね。
目線も高ぁい〜。宇髄さんに肩車してもらった時の視点は、悲鳴嶼さんに抱っこされた時と同じくらいかもしれなかった。
「朝緋、君という子は……!他の者に助けを乞い、挙句太ももで他の男の顔を挟むとは……。俺にどれだけの悋気を覚えさせれば気が済むのだ……?」
「ひぃっ!」
あばばばば!杏寿郎さんの背後に炎虎がみえーる。血管が浮いて青筋立った額や皮膚が末恐ろしい……。
いつまでも宇髄さんの上にいても逃げ場はないし余計に怒りを買うだけ。私はすぐに飛び降りた。
「ほーん。新しい炎柱様は、朝緋のことが大層好きなようだなぁ」
「ああ好きだが!それより朝緋と呼んでいるのか!?馴れ馴れしいな!!」
捕まりそうなのを避け切り、代わりに宇髄さんの腕を充てがう。
「わぁー!!好きなようだな、じゃない!宇髄さん!師範をっ、頼むからそのまましばらく押さえていてください!!報告書は後で追って送りますお疲れ様でしたー!!」
「おー、しばらくな。報告書はそこまで急がなくっていいぞーお疲れ!」
後のことを宇髄さんに任せ、三十六計逃げるに如かずだと、その場から逃走する。
宇髄さんは楽しそうに杏寿郎さんの腕を拘束して協力してくれた。
よーし急いで逃げろー!
といっても、逃げたところであとで継子修行だから顔合わせるんだけどね。
「音柱殿……っいや、宇髄っ!!この手を離してはくれないか!!」
「いいぜ」
「は?」
「なんだよ。離せって言われたから放したんだろうが。朝緋にはしばらくって言われたけどそのしばらくってのがどのくらいか言われてねぇし?
それより愛しの継子を追わなくていいのかよ。炎柱の速さを見せつける時……って、もういねぇ!?
……朝緋以上、いや、ともすれば俺より速くね?鬼殺の時以上の速度が出ていそうだな」
猫にまたたび、煉獄に朝緋ってことか。
だなんて、宇髄さんが走り去る炎の師弟に向かってつぶやいていたなんてこと、私もそして杏寿郎さんも知らない。
かなりの距離を全速力で走った。
今は町外れの川にかかる橋。その下の影に隠れて休憩中だ。夜だからだーれもいない。鬼の気配も……うん、ないね。って、そうそう鬼の気配なんてあってたまりますか。
「ここまで来ればなんとか撒けた、よね。宇髄さんがどのくらい足止めしてくれてるかにもよるけど。
お世話になってる藤の家いこ……」
一呼吸置いて今現在滞在している藤の家を目指す。その方角は住もうとして杏寿郎さんに却下された長屋と同じで。ついつい思い出しては恨み言を吐いてしまう。
「あの長屋、住みたかったなぁ……好立地、好条件の場所だったのに。ああもう、杏寿郎さんのせいだ」
「俺が何かしたか?」
ぬっ。
橋の上から煉獄杏寿郎。
「ぎょわーーっ!?」
心臓がまろび出るかと思った!
「声が大きいな!夜中だぞ!!」
「いや、だって、ええー!なんでここがわかったの!?あずま!あずまがまたスパイを!?
それとも袖口に発信機でも付けた!?ここ体が子供で頭脳が大人の探偵の世界と違うけどね!!」
私は明槻と違ってそこまでヲタクじゃないけれど、国民的アニメのことくらいは知っている。あの設定でこの大正時代が進んでたら、絶対杏寿郎さんも発信機で追ってきてると思うんだぁ。何それ嫌だわ。
「朝緋が何を言っているのかわからない!あずまに聞いてもいないし俺はただ君の気配を追っただけだな!」
わははと彼が笑っている内にと、継子パワーと持ち前の逃げ足でトンズラしようとしたけれど、やっぱりだめだった。相手は柱だし私よりも速い。
簡単に捕まって捻り上げられてしまった。
「ぅぐえ……っ」
「朝緋……俺は任務後に迎えに行っただけなのに逃げるとは酷いぞ。しかも宇髄とあんなに仲良く……。
藤の家でもあのように他の男と仲良くしているのではと思うと、腸が煮えそうだ」
拘束の仕方が、『前』の時に生家を出る前の槇寿朗さんと一緒だ。それも、力は槇寿朗さんにやられた時よりも強くって息がしにくい。呼吸が乱れて力が出ない!
「継子でもあるのだから、やはり君は俺と住むべきだ。俺と住もう、朝緋」
うわ最後ー!どこぞの鬼と誘い方が似てる!
私にとっての史上最悪の鬼を思い出したおかげか、思い切り酸素を吸い込めて呼吸が戻ってきた。声が出せる。
「わ、……私は一緒に住みませんっ!
継子だからって一緒に住んだりしなくたっていいでしょ!
柱と継子特権でどうせこれから任務も一緒になること多いんですよ!普段から一緒にいなくたっていいです!貞操の危機も感じる!!」
杏寿郎さんだって今夜、任務で鬼を斬ってきた後のはず。鬼殺後で興奮した獰猛な目が物語っていたもの。
あの目はこれ以上向けられたくない。
それに杏寿郎さんが私に向ける感情や欲と同じで私にもそういった欲はあるし、心の奥に隠す杏寿郎さんへの気持ちがある。なら共にいたらいつか間違いを起こしてしまう。
それは今かもしれないし、明日かもしれない。
「これまで任務後に俺を煙にすぐ撒いてきた君が言うな!任務でも一緒にいられる時間が少なすぎる!!稽古をつける際もそうだ!稽古が終わるといつのまにか消えている!!これは師と継子の関係といえるのだろうか!?
あと俺を節操のない獣扱いしないでくれ!!」
「これまであれだけ迫ってきといて何言ってんの!獣扱いの一つや二つするわ!!」
「大体今までは共に住んでいたろう!寝所も共にした!思春期か君は!!」
「寝所を共にって、言い方ぁー!!一緒に住んでたのは家族だからだし!一緒に寝てたのも幼かったからだし!!
思春期!ええそうですね思春期ですよ!!」
誰もいないし誰も通ることもない場所、しかも真夜中だからと、ヒートアップする私達。なんだか最近、こういうやりとりばかりな気がする。
「もういい!俺は君に修行をつけたりしない!継子解消だ!
君は自分の力で強くなるといい!ただし俺の邪魔が入っても修行が続けられるのならな!!やれるものならやってみろ!!」
炎柱職権濫用の巻。
「えっ何それわけがわからないしずるくない!?
継子解消だけじゃなくって、私の鍛錬の邪魔してくるの?炎柱ともあろう御方が??」
「する!!いや。してみせよう!!」
この人はすると言ったらする男だ。柱だからと忙しかろうとだ。
どんな手を使っても私をただの弱い女にしてくる。弱くなるのはごめんなのに。
早く、階級を『甲』まであげたいのに。
「ていうか解消するならするで、拘束を解いて離してください!」
「それは嫌だ!!」
「ああああもうーーっ」
そりゃあね、いろんなメリットを考えると確かに炎柱邸に住んだ方がいいのはわかってるよ。あそこは勝手知ったる、という場所でもあるし。
メリットとデメリットを瞬時に判断しようとするこの癖、なんとかしたい。杏寿郎さんを、ううん。うちの炎柱達を見習いすぎた……。
はぁ、そうね。危なくなったら、逃げるなりなんなりすればいいか。
杏寿郎さんだって無理やり、なんて真似しないだろうし。……多分。
「わかった!わかりましたよ!炎柱邸に住みます。住まわせていただきますとも!
住みますから手を退けてください。そんなに捻り上げられると痛いです!!」
「本当だろうな……?」
「降参ですよ、師範。約束破ったら針千本飲むでもなんでもします」
「『なんでも』だな。ならよかろう」
あっ。なんかやばいこと言ったかも。いや、今は忘れよう。忘れたい……。
「ね、よかろうとかいうなら、手首を離してくれません?折れちゃう折れちゃうイダダダダ!」
「首輪で繋いで引いていきたいくらいだ!手首なだけましだろう!!」
杏寿郎さんはそう言って笑うだけだった。
ちなみに手首は捻挫した。