三周目 伍
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「ん……」
気がついたら自分の部屋だった。……もしかして少し寝てた?寝てたよね?ね!?
けれど鎹烏のあずまはこっちを見ない。それが答えだ。
あああ泣き疲れて眠るとか、ありえない……!ってことは杏寿郎さんにその一部始終を見られたってことじゃないの。恥ずかしい!穴があったら入りたい!
穴なんて近くにないから座布団の下に顔を潜り込ませてみた。……わあ落ち着くぅ。
暗闇に入ったことで初めて聴覚が研ぎ澄まされ、外の音がよく聞こえるようになった。
杏寿郎さんと千寿郎が打ち稽古してる声が聞こえる。
そういえば『前』は、泣く千寿郎と抱き合っている杏寿郎さんを目撃したあと、二人が打ち稽古してるところに乱入したっけ。
今の強さとはどのくらいの差があるのだろう?あの時は胴と頭に攻撃を受けた。
そしてそのあとに継子にしてほしいと頼もうとしたんだけれど、杏寿郎さんに任務が入ってしまい羽織を纏う姿に見惚れすぎて……言うの忘れちゃったんだった。
今こそ言うべき時!!さっき泣き顔いっぱい見られちゃって少し恥ずかしいけれど、気にしなければどうということはない。
プライベートも鬼殺も、切り替えの速さは大事だ。
「あの……」
「む。起きたか朝緋!おはよう!いや、時間的にはこんにちは、だな!!」
うわああその笑顔が眩しい!滅される……!ん゛んっ!
継子の話もするのなら、ここは杏寿郎兄さんではなく師範と呼ぶべきね。
「師範、先程は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
「うむ……あのように父上に楯突く姿は初めて見るな。まさか父上にク……、」
「クソオヤジ?」
「そうだ。そんな言葉をぶつけるなど。君こそ言葉の暴力がすごかったな!」
「ごめんなさい……」
言葉の暴力を私自らが使ってしまって叱られるかと思ったけれど、怒っては……いないみたい。わははと笑い飛ばしている。
「次に気をつければ良いだけのことだ!
それより何か用があったのだろう?君も鍛錬か?千寿郎も入れて三人でやろう!!」
「それもいいですが、お話があって」
千寿郎には少し待ってもらい、私は杏寿郎さんの足元に座する形をとってお願いした。土下座にも近い。
「私を正式な継子にしてください。これまでは形式上、父様……炎柱であった煉獄槇寿朗を師として仰ぎ鍛錬してきました。ですが貴方が柱となった今、私は炎柱・煉獄杏寿郎様の継子として修行を積みたく思います」
「なんだなんだ!そんな姿勢を取るほどのことでもあるまい!言葉が堅いな!
それに君は元から俺の継子だったと思っていたが……?」
「それでもです。改めてお願いをしにきました。炎柱、私を鍛えてください。もっと強くなりとうございます」
真っ直ぐ見つめる私の瞳の奥。闘志や鬼への殺意、燃える熱き心を見たか、杏寿郎さんはしっかりと頷き返してくれた。
「うむ!了解した!修行の際には炎柱邸にくるといい!」
「はい!!」
「では三人で鍛錬しよう!朝緋の強さも見たい!千寿郎もおいで!!
俺が鬼役だ!!」
その後千寿郎と共に立ち向かった杏寿郎さんの鬼役は、竹刀まで使うタイプの鬼だったのでそれはもう強かった。
さすが柱……。
『前』と同じでボッコボコに伸されました。
しかも私だけである。だから私の体は形状記憶ではないとあれほど……!
言っても意味はない。
言っても意味はないのは槇寿朗さんも同じ。
だけど立つ鳥跡を濁さず……ではなく、濁しまくって掻き乱そうと私はこの家を出る前に槇寿朗さんときちんと話をつける事にした。
出る前、というのは任務に行く前にという意味ではない。この煉獄家を出て外で暮らすと言う意味だ。
『前』とも同じ時期だし独り立ちするにはちょうど良い。このままいたら、釣り書きの餌食になりそうだしね。
ちなみに千寿郎にはもう話はしてある。寂しそうな表情には良心がちょっぴり痛んだ。
「父様。入りますよ」
今度は断りを入れて槇寿朗さんの部屋に入る。
彼は珍しく机に向かってしっかりと座っていた。その近くに酒瓶はなくて少し安心する。
「泣き止んだのか、癇癪持ちの泣き虫娘め」
こちらを見ずに言う。その目は机の上に置かれた、炎柱の書に向けられていた。
「……おかげさまで。
父様。数々の暴言、申し訳ございませんでした。その、クソオヤジ……などと…………」
「別にいい。俺の方こそクソ餓鬼と呼んでしまったからな。
で?まだ何か用があるのか?杏寿郎はどうした」
「杏寿郎兄さんは、」
ううん。ここはもう、継子にしていただいたのだから師範という言葉を使う。
「師範は任務に向かわれました」
「『師範』?お前はあいつを師範と、そう呼んでいたか?」
ああやはり食いついた。
「前から呼ぶことも多々ありましたが、今回改めて杏寿郎兄さんの継子にしていただきました」
「つ、継子……っ!鬼殺隊を辞めろと何度も言ったはずだ。なのに、継子……。
そんなものになったところで、大した者にはなれん。なぜわからない」
「そうですね。私は大した者になれぬでしょう。自分でわかっています」
今後何度も幼少期からやり直したとしても、才のない私には成功の道なんてないはずだ。だってこんなに弱いんだもの。
「でも師範は違う。
父様は師範に対しても同じことを。そして、くだらない、どうでもいい、価値がない等とも言いましたね。
改めて言います。師範はすでに柱。その大した存在になっていますし、くだらなくなんかありません。価値がないわけはありません。あの人はいつだって価値ある行いをしてきた。人を助けてきた。努力してきた。努力の末に鬼殺隊を担う柱になった。
もちろん贔屓目もあるだろうけれど、妹として、一隊士として、そして継子として……師範が一番、鬼狩りとしての誇りに溢れている。これ以上ないってくらいに、強い思いを一番に抱いている。私はそう思っています」
鬼に家族や大切な者を奪われた経験こそなくとも、覚悟も気概も何もかも、彼ら同様の思いを。誇りを胸に頑張ってきた。
「だから、父親であるあなたが師範を褒めてくれないのも、認めてくれないのも、労ってくれないのも全部全部が悲しい。
私のことはいいから、少しでも優しい言葉をかけてください。父親である貴方からの言葉こそ、あの人には必要なんですよ」
父親という言葉ではじめて、槇寿朗さんがこちらを向いた。
「鬼殺隊にいる事。それ即ち、いつ死んでもおかしくないという事。死んでしまってからでは遅いのです。
あの時ああしていれば。こうしておけば。私はそう思いたくない」
もう二度と思いたくない。
「死を軽々しく口にするな!」
「軽々しくなんて言ってない!!私は万が一を考えているだけで……っ」
何か投げつけられた。槇寿朗さんの手元の炎柱の書……、ではない。蛇腹折のこれは。
「あの時お前が蹴り飛ばした釣り書きの続きだ」
「えっまだあったのですか!」
「他にも来ているからまだある。
朝緋、お前を気に入ってくれた者からの文と釣り書きだ。
中には藤の家紋の家も含まれている。そこなら稀血のお前も安心だ。まず確実に藤に囲まれているからな。
お前は大人しく鬼殺隊を辞めて嫁ぎ、戦いと無縁の場所で暮らした方がいい」
ああ、なんてありがたい申し出。
私なんかを気に入ってくれた人が相手なら幸せだろう。藤に囲まれて稀血の心配もせずに済む。もう、戦わなくて済む。……でも。
「申し訳ありません、私は鬼殺隊でやらなくちゃいけない使命があります。他の誰でもない、私がすべきことです。
だから辞めない。私は戦いに身を置きます」
それに、杏寿郎さんがそれを許すとは思えない。執着……とまでいかないけれど、杏寿郎さんの感情が私に向いている以上他の人と夫婦になるのはむずかしかろう。
突っ込みは入らなかったものの、嫁ぎ先という言葉を聞いた時の声は恐ろしかった。
「はあ……。お前如きが鬼殺隊にいたところで何にもならんというに。劣化した炎の呼吸では鬼の首領の頸などとれやしない」
「炎の呼吸を劣化した呼吸だなんて、父様ひどすぎま、」
「こんなことになるのなら、お前を拾わなきゃよかったかもしれないな。せめてうちではない他の家に預けて……」
「…………それが父様の本心、なんですね」
本人からしたら失言だったのだろう。ハッとしていた。けれど激昂して言ってしまった言葉とは違う。私には心からの言葉に感じた。
「……違う!俺は……お前のことを本当の娘として、」
「いいんです。どうせ出ていくつもりでしたから」
「でっ、出ていくだと!?」
「煉獄朝緋、これよりこの生家、煉獄家を出て他の場所から鬼殺に向かうことにいたします。
長い間お世話になりました」
別れの言葉を前にして絶句していた。
返事は待たず、部屋を退室する。そのまま用意していた荷物を抱えて家を出ていった。
どちらにせよ『前』と同じだった。
私は同じ話を繰り返してきた。
槇寿朗さんは、何度言えばわかってくれるんだろう。なんて言えばいいのだろう。どうしたら立ち直って話が通じる父親に戻ってくれたのだろう。
瑠火さん……私じゃ槇寿朗さんを立ち上がらせることができないんだと思う……。貴女じゃなきゃ、だめなんだよ。
こうしてまた、煉獄家から逃げる私を許してください。
気がついたら自分の部屋だった。……もしかして少し寝てた?寝てたよね?ね!?
けれど鎹烏のあずまはこっちを見ない。それが答えだ。
あああ泣き疲れて眠るとか、ありえない……!ってことは杏寿郎さんにその一部始終を見られたってことじゃないの。恥ずかしい!穴があったら入りたい!
穴なんて近くにないから座布団の下に顔を潜り込ませてみた。……わあ落ち着くぅ。
暗闇に入ったことで初めて聴覚が研ぎ澄まされ、外の音がよく聞こえるようになった。
杏寿郎さんと千寿郎が打ち稽古してる声が聞こえる。
そういえば『前』は、泣く千寿郎と抱き合っている杏寿郎さんを目撃したあと、二人が打ち稽古してるところに乱入したっけ。
今の強さとはどのくらいの差があるのだろう?あの時は胴と頭に攻撃を受けた。
そしてそのあとに継子にしてほしいと頼もうとしたんだけれど、杏寿郎さんに任務が入ってしまい羽織を纏う姿に見惚れすぎて……言うの忘れちゃったんだった。
今こそ言うべき時!!さっき泣き顔いっぱい見られちゃって少し恥ずかしいけれど、気にしなければどうということはない。
プライベートも鬼殺も、切り替えの速さは大事だ。
「あの……」
「む。起きたか朝緋!おはよう!いや、時間的にはこんにちは、だな!!」
うわああその笑顔が眩しい!滅される……!ん゛んっ!
継子の話もするのなら、ここは杏寿郎兄さんではなく師範と呼ぶべきね。
「師範、先程は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
「うむ……あのように父上に楯突く姿は初めて見るな。まさか父上にク……、」
「クソオヤジ?」
「そうだ。そんな言葉をぶつけるなど。君こそ言葉の暴力がすごかったな!」
「ごめんなさい……」
言葉の暴力を私自らが使ってしまって叱られるかと思ったけれど、怒っては……いないみたい。わははと笑い飛ばしている。
「次に気をつければ良いだけのことだ!
それより何か用があったのだろう?君も鍛錬か?千寿郎も入れて三人でやろう!!」
「それもいいですが、お話があって」
千寿郎には少し待ってもらい、私は杏寿郎さんの足元に座する形をとってお願いした。土下座にも近い。
「私を正式な継子にしてください。これまでは形式上、父様……炎柱であった煉獄槇寿朗を師として仰ぎ鍛錬してきました。ですが貴方が柱となった今、私は炎柱・煉獄杏寿郎様の継子として修行を積みたく思います」
「なんだなんだ!そんな姿勢を取るほどのことでもあるまい!言葉が堅いな!
それに君は元から俺の継子だったと思っていたが……?」
「それでもです。改めてお願いをしにきました。炎柱、私を鍛えてください。もっと強くなりとうございます」
真っ直ぐ見つめる私の瞳の奥。闘志や鬼への殺意、燃える熱き心を見たか、杏寿郎さんはしっかりと頷き返してくれた。
「うむ!了解した!修行の際には炎柱邸にくるといい!」
「はい!!」
「では三人で鍛錬しよう!朝緋の強さも見たい!千寿郎もおいで!!
俺が鬼役だ!!」
その後千寿郎と共に立ち向かった杏寿郎さんの鬼役は、竹刀まで使うタイプの鬼だったのでそれはもう強かった。
さすが柱……。
『前』と同じでボッコボコに伸されました。
しかも私だけである。だから私の体は形状記憶ではないとあれほど……!
言っても意味はない。
言っても意味はないのは槇寿朗さんも同じ。
だけど立つ鳥跡を濁さず……ではなく、濁しまくって掻き乱そうと私はこの家を出る前に槇寿朗さんときちんと話をつける事にした。
出る前、というのは任務に行く前にという意味ではない。この煉獄家を出て外で暮らすと言う意味だ。
『前』とも同じ時期だし独り立ちするにはちょうど良い。このままいたら、釣り書きの餌食になりそうだしね。
ちなみに千寿郎にはもう話はしてある。寂しそうな表情には良心がちょっぴり痛んだ。
「父様。入りますよ」
今度は断りを入れて槇寿朗さんの部屋に入る。
彼は珍しく机に向かってしっかりと座っていた。その近くに酒瓶はなくて少し安心する。
「泣き止んだのか、癇癪持ちの泣き虫娘め」
こちらを見ずに言う。その目は机の上に置かれた、炎柱の書に向けられていた。
「……おかげさまで。
父様。数々の暴言、申し訳ございませんでした。その、クソオヤジ……などと…………」
「別にいい。俺の方こそクソ餓鬼と呼んでしまったからな。
で?まだ何か用があるのか?杏寿郎はどうした」
「杏寿郎兄さんは、」
ううん。ここはもう、継子にしていただいたのだから師範という言葉を使う。
「師範は任務に向かわれました」
「『師範』?お前はあいつを師範と、そう呼んでいたか?」
ああやはり食いついた。
「前から呼ぶことも多々ありましたが、今回改めて杏寿郎兄さんの継子にしていただきました」
「つ、継子……っ!鬼殺隊を辞めろと何度も言ったはずだ。なのに、継子……。
そんなものになったところで、大した者にはなれん。なぜわからない」
「そうですね。私は大した者になれぬでしょう。自分でわかっています」
今後何度も幼少期からやり直したとしても、才のない私には成功の道なんてないはずだ。だってこんなに弱いんだもの。
「でも師範は違う。
父様は師範に対しても同じことを。そして、くだらない、どうでもいい、価値がない等とも言いましたね。
改めて言います。師範はすでに柱。その大した存在になっていますし、くだらなくなんかありません。価値がないわけはありません。あの人はいつだって価値ある行いをしてきた。人を助けてきた。努力してきた。努力の末に鬼殺隊を担う柱になった。
もちろん贔屓目もあるだろうけれど、妹として、一隊士として、そして継子として……師範が一番、鬼狩りとしての誇りに溢れている。これ以上ないってくらいに、強い思いを一番に抱いている。私はそう思っています」
鬼に家族や大切な者を奪われた経験こそなくとも、覚悟も気概も何もかも、彼ら同様の思いを。誇りを胸に頑張ってきた。
「だから、父親であるあなたが師範を褒めてくれないのも、認めてくれないのも、労ってくれないのも全部全部が悲しい。
私のことはいいから、少しでも優しい言葉をかけてください。父親である貴方からの言葉こそ、あの人には必要なんですよ」
父親という言葉ではじめて、槇寿朗さんがこちらを向いた。
「鬼殺隊にいる事。それ即ち、いつ死んでもおかしくないという事。死んでしまってからでは遅いのです。
あの時ああしていれば。こうしておけば。私はそう思いたくない」
もう二度と思いたくない。
「死を軽々しく口にするな!」
「軽々しくなんて言ってない!!私は万が一を考えているだけで……っ」
何か投げつけられた。槇寿朗さんの手元の炎柱の書……、ではない。蛇腹折のこれは。
「あの時お前が蹴り飛ばした釣り書きの続きだ」
「えっまだあったのですか!」
「他にも来ているからまだある。
朝緋、お前を気に入ってくれた者からの文と釣り書きだ。
中には藤の家紋の家も含まれている。そこなら稀血のお前も安心だ。まず確実に藤に囲まれているからな。
お前は大人しく鬼殺隊を辞めて嫁ぎ、戦いと無縁の場所で暮らした方がいい」
ああ、なんてありがたい申し出。
私なんかを気に入ってくれた人が相手なら幸せだろう。藤に囲まれて稀血の心配もせずに済む。もう、戦わなくて済む。……でも。
「申し訳ありません、私は鬼殺隊でやらなくちゃいけない使命があります。他の誰でもない、私がすべきことです。
だから辞めない。私は戦いに身を置きます」
それに、杏寿郎さんがそれを許すとは思えない。執着……とまでいかないけれど、杏寿郎さんの感情が私に向いている以上他の人と夫婦になるのはむずかしかろう。
突っ込みは入らなかったものの、嫁ぎ先という言葉を聞いた時の声は恐ろしかった。
「はあ……。お前如きが鬼殺隊にいたところで何にもならんというに。劣化した炎の呼吸では鬼の首領の頸などとれやしない」
「炎の呼吸を劣化した呼吸だなんて、父様ひどすぎま、」
「こんなことになるのなら、お前を拾わなきゃよかったかもしれないな。せめてうちではない他の家に預けて……」
「…………それが父様の本心、なんですね」
本人からしたら失言だったのだろう。ハッとしていた。けれど激昂して言ってしまった言葉とは違う。私には心からの言葉に感じた。
「……違う!俺は……お前のことを本当の娘として、」
「いいんです。どうせ出ていくつもりでしたから」
「でっ、出ていくだと!?」
「煉獄朝緋、これよりこの生家、煉獄家を出て他の場所から鬼殺に向かうことにいたします。
長い間お世話になりました」
別れの言葉を前にして絶句していた。
返事は待たず、部屋を退室する。そのまま用意していた荷物を抱えて家を出ていった。
どちらにせよ『前』と同じだった。
私は同じ話を繰り返してきた。
槇寿朗さんは、何度言えばわかってくれるんだろう。なんて言えばいいのだろう。どうしたら立ち直って話が通じる父親に戻ってくれたのだろう。
瑠火さん……私じゃ槇寿朗さんを立ち上がらせることができないんだと思う……。貴女じゃなきゃ、だめなんだよ。
こうしてまた、煉獄家から逃げる私を許してください。