三周目 伍
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下弦の弐討伐後にも軽くは槇寿朗さんに報告はしていたが、正式な柱就任の文が届いたことで杏寿郎さんは改めて槇寿朗さんに報告を行った。
私はただそれを、部屋の外から聞いていた。
「父上。此の度、正式に炎柱に任命されました」
その報告は同時に、槇寿朗さんのクビを確定する言葉ともとれる。
任務放棄が増えていた今、炎柱の役職にそこまでの未練はないだろうが、気分は良くないだろう。
姿や顔を見られないからこそ、槇寿朗さんの機嫌がわずかながら下降したことを襖や障子を通して感じた。
相変わらずひどい言葉だった。
槇寿朗さんの口から杏寿郎さんに放たれた言葉達は、これまで何度も聞いてきた言葉と同じもので。
言葉の暴力とは、こういうものを指すのだと改めて理解する。
なのに。
なのに杏寿郎さんの心はどんな言葉を聞いても凪いだまま。
きっと、いつものにこやかな表情をその顔に貼り付けたままなのだろう。想像がつく。
その根底に深い悲しみや悔しさがあるのはわかるけれど、表面には決して出てこない。
もっとその悲しみをあらわにしていい。
もっと怒っていい。
なんで貴方は怒らないの?
「いい加減にして!!」
思えば最初から、堪忍袋の緒が切れるのは時間の問題だった。『前々』の分から蓄積された怒りが限界値を上回り、私は二人のいる麩を勢いよく開けた。……勢いよすぎて外れた。
「なっ……!断りもなしに開けるな!!」
「……朝緋、俺は父上と話の途中だ。襖も直しなさい」
叱り方ーーっ!これではどっちが父で子か分からないね。
だけど、二人から叱られようとも私はひかない。
「父様お邪魔します!はい断りいーれたっ!あと襖ははい!直した!!
悪いけど私は退室致しませんし、父様に怒ってます!なに今の杏寿郎兄さんへの態度と言い方!!いい加減にしてよね!!」
「なんという口の聞き方を……!俺は親だぞ!?」
「親!?親らしいこと最近してますかー!?ご自分の胸に聞いてみてくださいよ!ほら!ほら!!」
「この……調子に乗るなよクソ餓鬼!」
「ち、父上……?朝緋……?ふたりとも落ち着いて……」
さすがの杏寿郎さんもオロオロしだした。眉根が下がっている。気配を探れば、閉じた襖の向こうにもオロオロしている千寿郎がいるのがわかった。
「朝緋!よく考えたらお前はまだ鬼殺隊を辞めていないのか!今の階級はなんだ!」
うわ本格的にこっちに矛先向いた!けどこれは好都合。
大人気ない?どうだっていい。私はこの機会に言いたいことを全て言う!
「階級は丁ですがそれとこれとは関係ないです!
父様の気持ちは痛いほどわかりますよ?あの頃は色々ありましたもんね!
けど、だめ。
いつまでぬるま湯に浸かっているつもり?いつまで悲しみに暮れる?いつまで己に絶望する?お酒に逃げて。溜まった憤りを息子にぶつけて……。
ずっと。ずっと言おうと思ってた。親が息子を侮辱するな!杏寿郎兄さんは柱になったのよ!?親なら誉めて然るべきでしょ!瑠火さ……母様なら誉めてたわ!!」
「褒める!?それは瑠火が間違っていたのだ!!炎柱は俺の代で終わらせる!炎は消す!その予定でいたのだ!!」
煉獄家の炎は消させやしない。私の炎も杏寿郎さんの炎も、決して絶やさない。
「あんなに熱かった貴方はどこにいったのよ!なんで貴方の炎はそうやって燻って燃焼不足なの!炭よ!炭化してる!!ひとつも燃えてない!!
炎柱にふさわしいのはそんな貴方じゃなくてもう杏寿郎兄さんですねぇぇぇ!?」
「なんだと!?」
「ねえ何度言わせれば気がすむのよ!父様の!槇寿朗さんの馬鹿!!わからずや!!」
「は?何度ってどういうことだ!!初めて言われ……」
転がっていた書物をフルスイング。槇寿朗さんの額に当たった。
「グッ!?
も、物を投げるのはやめろ!この癇癪持ち!!大人しくここから嫁ぎ先でも選んでろ!!」
その書を投げ返された瞬間、杏寿郎さんの口から訝しげな「……嫁ぎ先?」という声が聞こえてギクリとした。
「か、癇癪持ちはどっちよ!父様のばっかやろー!!こんなの要らないんだからぁーー!!」
槇寿朗さんが投げよこしたもの。これは絶対釣り書きだ。
もしも杏寿郎さんに見られでもしたら、謎の三つ巴の戦いに発展してしまう!
だって、この人私に幾度となく告白してきてるんだから。この人狭量で嫉妬しいなのよ。
だからこちらに届く前に、私は足蹴にして部屋の隅に蹴り飛ばした。それこそ、襖を外した時以上の行儀の悪さで。
足ぐせが悪かろうが我が身はかわいい。
「言葉の暴力反対!杏寿郎兄さんや千寿郎のことをいじめる父様なんてだいっ嫌いー!
体に合わないお酒なんか飲むのやめて昔の優しい父様に戻ってよーーー!!なんでそんなクソオヤジになったのよー!!うわぁぁぁぁん!!」
「く、クソオヤジ……っ!?」
心を吐露してるうちに、涙が溢れてきた。止まらない。ぽろぽろこぼれてしまう。
果てに、槇寿朗さんに私こそ言葉の暴力を振るってしまった。
そのまま泣きながら殴りかかる。直接の暴力だ。
私の号泣の涙に驚いて反応の遅れた槇寿朗さんは、私の拳を上手く避けられず体で受け止める。
そのまま抱き止められた。
あ、小さい頃よく抱きしめてもらった、槇寿朗さんのあったかい腕の中だ……。
久しぶりの感覚。その事実にまた少し泣いた。
「つっ、全く……なんて娘だ。朝緋を落ち着かせろ、杏寿郎」
「申し訳ございません、父上……」
ぶっきらぼうに。だが優しく杏寿郎さんの元に返された私。
あまり槇寿朗さんに涙を見せてこなかったせいか、彼はひいているくらいだった。ご自身の気持ちすら吹っ飛んでいるようにも見えた。
「朝緋。落ち着け」
その時、杏寿郎さんの声がスッと心に入ってきた。見上げれば、柔らかく笑う貴方の顔が目に入る。
ただ、好きだけど怒りが優った。
「杏寿ろっ、兄さんにも私は怒ってるんですからね!何すました顔しちゃってんの!その顔も大好きだけどっ!でもムカつく!」
「う、うむ……?」
悲しくて悔しくて腸までもが煮えそうで……すごくいらいらする。
なぜ言い返さないのか、悲しいはずなのになぜ我慢するのか、貴方は怒りが湧かないのか。それを考えると腹立たしくてたまらない。
「…………。感情をあらわにしていては柱は務まらないと思ったのだ。それに君がこうして怒り、そして泣いてくれている。それだけで十分だ。
だが、俺は朝緋の泣き顔を見ていたくない。もう泣くな」
「泣くなと言われて簡単に泣き止めるわけないじゃない〜〜!」
撫でられたら余計泣けてきた。
「父上、失礼いたしました。これで退室したいと思います」
「ああ。朝緋も連れていってくれ」
淡々とした、けれど優しい声が二つ聞こえた気がする。
私はただそれを、部屋の外から聞いていた。
「父上。此の度、正式に炎柱に任命されました」
その報告は同時に、槇寿朗さんのクビを確定する言葉ともとれる。
任務放棄が増えていた今、炎柱の役職にそこまでの未練はないだろうが、気分は良くないだろう。
姿や顔を見られないからこそ、槇寿朗さんの機嫌がわずかながら下降したことを襖や障子を通して感じた。
相変わらずひどい言葉だった。
槇寿朗さんの口から杏寿郎さんに放たれた言葉達は、これまで何度も聞いてきた言葉と同じもので。
言葉の暴力とは、こういうものを指すのだと改めて理解する。
なのに。
なのに杏寿郎さんの心はどんな言葉を聞いても凪いだまま。
きっと、いつものにこやかな表情をその顔に貼り付けたままなのだろう。想像がつく。
その根底に深い悲しみや悔しさがあるのはわかるけれど、表面には決して出てこない。
もっとその悲しみをあらわにしていい。
もっと怒っていい。
なんで貴方は怒らないの?
「いい加減にして!!」
思えば最初から、堪忍袋の緒が切れるのは時間の問題だった。『前々』の分から蓄積された怒りが限界値を上回り、私は二人のいる麩を勢いよく開けた。……勢いよすぎて外れた。
「なっ……!断りもなしに開けるな!!」
「……朝緋、俺は父上と話の途中だ。襖も直しなさい」
叱り方ーーっ!これではどっちが父で子か分からないね。
だけど、二人から叱られようとも私はひかない。
「父様お邪魔します!はい断りいーれたっ!あと襖ははい!直した!!
悪いけど私は退室致しませんし、父様に怒ってます!なに今の杏寿郎兄さんへの態度と言い方!!いい加減にしてよね!!」
「なんという口の聞き方を……!俺は親だぞ!?」
「親!?親らしいこと最近してますかー!?ご自分の胸に聞いてみてくださいよ!ほら!ほら!!」
「この……調子に乗るなよクソ餓鬼!」
「ち、父上……?朝緋……?ふたりとも落ち着いて……」
さすがの杏寿郎さんもオロオロしだした。眉根が下がっている。気配を探れば、閉じた襖の向こうにもオロオロしている千寿郎がいるのがわかった。
「朝緋!よく考えたらお前はまだ鬼殺隊を辞めていないのか!今の階級はなんだ!」
うわ本格的にこっちに矛先向いた!けどこれは好都合。
大人気ない?どうだっていい。私はこの機会に言いたいことを全て言う!
「階級は丁ですがそれとこれとは関係ないです!
父様の気持ちは痛いほどわかりますよ?あの頃は色々ありましたもんね!
けど、だめ。
いつまでぬるま湯に浸かっているつもり?いつまで悲しみに暮れる?いつまで己に絶望する?お酒に逃げて。溜まった憤りを息子にぶつけて……。
ずっと。ずっと言おうと思ってた。親が息子を侮辱するな!杏寿郎兄さんは柱になったのよ!?親なら誉めて然るべきでしょ!瑠火さ……母様なら誉めてたわ!!」
「褒める!?それは瑠火が間違っていたのだ!!炎柱は俺の代で終わらせる!炎は消す!その予定でいたのだ!!」
煉獄家の炎は消させやしない。私の炎も杏寿郎さんの炎も、決して絶やさない。
「あんなに熱かった貴方はどこにいったのよ!なんで貴方の炎はそうやって燻って燃焼不足なの!炭よ!炭化してる!!ひとつも燃えてない!!
炎柱にふさわしいのはそんな貴方じゃなくてもう杏寿郎兄さんですねぇぇぇ!?」
「なんだと!?」
「ねえ何度言わせれば気がすむのよ!父様の!槇寿朗さんの馬鹿!!わからずや!!」
「は?何度ってどういうことだ!!初めて言われ……」
転がっていた書物をフルスイング。槇寿朗さんの額に当たった。
「グッ!?
も、物を投げるのはやめろ!この癇癪持ち!!大人しくここから嫁ぎ先でも選んでろ!!」
その書を投げ返された瞬間、杏寿郎さんの口から訝しげな「……嫁ぎ先?」という声が聞こえてギクリとした。
「か、癇癪持ちはどっちよ!父様のばっかやろー!!こんなの要らないんだからぁーー!!」
槇寿朗さんが投げよこしたもの。これは絶対釣り書きだ。
もしも杏寿郎さんに見られでもしたら、謎の三つ巴の戦いに発展してしまう!
だって、この人私に幾度となく告白してきてるんだから。この人狭量で嫉妬しいなのよ。
だからこちらに届く前に、私は足蹴にして部屋の隅に蹴り飛ばした。それこそ、襖を外した時以上の行儀の悪さで。
足ぐせが悪かろうが我が身はかわいい。
「言葉の暴力反対!杏寿郎兄さんや千寿郎のことをいじめる父様なんてだいっ嫌いー!
体に合わないお酒なんか飲むのやめて昔の優しい父様に戻ってよーーー!!なんでそんなクソオヤジになったのよー!!うわぁぁぁぁん!!」
「く、クソオヤジ……っ!?」
心を吐露してるうちに、涙が溢れてきた。止まらない。ぽろぽろこぼれてしまう。
果てに、槇寿朗さんに私こそ言葉の暴力を振るってしまった。
そのまま泣きながら殴りかかる。直接の暴力だ。
私の号泣の涙に驚いて反応の遅れた槇寿朗さんは、私の拳を上手く避けられず体で受け止める。
そのまま抱き止められた。
あ、小さい頃よく抱きしめてもらった、槇寿朗さんのあったかい腕の中だ……。
久しぶりの感覚。その事実にまた少し泣いた。
「つっ、全く……なんて娘だ。朝緋を落ち着かせろ、杏寿郎」
「申し訳ございません、父上……」
ぶっきらぼうに。だが優しく杏寿郎さんの元に返された私。
あまり槇寿朗さんに涙を見せてこなかったせいか、彼はひいているくらいだった。ご自身の気持ちすら吹っ飛んでいるようにも見えた。
「朝緋。落ち着け」
その時、杏寿郎さんの声がスッと心に入ってきた。見上げれば、柔らかく笑う貴方の顔が目に入る。
ただ、好きだけど怒りが優った。
「杏寿ろっ、兄さんにも私は怒ってるんですからね!何すました顔しちゃってんの!その顔も大好きだけどっ!でもムカつく!」
「う、うむ……?」
悲しくて悔しくて腸までもが煮えそうで……すごくいらいらする。
なぜ言い返さないのか、悲しいはずなのになぜ我慢するのか、貴方は怒りが湧かないのか。それを考えると腹立たしくてたまらない。
「…………。感情をあらわにしていては柱は務まらないと思ったのだ。それに君がこうして怒り、そして泣いてくれている。それだけで十分だ。
だが、俺は朝緋の泣き顔を見ていたくない。もう泣くな」
「泣くなと言われて簡単に泣き止めるわけないじゃない〜〜!」
撫でられたら余計泣けてきた。
「父上、失礼いたしました。これで退室したいと思います」
「ああ。朝緋も連れていってくれ」
淡々とした、けれど優しい声が二つ聞こえた気がする。