三周目 伍
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正式な柱就任の儀や、日輪刀への『悪鬼滅殺』の文字彫りを前にして、杏寿郎さんは『前』と同じ任務に当たったようだった。
ううん、正確には杏寿郎さん達は、だけれども。
下弦の弐討伐任務もその任務も、杏寿郎さんは蜜璃と合同だった。
私じゃなくて蜜璃と。
別に羨ましいなんて思ってない。
ほら!下手に杏寿郎さんと同じ任務にでもなったら、色々と落ち着かなくなっちゃうからこれでちょうどいいのよ!ね!?
きっとこれ、お館様の計らいだと思う。
自意識過剰気味かもしれないけれど、今の杏寿郎さんからは、私のこと好きすぎオーラ?みたいなものが出てるもの。
そんな状態なのに、同じ任務に当たったら士気が下がりそう。特に周りの。
だから、そうならないためにわざと任務を別にしてるんだと思う。
うん。きっとそう。
そんなことを思いながら、杏寿郎さんが話す任務報告という名のお土産話を聞いて、片手間で座布団に刺繍を刺す私。
この座布団はあれだ。この『過去のやり直し』によって消えてしまったけれど、『前』の私が丹精込めて縫い付けていた杏寿郎さんのお顔刺繍の座布団だ。
過去に戻って消えたのは悲しかったけれど、よく考えたらもう一度作れる楽しみがあったのを思い出して。それでこうして作っているというわけ。
目の前で杏寿郎さんがお話ししてるのでわかると思うけど、これを作っているのは杏寿郎さん本人にバレちゃったの。
だってだって、縫物に全集中!してる時に気配消して私の部屋を開けるんだもの!いきなりだよ、いきなり!!
何を作ってるか聞かれ、作ってる物を奪われて見られ……隠しきれなかった!ジーザス!
これは杏寿郎さんじゃなくて私の想像する天照大神です!って、なんとか誤魔化そうとしたんだけれど全然騙されてくれなかった。かなりデフォルメされてるのに……。
私のデフォルメ杏寿郎さん、もしかして完成度高すぎ?特徴とらえすぎ??
ということで。
私が杏寿郎さんの代わりになる座布団を作る姿は見られているわけである。
眺める杏寿郎さんはそれはもう嬉しそうで。でも座布団の自分でなく本人に構ってほしいとも言いたげで。
私は杏寿郎さんに部屋の滞在を許し、話を聞いた。
千寿郎に本を、私に装飾品をお土産にと買ってきた話や、墓参りの話、討伐した鬼の血鬼術、対処法などを楽しそうに、そして時折まじめに話す杏寿郎さん。
ああ、そうそう。ちょうど瑠火さんの命日が今年もまたやってきていてね。お墓参りも兼ねて杏寿郎さんが帰ってきたの。
ふふふ、これで瑠火さんに、杏寿郎さんが柱になるよ〜って報告もできるよね。
「それと、甘露寺と蕎麦屋に寄った!!」
「えっ!」
プスッ!
「いたぁっ!?」
目測が外れて針先が指に刺さった!
鬼殺時でもない時に突然襲われる痛みには誰しも弱い。血が出なかったのが幸いか。
「怪我をしたのか!大丈夫か!?」
「だ、いじょうぶ、ですけど……蕎麦ですって?」
患部をフーフー吹いて痛みを紛らわせつつ蕎麦屋。そのワードについて考える。
蕎麦屋で思い出されるのは、かつてその二階で……。
やだ、今度こそ顔から火が出ちゃう!
「何か問題があるのか?」
ずずいと顔を至近距離で覗かれたこともまた、顔から火が出る原因の一つ。
けれども、杏寿郎さんが笑い飛ばしながら、食事の様子を語ってくれたことで、私こそが恥ずべき考えをしていたとわかった。
「わんこ蕎麦のようにたくさん食べてきただけだぞ。甘露寺は俺よりも量を食べるのだなあ!負けてしまった!!」
そうだよね。二人は花より団子だったよね。ちょっとホッとした。
それにこの杏寿郎さんは『前』の杏寿郎さんとは違う。私への恋情こそ激しいけれどまだ蕎麦屋の二階がそういう事のためにあると知らない。……はず。まだスレていない。
だって私だってあの時知らなかったし?
しかし土産物は二人で選び、鬼殺の際にはお姫様抱っこもしたらしいことを聞かされた瞬間、油ものを食べ過ぎた時のように胃の奥がつきんと痛んだ。
胸焼けなんてしたことない。これは私の中にある嫉妬心なのだとすぐにわかった。
恋心は隠すと決めたのに、隠しきれない。もう無理かもしれない。
任務に同行する継子が蜜璃みたいな可愛い女の子じゃなくて男の子なら、こんな考えしなくて済むのに。
その継子だけれど、杏寿郎さんの階級が乙から甲に上がる頃から急激に増えた。
もしかして炎の呼吸の使い手を増やすのに、片っ端から隊士に声をかけてるの?なんて思うほどで。
例によってまだ正式な柱でない杏寿郎さんにではなく形式上は槇寿朗さんの継子としての登用だけれど、またみんな続かないのではないだろうか。
杏寿郎さんの修行は厳しいし、槇寿朗さんは生家にも炎柱邸にも隊士がいる事にいい顔しないし修行つけないし。
『前』も一週間と経たずして辞めていったっけ。
案の定、すぐに何人かは辞めてしまい、逃げ出してしまった。
これ以上隊士が継子を辞めぬよう、自分に後輩ができるよう、炎の呼吸の継承者が一人でも多く残せるよう、なんとか杏寿郎さんに口添えして授業内容を軽くしては貰ったんだけれど……。
「君は朝緋と距離が近すぎるのではないか!」
「そこの君、さきほど朝緋と手合わせしていたようだなぁ?俺とも動けなくなるまで打ち合いしようではないか!」
「俺より先に朝緋と挨拶を交わすとは君は命知らずだな……!」
杏寿郎さんは『前回』よりも更に狭量だった。
私が他の継子と仲良くすると杏寿郎さんがすごく、すごーく不機嫌になってしまうのだ。柱目前の杏寿郎さんが射殺すような目で睨んでくるんだよ?八つ当たりに近い打ち込みふっかけてくるんだよ?
そりゃまあ、続くわけがなかった。
結果。結局残った継子は私と蜜璃のみ。その蜜璃だって、呼吸が派生のものになり、直に継子でなくなる。
……また同じ展開。
炎の呼吸を継いでくれる人がもっと増えたら頼もしいのにね。
ううん、正確には杏寿郎さん達は、だけれども。
下弦の弐討伐任務もその任務も、杏寿郎さんは蜜璃と合同だった。
私じゃなくて蜜璃と。
別に羨ましいなんて思ってない。
ほら!下手に杏寿郎さんと同じ任務にでもなったら、色々と落ち着かなくなっちゃうからこれでちょうどいいのよ!ね!?
きっとこれ、お館様の計らいだと思う。
自意識過剰気味かもしれないけれど、今の杏寿郎さんからは、私のこと好きすぎオーラ?みたいなものが出てるもの。
そんな状態なのに、同じ任務に当たったら士気が下がりそう。特に周りの。
だから、そうならないためにわざと任務を別にしてるんだと思う。
うん。きっとそう。
そんなことを思いながら、杏寿郎さんが話す任務報告という名のお土産話を聞いて、片手間で座布団に刺繍を刺す私。
この座布団はあれだ。この『過去のやり直し』によって消えてしまったけれど、『前』の私が丹精込めて縫い付けていた杏寿郎さんのお顔刺繍の座布団だ。
過去に戻って消えたのは悲しかったけれど、よく考えたらもう一度作れる楽しみがあったのを思い出して。それでこうして作っているというわけ。
目の前で杏寿郎さんがお話ししてるのでわかると思うけど、これを作っているのは杏寿郎さん本人にバレちゃったの。
だってだって、縫物に全集中!してる時に気配消して私の部屋を開けるんだもの!いきなりだよ、いきなり!!
何を作ってるか聞かれ、作ってる物を奪われて見られ……隠しきれなかった!ジーザス!
これは杏寿郎さんじゃなくて私の想像する天照大神です!って、なんとか誤魔化そうとしたんだけれど全然騙されてくれなかった。かなりデフォルメされてるのに……。
私のデフォルメ杏寿郎さん、もしかして完成度高すぎ?特徴とらえすぎ??
ということで。
私が杏寿郎さんの代わりになる座布団を作る姿は見られているわけである。
眺める杏寿郎さんはそれはもう嬉しそうで。でも座布団の自分でなく本人に構ってほしいとも言いたげで。
私は杏寿郎さんに部屋の滞在を許し、話を聞いた。
千寿郎に本を、私に装飾品をお土産にと買ってきた話や、墓参りの話、討伐した鬼の血鬼術、対処法などを楽しそうに、そして時折まじめに話す杏寿郎さん。
ああ、そうそう。ちょうど瑠火さんの命日が今年もまたやってきていてね。お墓参りも兼ねて杏寿郎さんが帰ってきたの。
ふふふ、これで瑠火さんに、杏寿郎さんが柱になるよ〜って報告もできるよね。
「それと、甘露寺と蕎麦屋に寄った!!」
「えっ!」
プスッ!
「いたぁっ!?」
目測が外れて針先が指に刺さった!
鬼殺時でもない時に突然襲われる痛みには誰しも弱い。血が出なかったのが幸いか。
「怪我をしたのか!大丈夫か!?」
「だ、いじょうぶ、ですけど……蕎麦ですって?」
患部をフーフー吹いて痛みを紛らわせつつ蕎麦屋。そのワードについて考える。
蕎麦屋で思い出されるのは、かつてその二階で……。
やだ、今度こそ顔から火が出ちゃう!
「何か問題があるのか?」
ずずいと顔を至近距離で覗かれたこともまた、顔から火が出る原因の一つ。
けれども、杏寿郎さんが笑い飛ばしながら、食事の様子を語ってくれたことで、私こそが恥ずべき考えをしていたとわかった。
「わんこ蕎麦のようにたくさん食べてきただけだぞ。甘露寺は俺よりも量を食べるのだなあ!負けてしまった!!」
そうだよね。二人は花より団子だったよね。ちょっとホッとした。
それにこの杏寿郎さんは『前』の杏寿郎さんとは違う。私への恋情こそ激しいけれどまだ蕎麦屋の二階がそういう事のためにあると知らない。……はず。まだスレていない。
だって私だってあの時知らなかったし?
しかし土産物は二人で選び、鬼殺の際にはお姫様抱っこもしたらしいことを聞かされた瞬間、油ものを食べ過ぎた時のように胃の奥がつきんと痛んだ。
胸焼けなんてしたことない。これは私の中にある嫉妬心なのだとすぐにわかった。
恋心は隠すと決めたのに、隠しきれない。もう無理かもしれない。
任務に同行する継子が蜜璃みたいな可愛い女の子じゃなくて男の子なら、こんな考えしなくて済むのに。
その継子だけれど、杏寿郎さんの階級が乙から甲に上がる頃から急激に増えた。
もしかして炎の呼吸の使い手を増やすのに、片っ端から隊士に声をかけてるの?なんて思うほどで。
例によってまだ正式な柱でない杏寿郎さんにではなく形式上は槇寿朗さんの継子としての登用だけれど、またみんな続かないのではないだろうか。
杏寿郎さんの修行は厳しいし、槇寿朗さんは生家にも炎柱邸にも隊士がいる事にいい顔しないし修行つけないし。
『前』も一週間と経たずして辞めていったっけ。
案の定、すぐに何人かは辞めてしまい、逃げ出してしまった。
これ以上隊士が継子を辞めぬよう、自分に後輩ができるよう、炎の呼吸の継承者が一人でも多く残せるよう、なんとか杏寿郎さんに口添えして授業内容を軽くしては貰ったんだけれど……。
「君は朝緋と距離が近すぎるのではないか!」
「そこの君、さきほど朝緋と手合わせしていたようだなぁ?俺とも動けなくなるまで打ち合いしようではないか!」
「俺より先に朝緋と挨拶を交わすとは君は命知らずだな……!」
杏寿郎さんは『前回』よりも更に狭量だった。
私が他の継子と仲良くすると杏寿郎さんがすごく、すごーく不機嫌になってしまうのだ。柱目前の杏寿郎さんが射殺すような目で睨んでくるんだよ?八つ当たりに近い打ち込みふっかけてくるんだよ?
そりゃまあ、続くわけがなかった。
結果。結局残った継子は私と蜜璃のみ。その蜜璃だって、呼吸が派生のものになり、直に継子でなくなる。
……また同じ展開。
炎の呼吸を継いでくれる人がもっと増えたら頼もしいのにね。