三周目 伍
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柱になる為の通過点であるあの任務が終わった。杏寿郎さんは大怪我をして蝶屋敷に入院中だ。
最近、当社比二倍ほど杏寿郎さんが負う怪我が多い気がする。
当社比……って言っても比べられるのなんて『前回』と『前前回』の杏寿郎さんの下弦の弐の討伐任務なんだけども。あの時からすると怪我が更に多……いやまて。やっぱり怪我の量はいつもと変わらないかも?
柱まであと一歩というところまで来てたから、相当な無理をしたんじゃないだろうか。
このままだと杏寿郎さんは正式に柱になってからもいっぱいいっぱい無理をしちゃう。人を庇って攻撃を受けてしまう。
杏寿郎さんは……ううん、柱達はみんなそういうところがある。下の者に怪我をさせないようにと、そう振る舞う節が。
杏寿郎さん!『前』も散々思ったけれど、怪我しないようにもうちょっと気をつけてくださーい!
任務後に寄った蝶屋敷の奥。
一人用の病室に杏寿郎さんは眠っていた。
他の部屋にいるかと覗いてみたけれど、蜜璃はもう治療を終えて退院したようだった。
今回、蜜璃は太ももを鬼の使役する獣に噛まれたとのこと。それも『前』と同じだ。
同じところと違うところを探すのって意外と楽しいけれど、怪我とかは別。なければないに越したことない。
ちなみにここまで案内してくれたしのぶはとうに任務に出てしまった。
柱は忙しいのだから当たり前か。
昼間の明るい光に照らされて眠る貴方は、太陽に愛された神様のように美しく綺麗だ。
男性相手に美しいだなんて表現はおかしいし杏寿郎さんは喜ばないだろうけれど、でも拝みたくなるくらい本当に神々しくて。
そして毎回のように実際に拝んじゃう。
私の愛しい神様。どうか貴方がこの先、平穏無事でいられますように。
起こさないよう声も音も出さずに隣に座る。
知っていたけど怪我がひどいなあ……。
左腕に右足。銃器をも使う鬼だったそうで、いくつかの銃弾が貫通していたと聞いた。包帯でぐるぐる巻いて、布団の上に足を投げ出して吊っている状態だ。腕もまた同じ状態。痛ましい。
それから顔。
左目の上のほうがぱっくり切れてるんだよね?だから今、血が入らないようにと左目までもが包帯でぐるぐる巻き。
これを見て猗窩座に左目を潰された杏寿郎さんを思い出しちゃって『前』は取り乱したっけ。トラウマだもんね、仕方ない。
今もトラウマだけど、少しは落ち着いてる。慣れたのもあるけど、いつまでも心揺さぶられているようじゃ鬼殺に影響が出るもの。
目指すはまず継子。そのために精神面も鍛えなきゃ。
……そういえば『以前』は額にご褒美ちゅっちゅを所望された。
恥ずかしいこと思い出しちゃったなあ。顔が熱い!!
今の私が動揺するとしたら、恋愛関係が原因となるだろう。あの時のキスはどちらかというと笑い飛ばせるような結果をもたらすものだったけれど、それでも思い出すだけで顔から昇り炎天が出そうだ。
前髪が下りているのもまた、私の恥ずかしさを助長するのに一役買っている。
普通の目線で見れば前髪がおりた杏寿郎さんの寝姿なんて『かわいい』の一言に尽きるのに、なのに……。
汗のせいで髪が下りてきていた、閨でのあの杏寿郎さんを思い出すばかりで。
ああもう恥ずかしい!
熱くなってくる頬を手で覆って内心悶えていたら視線を感じた。
見れば、杏寿郎さんがでっかいおめめをこれでもか!と開けてこっちを凝視していた。
「ヒェ!お、起きてたんですかっ!?」
「ああ、おはよう!」
びっっっ……くりしたぁー!!
起き上がる彼を手伝い、背に手を添える。他にも打ち身挫きあたりがあるのか、痛みでわずかにぴくりと体を震わせながら私の目線に合わせ座る杏寿郎さん。
「朝緋の気配がわからぬ俺ではないぞ。
君の気配ならば一里先からでも察知する自信がある!だから君が蝶屋敷に入る前には目が覚めた!!」
一里って確か約四kmくらいだっけ。ん?四km??そんな遠くからわかるとか……。
「えっ何それこわっ」
さすが柱に就任するだけありますね。
そう言う予定が、口から出たのは心で思っていたほうの台詞だった。逆ぅ!
けれど杏寿郎さんは私の失言なんて気に留めず、目を細めて私の手をとってきた。
「それだけ君のことを思っているということだ」
手の甲をゆっくり撫でやる杏寿郎さんの指腹。
それは紙一重。くすぐったいようでいて、快感を拾わせられるようで。
ああこれ……あの時の閨で私の素肌をスルスルと愛撫する時の動きと同じだぁ……。
変なスイッチが入りそうで。自分が杏寿郎さんのペースに流されてしまいそうで、とてもこわい。
ただ手を撫でられているだけなのに、気持ちよくて悶えて……。変な声が出てしまいそう。
「朝緋は、心配して見舞いに来てくれたのだな」
ツツー、指の間の薄い皮膚をさすりあげるだけで、また少し悶えた。
杏寿郎さん。もしかして快感を拾わせようとして、狙ってやってる?
「ッ…………、そりゃ、また大怪我したなんて聞いたら心配くらいしますよ。なんてったって、家族ですから」
「俺の気持ちは知っているだろう。家族を強調するのはいい加減やめてくれ」
これ以上やられてはたまったものじゃない。魔の手とも言うべきだろう杏寿郎さんの手が、違うところに届く前に手を離させた。
不服そうだったがそのまま拳ひとつ分の距離を取る。
怪我人である杏寿郎さんだからこそ、私は逃れられた。万全の状態なら無理だった……。
「下弦の弐の討伐お疲れ様でした」
機械的に淡々とだが、労いの心を込めて告げる。
「ああ、そうだな。確かにお疲れ様だ。
俺は少し疲れた。疲れに効くものがほしい」
「疲れに効くものっていうと甘い食べ物なんだけど。……芋菓子?」
またスイートポテト作ってきたほうがいいのかな?お芋以外の材料買わなくっちゃ。
「芋か!それもなかなか魅力的だな!けれど、今は食べ物は要らない!!褒美として朝緋からほしい」
エッ杏寿郎さんが食べ物を要らないだなんて、大丈夫なのだろうか。
「ご褒美かあ。食べ物以外っていうと、労いの言葉とか?うちって物持ちはいい方だから大抵の物は持ってるだろうし」
「労いの言葉でも物でもない。行動だ」
……来た。私の奥深くが警鐘を鳴らす。
まさかの前と同じ、ではなかろうか。
私に向いた熱い視線が、それを物語っている。私を丸ごと喰らい尽くそうとする炎が見える。
「口付けがほしい。口吸いがしたい」
「…………。あー、やっぱりそういう……」
「やっぱりとは?」
「ふーーー…………。
何度も言いますが私は貴方と恋仲になった覚えはありませんし、なる気もありません。先日そう言ったはずです」
また伸びてきた手を軽く振り払い、今度は拳二つ分ほど距離を取る。杏寿郎さんが激しく顔を顰めた。
「俺の気持ちを知っていてもか」
「ええ。杏寿郎兄さんのお気持ちを知っていても、です」
恋愛に現を抜かしている暇なんてない。
ただの一人も死なずにあの任務の朝を迎えることができなくば、考えられない。
貴方の『生』こそ私の全て。
最近、当社比二倍ほど杏寿郎さんが負う怪我が多い気がする。
当社比……って言っても比べられるのなんて『前回』と『前前回』の杏寿郎さんの下弦の弐の討伐任務なんだけども。あの時からすると怪我が更に多……いやまて。やっぱり怪我の量はいつもと変わらないかも?
柱まであと一歩というところまで来てたから、相当な無理をしたんじゃないだろうか。
このままだと杏寿郎さんは正式に柱になってからもいっぱいいっぱい無理をしちゃう。人を庇って攻撃を受けてしまう。
杏寿郎さんは……ううん、柱達はみんなそういうところがある。下の者に怪我をさせないようにと、そう振る舞う節が。
杏寿郎さん!『前』も散々思ったけれど、怪我しないようにもうちょっと気をつけてくださーい!
任務後に寄った蝶屋敷の奥。
一人用の病室に杏寿郎さんは眠っていた。
他の部屋にいるかと覗いてみたけれど、蜜璃はもう治療を終えて退院したようだった。
今回、蜜璃は太ももを鬼の使役する獣に噛まれたとのこと。それも『前』と同じだ。
同じところと違うところを探すのって意外と楽しいけれど、怪我とかは別。なければないに越したことない。
ちなみにここまで案内してくれたしのぶはとうに任務に出てしまった。
柱は忙しいのだから当たり前か。
昼間の明るい光に照らされて眠る貴方は、太陽に愛された神様のように美しく綺麗だ。
男性相手に美しいだなんて表現はおかしいし杏寿郎さんは喜ばないだろうけれど、でも拝みたくなるくらい本当に神々しくて。
そして毎回のように実際に拝んじゃう。
私の愛しい神様。どうか貴方がこの先、平穏無事でいられますように。
起こさないよう声も音も出さずに隣に座る。
知っていたけど怪我がひどいなあ……。
左腕に右足。銃器をも使う鬼だったそうで、いくつかの銃弾が貫通していたと聞いた。包帯でぐるぐる巻いて、布団の上に足を投げ出して吊っている状態だ。腕もまた同じ状態。痛ましい。
それから顔。
左目の上のほうがぱっくり切れてるんだよね?だから今、血が入らないようにと左目までもが包帯でぐるぐる巻き。
これを見て猗窩座に左目を潰された杏寿郎さんを思い出しちゃって『前』は取り乱したっけ。トラウマだもんね、仕方ない。
今もトラウマだけど、少しは落ち着いてる。慣れたのもあるけど、いつまでも心揺さぶられているようじゃ鬼殺に影響が出るもの。
目指すはまず継子。そのために精神面も鍛えなきゃ。
……そういえば『以前』は額にご褒美ちゅっちゅを所望された。
恥ずかしいこと思い出しちゃったなあ。顔が熱い!!
今の私が動揺するとしたら、恋愛関係が原因となるだろう。あの時のキスはどちらかというと笑い飛ばせるような結果をもたらすものだったけれど、それでも思い出すだけで顔から昇り炎天が出そうだ。
前髪が下りているのもまた、私の恥ずかしさを助長するのに一役買っている。
普通の目線で見れば前髪がおりた杏寿郎さんの寝姿なんて『かわいい』の一言に尽きるのに、なのに……。
汗のせいで髪が下りてきていた、閨でのあの杏寿郎さんを思い出すばかりで。
ああもう恥ずかしい!
熱くなってくる頬を手で覆って内心悶えていたら視線を感じた。
見れば、杏寿郎さんがでっかいおめめをこれでもか!と開けてこっちを凝視していた。
「ヒェ!お、起きてたんですかっ!?」
「ああ、おはよう!」
びっっっ……くりしたぁー!!
起き上がる彼を手伝い、背に手を添える。他にも打ち身挫きあたりがあるのか、痛みでわずかにぴくりと体を震わせながら私の目線に合わせ座る杏寿郎さん。
「朝緋の気配がわからぬ俺ではないぞ。
君の気配ならば一里先からでも察知する自信がある!だから君が蝶屋敷に入る前には目が覚めた!!」
一里って確か約四kmくらいだっけ。ん?四km??そんな遠くからわかるとか……。
「えっ何それこわっ」
さすが柱に就任するだけありますね。
そう言う予定が、口から出たのは心で思っていたほうの台詞だった。逆ぅ!
けれど杏寿郎さんは私の失言なんて気に留めず、目を細めて私の手をとってきた。
「それだけ君のことを思っているということだ」
手の甲をゆっくり撫でやる杏寿郎さんの指腹。
それは紙一重。くすぐったいようでいて、快感を拾わせられるようで。
ああこれ……あの時の閨で私の素肌をスルスルと愛撫する時の動きと同じだぁ……。
変なスイッチが入りそうで。自分が杏寿郎さんのペースに流されてしまいそうで、とてもこわい。
ただ手を撫でられているだけなのに、気持ちよくて悶えて……。変な声が出てしまいそう。
「朝緋は、心配して見舞いに来てくれたのだな」
ツツー、指の間の薄い皮膚をさすりあげるだけで、また少し悶えた。
杏寿郎さん。もしかして快感を拾わせようとして、狙ってやってる?
「ッ…………、そりゃ、また大怪我したなんて聞いたら心配くらいしますよ。なんてったって、家族ですから」
「俺の気持ちは知っているだろう。家族を強調するのはいい加減やめてくれ」
これ以上やられてはたまったものじゃない。魔の手とも言うべきだろう杏寿郎さんの手が、違うところに届く前に手を離させた。
不服そうだったがそのまま拳ひとつ分の距離を取る。
怪我人である杏寿郎さんだからこそ、私は逃れられた。万全の状態なら無理だった……。
「下弦の弐の討伐お疲れ様でした」
機械的に淡々とだが、労いの心を込めて告げる。
「ああ、そうだな。確かにお疲れ様だ。
俺は少し疲れた。疲れに効くものがほしい」
「疲れに効くものっていうと甘い食べ物なんだけど。……芋菓子?」
またスイートポテト作ってきたほうがいいのかな?お芋以外の材料買わなくっちゃ。
「芋か!それもなかなか魅力的だな!けれど、今は食べ物は要らない!!褒美として朝緋からほしい」
エッ杏寿郎さんが食べ物を要らないだなんて、大丈夫なのだろうか。
「ご褒美かあ。食べ物以外っていうと、労いの言葉とか?うちって物持ちはいい方だから大抵の物は持ってるだろうし」
「労いの言葉でも物でもない。行動だ」
……来た。私の奥深くが警鐘を鳴らす。
まさかの前と同じ、ではなかろうか。
私に向いた熱い視線が、それを物語っている。私を丸ごと喰らい尽くそうとする炎が見える。
「口付けがほしい。口吸いがしたい」
「…………。あー、やっぱりそういう……」
「やっぱりとは?」
「ふーーー…………。
何度も言いますが私は貴方と恋仲になった覚えはありませんし、なる気もありません。先日そう言ったはずです」
また伸びてきた手を軽く振り払い、今度は拳二つ分ほど距離を取る。杏寿郎さんが激しく顔を顰めた。
「俺の気持ちを知っていてもか」
「ええ。杏寿郎兄さんのお気持ちを知っていても、です」
恋愛に現を抜かしている暇なんてない。
ただの一人も死なずにあの任務の朝を迎えることができなくば、考えられない。
貴方の『生』こそ私の全て。