一周目 弐
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杏寿郎さんと瓜二つの弟、千寿郎。
見た目で唯一違うのは、杏寿郎さんが快活そうに吊り上がった眉毛なのに対し、千寿郎の眉毛は優しく下がっている点だ。
私にとっても千寿郎は、大事な家族であり弟だ。
炭治郎の手を離し、その姿に駆け寄る。
会うのが怖かった。追い返されると思った。
けれど、この私を未だに姉上と呼んでくれる千寿郎に会ったら、そんな不安はどこかに消えてしまった。
「姉上……ッ!」
「ごめんね。ただいま戻りました」
「姉上が全然来てくださらないから、僕は……僕は…………」
まだ少しだけ小さなその体を思い切り抱きしめる。
至近距離から見つめた弟の目には、何度も泣いた跡があった。きちんと睡眠がとれていないのかもしれない。……何もこんなところまで私と似なくてもいいのに。
そして今、私がまた泣かせてしまった。
槇寿朗さんが改心したという話は聞いていないし、この分だと誰も千寿郎のことを休ませていないだろう。それどころか心が折れそうなことを言われ続けている可能性もある。
炎柱邸を出て、この家に戻る覚悟をしなくてはいけないかもしれない。
「あの……!」
ぐすぐすと泣く千寿郎をなだめ撫でていれば、その私の背に炭治郎が声をかけてきた。
家族を前に胸がいっぱいで、連れてきた彼の存在を忘れていた!
「姉上、この方は……」
「竈門炭治郎君です。その……彼は、」
「お父上と千寿郎さんへの言葉をお伝えに参りました」
「彼は私と同じく、無限列車の任務にいた隊士なの。杏寿郎さんから煉獄家に行くようにも言われていて……。
私と要はただの案内人よ」
ただの案内人とはいえ、私の場合は帰省が一番の理由だけれども。千寿郎という低い第一関門は突破できる気はしていた。けれど正直、この門をくぐるのが未だに怖い。その先にいるであろう、第二関門にして最終関門の父である槇寿朗さんを思うと胃が痛むほど。
「そうだったんですね。でも、大丈夫ですか?この人、顔が真っ青ですけど」
「伝えたらすぐに帰って休んでもらうから大丈夫よ。
はい、これは彼からの手土産。あとで食べてね」
手土産品を渡していると、玄関口のなかから、刃物のように鋭い視線が飛んできた。
「今まで顔も出さなかったやつが今更何のようだ。帰れ」
低く少し枯れた声が静かに響き、私は一瞬固まりながらも顔を向けた。
そこには着流しを適当に着込んだ、数年前よりも飲んだくれになってしまった父・槇寿朗さんの姿があった。
持っている酒瓶からか、彼自身からなのか、お酒の匂いがここまで届いてくる。
「……申し訳ありません。私はすぐに帰ります。ですがどうか彼の話は聞いてあげてください」
「どうせ下らんことを言い遺しているんだろう!」
震えそうになる気持ちに叱咤して、頭を下げてそう頼むが、彼からは否定は言葉しか飛んでこなかった。
たいした才能もない、くだらない、愚か、有象無象でなんの価値もない、塵芥。
だから死ぬのだと、杏寿郎さんに対しての侮辱の言葉が次々に浴びせられる。
聞いていてひどく辛い言葉の羅列だ。
それはすべて杏寿郎さんに向いているようでいて、私自身にも向いていた。
そのすべての言葉が深く、抉るように私に刺さる。
けれど、それを耳にしている千寿郎はもっともっと、深く傷ついていた。
大きな瞳に涙をいっぱいにためて、俯いていた。
これ以上聞かせたくなくて、その頭を耳を。抱きしめて塞ぐ。
それでも槇寿朗さんの酷い言葉は、千寿郎にも聞こえてしまっていた。
この様子では、私達が来るまでも毎日のように聞かされていた。
「酷い言葉だ!」
悲しい気持ちになる私や千寿郎とは反対に、炭治郎は違ったようだ。
家の者は、家長の言葉を耐えるしかない。
けれど家の者でないからこそ、炭治郎は身分も何も気にせず怒ってくれた。
だが、言い返してきた炭治郎の耳飾りを目にした彼は、酒瓶を割るほどの驚愕の表情をしてから一変。日の呼吸というものの使い手と思い込んで炭治郎に掴みかかった。
日の呼吸?その呼吸だと一体なんだというのか。
いやそれよりも炭治郎だ。今の炭治郎は、怪我人なのだ。千寿郎と二人がかりで槇寿朗さんを止めるべく間に入る。
「槇寿朗さん、やめてくださいっ」
「そうです!顔を見てください!その人は具合が悪いんですよ!」
取り押さえようとするが、千寿郎は殴り飛ばされ私は思い切り頬を叩かれた上で投げ飛ばされた。
さすが元柱だけはある。お酒は飲むし前線から退いて暫く経つというのに、全然力が衰えていない。
ビキ。
顔色が悪く動けないと思われた炭治郎の額に青筋が走る。
炭治郎は家族をすごくよく大事にしていると聞いた。実際、妹の禰󠄀豆子ちゃんをそれはもうとても大事にしている。
だからか、自分の子供を侮辱し手をあげる父親の姿が許せなかったらしい。
先ほどよりもさらに怒りをあらわにしている。
それでも槇寿朗さんは止まらなかった。日の呼吸という存在に執拗に拘り、呼吸の真実を叫ぶようにして聞かせる。
もしかしてこれこそが、無限列車の中で炭治郎が杏寿郎さんに聞いていたヒノカミ神楽のことなのではーー。
そう考えている間に、二人の口喧嘩はより苛烈になっていった。調子に乗るなとの言葉に、炭治郎が泣きながら糞爺とまでのたまい返す。
杏寿郎さんの悪口を散々言われたのだ。私も炭治郎のように他人だったなら、きっとそうしていた。いや、そうしたいと思うだけで、炭治郎のようにできるかと言われたら頷く事はできないけれど。
だがとうとう殴り合いになってしまった。
それは駄目だ。槇寿朗さんは元柱なのだ。炭治郎では勝てやしない。
今度こそ止めなくては!
そう思った瞬間、炭治郎が体を回転させながら、強烈な頭突きを槇寿朗さんに放った。
「「えっ」」
槇寿朗さんの額に強かに入り、頭蓋が割れたのではないかと思われるようなものすごい音が響く。
頭堅そうとは思ったけど、炭治郎って物理的にも頭硬いの?この人、元柱だよ?それを伸してしまうとは、どれだけ頭硬いんだろう……。
私と千寿郎は、思わずあんぐりと口を開け、顔を見合わせてから倒れた炭治郎、そして下敷きになった槇寿朗さんの様子を確認した。
……うん。見た通り、二人揃って気を失っている。
頭の硬さをそっと確認してみたけれど、うん、そうね……炭治郎の頭、めちゃくちゃ硬いわ。石頭というより、鉄頭と言ったほうがいいかも。
でも二人とも伸びている。槇寿朗さんは頭突きでだけど、炭治郎は元々の具合の悪さで倒れたようだった。
見た目で唯一違うのは、杏寿郎さんが快活そうに吊り上がった眉毛なのに対し、千寿郎の眉毛は優しく下がっている点だ。
私にとっても千寿郎は、大事な家族であり弟だ。
炭治郎の手を離し、その姿に駆け寄る。
会うのが怖かった。追い返されると思った。
けれど、この私を未だに姉上と呼んでくれる千寿郎に会ったら、そんな不安はどこかに消えてしまった。
「姉上……ッ!」
「ごめんね。ただいま戻りました」
「姉上が全然来てくださらないから、僕は……僕は…………」
まだ少しだけ小さなその体を思い切り抱きしめる。
至近距離から見つめた弟の目には、何度も泣いた跡があった。きちんと睡眠がとれていないのかもしれない。……何もこんなところまで私と似なくてもいいのに。
そして今、私がまた泣かせてしまった。
槇寿朗さんが改心したという話は聞いていないし、この分だと誰も千寿郎のことを休ませていないだろう。それどころか心が折れそうなことを言われ続けている可能性もある。
炎柱邸を出て、この家に戻る覚悟をしなくてはいけないかもしれない。
「あの……!」
ぐすぐすと泣く千寿郎をなだめ撫でていれば、その私の背に炭治郎が声をかけてきた。
家族を前に胸がいっぱいで、連れてきた彼の存在を忘れていた!
「姉上、この方は……」
「竈門炭治郎君です。その……彼は、」
「お父上と千寿郎さんへの言葉をお伝えに参りました」
「彼は私と同じく、無限列車の任務にいた隊士なの。杏寿郎さんから煉獄家に行くようにも言われていて……。
私と要はただの案内人よ」
ただの案内人とはいえ、私の場合は帰省が一番の理由だけれども。千寿郎という低い第一関門は突破できる気はしていた。けれど正直、この門をくぐるのが未だに怖い。その先にいるであろう、第二関門にして最終関門の父である槇寿朗さんを思うと胃が痛むほど。
「そうだったんですね。でも、大丈夫ですか?この人、顔が真っ青ですけど」
「伝えたらすぐに帰って休んでもらうから大丈夫よ。
はい、これは彼からの手土産。あとで食べてね」
手土産品を渡していると、玄関口のなかから、刃物のように鋭い視線が飛んできた。
「今まで顔も出さなかったやつが今更何のようだ。帰れ」
低く少し枯れた声が静かに響き、私は一瞬固まりながらも顔を向けた。
そこには着流しを適当に着込んだ、数年前よりも飲んだくれになってしまった父・槇寿朗さんの姿があった。
持っている酒瓶からか、彼自身からなのか、お酒の匂いがここまで届いてくる。
「……申し訳ありません。私はすぐに帰ります。ですがどうか彼の話は聞いてあげてください」
「どうせ下らんことを言い遺しているんだろう!」
震えそうになる気持ちに叱咤して、頭を下げてそう頼むが、彼からは否定は言葉しか飛んでこなかった。
たいした才能もない、くだらない、愚か、有象無象でなんの価値もない、塵芥。
だから死ぬのだと、杏寿郎さんに対しての侮辱の言葉が次々に浴びせられる。
聞いていてひどく辛い言葉の羅列だ。
それはすべて杏寿郎さんに向いているようでいて、私自身にも向いていた。
そのすべての言葉が深く、抉るように私に刺さる。
けれど、それを耳にしている千寿郎はもっともっと、深く傷ついていた。
大きな瞳に涙をいっぱいにためて、俯いていた。
これ以上聞かせたくなくて、その頭を耳を。抱きしめて塞ぐ。
それでも槇寿朗さんの酷い言葉は、千寿郎にも聞こえてしまっていた。
この様子では、私達が来るまでも毎日のように聞かされていた。
「酷い言葉だ!」
悲しい気持ちになる私や千寿郎とは反対に、炭治郎は違ったようだ。
家の者は、家長の言葉を耐えるしかない。
けれど家の者でないからこそ、炭治郎は身分も何も気にせず怒ってくれた。
だが、言い返してきた炭治郎の耳飾りを目にした彼は、酒瓶を割るほどの驚愕の表情をしてから一変。日の呼吸というものの使い手と思い込んで炭治郎に掴みかかった。
日の呼吸?その呼吸だと一体なんだというのか。
いやそれよりも炭治郎だ。今の炭治郎は、怪我人なのだ。千寿郎と二人がかりで槇寿朗さんを止めるべく間に入る。
「槇寿朗さん、やめてくださいっ」
「そうです!顔を見てください!その人は具合が悪いんですよ!」
取り押さえようとするが、千寿郎は殴り飛ばされ私は思い切り頬を叩かれた上で投げ飛ばされた。
さすが元柱だけはある。お酒は飲むし前線から退いて暫く経つというのに、全然力が衰えていない。
ビキ。
顔色が悪く動けないと思われた炭治郎の額に青筋が走る。
炭治郎は家族をすごくよく大事にしていると聞いた。実際、妹の禰󠄀豆子ちゃんをそれはもうとても大事にしている。
だからか、自分の子供を侮辱し手をあげる父親の姿が許せなかったらしい。
先ほどよりもさらに怒りをあらわにしている。
それでも槇寿朗さんは止まらなかった。日の呼吸という存在に執拗に拘り、呼吸の真実を叫ぶようにして聞かせる。
もしかしてこれこそが、無限列車の中で炭治郎が杏寿郎さんに聞いていたヒノカミ神楽のことなのではーー。
そう考えている間に、二人の口喧嘩はより苛烈になっていった。調子に乗るなとの言葉に、炭治郎が泣きながら糞爺とまでのたまい返す。
杏寿郎さんの悪口を散々言われたのだ。私も炭治郎のように他人だったなら、きっとそうしていた。いや、そうしたいと思うだけで、炭治郎のようにできるかと言われたら頷く事はできないけれど。
だがとうとう殴り合いになってしまった。
それは駄目だ。槇寿朗さんは元柱なのだ。炭治郎では勝てやしない。
今度こそ止めなくては!
そう思った瞬間、炭治郎が体を回転させながら、強烈な頭突きを槇寿朗さんに放った。
「「えっ」」
槇寿朗さんの額に強かに入り、頭蓋が割れたのではないかと思われるようなものすごい音が響く。
頭堅そうとは思ったけど、炭治郎って物理的にも頭硬いの?この人、元柱だよ?それを伸してしまうとは、どれだけ頭硬いんだろう……。
私と千寿郎は、思わずあんぐりと口を開け、顔を見合わせてから倒れた炭治郎、そして下敷きになった槇寿朗さんの様子を確認した。
……うん。見た通り、二人揃って気を失っている。
頭の硬さをそっと確認してみたけれど、うん、そうね……炭治郎の頭、めちゃくちゃ硬いわ。石頭というより、鉄頭と言ったほうがいいかも。
でも二人とも伸びている。槇寿朗さんは頭突きでだけど、炭治郎は元々の具合の悪さで倒れたようだった。