三周目 肆
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お茶を片手に食べてもらうと好物を口にしたからか、杏寿郎さんの口からは「美味い!」と「わっしょい!」の言葉が幾度にも渡って大音量で飛び出した。
隣にいると耳がキンキンする。ただ、もう何年も経験していることなので流石に慣れた。どうしてもの時は耳栓の用意もあるし。
そして声が大きいしうるさくなるからと、先手を打って蝶屋敷の方にはスイートポテトを献上してある。
任務に出ているのかしのぶも今はいないみたいで、他の人は少しうるさかろうと目をつぶってくれるそうだ。しのぶがいたら賄賂……ううん、お詫びの品があろうと「うるさいですよ?」ってツンツンしながら怒るもんね。
よほど騒がない限り、杏寿郎さんの入院している部屋に人がくることはしばらくないだろう。
「ごちそうさまでした!美味かったなぁ……!さつまいもの味噌汁以外にも好物の一つになりそうだ」
「ふふ。ぜひ好物に仲間入りさせてあげてくださいね」
容器を片付けてから杏寿郎さんに向かい合う。静かになった部屋の中、一呼吸をおいて言葉を紡ぐ。
「杏寿郎兄さん、今回なぜ貴方は怪我を負われたのですか?鬼殺の最中に気がそぞろだったと聞いております。油断するなど貴方らしくもない。
下手をすれば命を落とすところでしたよ」
私は貴方が死ぬなんて耐えられない。死んだらその跡を追う。かつてそう言ったのは冗談なんかではなく、真面目な話。
死んでなんて欲しくない。傷だって負って欲しくない。
なのに今回の油断。何が気になって負傷したのか知りたい。
私は貴方の憂いも悩みも全てなくしたい。
「気がそぞろか……」
目を閉じて考え込む仕草。
たっぷり数秒置いて、杏寿郎さんが真っ直ぐに見つめてきた。
「俺は朝緋のことを考えていた」
「え。私の、こと……?」
「ああ、寝ても覚めても。任務の最中も、君のことを考えていた。
考えても仕方のないと、そう思っていたのにな」
杏寿郎さんが身に纏う布団の敷布を強く握りしめる。私は黙って聞いた。
「嫌いと言われ悲しくてたまらなかったのに、考えれば考えるほど君を好きだと想う気持ちが大きくなっていって。この感情はどうしたものかとすごく悩んだ。
いやはや結論も出ずに困ってしまってな。
そうしたらこのざまだ!穴があったら入りたい!!」
「それは……嫌いなんて言ってごめんなさい。
嫌いなんかじゃないです。
私は言葉にしてはいけない言葉を口にしました。本当に申し訳ありませんでした」
深くお辞儀し謝る。
けれどそれは、他でもない杏寿郎さんに止められた。
「わかっていたとも。気にするな!
ただわかっていようともつらいものだったな!ははは!!」
いつもの快活な笑い声と共に言われた言葉。
怒りや悲しみはその言葉に乗っていない。もう過ぎたことだと、流されている。
よく出来たひとだな。私や槇寿朗さんと違うや。瑠火さんの血が濃いのかもしれない。
「もっと単純に考えればよかった。
なんのことはない。俺の、君を好きだという気持ちは変わりようがないのだ。朝緋が俺を嫌おうが憎もうが、それだけは変えようのない事実!考えるだけ無駄だった!」
宣言するかの如く言った後、手を取られる。
両手をしっかりと握られながら、一身に見つめてくる太陽の目。
「もう一度聞く。俺が柱になれたらでいい、俺との未来を考えてはくれないだろうか!
俺はただの兄にはもう戻れなさそうだ!
……こうして心に炎がついてしまったからな。この炎が消えることはありえん」
目の奥にははっきりくっきりと、綺麗なだけではない、情欲の炎がこちらを焼き尽くす勢いで燃え盛っていた。
ずっと見ていると取り込まれそう。
「…………私は煉獄家の娘ですから。貴方の妹です。貴方は兄です、師範です」
「…………………………」
「…………………………」
「……はあ。相変わらず頑なだな。
朝緋と俺の間には見えない壁があるように感じる」
「そう、ですね」
強さの違いという分厚い壁は元からあったけれど、とりわけ恋愛面においての壁は分厚く、そして透明。建造者は私だ。
パン!と杏寿郎さんが手を叩いた。
「よし!柱になってその壁、壊してみせよう!!」
相変わらず前向きだなぁ……。
ま、それでこそ私が愛する煉獄杏寿郎という男だ。
いつも向日葵のように、太陽のように周りを明るく照らすこの人が好きだ。
この気持ちだけは変わらない。
ただ、私は私の気持ちを表に出せないだけで。
少なくとも今は。
「やれるものなら。でもその前にその怪我を治してくださいね」
「あいわかった!」
杏寿郎さんが復帰する頃、蜜璃が最終選別に挑みそして隊士になった。『前』と同じ、半年でというかなりの早さだ。
お祝いとして鍛錬ついでに花見の催しや、真っ白な羽織を贈って。これで一介の隊士としてのスタートを切る。
もう妹弟子じゃない。共に鬼殺隊で戦う仲間だ。
……彼女のことだからすぐ階級が上がって、柱に上り詰めるだろうなぁ。
そのことに『前』と同様の僅かな嫉妬心を抱きつつ、杏寿郎さんが蜜璃や他の隊士たちと共に合同の任務に当たった。
鬼殺隊では怪我に事欠かない。
またもや怪我を負ったが、相手は下弦の弐だったようで杏寿郎さんは討伐の功績を讃えられ柱になった。
柱でなくなった槇寿朗さんが今回どう感じているのかが心配だけれど、これで新しく。
『炎柱』
が誕生した。
隣にいると耳がキンキンする。ただ、もう何年も経験していることなので流石に慣れた。どうしてもの時は耳栓の用意もあるし。
そして声が大きいしうるさくなるからと、先手を打って蝶屋敷の方にはスイートポテトを献上してある。
任務に出ているのかしのぶも今はいないみたいで、他の人は少しうるさかろうと目をつぶってくれるそうだ。しのぶがいたら賄賂……ううん、お詫びの品があろうと「うるさいですよ?」ってツンツンしながら怒るもんね。
よほど騒がない限り、杏寿郎さんの入院している部屋に人がくることはしばらくないだろう。
「ごちそうさまでした!美味かったなぁ……!さつまいもの味噌汁以外にも好物の一つになりそうだ」
「ふふ。ぜひ好物に仲間入りさせてあげてくださいね」
容器を片付けてから杏寿郎さんに向かい合う。静かになった部屋の中、一呼吸をおいて言葉を紡ぐ。
「杏寿郎兄さん、今回なぜ貴方は怪我を負われたのですか?鬼殺の最中に気がそぞろだったと聞いております。油断するなど貴方らしくもない。
下手をすれば命を落とすところでしたよ」
私は貴方が死ぬなんて耐えられない。死んだらその跡を追う。かつてそう言ったのは冗談なんかではなく、真面目な話。
死んでなんて欲しくない。傷だって負って欲しくない。
なのに今回の油断。何が気になって負傷したのか知りたい。
私は貴方の憂いも悩みも全てなくしたい。
「気がそぞろか……」
目を閉じて考え込む仕草。
たっぷり数秒置いて、杏寿郎さんが真っ直ぐに見つめてきた。
「俺は朝緋のことを考えていた」
「え。私の、こと……?」
「ああ、寝ても覚めても。任務の最中も、君のことを考えていた。
考えても仕方のないと、そう思っていたのにな」
杏寿郎さんが身に纏う布団の敷布を強く握りしめる。私は黙って聞いた。
「嫌いと言われ悲しくてたまらなかったのに、考えれば考えるほど君を好きだと想う気持ちが大きくなっていって。この感情はどうしたものかとすごく悩んだ。
いやはや結論も出ずに困ってしまってな。
そうしたらこのざまだ!穴があったら入りたい!!」
「それは……嫌いなんて言ってごめんなさい。
嫌いなんかじゃないです。
私は言葉にしてはいけない言葉を口にしました。本当に申し訳ありませんでした」
深くお辞儀し謝る。
けれどそれは、他でもない杏寿郎さんに止められた。
「わかっていたとも。気にするな!
ただわかっていようともつらいものだったな!ははは!!」
いつもの快活な笑い声と共に言われた言葉。
怒りや悲しみはその言葉に乗っていない。もう過ぎたことだと、流されている。
よく出来たひとだな。私や槇寿朗さんと違うや。瑠火さんの血が濃いのかもしれない。
「もっと単純に考えればよかった。
なんのことはない。俺の、君を好きだという気持ちは変わりようがないのだ。朝緋が俺を嫌おうが憎もうが、それだけは変えようのない事実!考えるだけ無駄だった!」
宣言するかの如く言った後、手を取られる。
両手をしっかりと握られながら、一身に見つめてくる太陽の目。
「もう一度聞く。俺が柱になれたらでいい、俺との未来を考えてはくれないだろうか!
俺はただの兄にはもう戻れなさそうだ!
……こうして心に炎がついてしまったからな。この炎が消えることはありえん」
目の奥にははっきりくっきりと、綺麗なだけではない、情欲の炎がこちらを焼き尽くす勢いで燃え盛っていた。
ずっと見ていると取り込まれそう。
「…………私は煉獄家の娘ですから。貴方の妹です。貴方は兄です、師範です」
「…………………………」
「…………………………」
「……はあ。相変わらず頑なだな。
朝緋と俺の間には見えない壁があるように感じる」
「そう、ですね」
強さの違いという分厚い壁は元からあったけれど、とりわけ恋愛面においての壁は分厚く、そして透明。建造者は私だ。
パン!と杏寿郎さんが手を叩いた。
「よし!柱になってその壁、壊してみせよう!!」
相変わらず前向きだなぁ……。
ま、それでこそ私が愛する煉獄杏寿郎という男だ。
いつも向日葵のように、太陽のように周りを明るく照らすこの人が好きだ。
この気持ちだけは変わらない。
ただ、私は私の気持ちを表に出せないだけで。
少なくとも今は。
「やれるものなら。でもその前にその怪我を治してくださいね」
「あいわかった!」
杏寿郎さんが復帰する頃、蜜璃が最終選別に挑みそして隊士になった。『前』と同じ、半年でというかなりの早さだ。
お祝いとして鍛錬ついでに花見の催しや、真っ白な羽織を贈って。これで一介の隊士としてのスタートを切る。
もう妹弟子じゃない。共に鬼殺隊で戦う仲間だ。
……彼女のことだからすぐ階級が上がって、柱に上り詰めるだろうなぁ。
そのことに『前』と同様の僅かな嫉妬心を抱きつつ、杏寿郎さんが蜜璃や他の隊士たちと共に合同の任務に当たった。
鬼殺隊では怪我に事欠かない。
またもや怪我を負ったが、相手は下弦の弐だったようで杏寿郎さんは討伐の功績を讃えられ柱になった。
柱でなくなった槇寿朗さんが今回どう感じているのかが心配だけれど、これで新しく。
『炎柱』
が誕生した。