三周目 肆
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ちょっと言いすぎた感はあるけどまあいいか。
どちらかというと杏寿郎さんよりも蜜璃に悪いことちゃったかもしれない。せっかくセッティングもしてくれたのに。
罪悪感が湧く。
「せっかくのお休みなんだし残りの時間は芋のお菓子でも作ろうかな。……杏寿郎さんにはあげないけど」
料理を作ってあげない云々は本当のことだ。そう、しばらくはね。
生家に帰ると、蜜璃が笑顔で駆け寄ってきた。笑顔の理由はわかるけど、ごめんね。
期待には応えられないんだ。
「おかえり朝緋ちゃん!どうだっ……」
私の顔を見て、一瞬で固まる。
「…………た?」
「蜜璃ちゃん……良かれと思ってしたんだろうからいいけど、もうこんなことしないでね。お願いだから」
「……何があったのか、聞いてもいいかしら?」
何があったか。
あったことの各所各所を思い出すと、ちょっと不機嫌な、でも心の底では少し嬉しいような不思議な感覚に襲われる。
私の背後から湧き出す、ずもももも……とした正体不明の黒い空気を見て、蜜璃が一歩下がった。
こほん。ここは、あった事のみを簡単に伝えるべき。
「ンー。無理やり接吻されそうになったし「エッ!?」言い争いになった。挙句お店から追い出されたの。もうあのお店恥ずかしくて行けないわ。せっかく美味しいプリンアラモードがあったのになぁ」
もう少し食べたかった。その恨みだけは変えようのない事実で、金輪際忘れない。
何度も言うけど食べ物の恨みは恐ろしい。
「ちょっと……いやかなり疲れちゃった。任務より疲れたかも」
「そう……ごめんなさい。私が余計な気を回したせいだよね」
「ううんいいの。その気持ちは嬉しかったから」
本当はハグの一つでもしたいけれど、蜜璃は鍛錬のせいか私の上背を超えたのでしにくくなった。代わりに両手をぎゅうぎゅう握って感謝を伝える。
私のこの炎の呼吸の温かさで気持ちも伝わると嬉しい。
「これからね、せっかく丸々一日お休みだからおやつを作ろうと思うの。蜜璃ちゃんと一緒にお茶もできなかったし……。
蜜璃ちゃん、食べてくれる?」
「おやつ!もちろん!!
まだ今日の分の素振りが残っているから、急いで終わらせてくるわ!!」
言うが早いか、ばびゅん!とものすごい速さで庭に駆けていく蜜璃。おーい、木刀置いていってるよ。
「ん。作って待ってるから慌てないでやってね」
すぐ取りに来たけれど慌てん坊さんだな。
そう言って私が作ったのは、九州地方の郷土料理が一つ。粒餡と厚切りの芋の入ったお饅頭のようなお餅のような菓子。いきなり団子だ。
もちっとした薄い皮に、ほんのり塩気の利いた粒餡、ほくほくねっとり食べ応え抜群の分厚いさつま芋。杏寿郎さんが絶対喜ぶやつ。
なんでこのチョイスかって?丁度蒸し上がる頃に、しょぼくれた杏寿郎さんが帰ってくると踏んだからだ。
「蒸し上がりの湯気からしていい匂いね!」
「でしょでしょ?食べるともっといい匂いと味なの」
出来上がったそれを二人で食べる。次々食べる。
……杏寿郎さんが帰ってきた目の前で。
「んんん!何これおいっしー!!」
「うん、よく出来てる。どこかの誰かさんが食べたらわっしょいって言うのは確実だわ」
じゅる。
すぐ近くで涎の音が聞こえるが無視だ。
底意地が悪い?ふん、何とでも言うがいい。
これは杏寿郎さんへの仕返しの一つだもーん。言ったでしょ?芋料理はあげないと。
これでも私、まだ杏寿郎さんには怒っているのだ。
「朝緋、俺も食べたいのだが……!」
ついに声をかけられた。
つーん。素気ないどころか、そっぽを向く私。
「うう、朝緋…………」
それを見て、おろおろと居た堪れない顔で、だけれどいきなり団子を頬張るのをやめない千寿郎。この子は学校から帰る途中に杏寿郎さんと会ったのか、一緒に帰ってきた。
「芋の菓子をくれぬとは、君は本当に怒っているのだな」
「………………」
「せめて返事くらいはしてくれ!?」
返事をせずそっぽを向いたまま頬張り続ける、栗鼠のような状態の私に根をあげ、杏寿郎さんが蜜璃に助けを求めた。
「甘露寺も朝緋に言ってくれまいか!というか君ばかり食べていてずるいぞ!?」
「だって美味しいんですもの〜!
師範、朝緋ちゃんから聞きましたよ。無理矢理はいけないと思います!!」
菓子の代わりに指を突きつける。
「だからこのお菓子は私も師範にあげられません〜」
ばくばくばくっ!
そして杏寿郎さんの分を平らげる時の如く、頬張った。
「くぅっ……千寿郎〜!」
今度は千寿郎に泣きついている。前髪も眉毛もへにょへにょ下がっているから相当堪えているようだ。
見かねた千寿郎が、くいくいと私の袖を引いた。千寿郎は優しい。
「姉上、兄上に一つくらいあげても……こんなにあるのですから」
「千寿郎、師範にあげちゃ駄目ですよ。
そちらは父様に差し上げる分と仏壇にお供えする分です。わかりましたか?」
袖を引かれたので、その手にお盆を乗せる。槇寿朗さんと仏様の分のお茶といきなり団子が乗った盆だ。
「うっ、わかりました……」
眉を下げた千寿郎に続くように、ガッカリしきった杏寿郎さんがふらふらと部屋を出ていく。
「よもや……。俺は藤の家に行くとする。そこから任務に行く……」
そう言い残して。
はあ、とため息一つ。襷掛けを解いた私は杏寿郎さんを追い、包んでいたそれをお渡しする。
「待ってください。どうぞ」
呼び止められたことが嬉しいのか、満面の笑みだ。ウッ眩しい……。
「これは?」
「おむすびです」
そう、結局作ってしまったのだ。私の覚悟は甘い。
「おおありがとう!嬉しいぞ!この多さ、あの菓子もあるのか?」
「ないですよ」
「一つもか?」
「ないですよ。
………………一つあげます」
負けた。
「ありがとう!行ってくる!次までにはその機嫌を直していてくれると助かる!!」
機嫌が悪いわけじゃないし、その笑みに負けただけでまだ許してませんが??
どちらかというと杏寿郎さんよりも蜜璃に悪いことちゃったかもしれない。せっかくセッティングもしてくれたのに。
罪悪感が湧く。
「せっかくのお休みなんだし残りの時間は芋のお菓子でも作ろうかな。……杏寿郎さんにはあげないけど」
料理を作ってあげない云々は本当のことだ。そう、しばらくはね。
生家に帰ると、蜜璃が笑顔で駆け寄ってきた。笑顔の理由はわかるけど、ごめんね。
期待には応えられないんだ。
「おかえり朝緋ちゃん!どうだっ……」
私の顔を見て、一瞬で固まる。
「…………た?」
「蜜璃ちゃん……良かれと思ってしたんだろうからいいけど、もうこんなことしないでね。お願いだから」
「……何があったのか、聞いてもいいかしら?」
何があったか。
あったことの各所各所を思い出すと、ちょっと不機嫌な、でも心の底では少し嬉しいような不思議な感覚に襲われる。
私の背後から湧き出す、ずもももも……とした正体不明の黒い空気を見て、蜜璃が一歩下がった。
こほん。ここは、あった事のみを簡単に伝えるべき。
「ンー。無理やり接吻されそうになったし「エッ!?」言い争いになった。挙句お店から追い出されたの。もうあのお店恥ずかしくて行けないわ。せっかく美味しいプリンアラモードがあったのになぁ」
もう少し食べたかった。その恨みだけは変えようのない事実で、金輪際忘れない。
何度も言うけど食べ物の恨みは恐ろしい。
「ちょっと……いやかなり疲れちゃった。任務より疲れたかも」
「そう……ごめんなさい。私が余計な気を回したせいだよね」
「ううんいいの。その気持ちは嬉しかったから」
本当はハグの一つでもしたいけれど、蜜璃は鍛錬のせいか私の上背を超えたのでしにくくなった。代わりに両手をぎゅうぎゅう握って感謝を伝える。
私のこの炎の呼吸の温かさで気持ちも伝わると嬉しい。
「これからね、せっかく丸々一日お休みだからおやつを作ろうと思うの。蜜璃ちゃんと一緒にお茶もできなかったし……。
蜜璃ちゃん、食べてくれる?」
「おやつ!もちろん!!
まだ今日の分の素振りが残っているから、急いで終わらせてくるわ!!」
言うが早いか、ばびゅん!とものすごい速さで庭に駆けていく蜜璃。おーい、木刀置いていってるよ。
「ん。作って待ってるから慌てないでやってね」
すぐ取りに来たけれど慌てん坊さんだな。
そう言って私が作ったのは、九州地方の郷土料理が一つ。粒餡と厚切りの芋の入ったお饅頭のようなお餅のような菓子。いきなり団子だ。
もちっとした薄い皮に、ほんのり塩気の利いた粒餡、ほくほくねっとり食べ応え抜群の分厚いさつま芋。杏寿郎さんが絶対喜ぶやつ。
なんでこのチョイスかって?丁度蒸し上がる頃に、しょぼくれた杏寿郎さんが帰ってくると踏んだからだ。
「蒸し上がりの湯気からしていい匂いね!」
「でしょでしょ?食べるともっといい匂いと味なの」
出来上がったそれを二人で食べる。次々食べる。
……杏寿郎さんが帰ってきた目の前で。
「んんん!何これおいっしー!!」
「うん、よく出来てる。どこかの誰かさんが食べたらわっしょいって言うのは確実だわ」
じゅる。
すぐ近くで涎の音が聞こえるが無視だ。
底意地が悪い?ふん、何とでも言うがいい。
これは杏寿郎さんへの仕返しの一つだもーん。言ったでしょ?芋料理はあげないと。
これでも私、まだ杏寿郎さんには怒っているのだ。
「朝緋、俺も食べたいのだが……!」
ついに声をかけられた。
つーん。素気ないどころか、そっぽを向く私。
「うう、朝緋…………」
それを見て、おろおろと居た堪れない顔で、だけれどいきなり団子を頬張るのをやめない千寿郎。この子は学校から帰る途中に杏寿郎さんと会ったのか、一緒に帰ってきた。
「芋の菓子をくれぬとは、君は本当に怒っているのだな」
「………………」
「せめて返事くらいはしてくれ!?」
返事をせずそっぽを向いたまま頬張り続ける、栗鼠のような状態の私に根をあげ、杏寿郎さんが蜜璃に助けを求めた。
「甘露寺も朝緋に言ってくれまいか!というか君ばかり食べていてずるいぞ!?」
「だって美味しいんですもの〜!
師範、朝緋ちゃんから聞きましたよ。無理矢理はいけないと思います!!」
菓子の代わりに指を突きつける。
「だからこのお菓子は私も師範にあげられません〜」
ばくばくばくっ!
そして杏寿郎さんの分を平らげる時の如く、頬張った。
「くぅっ……千寿郎〜!」
今度は千寿郎に泣きついている。前髪も眉毛もへにょへにょ下がっているから相当堪えているようだ。
見かねた千寿郎が、くいくいと私の袖を引いた。千寿郎は優しい。
「姉上、兄上に一つくらいあげても……こんなにあるのですから」
「千寿郎、師範にあげちゃ駄目ですよ。
そちらは父様に差し上げる分と仏壇にお供えする分です。わかりましたか?」
袖を引かれたので、その手にお盆を乗せる。槇寿朗さんと仏様の分のお茶といきなり団子が乗った盆だ。
「うっ、わかりました……」
眉を下げた千寿郎に続くように、ガッカリしきった杏寿郎さんがふらふらと部屋を出ていく。
「よもや……。俺は藤の家に行くとする。そこから任務に行く……」
そう言い残して。
はあ、とため息一つ。襷掛けを解いた私は杏寿郎さんを追い、包んでいたそれをお渡しする。
「待ってください。どうぞ」
呼び止められたことが嬉しいのか、満面の笑みだ。ウッ眩しい……。
「これは?」
「おむすびです」
そう、結局作ってしまったのだ。私の覚悟は甘い。
「おおありがとう!嬉しいぞ!この多さ、あの菓子もあるのか?」
「ないですよ」
「一つもか?」
「ないですよ。
………………一つあげます」
負けた。
「ありがとう!行ってくる!次までにはその機嫌を直していてくれると助かる!!」
機嫌が悪いわけじゃないし、その笑みに負けただけでまだ許してませんが??