三周目 肆
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そうして届いたのはプリンアラモードと、クリームソーダが二人分だ。喫茶店の王道ね。
ちょっと固めのイタリアンプリンに、生クリーム、フルーツ。シュワシュワグリーンのソーダ水に、アイスクリーム。
どれも美味しくって私の好物ばかり。
特にこのソーダの上に乗ったアイスクリーム……ああ、最高。ちょっと溶けたところを飲むソーダ部分もまた最高に美味しい。
「美味い!美味い!」
杏寿郎さんは特にプリンアラモードが気に入ったみたいで、おかわりを頼むその勢いは、ピンク色をした丸い暴食の生き物もかくや。
って……!杏寿郎さんが上に乗ったさくらんぼを丸ごと食べた。
「ちょっとちょっと、杏寿郎兄さん。さくらんぼは軸を取って種を出してよ?」
「ん?ああそうだったな」
もごもごもご。ぷっ。
おしぼりの上に杏寿郎さんが吐き出した種と軸が見えてしまった。
軸が普通の状態と違う。
「む、結び目がある!?」
「何を今更。普通だろう?」
さも当然のように言ってるよこの人!
「普通って何……さくらんぼの軸結べちゃうとか、キスが上手い人の特徴じゃん……。ヒェッ、煉獄杏寿郎、恐ろしい子……!」
「キス?鱚の天ぷらは美味いが、この店に天ぷらは無さそうだぞ?」
つい口から気持ちがまろび出たわ。おかげでまた、杏寿郎さんに聞かれてよくある王道の勘違いをされた。
「ああもう!キスってのは違うキス!接吻のことで……、あ!」
「……………………」
「……………………」
超超超、余計なことを言ってしまった。しばしの無言。
「ふうむ、ということはだ。朝緋は俺が接吻が上手いと想像したのか……。
なら試してみようか。そのキスとやらを」
にんまり笑みを浮かべた杏寿郎さんの、ほんのり甘い匂いのする唇がずずいと近づいてくる。すぐ後ろが壁状態は続いており、逃げる事は不可能で。
「待て待て待て、ねぇ待って?
ここどこだと思ってるんですか往来ですカフェですそして私は妹です!」
なるべく小声で、だがしかし強く拒否する。手のひらで杏寿郎さんの唇を遮って。
ちゅ。ぴちゃ。
ぎゃあ!?
遮った手のひらに甘味で少し冷えた唇が当たり、リップ音。キスされ更には濡れた舌先で舐められた!!
「興味があるからそんなことを言った、違うか?」
ギラついた目が指の隙間から見えた。
体が警戒心で勝手に鳥肌を立てる。私が獣だったならきっと全身の毛がブワーッと逆立っていただろう。
「違う違う!世間一般の女性陣が色恋のお話をするのと同じように、ちょっとした迷信について話したってだけ!私個人はそんなの興味ない!さっき言ったよね!?」
つい声が大きくなる。
「俺は興味がある!君が変なことを言ったからだ!!」
同じように杏寿郎さんの声も大きくなった。けれど私は止まらない。
「私のせいですか!?」
「ああ、おかげで俺は今すぐ口吸いがしたい!!」
杏寿郎さんの声も止まらず大きいまま。
「そういうのは恋仲の人とやってくださ、ぎゃあ!強引すぎる!!」
今すぐというのは本当のようで、手は払い除けられ頬を、いや、顔を両方から掴まれた。
引き寄せられる!
「君が恋仲になってくれなくては俺に好い人は出来ない!」
「イダダダダ!!離して!?」
言葉は胸にきゅんきゅんして絆されそうなそれだけど、行動が駄目だ。
掴みかかる勢いで顔が痛い。なんなら髪も指に絡まって痛い。
「俺も痛いええい離せ朝緋!」
無理やり引き寄せられそうになった私も負けじと杏寿郎さんの顔、そして髪を掴んで引き離そうとするもんだから収拾がつかない。どちらも痛い状態だ。
「あいたぁっ!そっちが先に離してよ!」
「イッ……つぅ!?俺からは絶対に離さん!!」
至近距離で掴み合いの喧嘩をしている席があるという事で、給仕や客だけでなく店主の目に余るものと認識されたらしい。
「痴話喧嘩ならば外の目立たないところでやっていただけますかな?」
笑顔だが額に青筋を立てた店主らしき男性にそう言われた。
「ああほら!お店から追い出されちゃったじゃん!私あと三杯は食べたかったのに!!」
「よもや!俺のせいか!?俺だってあと五杯、いや、七杯は食べたかったんだ!!」
食べ物の恨みは根深い。それは万国共通で、そして食事を大事にする煉獄家……私と杏寿郎さんではより根深い。
カフェーを出た後も、私達は歩きながら喧嘩していた。隊服ならば手や足が出た取っ組み合いの喧嘩にまで発展していたかもしれない。
それ鍛錬と変わらないか。
「大体なぜ朝緋はそこまで頑ななんだ!?君は俺のことが嫌いなのか!」
「嫌いなわけないじゃないですか!!兄ですよ!あ、に!家族なんだから好きに決まってんでしょーが!!」
バキッ!
隊服じゃないのについ手が出た。着物を着た杏寿郎さんの背中に拳を打ち込む。
炎の呼吸こぶしの型、右フック!という名の激しいツッコミ。
後ろからのいきなりの強い打撃に少し杏寿郎さんの上体が傾いだ。振り向いたその顔には青筋が立っている。
「ほおおおお?ここにきて兄扱いか!相変わらず君は酷いおなごだ!!
男性の心を弄ぶその考え!少し改めてもらわねばならないようだな!!考えが変わるまで俺の壱ノ型を凌ぎ続ける修行をしてもらおうか?ん!?」
頭をガシリと掴まれた!
イダダダダ!!そのまま持ち上げるとかやーめーてー!!簪取れる!!
えっそこ?って思うかもしれないけれど簪大事!!
「かっ考えが変わるまで凌ぐって永遠にって事!?無茶言わないでよほんっと強引!!
私、杏寿郎兄さんのそういう強引なとこ嫌い!!」
嫌い。
その言葉を耳にした瞬間、杏寿郎さんの手が緩んで頭が抜けた。
……手どころじゃない。体全体固まっている。『思考停止』、その言葉が似合う程に。
「き、嫌い……、朝緋、今君は、俺を嫌いと言ったか……?」
「ええ、言いました!私は恋人を作る気も、恋をする気もないのに、しつこいです。
しつこい人は嫌いです!!
お兄さんな杏寿郎兄さんは好きですけど、今の男の人の杏寿郎兄さんは……、嫌い!!」
『雷に打たれたかのような衝撃が走った』。
そんな表現が似合う顔の杏寿郎さん。
傍目からは「え?いつもと変わらない顔じゃない?」と言われそうだけれど、そうじゃない。
これはショックを覚えている時の顔だ。
「もうご飯作らない!お芋料理も作らない!!ずっとずーっと、兄さんどころか師範って呼ぶし任務の時しか口聞かない!!」
「よ、よもやぁ……」
へにょへにょへにょーん……。
その場にがっくり項垂れる杏寿郎さんを残し、私は歩き去った。
振り向きはしない。
振り向いてもし捨てられたチワワみたいな顔でも向けられてみろ。
私はすぐさま前言撤回してしまうだろう。杏寿郎さんを許してしまうだろう。
そうなればまた杏寿郎さんの策に引っかかり、あれよあれよの間に気がついたら恋仲の位置に収まっている……なんて事もあり得る。
あの人は柱になるほどの男だからか頭もいい。油断したら手のひらの上で転がされてしまう。
ちょっと固めのイタリアンプリンに、生クリーム、フルーツ。シュワシュワグリーンのソーダ水に、アイスクリーム。
どれも美味しくって私の好物ばかり。
特にこのソーダの上に乗ったアイスクリーム……ああ、最高。ちょっと溶けたところを飲むソーダ部分もまた最高に美味しい。
「美味い!美味い!」
杏寿郎さんは特にプリンアラモードが気に入ったみたいで、おかわりを頼むその勢いは、ピンク色をした丸い暴食の生き物もかくや。
って……!杏寿郎さんが上に乗ったさくらんぼを丸ごと食べた。
「ちょっとちょっと、杏寿郎兄さん。さくらんぼは軸を取って種を出してよ?」
「ん?ああそうだったな」
もごもごもご。ぷっ。
おしぼりの上に杏寿郎さんが吐き出した種と軸が見えてしまった。
軸が普通の状態と違う。
「む、結び目がある!?」
「何を今更。普通だろう?」
さも当然のように言ってるよこの人!
「普通って何……さくらんぼの軸結べちゃうとか、キスが上手い人の特徴じゃん……。ヒェッ、煉獄杏寿郎、恐ろしい子……!」
「キス?鱚の天ぷらは美味いが、この店に天ぷらは無さそうだぞ?」
つい口から気持ちがまろび出たわ。おかげでまた、杏寿郎さんに聞かれてよくある王道の勘違いをされた。
「ああもう!キスってのは違うキス!接吻のことで……、あ!」
「……………………」
「……………………」
超超超、余計なことを言ってしまった。しばしの無言。
「ふうむ、ということはだ。朝緋は俺が接吻が上手いと想像したのか……。
なら試してみようか。そのキスとやらを」
にんまり笑みを浮かべた杏寿郎さんの、ほんのり甘い匂いのする唇がずずいと近づいてくる。すぐ後ろが壁状態は続いており、逃げる事は不可能で。
「待て待て待て、ねぇ待って?
ここどこだと思ってるんですか往来ですカフェですそして私は妹です!」
なるべく小声で、だがしかし強く拒否する。手のひらで杏寿郎さんの唇を遮って。
ちゅ。ぴちゃ。
ぎゃあ!?
遮った手のひらに甘味で少し冷えた唇が当たり、リップ音。キスされ更には濡れた舌先で舐められた!!
「興味があるからそんなことを言った、違うか?」
ギラついた目が指の隙間から見えた。
体が警戒心で勝手に鳥肌を立てる。私が獣だったならきっと全身の毛がブワーッと逆立っていただろう。
「違う違う!世間一般の女性陣が色恋のお話をするのと同じように、ちょっとした迷信について話したってだけ!私個人はそんなの興味ない!さっき言ったよね!?」
つい声が大きくなる。
「俺は興味がある!君が変なことを言ったからだ!!」
同じように杏寿郎さんの声も大きくなった。けれど私は止まらない。
「私のせいですか!?」
「ああ、おかげで俺は今すぐ口吸いがしたい!!」
杏寿郎さんの声も止まらず大きいまま。
「そういうのは恋仲の人とやってくださ、ぎゃあ!強引すぎる!!」
今すぐというのは本当のようで、手は払い除けられ頬を、いや、顔を両方から掴まれた。
引き寄せられる!
「君が恋仲になってくれなくては俺に好い人は出来ない!」
「イダダダダ!!離して!?」
言葉は胸にきゅんきゅんして絆されそうなそれだけど、行動が駄目だ。
掴みかかる勢いで顔が痛い。なんなら髪も指に絡まって痛い。
「俺も痛いええい離せ朝緋!」
無理やり引き寄せられそうになった私も負けじと杏寿郎さんの顔、そして髪を掴んで引き離そうとするもんだから収拾がつかない。どちらも痛い状態だ。
「あいたぁっ!そっちが先に離してよ!」
「イッ……つぅ!?俺からは絶対に離さん!!」
至近距離で掴み合いの喧嘩をしている席があるという事で、給仕や客だけでなく店主の目に余るものと認識されたらしい。
「痴話喧嘩ならば外の目立たないところでやっていただけますかな?」
笑顔だが額に青筋を立てた店主らしき男性にそう言われた。
「ああほら!お店から追い出されちゃったじゃん!私あと三杯は食べたかったのに!!」
「よもや!俺のせいか!?俺だってあと五杯、いや、七杯は食べたかったんだ!!」
食べ物の恨みは根深い。それは万国共通で、そして食事を大事にする煉獄家……私と杏寿郎さんではより根深い。
カフェーを出た後も、私達は歩きながら喧嘩していた。隊服ならば手や足が出た取っ組み合いの喧嘩にまで発展していたかもしれない。
それ鍛錬と変わらないか。
「大体なぜ朝緋はそこまで頑ななんだ!?君は俺のことが嫌いなのか!」
「嫌いなわけないじゃないですか!!兄ですよ!あ、に!家族なんだから好きに決まってんでしょーが!!」
バキッ!
隊服じゃないのについ手が出た。着物を着た杏寿郎さんの背中に拳を打ち込む。
炎の呼吸こぶしの型、右フック!という名の激しいツッコミ。
後ろからのいきなりの強い打撃に少し杏寿郎さんの上体が傾いだ。振り向いたその顔には青筋が立っている。
「ほおおおお?ここにきて兄扱いか!相変わらず君は酷いおなごだ!!
男性の心を弄ぶその考え!少し改めてもらわねばならないようだな!!考えが変わるまで俺の壱ノ型を凌ぎ続ける修行をしてもらおうか?ん!?」
頭をガシリと掴まれた!
イダダダダ!!そのまま持ち上げるとかやーめーてー!!簪取れる!!
えっそこ?って思うかもしれないけれど簪大事!!
「かっ考えが変わるまで凌ぐって永遠にって事!?無茶言わないでよほんっと強引!!
私、杏寿郎兄さんのそういう強引なとこ嫌い!!」
嫌い。
その言葉を耳にした瞬間、杏寿郎さんの手が緩んで頭が抜けた。
……手どころじゃない。体全体固まっている。『思考停止』、その言葉が似合う程に。
「き、嫌い……、朝緋、今君は、俺を嫌いと言ったか……?」
「ええ、言いました!私は恋人を作る気も、恋をする気もないのに、しつこいです。
しつこい人は嫌いです!!
お兄さんな杏寿郎兄さんは好きですけど、今の男の人の杏寿郎兄さんは……、嫌い!!」
『雷に打たれたかのような衝撃が走った』。
そんな表現が似合う顔の杏寿郎さん。
傍目からは「え?いつもと変わらない顔じゃない?」と言われそうだけれど、そうじゃない。
これはショックを覚えている時の顔だ。
「もうご飯作らない!お芋料理も作らない!!ずっとずーっと、兄さんどころか師範って呼ぶし任務の時しか口聞かない!!」
「よ、よもやぁ……」
へにょへにょへにょーん……。
その場にがっくり項垂れる杏寿郎さんを残し、私は歩き去った。
振り向きはしない。
振り向いてもし捨てられたチワワみたいな顔でも向けられてみろ。
私はすぐさま前言撤回してしまうだろう。杏寿郎さんを許してしまうだろう。
そうなればまた杏寿郎さんの策に引っかかり、あれよあれよの間に気がついたら恋仲の位置に収まっている……なんて事もあり得る。
あの人は柱になるほどの男だからか頭もいい。油断したら手のひらの上で転がされてしまう。