三周目 肆
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鬼との戦いはより苛烈なものになり、疲弊していた矢先。やっとこさ非番が決まって再び蜜璃にカフェーへと誘われた。
やったー!可愛い妹弟子とお茶だーい!!癒しの時間がやって参りましたー!!
私の最近の癒しは千寿郎と蜜璃です、キリッ!
今度はどんなカフェーに連れて行って貰えるのだろう。この時のワクワクは忘れられない……うう、それがまさかこんな形で裏切り……ぐすん。
「待ち合わせはこのカフェーかあ……先に入っていて、と言われたけども」
気に入っている着物を着ていくように。お洒落をするように。と言われ着付けてきた着物。
お気に入りなんてもの鬼殺隊にいるとそう増やせないので、結局のところ以前杏寿郎さんがくれたものばかりで統一することになってしまった。
彼、良いお値段して良いものをプレゼントする上に、確実に私が好きそうで似合うものを贈ってくるんだよねぇ……。なんかこう、全てを把握されているというか見透かされているというか。
一緒に暮らしてきた妹だから当たり前か。うん、そういうことにしておこう。
淡く明るい色の着物に差し色の同系色。硝子細工の髪飾り。
気がつけば上から下まで杏寿郎さんセレクト。トータルいくらだろう、計算したくない。
あの人ったら初給金で何やってんだと、今更ながら思う。受け取る私も私か。
カフェーの中でお冷や片手に蜜璃を待つこと四半刻弱。頭の上に影ができて、彼女が到着したと知る。
だけれどそこにいたのは蜜璃じゃなかった。
「や!待たせたな朝緋!!」
アッこのパターン知ってる!!初任務の時と同じじゃん!!!!
「……どういうことですか杏寿郎兄さん」
杏寿郎さんがくるなんて聞いてないぞ!?
蜜璃?蜜璃はどこだ!?
「甘露寺に頼んだ!彼女は来ない!」
カンロジニタノンダ?カノジヨハコナイ?
なるほどわかった、好きな人とカフェーでお茶したいって私が答えたあの時から、蜜璃はすでに杏寿郎さんの協力者だったんだ!!
蜜璃の策略かー!!……おのれ謀ったな蜜璃ぃ!!
蜜璃がウインクして舌をぺろっと出している光景が頭の中に浮かんだ。
「いやなに、俺が朝緋と逢引したいと言ったら、甘露寺が一肌脱いでくれてな。君もこうして逢引をしたいそうだと聞いてきてくれてこの場を設けることができた。
……朝緋、今日という今日は勝手に帰ってくれるなよ?」
「帰るも何も、私は蜜璃とおやつを食べに来るはずでしたし、何よりこの着物姿。下手に走れませんしここはカフェーの中ですから逃げるなんてとてもとても……」
「そうか!ならよかった!!」
杏寿郎さんの言葉に不穏な影を感じたので、逃げるのは諦めた。
ここは大人しくしていよう。
着物姿で走るのも実際本当に面倒だ。あとお腹すいた。ここ最重要ポインツ。
「杏寿郎兄さんもお休みの日なのですか?」
上着を脱いで椅子にかけ始めた彼に、なんの気無しに聞く。
「ああそうだ。君に合わせて非番を取らせてもらったんだ。休みを取るためにこれまで任務を多々入れてもらって多少無理をしてしまったが……どうということはない」
「その際怪我は?」
「今はしていないな!」
うん。たしかに怪我はなさそう……そして、上着を脱いだ杏寿郎さんかっこいい。
隊服じゃない!私服じゃん!!その着物見たことないよいつ仕立てたの?かっこいい!!
ついぽやーっと、見惚れてしまう。どんなに隠しても隠しきれない私の気持ちはこういうところからバレるのだ。
「座らせてもらおう」
「はい〜。
って、ちょっ!?なんで向かいじゃなくって隣に座るの!!」
杏寿郎さんは向こうの椅子に上着をかけただけ。本人は私の隣の椅子に腰掛けた。うっわほぼゼロ距離!!
「杏寿郎兄さん、向こうに座ってよ。狭い」
「これは逢引だぞ、逢引。ここにきてまで兄さん呼びとは……いけない子だな」
髪の毛を一房とられた。それをどこか愛おしげにするすると指で弄びながら、低く声をかけてくる。
くうう!駄目よ、流されるな。声が低くってかっこいいからなんだというの。
「逢引を強調しないで。それとも杏寿郎兄さんは、師範と呼ばれたいですか?そっちの方がなんとなく嫌じゃない?」
「…………、確かにもっと嫌だ」
壁側に寄ると、その分だけじりじり寄ってくる杏寿郎さん。
うっわ追い詰められた!もう壁に寄れない!
壁壊せと?壊していいなら壊して逃げるわ。鬼殺隊士なめんな。こんな壁一瞬で破壊でき……さすがにやらないよ?
「なあ朝緋、俺はさまざまなことを我慢してきた」
それは知ってる。貴方が実は他の職業に憧れを抱いていたことも。鍛錬じゃなくって本をたくさん読みたかったことも。でも貴方は鬼殺隊の柱になるべくして育てられてきた。
……まあ、だからこそ指南書三巻だけでここまで成長できたのだろうけど。この人の読み解く力は並大抵のものではない。
もしも杏寿郎さんがもっともっと幼い頃に槇寿朗さんが落ちぶれてしまっていたら、今頃杏寿郎さんは鬼殺隊におらず教師あたりを目指していたかも知れない。
そういう未来があっても別に良いだろう。杏寿郎さんは死ななくて済む。鬼と戦わなくて済む。
けれど杏寿郎さんは鬼殺隊に入る事を選んだ。
槇寿朗さんが落ちぶれていてもいなくても、きっと鬼殺隊に入ることを選ぶ。煉獄家の者として。強き者として。鬼に立ち向かう道を選ぶのではないかと、私は思うのだ。
「聞いているのか?」
「は、はいっ」
意識を自身に向けさせるよう耳元で囁かれ、反射的に返事してしまった。
「俺は他は我慢はしたが、君のことに関しては我慢しないと決めている」
「はい…………はい?え?」
そのまま流れで今一度返事をしようとして、でも踏みとどまる。
「もう分かっているだろう?俺は朝緋が好きだ。妹でも家族でも弟子でもなく、一人の女性として」
とうとう告白を受けてしまった。『前』なら柱になってそれからだったのに。何がそこまで貴方を駆り立て、そして急かした。あの時のように恋のライバル的な存在がいるわけでもないのに。
……これもまた、私の態度が招いた結果か。
「朝緋、答えてくれ。君がどう思っているのか。いや、言わなくてもわかる。だが朝緋の口から聞きたい」
「駄目です。……無理です。
それより早く注文をしないと。給仕の方が困っています」
給仕さんがメニューを片手にオロオロとこちらの様子を伺っている。早く注文して欲しいと、その目は訴えていた。
「そんなものはあとでいい!」
だけど杏寿郎さんは言葉を一刀両断にした。メニュー表をも真っ二つにしそうなほどの声はそれはもう目立った。
ああ、やはりこの人は槇寿朗さんの息子だ。怒って周りが見えなくなっている時の顔は、本当に瓜二つだった。
「…………どうしたらいい?俺が柱になったら考えてくれるのだろうか」
「柱になっても考えません」
私は恋をしてるけれど、恋をしない。
同じ轍は踏みたくないから。
あなたを助けるなんてとても烏滸がましい考えだと思う。けれどそれでも助けたい。あの鬼から。死の運命から。
過去、私は貴方の死を見てきた。
なぜ私はこんなに弱いの?私が弱いのがいけなかった。
そう思うのはもう終わりにしたい。
「杏寿郎兄さん。私……私、強くなりたいのです。貴方を助けられるくらいに」
「??俺を助けられる……?どういう事だ」
つい自分の心の内を口に出してしまった。杏寿郎さんに言っても仕方のない事なのに。
「…………いえ。やめましょうこんな不毛な問答……どうせ私は変わらない。
それよりせっかくだし、何か食べませんか。私お腹すいちゃった」
「…………そうだな。
よし給仕の者!ここで一番人気の甘味と飲み物を頼む!!」
やっと注文されて、給仕の人がほっとしている。注文が遅くなってごめんなさいね。
やったー!可愛い妹弟子とお茶だーい!!癒しの時間がやって参りましたー!!
私の最近の癒しは千寿郎と蜜璃です、キリッ!
今度はどんなカフェーに連れて行って貰えるのだろう。この時のワクワクは忘れられない……うう、それがまさかこんな形で裏切り……ぐすん。
「待ち合わせはこのカフェーかあ……先に入っていて、と言われたけども」
気に入っている着物を着ていくように。お洒落をするように。と言われ着付けてきた着物。
お気に入りなんてもの鬼殺隊にいるとそう増やせないので、結局のところ以前杏寿郎さんがくれたものばかりで統一することになってしまった。
彼、良いお値段して良いものをプレゼントする上に、確実に私が好きそうで似合うものを贈ってくるんだよねぇ……。なんかこう、全てを把握されているというか見透かされているというか。
一緒に暮らしてきた妹だから当たり前か。うん、そういうことにしておこう。
淡く明るい色の着物に差し色の同系色。硝子細工の髪飾り。
気がつけば上から下まで杏寿郎さんセレクト。トータルいくらだろう、計算したくない。
あの人ったら初給金で何やってんだと、今更ながら思う。受け取る私も私か。
カフェーの中でお冷や片手に蜜璃を待つこと四半刻弱。頭の上に影ができて、彼女が到着したと知る。
だけれどそこにいたのは蜜璃じゃなかった。
「や!待たせたな朝緋!!」
アッこのパターン知ってる!!初任務の時と同じじゃん!!!!
「……どういうことですか杏寿郎兄さん」
杏寿郎さんがくるなんて聞いてないぞ!?
蜜璃?蜜璃はどこだ!?
「甘露寺に頼んだ!彼女は来ない!」
カンロジニタノンダ?カノジヨハコナイ?
なるほどわかった、好きな人とカフェーでお茶したいって私が答えたあの時から、蜜璃はすでに杏寿郎さんの協力者だったんだ!!
蜜璃の策略かー!!……おのれ謀ったな蜜璃ぃ!!
蜜璃がウインクして舌をぺろっと出している光景が頭の中に浮かんだ。
「いやなに、俺が朝緋と逢引したいと言ったら、甘露寺が一肌脱いでくれてな。君もこうして逢引をしたいそうだと聞いてきてくれてこの場を設けることができた。
……朝緋、今日という今日は勝手に帰ってくれるなよ?」
「帰るも何も、私は蜜璃とおやつを食べに来るはずでしたし、何よりこの着物姿。下手に走れませんしここはカフェーの中ですから逃げるなんてとてもとても……」
「そうか!ならよかった!!」
杏寿郎さんの言葉に不穏な影を感じたので、逃げるのは諦めた。
ここは大人しくしていよう。
着物姿で走るのも実際本当に面倒だ。あとお腹すいた。ここ最重要ポインツ。
「杏寿郎兄さんもお休みの日なのですか?」
上着を脱いで椅子にかけ始めた彼に、なんの気無しに聞く。
「ああそうだ。君に合わせて非番を取らせてもらったんだ。休みを取るためにこれまで任務を多々入れてもらって多少無理をしてしまったが……どうということはない」
「その際怪我は?」
「今はしていないな!」
うん。たしかに怪我はなさそう……そして、上着を脱いだ杏寿郎さんかっこいい。
隊服じゃない!私服じゃん!!その着物見たことないよいつ仕立てたの?かっこいい!!
ついぽやーっと、見惚れてしまう。どんなに隠しても隠しきれない私の気持ちはこういうところからバレるのだ。
「座らせてもらおう」
「はい〜。
って、ちょっ!?なんで向かいじゃなくって隣に座るの!!」
杏寿郎さんは向こうの椅子に上着をかけただけ。本人は私の隣の椅子に腰掛けた。うっわほぼゼロ距離!!
「杏寿郎兄さん、向こうに座ってよ。狭い」
「これは逢引だぞ、逢引。ここにきてまで兄さん呼びとは……いけない子だな」
髪の毛を一房とられた。それをどこか愛おしげにするすると指で弄びながら、低く声をかけてくる。
くうう!駄目よ、流されるな。声が低くってかっこいいからなんだというの。
「逢引を強調しないで。それとも杏寿郎兄さんは、師範と呼ばれたいですか?そっちの方がなんとなく嫌じゃない?」
「…………、確かにもっと嫌だ」
壁側に寄ると、その分だけじりじり寄ってくる杏寿郎さん。
うっわ追い詰められた!もう壁に寄れない!
壁壊せと?壊していいなら壊して逃げるわ。鬼殺隊士なめんな。こんな壁一瞬で破壊でき……さすがにやらないよ?
「なあ朝緋、俺はさまざまなことを我慢してきた」
それは知ってる。貴方が実は他の職業に憧れを抱いていたことも。鍛錬じゃなくって本をたくさん読みたかったことも。でも貴方は鬼殺隊の柱になるべくして育てられてきた。
……まあ、だからこそ指南書三巻だけでここまで成長できたのだろうけど。この人の読み解く力は並大抵のものではない。
もしも杏寿郎さんがもっともっと幼い頃に槇寿朗さんが落ちぶれてしまっていたら、今頃杏寿郎さんは鬼殺隊におらず教師あたりを目指していたかも知れない。
そういう未来があっても別に良いだろう。杏寿郎さんは死ななくて済む。鬼と戦わなくて済む。
けれど杏寿郎さんは鬼殺隊に入る事を選んだ。
槇寿朗さんが落ちぶれていてもいなくても、きっと鬼殺隊に入ることを選ぶ。煉獄家の者として。強き者として。鬼に立ち向かう道を選ぶのではないかと、私は思うのだ。
「聞いているのか?」
「は、はいっ」
意識を自身に向けさせるよう耳元で囁かれ、反射的に返事してしまった。
「俺は他は我慢はしたが、君のことに関しては我慢しないと決めている」
「はい…………はい?え?」
そのまま流れで今一度返事をしようとして、でも踏みとどまる。
「もう分かっているだろう?俺は朝緋が好きだ。妹でも家族でも弟子でもなく、一人の女性として」
とうとう告白を受けてしまった。『前』なら柱になってそれからだったのに。何がそこまで貴方を駆り立て、そして急かした。あの時のように恋のライバル的な存在がいるわけでもないのに。
……これもまた、私の態度が招いた結果か。
「朝緋、答えてくれ。君がどう思っているのか。いや、言わなくてもわかる。だが朝緋の口から聞きたい」
「駄目です。……無理です。
それより早く注文をしないと。給仕の方が困っています」
給仕さんがメニューを片手にオロオロとこちらの様子を伺っている。早く注文して欲しいと、その目は訴えていた。
「そんなものはあとでいい!」
だけど杏寿郎さんは言葉を一刀両断にした。メニュー表をも真っ二つにしそうなほどの声はそれはもう目立った。
ああ、やはりこの人は槇寿朗さんの息子だ。怒って周りが見えなくなっている時の顔は、本当に瓜二つだった。
「…………どうしたらいい?俺が柱になったら考えてくれるのだろうか」
「柱になっても考えません」
私は恋をしてるけれど、恋をしない。
同じ轍は踏みたくないから。
あなたを助けるなんてとても烏滸がましい考えだと思う。けれどそれでも助けたい。あの鬼から。死の運命から。
過去、私は貴方の死を見てきた。
なぜ私はこんなに弱いの?私が弱いのがいけなかった。
そう思うのはもう終わりにしたい。
「杏寿郎兄さん。私……私、強くなりたいのです。貴方を助けられるくらいに」
「??俺を助けられる……?どういう事だ」
つい自分の心の内を口に出してしまった。杏寿郎さんに言っても仕方のない事なのに。
「…………いえ。やめましょうこんな不毛な問答……どうせ私は変わらない。
それよりせっかくだし、何か食べませんか。私お腹すいちゃった」
「…………そうだな。
よし給仕の者!ここで一番人気の甘味と飲み物を頼む!!」
やっと注文されて、給仕の人がほっとしている。注文が遅くなってごめんなさいね。