三周目 肆
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その後、事あるごとに杏寿郎さんは愛を乞うような言葉を放ってくるようになった。
おかげで生家にも『前』より帰ってくる率も高く、千寿郎は嬉しいだろうけれど私としては心が休まる時が少なかった。
だって、お休みの日は何故〜か重なることもあるし、逃げても追ってくるんだもの。いや、稽古はつけてもらってるよ?だって師範だもの!!
でもこうなるとさ、何かあるたびに任務にででも逃げるしかなくなるよね!
「朝緋!何故逃げる!
俺は君とちゃんと話をしたいのだが!!」
「こうして、剣を交えて会話してますよね!!鍛錬という対話を!!」
木刀同士で激しく打ち合いながら、吼えるように声を出す。
うーん。我ながらいい動きだ。最近は杏寿郎さんの激しい動きにもちょっとずつだけど着いてこれている。
「鍛錬が対話とは隊士の鑑だな!そこは認める!!
だがそうではなく、普通にだ!俺をひとりの男として意識し、会話してほしい!!
鍛錬後に部屋で待つ!大事な話があるから来てくれ!!」
そう言いながら、杏寿郎さんの参ノ型が降ってくる。弐ノ型で迎えうって答える。
「ひとりの殿方として意識!?変なこと言わないでください。私は貴方を、師範として先輩として。そしてよき兄としてしか見ません!
よってお部屋には行きませんし他の用事もありますのでごめんなさい!!」
二人きりになんてなるものか。何か身の危険を感じざるを得ない。他の部屋に槇寿朗さんや千寿郎がいるとしてもだ。
まあさすがに生家であるこの家の中で変なことはしてこないだろうけどさ……。
どうしてこうなった。
ううん、きっかけは先日の『あーん』だ。
私があんなことしたから、杏寿郎さんは自分の気持ちにより一層自信がついたようで、ぐいぐいくるようになった。
隠したい気持ちがあるのに、隠しきれなさそうだ。
いや、心頭滅却すれば火もまた涼し。落ち着け。心を無にしろ。
心を燃やせじゃない、心を殺すのだ。この人に私の心を悟らせるな。
でも早くも挫折しそうなんだよね。
この気持ち、杏寿郎さんにバレてそう。
杏寿郎さん……お願いだから困らせないで……。私を女にしないで。
はあ、こんなんで、私は強くなれるのだろうか……。
体もだけれど、精神ももっともっと強くしなくては。
鬼を追いかけ、杏寿郎さんからは追われる日々。季節は巡りとうとう私に妹弟子が出来た。
ある日突然、杏寿郎さんが隊士にするべく蜜璃を家に誘ったのだ。『前』と違うけれど、大好きな友人が懐かしくて愛しくて……つい歓迎のハグをしてしまったのは記憶に新しい。
その際、自身もと手をわきわきする男が隣にいたが全力で無視した。無視ったら無視だ。
生家にて共に過ごしているので、『前』同様の槇寿朗さんとのちょっと恐怖な邂逅も済ませ、私との鍛錬も日々続け、着実に強く。そして仲を深めていった私達。
そうして非番の日に、まだ隊士でない蜜璃と共にカフェーに行くことになった。帝都付近を案内してくれるそうで楽しみだった。
場所は銀座一等地。
案内された白亜三階建てのコーヒーハウス。
その美しくも異質な様に、ついつい上を見上げてしまった。はい、おのぼりさん確定。
「銀座でこういうブラジルコーヒーを飲むことを銀ブラっていうのよ〜!
私はコーヒーよりも、ソーダ水の方が好きだけれどね」
一度ドウナットとコーヒーでお茶をしてみたかったの!と、蜜璃がこっそり教えてくれた。
年の頃は千寿郎とどっこいどっこいな美少年が給仕をする小洒落たこの空間で、こんな本格的なコーヒー。
しかも一杯五銭にドーナツまで五銭。他の軽食だって銀座にしては破格のお値段。
こういう場所って男の人たちの社交場だと思っていたけれど、女性の姿も少しは見かける。でも女性一人だとちょっと入りにくいのかも?世の中はまだまだ男性優位だ。
だから行きたいけど行きにくいという、蜜璃の気持ちはよくわかった。
あと私も、実はコーヒーよりソーダ水の方が好きだ。
少なくとも大正の世に来てからというもの、コーヒーを飲んだことはなかったと思う。令和の時代でもほとんど飲んだ経験はなく、コーヒーを使ったもので口にしたものなんてコーヒー牛乳とコーヒーゼリーくらいだ。
それに煉獄家にいて、コーヒーに馴染みがあると思う?うちはコーヒーより紅茶より、緑茶やほうじ茶だ。
ま、機会あれば紅茶は飲みたいよ。未来でよく嗜んでいたもの。
ここで買うとやけに安く感じる十銭のレモンパイをおやつにいただきながら、星と女性が描かれた分厚いコーヒーカップを口につける。
あ、意外といける。
ミルクはたくさん必要になってしまったけれど、初めて飲んだコーヒーの味はほろ苦いだけじゃなくどこか甘くてちょっと大人になったような、そんな味がした。
香ばしくっていい香り。はぁ……大人の恋の味って、こんな味なのかもねぇ……。想像だけど。
「ここなら知り合いはいないし、朝緋ちゃんとゆっくり会話できるわ!」
「ふふ、そうだね」
蜜璃レモンパイ五個目。ただ大食いなのではなく、そのどれも幸せそうに食べるので店主も客も一瞬ギョッとしてもそのあと皆揃って優しい笑顔だ。
美味しいを顔全体で表現する様を見られて私も嬉しい。どんどんお食べ。いっぱい食べる君が好き。
「でで!朝緋ちゃんは好いた殿方に何をしてほしい?例えば師範に!!」
にこにこしながら珈琲を口に含……んぐっ!?
吹き出しかけたが、勿体無いので我慢。変なところに入って軽くむせた。
「す、好いた殿方なんていないし、作る気もないよ〜」
「えー、嘘だぁー!!だって師範と朝緋ちゃんって相思相あ、」
「蜜璃ちゃん?私に好いた人はいないし私は誰かに好かれてもいないよ?」
ちょっと強めにいう。
「そんなわけない!だって、」
「いないよ?」
立ち上がりそうになるほどの蜜璃に否定されたけれど、さらに強めに言えば彼女は大人しく引き下がった。
「あ、じゃあ、好いた殿方がいたらの話はどう!?例えばのお話!!
私、恋のお話しをするのが大好きなの!」
それはよく知ってる。貴女の呼吸は炎から派生した、炎のように燃え上がる恋になるのだもの。でも一体どうした?なんで私の恋路について、聞いてくる?
私が隠す杏寿郎さんへの想いに気がついてるみたいだし……どうしてだ!?
きゃあきゃあしながら、楽しそうに話す蜜璃。
女三人寄らば姦しいなんて言葉があるけれど、蜜璃一人で十分姦しいね。ううん、姦しいだとあまりいい意味じゃないから、賑やかで華やかで楽しいと言いたいな。
それにしたって蜜璃はいつ見てもかわいいなぁ。伊黒さんに紹介したいわ。
あ、でも、二人は二人の出会いが大事だもんね。私が変に介入するわけにいかないや。
「例えばならいいか。……こほん。好きな人がいたらの話ね」
「うんうん!」
「そうだなぁ……世の女性みたいに、どこかで逢引がしてみたいとは思うよ。今いるところじゃなくってもいいけれど、カフェーとかでこう、ゆっくりお茶する感じ?
で、なんで蜜璃はそんなこと帳面に書いてるの?」
テーブルの下、紙に鉛筆でさらさらと何かを書いている気配があった。蜜璃はこんな話の内容を書いてどうする気なのだろう。
「あらバレた!えへへ、なーいしょ!」
「内緒かい!」
そういえば杏寿郎さんともこういう店は来たことないな。来たといえば『前回』蜜璃との出会いの際私を見かけた杏寿郎さんが割り込んできた時くらいか。
それに彼はどっちかっていうと日本茶って感じするし。
「朝緋ちゃんは喫茶店巡りが好みなのね!かわいらしいわ!ちゃんと伝えておくわね!!」
「巡りってほどじゃないけど、お外で逢引は鉄板だと思うよ」
誰に教える気だ。誰に。ろくでもない予感しかしない。
おかげで生家にも『前』より帰ってくる率も高く、千寿郎は嬉しいだろうけれど私としては心が休まる時が少なかった。
だって、お休みの日は何故〜か重なることもあるし、逃げても追ってくるんだもの。いや、稽古はつけてもらってるよ?だって師範だもの!!
でもこうなるとさ、何かあるたびに任務にででも逃げるしかなくなるよね!
「朝緋!何故逃げる!
俺は君とちゃんと話をしたいのだが!!」
「こうして、剣を交えて会話してますよね!!鍛錬という対話を!!」
木刀同士で激しく打ち合いながら、吼えるように声を出す。
うーん。我ながらいい動きだ。最近は杏寿郎さんの激しい動きにもちょっとずつだけど着いてこれている。
「鍛錬が対話とは隊士の鑑だな!そこは認める!!
だがそうではなく、普通にだ!俺をひとりの男として意識し、会話してほしい!!
鍛錬後に部屋で待つ!大事な話があるから来てくれ!!」
そう言いながら、杏寿郎さんの参ノ型が降ってくる。弐ノ型で迎えうって答える。
「ひとりの殿方として意識!?変なこと言わないでください。私は貴方を、師範として先輩として。そしてよき兄としてしか見ません!
よってお部屋には行きませんし他の用事もありますのでごめんなさい!!」
二人きりになんてなるものか。何か身の危険を感じざるを得ない。他の部屋に槇寿朗さんや千寿郎がいるとしてもだ。
まあさすがに生家であるこの家の中で変なことはしてこないだろうけどさ……。
どうしてこうなった。
ううん、きっかけは先日の『あーん』だ。
私があんなことしたから、杏寿郎さんは自分の気持ちにより一層自信がついたようで、ぐいぐいくるようになった。
隠したい気持ちがあるのに、隠しきれなさそうだ。
いや、心頭滅却すれば火もまた涼し。落ち着け。心を無にしろ。
心を燃やせじゃない、心を殺すのだ。この人に私の心を悟らせるな。
でも早くも挫折しそうなんだよね。
この気持ち、杏寿郎さんにバレてそう。
杏寿郎さん……お願いだから困らせないで……。私を女にしないで。
はあ、こんなんで、私は強くなれるのだろうか……。
体もだけれど、精神ももっともっと強くしなくては。
鬼を追いかけ、杏寿郎さんからは追われる日々。季節は巡りとうとう私に妹弟子が出来た。
ある日突然、杏寿郎さんが隊士にするべく蜜璃を家に誘ったのだ。『前』と違うけれど、大好きな友人が懐かしくて愛しくて……つい歓迎のハグをしてしまったのは記憶に新しい。
その際、自身もと手をわきわきする男が隣にいたが全力で無視した。無視ったら無視だ。
生家にて共に過ごしているので、『前』同様の槇寿朗さんとのちょっと恐怖な邂逅も済ませ、私との鍛錬も日々続け、着実に強く。そして仲を深めていった私達。
そうして非番の日に、まだ隊士でない蜜璃と共にカフェーに行くことになった。帝都付近を案内してくれるそうで楽しみだった。
場所は銀座一等地。
案内された白亜三階建てのコーヒーハウス。
その美しくも異質な様に、ついつい上を見上げてしまった。はい、おのぼりさん確定。
「銀座でこういうブラジルコーヒーを飲むことを銀ブラっていうのよ〜!
私はコーヒーよりも、ソーダ水の方が好きだけれどね」
一度ドウナットとコーヒーでお茶をしてみたかったの!と、蜜璃がこっそり教えてくれた。
年の頃は千寿郎とどっこいどっこいな美少年が給仕をする小洒落たこの空間で、こんな本格的なコーヒー。
しかも一杯五銭にドーナツまで五銭。他の軽食だって銀座にしては破格のお値段。
こういう場所って男の人たちの社交場だと思っていたけれど、女性の姿も少しは見かける。でも女性一人だとちょっと入りにくいのかも?世の中はまだまだ男性優位だ。
だから行きたいけど行きにくいという、蜜璃の気持ちはよくわかった。
あと私も、実はコーヒーよりソーダ水の方が好きだ。
少なくとも大正の世に来てからというもの、コーヒーを飲んだことはなかったと思う。令和の時代でもほとんど飲んだ経験はなく、コーヒーを使ったもので口にしたものなんてコーヒー牛乳とコーヒーゼリーくらいだ。
それに煉獄家にいて、コーヒーに馴染みがあると思う?うちはコーヒーより紅茶より、緑茶やほうじ茶だ。
ま、機会あれば紅茶は飲みたいよ。未来でよく嗜んでいたもの。
ここで買うとやけに安く感じる十銭のレモンパイをおやつにいただきながら、星と女性が描かれた分厚いコーヒーカップを口につける。
あ、意外といける。
ミルクはたくさん必要になってしまったけれど、初めて飲んだコーヒーの味はほろ苦いだけじゃなくどこか甘くてちょっと大人になったような、そんな味がした。
香ばしくっていい香り。はぁ……大人の恋の味って、こんな味なのかもねぇ……。想像だけど。
「ここなら知り合いはいないし、朝緋ちゃんとゆっくり会話できるわ!」
「ふふ、そうだね」
蜜璃レモンパイ五個目。ただ大食いなのではなく、そのどれも幸せそうに食べるので店主も客も一瞬ギョッとしてもそのあと皆揃って優しい笑顔だ。
美味しいを顔全体で表現する様を見られて私も嬉しい。どんどんお食べ。いっぱい食べる君が好き。
「でで!朝緋ちゃんは好いた殿方に何をしてほしい?例えば師範に!!」
にこにこしながら珈琲を口に含……んぐっ!?
吹き出しかけたが、勿体無いので我慢。変なところに入って軽くむせた。
「す、好いた殿方なんていないし、作る気もないよ〜」
「えー、嘘だぁー!!だって師範と朝緋ちゃんって相思相あ、」
「蜜璃ちゃん?私に好いた人はいないし私は誰かに好かれてもいないよ?」
ちょっと強めにいう。
「そんなわけない!だって、」
「いないよ?」
立ち上がりそうになるほどの蜜璃に否定されたけれど、さらに強めに言えば彼女は大人しく引き下がった。
「あ、じゃあ、好いた殿方がいたらの話はどう!?例えばのお話!!
私、恋のお話しをするのが大好きなの!」
それはよく知ってる。貴女の呼吸は炎から派生した、炎のように燃え上がる恋になるのだもの。でも一体どうした?なんで私の恋路について、聞いてくる?
私が隠す杏寿郎さんへの想いに気がついてるみたいだし……どうしてだ!?
きゃあきゃあしながら、楽しそうに話す蜜璃。
女三人寄らば姦しいなんて言葉があるけれど、蜜璃一人で十分姦しいね。ううん、姦しいだとあまりいい意味じゃないから、賑やかで華やかで楽しいと言いたいな。
それにしたって蜜璃はいつ見てもかわいいなぁ。伊黒さんに紹介したいわ。
あ、でも、二人は二人の出会いが大事だもんね。私が変に介入するわけにいかないや。
「例えばならいいか。……こほん。好きな人がいたらの話ね」
「うんうん!」
「そうだなぁ……世の女性みたいに、どこかで逢引がしてみたいとは思うよ。今いるところじゃなくってもいいけれど、カフェーとかでこう、ゆっくりお茶する感じ?
で、なんで蜜璃はそんなこと帳面に書いてるの?」
テーブルの下、紙に鉛筆でさらさらと何かを書いている気配があった。蜜璃はこんな話の内容を書いてどうする気なのだろう。
「あらバレた!えへへ、なーいしょ!」
「内緒かい!」
そういえば杏寿郎さんともこういう店は来たことないな。来たといえば『前回』蜜璃との出会いの際私を見かけた杏寿郎さんが割り込んできた時くらいか。
それに彼はどっちかっていうと日本茶って感じするし。
「朝緋ちゃんは喫茶店巡りが好みなのね!かわいらしいわ!ちゃんと伝えておくわね!!」
「巡りってほどじゃないけど、お外で逢引は鉄板だと思うよ」
誰に教える気だ。誰に。ろくでもない予感しかしない。