三周目 肆
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しのぶの口調がカナエさんを模倣しだすのも『前』と同じだった。
つまりしのぶの中に憎しみの華が咲いたのも同時で。憎悪で紅く花開いた紅蓮花はどこまでも美しく、そして鮮やかだ。
柱を目指す。
そう言い残してしのぶは前を向き、その言葉通りに蟲柱に就任した。
鬼を殺す藤毒を使う、蟲柱の誕生だった。
同時期に杏寿郎さんも階級を上げた。
しかし酷い怪我も負ったとのことで、蝶屋敷に入院しているそうだ。
連絡が来たその時カナエさんの時と同じく私は任務中で、つい焦って鬼の頸を思いきり刎ね飛ばしすぎて共に任務に来ていた隊士にぶつけるほどだった。
鬼の生首当たって怖かったよね、ごめん……。
鎹烏からの言伝で、杏寿郎さんが私の顔を見たい、会いたいと何度もこぼしているのを知った。
なんだろう……そんな弱音を吐くほどに、体の調子が悪いのだろうか。不安だ。
あわてて向かった蝶屋敷では、杏寿郎さんが包帯を巻かれた状態でベッドに横になっていた。
「師範!」
「おお、朝緋か!!待っていたぞ!!」
包帯がない左手をぶんぶん振り回してここだとアピールしている。
他のベッドで唸る隊士と同じくらいの怪我のようだけど、ものともしていない。
何だ、ところどころ包帯まみれとは言ってもピンピンしてるじゃん。元気そうじゃない。
こちとら心配でハゲるかと思ったのに、心配して損した気分だ。……ううん、実際に空気抵抗でハゲそうなスピードでここまできた。
ハゲたらどうしてくれる!!
そんな思いはおくびにも出さず、あくまで冷静に返す。まずは昇格についてだろう。
何故って、ここは蝶屋敷。鬼殺隊管轄の病院でもあるからだ。鬼殺隊では鬼を退治した功績が大事なことであり、怪我とは名誉の負傷を意味する。
名誉だとかそんなのくそ喰らえ!だとは思うけれど、表立って言うことではない。外面大事。
「階級昇格、おめでとうございます」
「ありがとう!だがこのざまだ!!
こんな怪我を負ったのは久しぶりだ!不甲斐なし!!」
柱はおらず、任務を共にした隊士の中では元から杏寿郎さんの階級が一番高かったようだ。
昔あったやっかみや無視のいじめは階級が上がるごとになくなったけれど、尊敬と畏怖の目で見られるようになって責任感や覚悟が身についたからだろうか……怪我をした自分を恥じた杏寿郎さんの頬はほんのり赤かった。心なしか言葉も尻すぼみ気味だ。
「怪我しないのが一番とはいえ、生きてるだけ万々歳ですよ」
「うむ」
その時、ベッドサイドの食事が目に入った。これから食事だったようで、粥の隣には左手用に使いやすく工夫されたスプーンがついている。
「右腕が使えないのですね……」
「ああ、骨が折れてしまってな!左手があるから大丈夫だが、しばらくは動きがぎこち無くなってしまう!!」
「ふーーーん」
心底ホッとしたと同時に、私の中にちょっとした悪戯心……ごほんごほん。仕返しが浮かんだ。
「はい、師範、あーん」
「む!?」
スプーンでお粥を掬い取り、杏寿郎さんの口元に持っていく。
ふふふ、煉獄杏寿郎よ。恥ずかしかろう?恥ずかしかろう??
かつての私は恥ずかしかったんですよ?
杏寿郎さん、貴方の場合は周りに他の隊士!!これ以上ないほどの恥辱でしょう??
さあどうする?恥ずかしさに声も出まい!!
気分は悪役令嬢のそれだ。
けれど杏寿郎さんは周りからの注目もものともせず、私だけを見たままスプーンを口に含んだ。
「ありがたい!!」
えーーっ!
堂々としたその行動に困惑を覚える。
もぐもぐもぐ、ごくん。
これ幸いと、にっこにこ笑顔で食べる杏寿郎さん。
「美味い!
君が世話をしてくれるからだろうか。朝緋が作ってくれた粥だったなら、さらに美味かろうなぁ。生家に帰って君の料理が食べたいものだ!」
「だ、だったら、早く治してくださいねっ」
さらに開けられた口に、粥を突っ込む。
この人は雛鳥、私は餌付けしてるだけ。そう餌付けしてるだ……け、アッ無理。
杏寿郎さんがめっちゃガン見してくるぅー!!
無理、この人に勝てない……なんでじっと見てくるの。なんでこの状況で恥ずかしがらないの。貴方大正男子でしょ。周り気にしないの……?
「いやしかし、君がこんなことをしてくれるとは、嬉しいなぁ。怪我も悪くないと思ってしまう!」
「……わ、わざと怪我したりしないでくださいよ」
「わかっている!だが、それだけ嬉しいのだ。
周りの目を気にしながらも恥じた君が差し出す匙を口にする俺!……まるで恋仲だな」
「恋な、か……」
スプーンを差し出すべくして近づいた私の腰に、杏寿郎さんの左手が回り引き寄せられる。
はっ!?
サッと逸らされるものや、真っ赤なのにまだ見てくるもの。揶揄うようなものと様々だけれど、全員男性で……好奇の目が私に一身に注がれていることに気がついた。
ぼひゅっ!!
頭から湯気が出るよう。
仕返しに恥ずかしい思いさせようと思ったけれど、逆に私が恥かいてないこれ!?
あとこの腰の手!!
「怪我人が何してるんですかやめてくださいっ」
「む。つれないな」
スパーン!その手を払い落とし、ベッドに戻らせた。これ以上不埒な真似しようものなら、ベッドに縛り付けちゃる!
……それによく考えたらこんなことしてる時点で私から恋愛要素振り撒いてるじゃない。
こんなの、直接でなくても杏寿郎さんに好きって言ってるようなものでしょ!?妹とか関係なく、普通の女性は殿方にこんな真似しない!!それも大正時代のお淑やかな女性がすることと違う!
何勘違いさせるようなことしてるのよ!私って馬鹿じゃん!馬鹿!ほんと馬鹿!!
ああああ、と頭の中で悶えているとちょんちょんと杏寿郎さんがつついてきた。
「だが朝緋、食べさせてくれるなら最後までやってくれ!
ほらほら!ほら!!」
私の心を見透かすが如く、私を見つめ続けながら、杏寿郎さんが急かす。
「む、無理ですごめんなさい〜〜!!」
私はその場から逃げ出した。
その際、扉前で他の人に向かってお辞儀してから退出するのは忘れない。
「途中でほっぽりだすとは酷いな!?なあ、そう思わないか諸君!!」
いや御自分のせいでは?
その場にいた他の隊士達の気持ちはみな同じだった。
つまりしのぶの中に憎しみの華が咲いたのも同時で。憎悪で紅く花開いた紅蓮花はどこまでも美しく、そして鮮やかだ。
柱を目指す。
そう言い残してしのぶは前を向き、その言葉通りに蟲柱に就任した。
鬼を殺す藤毒を使う、蟲柱の誕生だった。
同時期に杏寿郎さんも階級を上げた。
しかし酷い怪我も負ったとのことで、蝶屋敷に入院しているそうだ。
連絡が来たその時カナエさんの時と同じく私は任務中で、つい焦って鬼の頸を思いきり刎ね飛ばしすぎて共に任務に来ていた隊士にぶつけるほどだった。
鬼の生首当たって怖かったよね、ごめん……。
鎹烏からの言伝で、杏寿郎さんが私の顔を見たい、会いたいと何度もこぼしているのを知った。
なんだろう……そんな弱音を吐くほどに、体の調子が悪いのだろうか。不安だ。
あわてて向かった蝶屋敷では、杏寿郎さんが包帯を巻かれた状態でベッドに横になっていた。
「師範!」
「おお、朝緋か!!待っていたぞ!!」
包帯がない左手をぶんぶん振り回してここだとアピールしている。
他のベッドで唸る隊士と同じくらいの怪我のようだけど、ものともしていない。
何だ、ところどころ包帯まみれとは言ってもピンピンしてるじゃん。元気そうじゃない。
こちとら心配でハゲるかと思ったのに、心配して損した気分だ。……ううん、実際に空気抵抗でハゲそうなスピードでここまできた。
ハゲたらどうしてくれる!!
そんな思いはおくびにも出さず、あくまで冷静に返す。まずは昇格についてだろう。
何故って、ここは蝶屋敷。鬼殺隊管轄の病院でもあるからだ。鬼殺隊では鬼を退治した功績が大事なことであり、怪我とは名誉の負傷を意味する。
名誉だとかそんなのくそ喰らえ!だとは思うけれど、表立って言うことではない。外面大事。
「階級昇格、おめでとうございます」
「ありがとう!だがこのざまだ!!
こんな怪我を負ったのは久しぶりだ!不甲斐なし!!」
柱はおらず、任務を共にした隊士の中では元から杏寿郎さんの階級が一番高かったようだ。
昔あったやっかみや無視のいじめは階級が上がるごとになくなったけれど、尊敬と畏怖の目で見られるようになって責任感や覚悟が身についたからだろうか……怪我をした自分を恥じた杏寿郎さんの頬はほんのり赤かった。心なしか言葉も尻すぼみ気味だ。
「怪我しないのが一番とはいえ、生きてるだけ万々歳ですよ」
「うむ」
その時、ベッドサイドの食事が目に入った。これから食事だったようで、粥の隣には左手用に使いやすく工夫されたスプーンがついている。
「右腕が使えないのですね……」
「ああ、骨が折れてしまってな!左手があるから大丈夫だが、しばらくは動きがぎこち無くなってしまう!!」
「ふーーーん」
心底ホッとしたと同時に、私の中にちょっとした悪戯心……ごほんごほん。仕返しが浮かんだ。
「はい、師範、あーん」
「む!?」
スプーンでお粥を掬い取り、杏寿郎さんの口元に持っていく。
ふふふ、煉獄杏寿郎よ。恥ずかしかろう?恥ずかしかろう??
かつての私は恥ずかしかったんですよ?
杏寿郎さん、貴方の場合は周りに他の隊士!!これ以上ないほどの恥辱でしょう??
さあどうする?恥ずかしさに声も出まい!!
気分は悪役令嬢のそれだ。
けれど杏寿郎さんは周りからの注目もものともせず、私だけを見たままスプーンを口に含んだ。
「ありがたい!!」
えーーっ!
堂々としたその行動に困惑を覚える。
もぐもぐもぐ、ごくん。
これ幸いと、にっこにこ笑顔で食べる杏寿郎さん。
「美味い!
君が世話をしてくれるからだろうか。朝緋が作ってくれた粥だったなら、さらに美味かろうなぁ。生家に帰って君の料理が食べたいものだ!」
「だ、だったら、早く治してくださいねっ」
さらに開けられた口に、粥を突っ込む。
この人は雛鳥、私は餌付けしてるだけ。そう餌付けしてるだ……け、アッ無理。
杏寿郎さんがめっちゃガン見してくるぅー!!
無理、この人に勝てない……なんでじっと見てくるの。なんでこの状況で恥ずかしがらないの。貴方大正男子でしょ。周り気にしないの……?
「いやしかし、君がこんなことをしてくれるとは、嬉しいなぁ。怪我も悪くないと思ってしまう!」
「……わ、わざと怪我したりしないでくださいよ」
「わかっている!だが、それだけ嬉しいのだ。
周りの目を気にしながらも恥じた君が差し出す匙を口にする俺!……まるで恋仲だな」
「恋な、か……」
スプーンを差し出すべくして近づいた私の腰に、杏寿郎さんの左手が回り引き寄せられる。
はっ!?
サッと逸らされるものや、真っ赤なのにまだ見てくるもの。揶揄うようなものと様々だけれど、全員男性で……好奇の目が私に一身に注がれていることに気がついた。
ぼひゅっ!!
頭から湯気が出るよう。
仕返しに恥ずかしい思いさせようと思ったけれど、逆に私が恥かいてないこれ!?
あとこの腰の手!!
「怪我人が何してるんですかやめてくださいっ」
「む。つれないな」
スパーン!その手を払い落とし、ベッドに戻らせた。これ以上不埒な真似しようものなら、ベッドに縛り付けちゃる!
……それによく考えたらこんなことしてる時点で私から恋愛要素振り撒いてるじゃない。
こんなの、直接でなくても杏寿郎さんに好きって言ってるようなものでしょ!?妹とか関係なく、普通の女性は殿方にこんな真似しない!!それも大正時代のお淑やかな女性がすることと違う!
何勘違いさせるようなことしてるのよ!私って馬鹿じゃん!馬鹿!ほんと馬鹿!!
ああああ、と頭の中で悶えているとちょんちょんと杏寿郎さんがつついてきた。
「だが朝緋、食べさせてくれるなら最後までやってくれ!
ほらほら!ほら!!」
私の心を見透かすが如く、私を見つめ続けながら、杏寿郎さんが急かす。
「む、無理ですごめんなさい〜〜!!」
私はその場から逃げ出した。
その際、扉前で他の人に向かってお辞儀してから退出するのは忘れない。
「途中でほっぽりだすとは酷いな!?なあ、そう思わないか諸君!!」
いや御自分のせいでは?
その場にいた他の隊士達の気持ちはみな同じだった。