三周目 肆
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「上弦ノ弐!上弦ノ弐ガ出タ!!花柱ガ戦闘中!!至急応援ニ向カエ!応援ニ向カエ!!」
その知らせが緊急伝令用の鎹烏から届いた時、私はすぐ近くの山村で鬼討伐の真っ最中だった。
この伝令が私に届いたということは、その場所はここからの距離が近いのかもしれない。
思い出されるのは『前』の悔しさと悲しさと怒り。そして、無表情になってしまったしのぶの顔と位牌の前でいつまでも立ち昇るお線香の煙。
「炎の呼吸壱ノ型不知火ッ!!」
一刻を争う事態に、対峙していた鬼の頸を瞬時に刎ね飛ばした。こんな雑魚鬼に梃子摺っている場合じゃない。
刀を鞘に収める間も惜しく、鬼の頸が確実に飛んだことだけを確認して私は跳ぶように走り抜け、現場へと急いだ。
到着したのは、夜が明ける頃。山向こうから陽の光が差し込み始めたその時だった。
上弦の弐だろう、男と相対している花柱・胡蝶カナエの姿が見えた。
彼女はすでに倒れ、血に濡れていた。胡蝶カナエという名の蝶の羽は、もぎ取られる寸前だった。
「カナエさんっ!!」
つい役職の名でなく、普段話している呼び名が口から出た。
太陽の到来を前に逃げようとする鬼がこちらを向いた。
『前』に聞いた通りの頭から血を被ったような鬼。その目と目があった。七色の目の中に、上弦の弐と記されていた。
ゾクッ。
見られた瞬間、背筋を悪寒が走り抜けた。
これが、上弦の……それも『弐』!
なんて鬼気。
人間が鬼に対して持ちえる恐怖が呼び覚まされる。
ここに来るまでだって、恐怖がなかったわけじゃない。何故って相手は上弦の弐だ。参とは何度か対峙してその鬼気にも慣れた……とは言い難いけれどまあ、ほんのちょっぴりは慣れたと思いたい。けれど弐と参。数字が一つ違うだけでここまで恐ろしく感じるとは思いもしなかった。
壱や鬼舞辻を前にしたら私は気を失ってしまうのではないだろうかと、不安で今から足がすくむ。
ーーいや、これくらいで怖気付くなんて隊士失格だ!
「追っては駄目……朝緋ちゃん、貴女は稀血……行かないで」
「カナエさ、もうしゃべらないで!!今しのぶちゃんが着きますから!!」
カナエさんはしのぶに任せる。だから私は足に炎の呼吸を纏わせ、鬼の後を追う。
が、太陽から逃げるためかやたら速い。このまま森の方まで逃げられては厄介だ。
ならばーー炎の呼吸の最速技で追い、攻撃を仕掛けるのみ!!
「待て、上弦の鬼!!殺す!殺してやる!!
炎の呼吸、壱ノーー」
その時、鬼が鉄扇を広げて凪いだ。
「ーー冬ざれ氷柱」
上空から鋭い氷柱が大量に降り注いだ。
「っ!?……ちっ」
まさか逃げの一手だけでなく、反撃してくるだなんて!だけどこんなもの!初任務の時に似たようなものを避けてみせた私の敵じゃない!!
けれど、氷柱にまじり粉のようなものが空中をキラキラと舞っているのに気がついた。氷?いや、氷の霧!!
『その血鬼術は吸ってはならない』
その言葉を思い出し、一歩下がる。下がったところには氷柱が待っていた。
「ぐッーー!」
体に氷柱が深く刺さり、血が噴き出す。体の一部も凍って動けない!!
相手がこちらをちらと見てきた瞬間、稀血であると知られたことを理解した。
「あはは!君は稀血なんだね!?
俺は太陽が昇ってもうにげなくちゃならない!食べて救ってあげられないのが残念だよー!!」
逃げながらヒラヒラと扇を振る。
もうこれ以上追うのは不可能だし、すぐ森だ。追えば危険なのはこちら。
私は上弦をさらに強くするだけの餌となる。
「くぅ……!上弦の弐!!お前の顔も覚えたぞ!私はお前も決して許さない!!」
「俺のこと『も』?よくわからないけどありがとう!また会おうね!!稀血ちゃん!!」
また会おうだって?会う時は貴様の頸が胴体からお別れする時だけだ。
カナエさんの元に戻ると、そこにはしのぶが駆けつけていた。
既に事切れていた彼女を抱きしめて泣くしのぶを私は抱き寄せ、共に泣いた。
カナエさんは『しのぶでは勝てない。朝緋ちゃんでは鬼をもっと強くして終わり』だ。
口で最後まで言わずとも、そういう意味合いの言葉を残された。
死の間際でもたらされた上弦の弐の情報は、『前』と同じ。自分自身でもそれは確認済みだ。
悔しい悔しい悔しい!!
カナエさんの死を『また』回避できなかった!!
任務地が近かったのに!!もう少し早く駆けつけていたら!!私が上弦の弐の相手に加勢していたら!!せめて死は免れたかもしれないのに!!
なんで『前』と違うの!!カナエさんが上弦の弐と対峙する時期が違った!!
この死は回避できない決められたことなの?明槻が語ってくれたお話の通りに進むことしかできないの?
もしそうなら、杏寿郎さんの死も変えられないの……?
……私の行動に意味はないの?
いいえそんなことはない。
私は自分の力を信じる。自分が正しいと思った道を心のままに進む。
いつか憎い鬼の頸を刎ねる時を夢見て。
そのためにも、今日も明日もあさっても。
より強く、より速くならねば。鍛錬に次ぐ鍛錬をこなさなければ。
杏寿郎さんのように、動きながら技を出せるくらいにならねばならない。
「はああああああ゛っ!!
炎の呼吸!伍ノ型ッ炎虎ーーッ!!」
速く、しかし重い一撃を放つために足を地に大きく踏み込む。かなりの土埃が舞って羽織が汚れやすいのが難点だが、そんなものに構ってはいられない。
炎の虎が吼える。しかしだめだ。動きが止まっている!!
私は正規の炎虎を上手く放てない。
そうだ、立ち止まって初めて放てるようじゃまだいけない!私の強みが死んでしまう。動くくらいで威力が落ちてもいけない。
足の筋肉をより強く発達させろ!足のバネを強靭にしろ!!
どんな鬼が来ようと、確実に殺すために。
その知らせが緊急伝令用の鎹烏から届いた時、私はすぐ近くの山村で鬼討伐の真っ最中だった。
この伝令が私に届いたということは、その場所はここからの距離が近いのかもしれない。
思い出されるのは『前』の悔しさと悲しさと怒り。そして、無表情になってしまったしのぶの顔と位牌の前でいつまでも立ち昇るお線香の煙。
「炎の呼吸壱ノ型不知火ッ!!」
一刻を争う事態に、対峙していた鬼の頸を瞬時に刎ね飛ばした。こんな雑魚鬼に梃子摺っている場合じゃない。
刀を鞘に収める間も惜しく、鬼の頸が確実に飛んだことだけを確認して私は跳ぶように走り抜け、現場へと急いだ。
到着したのは、夜が明ける頃。山向こうから陽の光が差し込み始めたその時だった。
上弦の弐だろう、男と相対している花柱・胡蝶カナエの姿が見えた。
彼女はすでに倒れ、血に濡れていた。胡蝶カナエという名の蝶の羽は、もぎ取られる寸前だった。
「カナエさんっ!!」
つい役職の名でなく、普段話している呼び名が口から出た。
太陽の到来を前に逃げようとする鬼がこちらを向いた。
『前』に聞いた通りの頭から血を被ったような鬼。その目と目があった。七色の目の中に、上弦の弐と記されていた。
ゾクッ。
見られた瞬間、背筋を悪寒が走り抜けた。
これが、上弦の……それも『弐』!
なんて鬼気。
人間が鬼に対して持ちえる恐怖が呼び覚まされる。
ここに来るまでだって、恐怖がなかったわけじゃない。何故って相手は上弦の弐だ。参とは何度か対峙してその鬼気にも慣れた……とは言い難いけれどまあ、ほんのちょっぴりは慣れたと思いたい。けれど弐と参。数字が一つ違うだけでここまで恐ろしく感じるとは思いもしなかった。
壱や鬼舞辻を前にしたら私は気を失ってしまうのではないだろうかと、不安で今から足がすくむ。
ーーいや、これくらいで怖気付くなんて隊士失格だ!
「追っては駄目……朝緋ちゃん、貴女は稀血……行かないで」
「カナエさ、もうしゃべらないで!!今しのぶちゃんが着きますから!!」
カナエさんはしのぶに任せる。だから私は足に炎の呼吸を纏わせ、鬼の後を追う。
が、太陽から逃げるためかやたら速い。このまま森の方まで逃げられては厄介だ。
ならばーー炎の呼吸の最速技で追い、攻撃を仕掛けるのみ!!
「待て、上弦の鬼!!殺す!殺してやる!!
炎の呼吸、壱ノーー」
その時、鬼が鉄扇を広げて凪いだ。
「ーー冬ざれ氷柱」
上空から鋭い氷柱が大量に降り注いだ。
「っ!?……ちっ」
まさか逃げの一手だけでなく、反撃してくるだなんて!だけどこんなもの!初任務の時に似たようなものを避けてみせた私の敵じゃない!!
けれど、氷柱にまじり粉のようなものが空中をキラキラと舞っているのに気がついた。氷?いや、氷の霧!!
『その血鬼術は吸ってはならない』
その言葉を思い出し、一歩下がる。下がったところには氷柱が待っていた。
「ぐッーー!」
体に氷柱が深く刺さり、血が噴き出す。体の一部も凍って動けない!!
相手がこちらをちらと見てきた瞬間、稀血であると知られたことを理解した。
「あはは!君は稀血なんだね!?
俺は太陽が昇ってもうにげなくちゃならない!食べて救ってあげられないのが残念だよー!!」
逃げながらヒラヒラと扇を振る。
もうこれ以上追うのは不可能だし、すぐ森だ。追えば危険なのはこちら。
私は上弦をさらに強くするだけの餌となる。
「くぅ……!上弦の弐!!お前の顔も覚えたぞ!私はお前も決して許さない!!」
「俺のこと『も』?よくわからないけどありがとう!また会おうね!!稀血ちゃん!!」
また会おうだって?会う時は貴様の頸が胴体からお別れする時だけだ。
カナエさんの元に戻ると、そこにはしのぶが駆けつけていた。
既に事切れていた彼女を抱きしめて泣くしのぶを私は抱き寄せ、共に泣いた。
カナエさんは『しのぶでは勝てない。朝緋ちゃんでは鬼をもっと強くして終わり』だ。
口で最後まで言わずとも、そういう意味合いの言葉を残された。
死の間際でもたらされた上弦の弐の情報は、『前』と同じ。自分自身でもそれは確認済みだ。
悔しい悔しい悔しい!!
カナエさんの死を『また』回避できなかった!!
任務地が近かったのに!!もう少し早く駆けつけていたら!!私が上弦の弐の相手に加勢していたら!!せめて死は免れたかもしれないのに!!
なんで『前』と違うの!!カナエさんが上弦の弐と対峙する時期が違った!!
この死は回避できない決められたことなの?明槻が語ってくれたお話の通りに進むことしかできないの?
もしそうなら、杏寿郎さんの死も変えられないの……?
……私の行動に意味はないの?
いいえそんなことはない。
私は自分の力を信じる。自分が正しいと思った道を心のままに進む。
いつか憎い鬼の頸を刎ねる時を夢見て。
そのためにも、今日も明日もあさっても。
より強く、より速くならねば。鍛錬に次ぐ鍛錬をこなさなければ。
杏寿郎さんのように、動きながら技を出せるくらいにならねばならない。
「はああああああ゛っ!!
炎の呼吸!伍ノ型ッ炎虎ーーッ!!」
速く、しかし重い一撃を放つために足を地に大きく踏み込む。かなりの土埃が舞って羽織が汚れやすいのが難点だが、そんなものに構ってはいられない。
炎の虎が吼える。しかしだめだ。動きが止まっている!!
私は正規の炎虎を上手く放てない。
そうだ、立ち止まって初めて放てるようじゃまだいけない!私の強みが死んでしまう。動くくらいで威力が落ちてもいけない。
足の筋肉をより強く発達させろ!足のバネを強靭にしろ!!
どんな鬼が来ようと、確実に殺すために。