三周目 参
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「朝緋!どうだ、大丈夫だっただろうか!」
部屋を出たら杏寿郎さんが飛びつく勢いで詰め寄って来て、私の怪我の様子をチェックして来た。そりゃまあ、『今回』では初めての大怪我だから気持ちはわかるけどさ、ちゃんと処置してもらったから心配しなくてもいいのにね。
そんな杏寿郎さんにしのぶが処置内容や今後について説明したのだけれど、私が入院する部屋にまでついてきた。
さすがに着替える時は退出してくれたけれど、それ以外では離れたくないようだった。
頼むから自分の拠点にしている藤の家紋の家に行ってよ。
そう思っても仕方ないのに、杏寿郎さんは空が白み始めてもまだここにいた。
もしかして私が眠るのを待っている……とかだったりして。
因みにしのぶさんは杏寿郎さんの過保護っぷり、ううん。執着っぷりに呆れて退出した。
随分明るさを増して来た部屋の中、私が横になっているベッドに手をつき、杏寿郎さんが近くに寄ってきた。
「今回の朝緋の怪我……俺との任務で負った物なのだから階級が上の俺の責任だ。治ったらまた共に鍛錬するようにしないか?」
私の手を取り、するする撫でつけてくる。横になっているからでなくても、注がれる熱い視線からは逃げられそうにない。
「……貴方に責任はありません。これだってすぐ治りますからどうかお気になさらず。
それに基本的に任務は別です。一緒に鍛錬するお約束はできかねます」
今はまだ継子じゃないしねぇ……杏寿郎さんが柱くらいの強さになってからじゃないと、継子にしてくださいなんて、とてもじゃないけど言えないや。
視線に負けず突っぱねるように答えれば。
グッ!
「ぎゃっ!?」
杏寿郎さんに思い切り力込めて掴まれた。それも包帯で巻いてある患部のとこー!!
「すぐ治る!?まだ治っていないだろう!」
「それは貴方が掴んだからでしょ!?傷がまた開いちゃったらどーすんの!いったぁぁぁい!!」
「すまん!だが鍛錬だってそうだ!共にやりたいという俺の気持ちがなぜわからん!
朝緋は、なぜそうやって俺から逃げようとする!悲しいではないか!!」
そう思うなら妹に対する兄の顔をしてください。どうか、その目を私に向けないで。
太陽が昇り始めた空を横目にため息を吐き出せば、私の手を握ろうとしたのだろう。けれど手を握ることはせず、掛け布団の端が握られたのが見えた。
「君は俺に『自分を死なせたくないなら死なずに帰れ』と言った。これ以上ない愛の言葉だと思った。朝緋との未来を夢想した。
なのに今の俺は君との間に壁を感じるよ」
「師範……」
壁があると感じられても仕方ないほどに、私はこの気持ちを隠さなくちゃいけない。
でも私だって気持ちを曝け出したい。『前』はあんなに通じ合っていたのだもの。
仲睦まじく過ごした記憶が。思い出が。今の私を余計に辛くさせる。
「さて、騒いでしまったし花柱殿達に怒られては敵わんから、窓から退出させてもらう!
……またあとで来る。君はゆっくり休め」
そのまま杏寿郎さんは本当に窓から出ていった。ちゃっかり草履も持ってたんだね。
炎柱の羽織とは違う真っ白な羽織が朝焼けに溶け込み、金糸と朱をぼかして煌めかせていく。
それはどこまでも眩しくて、でもとても寂しい姿に見えた。
「うるさいと思って来てみれば……煉獄さんは出て行ってくれたの?」
「しのぶちゃん……。うん、騒がしくてごめんね」
「静かになったならいいです」
「また来るって言ってたけれどね」
「はあ……うるさかったら追い出すだけよ」
ほどなくしてやってきたしのぶが窓の外を見遣り、ちょっと迷惑そうに言う。あーらら、杏寿郎さん=騒がしい隊士という図が出来上がってしまったようだ。
柱になったら杏寿郎さんと仲良くしてほしいんだけど……まあ、大丈夫か。杏寿郎さん、声は大きいけれど気持ちのいい人だものね。
杏寿郎さんは予告通り、その日の昼間の内にまたやってきた。
「君の見舞いにと、あいすくりんを買ってきた!!」
……アイスクリームを持ち込んで。
この人絶対休まないであのあとそのまま買いに行って戻って来たな。
「あいすくりんかぁ……溶けちゃわない?」
「いや!溶けないよう、氷屋で氷をたくさん買ったから大丈夫だ!
他にも君の好物を持って来たから食べるといい」
杏寿郎さんが背負っていた籠を下ろす。何というかその背負い箱……あそこまで立派な品じゃないけども炭治郎を彷彿とさせるなぁ。
「いやまあ、嬉しいけれどさっき食事もらったばっかりだし今の私って寝てるだけですからお腹はそんなに減、」
「ん??」
「アッ何でもないです」
凄みを増した笑顔が向けられ、黙りこくる。
ゴソゴソと後ろで荷物を漁った杏寿郎さんが差し出すは、皿に乗ったアイスクリーム。スプーンでそれを掬い、私の口にずずいと近づける。
スプーンに乗ったアイスクリームと杏寿郎さんの顔とを何度か見比べ、首を傾げて問う。
「これは一体何の真似ですか?」
「何とは?」
同じ方向に杏寿郎さんの顔が傾ぐ。
私とそっくりそのまま同じように首傾げるのやめて?かっこいいのにかわいいよ杏寿郎さん。
「ほら、溶けて落ちてしまうぞ。早く口に運んでくれ。あーん」
うわ何をするやめ。ぐいぐい押し付けてくるそれを口を引き結んで凌ぎ、スプーンの柄を貸してもらおうとするも空を切る手のひら。
「それとも口元に落として俺に舐め取ってほしいのか?」
「ひぃ」
逆にその手を掴まれ、耳元でそう囁かれた。
いきなりの囁き声と、飢えた獣スタイルの顔も破壊力が抜群だからやめてほしい……。
口元に落とされるのも嫌なので、仕方なしに差し出されたスプーンを口に咥える。
あ、美味しい。むむむ、これは三越の中にあるお店のアイスクリームでは?
……それより恥ずかしい。でも私がこんなに恥ずかしいっていうのに、杏寿郎さんは全身で嬉しいと楽しいを表現している。
あーん如きで何でこんなに幸せそうなの。
餌付けされる雛鳥のようにしてアイスクリームをぺろりと平らげると、続いて取り出されたのも私の好物。お稲荷さんだ。
「志乃多の寿司だ。朝緋はこれも好きだろう?君の好きなものは君を好いている俺なら全部知っている」
「そりゃあ、幼い頃から共に暮らした妹ですから」
「むう……つれなさすぎる。手強い子だ」
君を好いているの部分はここでも無視で。
部屋を出たら杏寿郎さんが飛びつく勢いで詰め寄って来て、私の怪我の様子をチェックして来た。そりゃまあ、『今回』では初めての大怪我だから気持ちはわかるけどさ、ちゃんと処置してもらったから心配しなくてもいいのにね。
そんな杏寿郎さんにしのぶが処置内容や今後について説明したのだけれど、私が入院する部屋にまでついてきた。
さすがに着替える時は退出してくれたけれど、それ以外では離れたくないようだった。
頼むから自分の拠点にしている藤の家紋の家に行ってよ。
そう思っても仕方ないのに、杏寿郎さんは空が白み始めてもまだここにいた。
もしかして私が眠るのを待っている……とかだったりして。
因みにしのぶさんは杏寿郎さんの過保護っぷり、ううん。執着っぷりに呆れて退出した。
随分明るさを増して来た部屋の中、私が横になっているベッドに手をつき、杏寿郎さんが近くに寄ってきた。
「今回の朝緋の怪我……俺との任務で負った物なのだから階級が上の俺の責任だ。治ったらまた共に鍛錬するようにしないか?」
私の手を取り、するする撫でつけてくる。横になっているからでなくても、注がれる熱い視線からは逃げられそうにない。
「……貴方に責任はありません。これだってすぐ治りますからどうかお気になさらず。
それに基本的に任務は別です。一緒に鍛錬するお約束はできかねます」
今はまだ継子じゃないしねぇ……杏寿郎さんが柱くらいの強さになってからじゃないと、継子にしてくださいなんて、とてもじゃないけど言えないや。
視線に負けず突っぱねるように答えれば。
グッ!
「ぎゃっ!?」
杏寿郎さんに思い切り力込めて掴まれた。それも包帯で巻いてある患部のとこー!!
「すぐ治る!?まだ治っていないだろう!」
「それは貴方が掴んだからでしょ!?傷がまた開いちゃったらどーすんの!いったぁぁぁい!!」
「すまん!だが鍛錬だってそうだ!共にやりたいという俺の気持ちがなぜわからん!
朝緋は、なぜそうやって俺から逃げようとする!悲しいではないか!!」
そう思うなら妹に対する兄の顔をしてください。どうか、その目を私に向けないで。
太陽が昇り始めた空を横目にため息を吐き出せば、私の手を握ろうとしたのだろう。けれど手を握ることはせず、掛け布団の端が握られたのが見えた。
「君は俺に『自分を死なせたくないなら死なずに帰れ』と言った。これ以上ない愛の言葉だと思った。朝緋との未来を夢想した。
なのに今の俺は君との間に壁を感じるよ」
「師範……」
壁があると感じられても仕方ないほどに、私はこの気持ちを隠さなくちゃいけない。
でも私だって気持ちを曝け出したい。『前』はあんなに通じ合っていたのだもの。
仲睦まじく過ごした記憶が。思い出が。今の私を余計に辛くさせる。
「さて、騒いでしまったし花柱殿達に怒られては敵わんから、窓から退出させてもらう!
……またあとで来る。君はゆっくり休め」
そのまま杏寿郎さんは本当に窓から出ていった。ちゃっかり草履も持ってたんだね。
炎柱の羽織とは違う真っ白な羽織が朝焼けに溶け込み、金糸と朱をぼかして煌めかせていく。
それはどこまでも眩しくて、でもとても寂しい姿に見えた。
「うるさいと思って来てみれば……煉獄さんは出て行ってくれたの?」
「しのぶちゃん……。うん、騒がしくてごめんね」
「静かになったならいいです」
「また来るって言ってたけれどね」
「はあ……うるさかったら追い出すだけよ」
ほどなくしてやってきたしのぶが窓の外を見遣り、ちょっと迷惑そうに言う。あーらら、杏寿郎さん=騒がしい隊士という図が出来上がってしまったようだ。
柱になったら杏寿郎さんと仲良くしてほしいんだけど……まあ、大丈夫か。杏寿郎さん、声は大きいけれど気持ちのいい人だものね。
杏寿郎さんは予告通り、その日の昼間の内にまたやってきた。
「君の見舞いにと、あいすくりんを買ってきた!!」
……アイスクリームを持ち込んで。
この人絶対休まないであのあとそのまま買いに行って戻って来たな。
「あいすくりんかぁ……溶けちゃわない?」
「いや!溶けないよう、氷屋で氷をたくさん買ったから大丈夫だ!
他にも君の好物を持って来たから食べるといい」
杏寿郎さんが背負っていた籠を下ろす。何というかその背負い箱……あそこまで立派な品じゃないけども炭治郎を彷彿とさせるなぁ。
「いやまあ、嬉しいけれどさっき食事もらったばっかりだし今の私って寝てるだけですからお腹はそんなに減、」
「ん??」
「アッ何でもないです」
凄みを増した笑顔が向けられ、黙りこくる。
ゴソゴソと後ろで荷物を漁った杏寿郎さんが差し出すは、皿に乗ったアイスクリーム。スプーンでそれを掬い、私の口にずずいと近づける。
スプーンに乗ったアイスクリームと杏寿郎さんの顔とを何度か見比べ、首を傾げて問う。
「これは一体何の真似ですか?」
「何とは?」
同じ方向に杏寿郎さんの顔が傾ぐ。
私とそっくりそのまま同じように首傾げるのやめて?かっこいいのにかわいいよ杏寿郎さん。
「ほら、溶けて落ちてしまうぞ。早く口に運んでくれ。あーん」
うわ何をするやめ。ぐいぐい押し付けてくるそれを口を引き結んで凌ぎ、スプーンの柄を貸してもらおうとするも空を切る手のひら。
「それとも口元に落として俺に舐め取ってほしいのか?」
「ひぃ」
逆にその手を掴まれ、耳元でそう囁かれた。
いきなりの囁き声と、飢えた獣スタイルの顔も破壊力が抜群だからやめてほしい……。
口元に落とされるのも嫌なので、仕方なしに差し出されたスプーンを口に咥える。
あ、美味しい。むむむ、これは三越の中にあるお店のアイスクリームでは?
……それより恥ずかしい。でも私がこんなに恥ずかしいっていうのに、杏寿郎さんは全身で嬉しいと楽しいを表現している。
あーん如きで何でこんなに幸せそうなの。
餌付けされる雛鳥のようにしてアイスクリームをぺろりと平らげると、続いて取り出されたのも私の好物。お稲荷さんだ。
「志乃多の寿司だ。朝緋はこれも好きだろう?君の好きなものは君を好いている俺なら全部知っている」
「そりゃあ、幼い頃から共に暮らした妹ですから」
「むう……つれなさすぎる。手強い子だ」
君を好いているの部分はここでも無視で。