三周目 参
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「すまない!うちの朝緋の怪我を治療してやってくれ!!」
まだ夜明け遠い空の下飛び込んだ蝶屋敷。
存外にも大きな声だったのだろう、花柱をなされている胡蝶カナエさんと妹のしのぶさんが玄関先で出迎えてくれた。
「煉獄君、今何時だと思っているの?」
「うるさいですよ!」
『今回』はこれが初対面だ。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花とはよく言ったもので。御二方とも相変わらずの美しさが健在の見目麗しい姉妹で、思わず見惚れてしまう。
すでに隊士達の治療にあたりながら鍛錬、そして任務を遂行しているであろう、その御姿にもただただ尊敬の意を覚えた。
「……って、あらあら。今回は煉獄君じゃないのね〜」
ふんわりとしたその薄紫の瞳が私に向けられどきりとした。けれど、私が真に気になるのはそこじゃない。
「今回はって何ですか?花柱様」
「煉獄君はよく怪我をこさえてくるの。ここの常連さんよ」
「師範〜〜〜?どういうことですか??」
「わはは!不甲斐なし!!」
ジト目で睨む。
んもう、ふいとあちらを向いたってごまかしは効かないんだからね?
「ただ、人を連れてきたのは初めてね。しかもそんな大切そうに抱き抱えてなんて」
「見たところ、怪我は腕だけのようですが?」
ニコニコ見てくるカナエさんと違い、しのぶさんの目が訝しげに私の怪我の具合を値踏みするように射抜く。
「腕だけです……自分で歩くと言ってるのに、こうして運んでくれてるんです……」
「腕に負担がかかったら大変だろう!!」
上から声が降ってきた。過保護極まれり。
「本当、大切にされているのね」
「まあ、私は稀血な上に妹ですから……」
稀血はともかく『妹』を強調して言えば、上では不満そうな気配が漂う。けれど無視だ無視。
「ともかく花柱殿!今この子は鬼の針が腕を貫通している状態だ!!
ここまで来る途中何も変化はなく、幸いにも毒はなかったようだが傷が深い!!なんとかしてくれまいか!!」
「だから煉獄さんはうるさいですって!!他の患者さんが起きるでしょう!?」
「しのぶも声が大きくなっているわよ。
さ、早く治療しましょ」
ちなみに、一番うるさいと注意して回りたいのは、杏寿郎さんに絶賛抱きかかえられ中の私である。
杏寿郎さんには診察室の外で待っていてもらうことになり、私と胡蝶姉妹だけになった。
外からはソワソワと私の様子を伺う気配。
それも、愛しいと体全体から熱いオーラを放っていて壁を通して伝わってくるほどで。
なんなのこの変わった炎の呼吸の技は。新しい拾の型でもできた?鬼でなくて私が滅されちゃいそうよ。
これでは柱たるカナエさんはもちろん、聡いしのぶさんにも杏寿郎さんの気持ちはバレてしまっていることだろう。
ハァ〜案の定、視線が痛い!
……私に恋愛の意味で興味を持つのはやめてほしいのに。
私は恋愛をしている時間が惜しい。
杏寿郎さんの生還のため、走り続けたい。今度こそ、今度こそ。貴方を救ってみせる。ただそれだけが私の生きる意味。
だからぬるま湯にはひとつも浸からず、そのために自分の甘い考えは全て捨てたいのに。
なのに、本人が邪魔をしてくる。私の奥底を暴いて、好きの気持ちを引き摺り出そうとしてくる。
腕から鬼の針が取り除かれる。楔の役割をになっていたそれは、取り除かれた直後から徐々に消えていき短さを増している。そのうち完全に消え去るだろう。
お任せしているから患部は見ないけれど、血が噴き出し、しのぶさんが傷口を抑えてくれるのを肌で感じる。強く抑えすぎ!痛い。
それと稀血の血の匂いが濃い。藤の香りが焚きつめられていなければ、蝶屋敷とて鬼に突入されていたかも……。
「煉獄くんの気持ちに応えてあげたら?
兄妹といっても、血は繋がっていないんでしょう?」
そう聞いてきたのは、腕の治療を続けるカナエさんだ。
「どこでそれを……」
「私は柱であると同時に、鬼殺隊の医術を管理する事があるここの女主人よ。隊士の体調や身の上、その他情報を知っておくのは当たり前です。
そうでなくてもあの感情は大きすぎてバレバレ。煉獄君のまっすぐな気持ちが自分に向いているの、朝緋ちゃんも知ってるでしょ?」
妹だけれど血のつながりがないこと。稀血であることすら知られていたとは。
おまけに私の中の気持ちにまで気がついている。でなかったなら、応えてあげたら?なんて聞かない。
「たしかに師範の気持ちは一部私に向いてるかもしれません」
「向いているかもじゃなくって、向いてるでしょ!あの視線見たの!?見なくても壁をすり抜けてこっちに飛んできてますよ!」
「こらこらしのぶ」
「……でもぬるま湯に浸っている時間は私にはないんです」
「うーん、顔はそう言ってないみたいだけど〜」
「…………っ」
えっ嘘!上手く隠してるつもりなのに、顔に出ている!?
それでは杏寿郎さんにまで、私が必死に隠している気持ちがバレてしまう……!
「嘘よ。でも動揺したわね、呼吸が揺れた」
笑顔を向けながら、包帯で巻かれた腕をトントンと小さく叩いてくるカナエさん。
巻き方すごく綺麗。この包帯で心も巻いてくれないかな。
「さ、処置は終わったわよ〜。
貫通はしていたけれど、太い血管は偶然にも傷ついていなかったみたいね。しばらく大人しくしていればまた任務にも復帰できるわ。
もちろん、回復の呼吸は使い続けるようにしてね」
「治るまではこの蝶屋敷で療養に努めてください。私達がいいというまでは入院です」
「御二方ともありがとうございます」
頭を深々と下げて礼を述べれば、私の頬にスッと白魚のようでいて、でも剣胼胝のある剣士の指が添えられた。
顔を上げれば、人を慈しむ優しさを湛えた薄紫の瞳と目があった。
「ね、朝緋ちゃん。
心がいっぱいいっぱいになってしまったら、自分の気持ちに素直になるのも大切なことだからね。
心の在り方も、鬼殺の剣に出ちゃうからどうか気をつけて」
「……はい」
「姉さんはまたそんなこと言って!
鬼殺隊で恋愛なんて、風紀が乱れるわよ!恋愛なんて心拍も血圧も乱れて呼吸に影響が出るだけじゃない!!」
しのぶさんがぷりぷり怒り、それをカナエさんが宥めている。その横で私はカナエさんに言われた言葉について反芻していた。
素直な気持ち、か……。いつかそうなれたらと思う。
でもなぜだろう。私から素直になる前に、杏寿郎さんに無理やり心を暴かれそうな気がするんだよね。こう、服をビリビリ〜ッて破くみたいに。
杏寿郎さん、結構強引なところあるからなぁ……。ううう、悪寒が走るぅ……!
カナエさんがしのぶさんの頬をつんつんつついた。んんん?この仕草見たことある。
しのぶさんのえいえいつんつんのクセは、もしかしてカナエさんからかな。
「恋の話はともかく、しのぶももう少し素直になりましょ?」
「あー、しのぶさんツンデレですもんね」
やっぱり姉妹なんだと微笑ましく思っていたら、つい通じない言葉を使ってしまった。
「つんでれって何よ。どうせろくでもないことだろうけど会って間もない人に決めつけられたくないわ」
「んーーー。ツンデレは、つんけんしてるけどそれはただの強がりなだけでたまにでれでれと甘えてくれる気質の子?のことだよ」
「んなっ!?」
説明してみた。意味も、しのぶさんの気質にも合ってる……よね?しのぶさん真っ赤だし。
「まあ!そこまでしのぶのことわかってくれるなんて!朝緋ちゃん、ぜひしのぶとお友達になってね!!」
「ちょっと姉さん!?」
「はいぜひ!」
「貴女まで!!」
「同じ鬼殺隊の女性隊士同士、仲良くしてください」
「……わかった。仲良くしましょう」
まんざらでもないらしく、笑顔を見せてくれた。呼び名もお互い下の名前にしたのだけれど……。
「しのぶちゃんとお呼びしても?」
「えっ。……い、いいですよ」
『前』の私は胡蝶しのぶをしのぶさんと呼んでいた。
けれど蜜璃がしのぶさんではなく初めからしのぶちゃんと気軽に呼んでいる姿を見てしまった。
私はそれが羨ましくてたまらなかった。
しのぶさん……ううん、しのぶとは、もっと仲良くなりたかったから。
心の中では呼び捨てにさせていただこう。
そして女性隊士同士で非番の日にお茶を飲みに行ったり、買い物に行ったりと世の女性らしいことをしてみたい。
恋愛こそ二の次にしているけれどね。休みの日くらいは鬼のことを忘れて普通の人になりたいと夢見るのだ。
まだ夜明け遠い空の下飛び込んだ蝶屋敷。
存外にも大きな声だったのだろう、花柱をなされている胡蝶カナエさんと妹のしのぶさんが玄関先で出迎えてくれた。
「煉獄君、今何時だと思っているの?」
「うるさいですよ!」
『今回』はこれが初対面だ。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花とはよく言ったもので。御二方とも相変わらずの美しさが健在の見目麗しい姉妹で、思わず見惚れてしまう。
すでに隊士達の治療にあたりながら鍛錬、そして任務を遂行しているであろう、その御姿にもただただ尊敬の意を覚えた。
「……って、あらあら。今回は煉獄君じゃないのね〜」
ふんわりとしたその薄紫の瞳が私に向けられどきりとした。けれど、私が真に気になるのはそこじゃない。
「今回はって何ですか?花柱様」
「煉獄君はよく怪我をこさえてくるの。ここの常連さんよ」
「師範〜〜〜?どういうことですか??」
「わはは!不甲斐なし!!」
ジト目で睨む。
んもう、ふいとあちらを向いたってごまかしは効かないんだからね?
「ただ、人を連れてきたのは初めてね。しかもそんな大切そうに抱き抱えてなんて」
「見たところ、怪我は腕だけのようですが?」
ニコニコ見てくるカナエさんと違い、しのぶさんの目が訝しげに私の怪我の具合を値踏みするように射抜く。
「腕だけです……自分で歩くと言ってるのに、こうして運んでくれてるんです……」
「腕に負担がかかったら大変だろう!!」
上から声が降ってきた。過保護極まれり。
「本当、大切にされているのね」
「まあ、私は稀血な上に妹ですから……」
稀血はともかく『妹』を強調して言えば、上では不満そうな気配が漂う。けれど無視だ無視。
「ともかく花柱殿!今この子は鬼の針が腕を貫通している状態だ!!
ここまで来る途中何も変化はなく、幸いにも毒はなかったようだが傷が深い!!なんとかしてくれまいか!!」
「だから煉獄さんはうるさいですって!!他の患者さんが起きるでしょう!?」
「しのぶも声が大きくなっているわよ。
さ、早く治療しましょ」
ちなみに、一番うるさいと注意して回りたいのは、杏寿郎さんに絶賛抱きかかえられ中の私である。
杏寿郎さんには診察室の外で待っていてもらうことになり、私と胡蝶姉妹だけになった。
外からはソワソワと私の様子を伺う気配。
それも、愛しいと体全体から熱いオーラを放っていて壁を通して伝わってくるほどで。
なんなのこの変わった炎の呼吸の技は。新しい拾の型でもできた?鬼でなくて私が滅されちゃいそうよ。
これでは柱たるカナエさんはもちろん、聡いしのぶさんにも杏寿郎さんの気持ちはバレてしまっていることだろう。
ハァ〜案の定、視線が痛い!
……私に恋愛の意味で興味を持つのはやめてほしいのに。
私は恋愛をしている時間が惜しい。
杏寿郎さんの生還のため、走り続けたい。今度こそ、今度こそ。貴方を救ってみせる。ただそれだけが私の生きる意味。
だからぬるま湯にはひとつも浸からず、そのために自分の甘い考えは全て捨てたいのに。
なのに、本人が邪魔をしてくる。私の奥底を暴いて、好きの気持ちを引き摺り出そうとしてくる。
腕から鬼の針が取り除かれる。楔の役割をになっていたそれは、取り除かれた直後から徐々に消えていき短さを増している。そのうち完全に消え去るだろう。
お任せしているから患部は見ないけれど、血が噴き出し、しのぶさんが傷口を抑えてくれるのを肌で感じる。強く抑えすぎ!痛い。
それと稀血の血の匂いが濃い。藤の香りが焚きつめられていなければ、蝶屋敷とて鬼に突入されていたかも……。
「煉獄くんの気持ちに応えてあげたら?
兄妹といっても、血は繋がっていないんでしょう?」
そう聞いてきたのは、腕の治療を続けるカナエさんだ。
「どこでそれを……」
「私は柱であると同時に、鬼殺隊の医術を管理する事があるここの女主人よ。隊士の体調や身の上、その他情報を知っておくのは当たり前です。
そうでなくてもあの感情は大きすぎてバレバレ。煉獄君のまっすぐな気持ちが自分に向いているの、朝緋ちゃんも知ってるでしょ?」
妹だけれど血のつながりがないこと。稀血であることすら知られていたとは。
おまけに私の中の気持ちにまで気がついている。でなかったなら、応えてあげたら?なんて聞かない。
「たしかに師範の気持ちは一部私に向いてるかもしれません」
「向いているかもじゃなくって、向いてるでしょ!あの視線見たの!?見なくても壁をすり抜けてこっちに飛んできてますよ!」
「こらこらしのぶ」
「……でもぬるま湯に浸っている時間は私にはないんです」
「うーん、顔はそう言ってないみたいだけど〜」
「…………っ」
えっ嘘!上手く隠してるつもりなのに、顔に出ている!?
それでは杏寿郎さんにまで、私が必死に隠している気持ちがバレてしまう……!
「嘘よ。でも動揺したわね、呼吸が揺れた」
笑顔を向けながら、包帯で巻かれた腕をトントンと小さく叩いてくるカナエさん。
巻き方すごく綺麗。この包帯で心も巻いてくれないかな。
「さ、処置は終わったわよ〜。
貫通はしていたけれど、太い血管は偶然にも傷ついていなかったみたいね。しばらく大人しくしていればまた任務にも復帰できるわ。
もちろん、回復の呼吸は使い続けるようにしてね」
「治るまではこの蝶屋敷で療養に努めてください。私達がいいというまでは入院です」
「御二方ともありがとうございます」
頭を深々と下げて礼を述べれば、私の頬にスッと白魚のようでいて、でも剣胼胝のある剣士の指が添えられた。
顔を上げれば、人を慈しむ優しさを湛えた薄紫の瞳と目があった。
「ね、朝緋ちゃん。
心がいっぱいいっぱいになってしまったら、自分の気持ちに素直になるのも大切なことだからね。
心の在り方も、鬼殺の剣に出ちゃうからどうか気をつけて」
「……はい」
「姉さんはまたそんなこと言って!
鬼殺隊で恋愛なんて、風紀が乱れるわよ!恋愛なんて心拍も血圧も乱れて呼吸に影響が出るだけじゃない!!」
しのぶさんがぷりぷり怒り、それをカナエさんが宥めている。その横で私はカナエさんに言われた言葉について反芻していた。
素直な気持ち、か……。いつかそうなれたらと思う。
でもなぜだろう。私から素直になる前に、杏寿郎さんに無理やり心を暴かれそうな気がするんだよね。こう、服をビリビリ〜ッて破くみたいに。
杏寿郎さん、結構強引なところあるからなぁ……。ううう、悪寒が走るぅ……!
カナエさんがしのぶさんの頬をつんつんつついた。んんん?この仕草見たことある。
しのぶさんのえいえいつんつんのクセは、もしかしてカナエさんからかな。
「恋の話はともかく、しのぶももう少し素直になりましょ?」
「あー、しのぶさんツンデレですもんね」
やっぱり姉妹なんだと微笑ましく思っていたら、つい通じない言葉を使ってしまった。
「つんでれって何よ。どうせろくでもないことだろうけど会って間もない人に決めつけられたくないわ」
「んーーー。ツンデレは、つんけんしてるけどそれはただの強がりなだけでたまにでれでれと甘えてくれる気質の子?のことだよ」
「んなっ!?」
説明してみた。意味も、しのぶさんの気質にも合ってる……よね?しのぶさん真っ赤だし。
「まあ!そこまでしのぶのことわかってくれるなんて!朝緋ちゃん、ぜひしのぶとお友達になってね!!」
「ちょっと姉さん!?」
「はいぜひ!」
「貴女まで!!」
「同じ鬼殺隊の女性隊士同士、仲良くしてください」
「……わかった。仲良くしましょう」
まんざらでもないらしく、笑顔を見せてくれた。呼び名もお互い下の名前にしたのだけれど……。
「しのぶちゃんとお呼びしても?」
「えっ。……い、いいですよ」
『前』の私は胡蝶しのぶをしのぶさんと呼んでいた。
けれど蜜璃がしのぶさんではなく初めからしのぶちゃんと気軽に呼んでいる姿を見てしまった。
私はそれが羨ましくてたまらなかった。
しのぶさん……ううん、しのぶとは、もっと仲良くなりたかったから。
心の中では呼び捨てにさせていただこう。
そして女性隊士同士で非番の日にお茶を飲みに行ったり、買い物に行ったりと世の女性らしいことをしてみたい。
恋愛こそ二の次にしているけれどね。休みの日くらいは鬼のことを忘れて普通の人になりたいと夢見るのだ。