三周目 参
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それでもまだまだ弱い私には、鬼の数は多すぎた。
「はあ、はぁ……、」
脇腹、肩口、手、そして足に至るまで、鬼に攻撃を受けてしまった。
暴れたおかげかこの辺り一帯の鬼は倒せたはずだけれど、私の中の修羅は満足していない。鬼を殺したくて飢え、体の底で怒りと憎しみが渦を巻いていた。
……いや、飢えているのは体内か。血が足りていない。
攻撃が当たった箇所から、血が流れている。
藤襲山如きでこんなに怪我を負うだなんて、あってはならないことなのに。
杏寿郎さんからいただいた傷薬も使い果たしてしまったしここを離れて治療するべきなのだろう。
血の匂いが濃い今、このままここにいては、また鬼がくるかもしれないし。……次はこちらがやられる可能性もある。
ああでも、目の前の鬼の亡骸が憎くてたまらない!私の憎しみは続いている。
消さないと気が済まない……!
憎しみと怒りとそして高揚感が奥底に渦巻いた私の体は止まらない。
鬼の亡骸を痛めつけ続ける。
その時、刀を振り上げる腕を何者かに止められた。
「おいっ!お前いい加減やめろ!!」
「っ!?」
鬼の殺気も気配もなかった。振り向きざまに刃を一閃させるが、それは他でもない相手の日輪刀に打ち付けて終わった。
ガキン、と金打の高い音が響く。
「!!…………かぃが……、」
小さく言葉を発するが、口をつぐんだ。
そこにいたのは、『前回』も同期として鬼殺隊に入った獪岳だったからだ。
……なるほど、だから私の攻撃は防がれたか。雷の呼吸の速さでいなしてみせたのだ。
雷の走る特徴的な日輪刀を鞘に収める獪岳。彼の顔は四日間の間に何度か鬼と相対したのだろう、そこかしこに薄く傷があった。
けれど獪岳の瞳に映る私の姿は、それ以上に傷、そして血と埃に塗れていた。自分の血もあるけれど、消えず沈着した鬼の血もある。加えて鬼の如き表情だ。
「お前……。
いい、まずその血を洗い流してこい。
聞きたいことがあるから、終わったらこっち来い!」
私の顔が見るに堪えないものだったようで、獪岳の顔が歪む。
人を小馬鹿にしたその顔。寄越される侮蔑の感情。ほんのり宿る私の目への恐怖と困惑。
ああ、そうだ。獪岳だ。
よかった、彼は生きていた……。
探しても見つからなかったから、今回は死んでしまったのかと思っていた。
だからつい感極まって抱きついてしまった。
「な、ちょ、離れろって!!」
「アイタぁ!?」
スパーン!!頭を思い切り叩かれる。
あ、もしやウブな獪岳は女の子に抱き付かれるなんて恥ずかしくな、
「俺に血をつける気かよ!てめぇの稀血で鬼が寄ってきちまうだろが!!」
違った、ちょっと悲しい。でもちょっと頬赤いなぁ……すぐ赤くなったかつての杏寿郎さんの方がウブってことか。
「……なんだよ、普通の女じゃねぇか。
さっきまで鬼より鬼みてぇなカオしてたのは一体なんだ。
なぜあんな危険侵してまで鬼の死体なんか痛めつけてた?どうせ勝手に消えるだろ」
あれを見ていたのか。私が死した鬼の体を痛めつけ嬲るさまを。
「そんなの……嫌いだから。憎いからだよ。鬼 が人を殺した分だけ、私は刺し殺すの」
近くに流れている川で手拭いを絞り、血を拭い取っていく。獪岳はそれを横目で見ていた。
「?……まあいい。お前、」
「お前じゃない、朝緋だよ。煉獄朝緋」
「煉獄……ああ、炎の。選良様々か。
出生からして良く、大して鍛錬せずとも強く生まれる血統、恵まれた環境、何不自由ない暮らし……大事にされて育ったんだろアンタ。
ここは花嫁修行には向かねぇぜ。ま、そんだけ怪我したら身に染みただろうけどな」
選良……。エリート様々などと皮肉をぶつけるとはね。なんなの?獪岳は煉獄家に何か恨みでもあるわけ??
「花嫁修行?そんなもののためにこんなとこ来るわけない……。冗談がすぎる。
出生がいい?大して鍛錬しなくても強い?恵まれた?不自由ない暮らし?そこまでぬるま湯に浸かった人生を送ってきた覚えはないよ。
私がどれほど鍛錬を重ね続けてきたか、どれほど自分の弱さに打ちのめされているか……」
「あ?」
どれほど言ったところで、獪岳には想像もできないだろう。記憶のある限りでは生きている年数も、鍛錬の年数も私は獪岳どころか槇寿朗さんを超えている。
「…………私にはやらなくちゃいけないことがあるから、隊士になるだけ。
どうしてもこの手で殺したい鬼がいるの」
猗窩座……お前が杏寿郎さんの人としての命に手を出す限りは、私もお前の頸に手をかける。
「ふぅん?どうしても、ねぇ。親の仇かなんかか。
ならお前の速さはそこが源ってわけね。
お前、その速さはどうやって身につけたんだよ?
知ってるぜ。炎の呼吸ってのは、足をどっしり構えて繰り出すような技が多いんだろ。なのにお前はどっしり構えてない。どちらかといえば水や俺の雷の呼吸に近い素早い動きをしているように見えた」
「だから、朝緋だってば。
そうだなぁ、もともと足は速い方だったけど…。力がないから足の速さと技の速さを磨いた、ただそれだけだよ。
ねぇもしかして君は……えっと、」
ちら、と名前を言うように目配せする。
「ちっ………………獪岳だ」
舌打ちの後、ようやく教えてくれた。知ってはいたけれど、教えてもらわなくては名を呼べないものね。
「ありがとう。
獪岳はそんなこと言ってなぁに?もしかして私の速さの極意でも知りたい……とかだったりして?」
ニヤニヤしながら試しに聞いてみたら顔がこわばった。え、まさかの図星?
獪岳は壱ノ型が使えないと聞いたことがある。そんなの単なる噂だと思うけど、もしもだよ?もしそれが本当のことだとしたら……。
雷の呼吸の壱ノ型は最速の居合術だ。
なぜそれが使えないのかは、私にはよくわからないけれど、最速と名を売っているわけだし、雷の呼吸の修練的には速さを磨く他ないと思うんだよなぁ。
ま、雷の呼吸は炎の呼吸より速いし、獪岳が壱ノ型を使えないとか、そんなわけはないか。
それに少なくとも、獪岳本人から言われない限りは力にならない。
私にだって、やることはある。優先すべきは、杏寿郎さんのことだ。
「ま!頑張ってね!!」
「なんかお前腹立つな!?」
ぽむぽむ!と肩を叩いて笑顔で励ますが、善意から笑顔で言ったのにキレられた。なんで!?
キレる獪岳を横目に、鬼の気配がないのを確認して草の上に横になる。ああ〜地べた冷たい〜お布団が欲しい〜〜!
「んー、それにしても疲れた……!もう動けない……」
うっ!一度横になると、途端にどっと疲れが……。体に根っこが生えてるわコレ。
獪岳もため息ひとつ、隣に座った。行動を共にする気のようで、傍に置いた私の荷物を勝手に漁っている。
「その怪我もあるが隊士にもなってない内にしちゃあ、朝緋は動きが激しすぎておかしかったもんな。
……お、握り飯発見。美味いな」
「勝手に食べないでよ……」
「お前が作ったモンか?」
「違うよ、弟が持たせてくれたの。美味しいでしょ」
「まぁな。
とにかく死に急いでるってくらいの激闘ぶりだったぜ」
死に急ぎか……。杏寿郎さんさえ無事なら死んだっていい。
あ、獪岳ったらやっと名前呼んでくれたわ。
「はあ、はぁ……、」
脇腹、肩口、手、そして足に至るまで、鬼に攻撃を受けてしまった。
暴れたおかげかこの辺り一帯の鬼は倒せたはずだけれど、私の中の修羅は満足していない。鬼を殺したくて飢え、体の底で怒りと憎しみが渦を巻いていた。
……いや、飢えているのは体内か。血が足りていない。
攻撃が当たった箇所から、血が流れている。
藤襲山如きでこんなに怪我を負うだなんて、あってはならないことなのに。
杏寿郎さんからいただいた傷薬も使い果たしてしまったしここを離れて治療するべきなのだろう。
血の匂いが濃い今、このままここにいては、また鬼がくるかもしれないし。……次はこちらがやられる可能性もある。
ああでも、目の前の鬼の亡骸が憎くてたまらない!私の憎しみは続いている。
消さないと気が済まない……!
憎しみと怒りとそして高揚感が奥底に渦巻いた私の体は止まらない。
鬼の亡骸を痛めつけ続ける。
その時、刀を振り上げる腕を何者かに止められた。
「おいっ!お前いい加減やめろ!!」
「っ!?」
鬼の殺気も気配もなかった。振り向きざまに刃を一閃させるが、それは他でもない相手の日輪刀に打ち付けて終わった。
ガキン、と金打の高い音が響く。
「!!…………かぃが……、」
小さく言葉を発するが、口をつぐんだ。
そこにいたのは、『前回』も同期として鬼殺隊に入った獪岳だったからだ。
……なるほど、だから私の攻撃は防がれたか。雷の呼吸の速さでいなしてみせたのだ。
雷の走る特徴的な日輪刀を鞘に収める獪岳。彼の顔は四日間の間に何度か鬼と相対したのだろう、そこかしこに薄く傷があった。
けれど獪岳の瞳に映る私の姿は、それ以上に傷、そして血と埃に塗れていた。自分の血もあるけれど、消えず沈着した鬼の血もある。加えて鬼の如き表情だ。
「お前……。
いい、まずその血を洗い流してこい。
聞きたいことがあるから、終わったらこっち来い!」
私の顔が見るに堪えないものだったようで、獪岳の顔が歪む。
人を小馬鹿にしたその顔。寄越される侮蔑の感情。ほんのり宿る私の目への恐怖と困惑。
ああ、そうだ。獪岳だ。
よかった、彼は生きていた……。
探しても見つからなかったから、今回は死んでしまったのかと思っていた。
だからつい感極まって抱きついてしまった。
「な、ちょ、離れろって!!」
「アイタぁ!?」
スパーン!!頭を思い切り叩かれる。
あ、もしやウブな獪岳は女の子に抱き付かれるなんて恥ずかしくな、
「俺に血をつける気かよ!てめぇの稀血で鬼が寄ってきちまうだろが!!」
違った、ちょっと悲しい。でもちょっと頬赤いなぁ……すぐ赤くなったかつての杏寿郎さんの方がウブってことか。
「……なんだよ、普通の女じゃねぇか。
さっきまで鬼より鬼みてぇなカオしてたのは一体なんだ。
なぜあんな危険侵してまで鬼の死体なんか痛めつけてた?どうせ勝手に消えるだろ」
あれを見ていたのか。私が死した鬼の体を痛めつけ嬲るさまを。
「そんなの……嫌いだから。憎いからだよ。
近くに流れている川で手拭いを絞り、血を拭い取っていく。獪岳はそれを横目で見ていた。
「?……まあいい。お前、」
「お前じゃない、朝緋だよ。煉獄朝緋」
「煉獄……ああ、炎の。選良様々か。
出生からして良く、大して鍛錬せずとも強く生まれる血統、恵まれた環境、何不自由ない暮らし……大事にされて育ったんだろアンタ。
ここは花嫁修行には向かねぇぜ。ま、そんだけ怪我したら身に染みただろうけどな」
選良……。エリート様々などと皮肉をぶつけるとはね。なんなの?獪岳は煉獄家に何か恨みでもあるわけ??
「花嫁修行?そんなもののためにこんなとこ来るわけない……。冗談がすぎる。
出生がいい?大して鍛錬しなくても強い?恵まれた?不自由ない暮らし?そこまでぬるま湯に浸かった人生を送ってきた覚えはないよ。
私がどれほど鍛錬を重ね続けてきたか、どれほど自分の弱さに打ちのめされているか……」
「あ?」
どれほど言ったところで、獪岳には想像もできないだろう。記憶のある限りでは生きている年数も、鍛錬の年数も私は獪岳どころか槇寿朗さんを超えている。
「…………私にはやらなくちゃいけないことがあるから、隊士になるだけ。
どうしてもこの手で殺したい鬼がいるの」
猗窩座……お前が杏寿郎さんの人としての命に手を出す限りは、私もお前の頸に手をかける。
「ふぅん?どうしても、ねぇ。親の仇かなんかか。
ならお前の速さはそこが源ってわけね。
お前、その速さはどうやって身につけたんだよ?
知ってるぜ。炎の呼吸ってのは、足をどっしり構えて繰り出すような技が多いんだろ。なのにお前はどっしり構えてない。どちらかといえば水や俺の雷の呼吸に近い素早い動きをしているように見えた」
「だから、朝緋だってば。
そうだなぁ、もともと足は速い方だったけど…。力がないから足の速さと技の速さを磨いた、ただそれだけだよ。
ねぇもしかして君は……えっと、」
ちら、と名前を言うように目配せする。
「ちっ………………獪岳だ」
舌打ちの後、ようやく教えてくれた。知ってはいたけれど、教えてもらわなくては名を呼べないものね。
「ありがとう。
獪岳はそんなこと言ってなぁに?もしかして私の速さの極意でも知りたい……とかだったりして?」
ニヤニヤしながら試しに聞いてみたら顔がこわばった。え、まさかの図星?
獪岳は壱ノ型が使えないと聞いたことがある。そんなの単なる噂だと思うけど、もしもだよ?もしそれが本当のことだとしたら……。
雷の呼吸の壱ノ型は最速の居合術だ。
なぜそれが使えないのかは、私にはよくわからないけれど、最速と名を売っているわけだし、雷の呼吸の修練的には速さを磨く他ないと思うんだよなぁ。
ま、雷の呼吸は炎の呼吸より速いし、獪岳が壱ノ型を使えないとか、そんなわけはないか。
それに少なくとも、獪岳本人から言われない限りは力にならない。
私にだって、やることはある。優先すべきは、杏寿郎さんのことだ。
「ま!頑張ってね!!」
「なんかお前腹立つな!?」
ぽむぽむ!と肩を叩いて笑顔で励ますが、善意から笑顔で言ったのにキレられた。なんで!?
キレる獪岳を横目に、鬼の気配がないのを確認して草の上に横になる。ああ〜地べた冷たい〜お布団が欲しい〜〜!
「んー、それにしても疲れた……!もう動けない……」
うっ!一度横になると、途端にどっと疲れが……。体に根っこが生えてるわコレ。
獪岳もため息ひとつ、隣に座った。行動を共にする気のようで、傍に置いた私の荷物を勝手に漁っている。
「その怪我もあるが隊士にもなってない内にしちゃあ、朝緋は動きが激しすぎておかしかったもんな。
……お、握り飯発見。美味いな」
「勝手に食べないでよ……」
「お前が作ったモンか?」
「違うよ、弟が持たせてくれたの。美味しいでしょ」
「まぁな。
とにかく死に急いでるってくらいの激闘ぶりだったぜ」
死に急ぎか……。杏寿郎さんさえ無事なら死んだっていい。
あ、獪岳ったらやっと名前呼んでくれたわ。