三周目 参
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始まりと共に、私がまずしたことは人員の確保だ。
拠点作りも大事だけれど、人助けが先。
『前』では開始直後からみんながどこに隠れたかわからない状態だったけれど、逆に言えば探さなかった場所を巡って探せばいいだけ。
藤襲山の地形は変わっていないし、人と合流するのは容易なことだった。
木を伐採し明るく拓けた場所を作り、拠点として活動すること二日。
救えた人数も増え、『前』と比べると倍の人数が拠点で寝食を共にしている状態だ。
その際出会った鬼の頸は全て斬った。
人と協力して困難に立ち向かうのはいいことで。ただ、この人達が鬼殺隊で生き残れるのか?と言うと、話は別になる。
この最終選別では『生き残る』のが大事な事とはいえ、鬼と戦わずして何が鬼殺隊だ。入隊後に鬼と戦えなければ、それはただ鬼に餌を届けに行くのとなんら変わりはない。
目の前で談笑しながら火を囲む同年代の若者を見ながら、私はただただ不安だった。
鬼が襲ってくる夜は確かに怖いけれど、昼間は至って平和。ここをキャンプか何かと勘違いしてはいないだろうか。言っておくけど今、戦地どころか鬼の狩場の真っ只中で私達は鬼の餌なのよ?
こんなんで、最終選別は大丈夫なのかな。
……その結果がこのザマだ。
不安は的中、四日目の夜に鬼が襲ってきて小隊は散り散りになり崩壊した。
見張り役の子が、揃って寝落ちしたためだ。
数日しか共に過ごしていないまだ若い子達には、大した統率力はなく。何人かが犠牲となり、私も傷を負った。
私が傷を負うことで稀血が発覚し他から引き離すことはできたが、結局あの様子だと隊士としてやっていける子は少なかろう。『前』よりも更に少ないかもしれない。
蜘蛛の子を蹴散らすように消えた人間達。物言わぬ骸と化した若者。その血溜まりの跡に、唇を噛み締める。
ただ集まって行動すれば良いわけじゃなかった。
やる気のない子や怖がる子は早く下山させるべきだったのに、その判断を見誤った。作戦を考えた私の落ち度だ。やるせない……。
自分の不甲斐なさに反吐が出る。
同時に吐き気がするほど鬼への憎しみが湧いた。
そもそも鬼がいるのが悪い。鬼という存在が良くない。鬼はいてはいけない存在だ。
いつぞやの憎しみが溢れて止まらない。杏寿郎さんを傷つけたあの鬼への。そして全ての鬼を生んだ首領への憎しみが。
もし感情で握っている日輪刀が変色するとしたら、闇のような黒に染まっていたろう。
そうだ。開始の時は『出会った鬼は討伐』と考えていたではないか。
私の刀は、他の子を守る為でなく鬼の頸をとるために振るうべきものだ。
ここで初めて、私は逃げてきた方へ踵を返した。
鬼は殺す。
日輪刀を抜いた瞬間、淡い焔色が翻った。
「たっ、助けてくれっ!」
鬼達は足の速い私を追うのを諦めていたか、他の人間を襲っていた。
フラッシュバックするのは、あの日の光景。
杏寿郎さんを殺した鬼、猗窩座……許せない。許せない許せない許せない!
鬼の表情も状況も何もかもがちがうのに、あの光景と目の前の光景がぴたりと重なる。
目の前が赤く染まった。
「醜い鬼どもめ……ッ!!」
「ギャッ!?」
型の名を紡ぐ暇なく、鋭い刃が一閃する。
次の瞬間には鬼の頸が宙を飛んでいた。
下に落ちる暇なく燃えるように消えていくそれを目にすることなく、もう一匹の頸も刎ねる。今度も地面に着かない内に燃え尽き消えた。
襲っていた鬼は二体のみ。これでここの鬼は討伐完了だ。
「あ、ありがとう……助かっ……ヒッ!!」
私に礼を言った男子が、顔を見て短く悲鳴を上げた。
何よ?人の顔見て悲鳴あげるって失礼すぎない?助けたのはこっちなんだけど。
一体私の何が怖いの……?
刀の峰部分、黒い刃に映る自身の姿をちらと確認する。そこにあったのは、鬼より鬼の形相をした自身の姿。
すでに私は般若の面を被ったかのような顔をしていた。
自嘲気味に鼻で笑うと「怖気ついたなら山を降りて」とだけ言い残し、そこをあとにする。山に残るか否かは個人にお任せする。
人様のこれからの人生、そして生き死ににまで責任が持てない。
そしてここに出る鬼は雑魚鬼レベル。
力を尽くせば確実に頸を取れる弱い鬼だと本能的にわかっているせいか、相対すれば鬼に対する恐怖は消え代わりに憎しみが湧いてくる。
「さっきの稀血だなぁ!?」
「食わせろぉぉ!!」
奥へ踏み込めばさらに鬼がいた。
弱い鬼は考えもなしに獲物に集う。その結果、群れのような形を取ることもある。……ま、獲物を殺してから奪い合えばいいだけだし。
鬼め、私の血に酔うがいい。
藤襲山に巣食う鬼共はほぼ男の鬼だ。だから私の稀血を嗅げば気持ちの悪い酔い方をしてくる。その様子は正直あまり見たくないけれど、腕に血が滲んでしまっている以上、鬼は勝手に酔っ払う。
それを活用しない手はない。
「その不思議な稀血……!さぞや甘く美味かろうな!」
「へへ、犯しながら食ってやるぞ……!」
値踏みするかのように上から下まで眺め、舌舐めずり。
酔いの効力は素晴らしいがただ、恐怖はなくとも気持ちが悪く、私は纏わりつく視線を斬り捨てるように刀を構え直す。
鬼を呼び寄せて斬る。次の最終選別に使う鬼が少なくなろうと構わない。
……現れた鬼は滅ぼしてやる。
「炎の呼吸、ーー炎山渦!!」
壱ノ型・不知火の素早さと位置、威力はそのままに横回転数を増やして渦を描いて斬る私だけの技。
鬼の頸がまとめてあっさり千切れ飛ぶさまは、恐ろしくもどこか清々しい。
放てるまでに速さが追いついた!この体で放ったのは初だけど上手くいったからだ。
私は速くならねばならなかった。
幼少期はトカゲの姿をした鬼を前に恐怖を覚え、ほとんど動けなかった。……体もだが、心が弱かった。
私は髪の毛一本たりとも、鬼に奪われてはならない。それもわかっていたし、すぐに動かなければならなかったのに。
結果、共にいた杏寿郎さんを傷つけてしまった。とても嫌な思い出だ。
今はあの頃より力がある。技も……大したものは使えないけれど一部使えるようになった。実戦の中で習得するものも多く、今放った炎山渦はその筆頭だ。
他に私が考案した伍ノ型ノ改炎虎乱咬みなんて、もう少し背が伸びて腕も長くならないと難しい。腕の長さと振り抜きのスピードが一定にならないと使えない。
自分の技なのに、過去に戻るたびに習得がリセットされるのは本当に嫌になる……。
幼い体には筋力も身に付いている経験が足りないためか、技どころか常中の習得すら上手くいかなかった。
もし、もしも『今回』も駄目で、『次』があるとしたら。その時もまた習得までの時間はこんなにかかるのだろうか。
ほんの少し、少〜しずつ『前』の時よりも強くなるまでの期間は短くなっているけれど、それは本当に微々たる差で。
一息つくと、鬼の頸だけが徐々に消えていく横で、胴体側が稀血欲しさに倒れ伏したままモゾモゾ動くのが目に入る。
死してなお、血を求めるか。なんと卑しい。
「死ね、消えてなくなれ!鬼は殺す、すべて殺してやる……!!」
ザクッザクッブシュッッ!
言葉を発さない鬼の胴体に日輪刀を突き立てる。何度も何度も何度も。
その肉が消えてなくなるその瞬間まで幾度となく突き立て続けた。
そうしていれば、他の鬼が集まるのは当然のことで。気がつけば鬼に囲まれていた。
全てが稀血を前に欲情し、ただでさえ気持ちの悪い鬼が余計に気持ち悪く成り果てている。
鬼殺の声と私の血の匂いで寄ってきた鬼どもめ、すべて無に帰してやる。
今度は、私が待ち焦がれた瞬間がやってくる番だった。
拠点作りも大事だけれど、人助けが先。
『前』では開始直後からみんながどこに隠れたかわからない状態だったけれど、逆に言えば探さなかった場所を巡って探せばいいだけ。
藤襲山の地形は変わっていないし、人と合流するのは容易なことだった。
木を伐採し明るく拓けた場所を作り、拠点として活動すること二日。
救えた人数も増え、『前』と比べると倍の人数が拠点で寝食を共にしている状態だ。
その際出会った鬼の頸は全て斬った。
人と協力して困難に立ち向かうのはいいことで。ただ、この人達が鬼殺隊で生き残れるのか?と言うと、話は別になる。
この最終選別では『生き残る』のが大事な事とはいえ、鬼と戦わずして何が鬼殺隊だ。入隊後に鬼と戦えなければ、それはただ鬼に餌を届けに行くのとなんら変わりはない。
目の前で談笑しながら火を囲む同年代の若者を見ながら、私はただただ不安だった。
鬼が襲ってくる夜は確かに怖いけれど、昼間は至って平和。ここをキャンプか何かと勘違いしてはいないだろうか。言っておくけど今、戦地どころか鬼の狩場の真っ只中で私達は鬼の餌なのよ?
こんなんで、最終選別は大丈夫なのかな。
……その結果がこのザマだ。
不安は的中、四日目の夜に鬼が襲ってきて小隊は散り散りになり崩壊した。
見張り役の子が、揃って寝落ちしたためだ。
数日しか共に過ごしていないまだ若い子達には、大した統率力はなく。何人かが犠牲となり、私も傷を負った。
私が傷を負うことで稀血が発覚し他から引き離すことはできたが、結局あの様子だと隊士としてやっていける子は少なかろう。『前』よりも更に少ないかもしれない。
蜘蛛の子を蹴散らすように消えた人間達。物言わぬ骸と化した若者。その血溜まりの跡に、唇を噛み締める。
ただ集まって行動すれば良いわけじゃなかった。
やる気のない子や怖がる子は早く下山させるべきだったのに、その判断を見誤った。作戦を考えた私の落ち度だ。やるせない……。
自分の不甲斐なさに反吐が出る。
同時に吐き気がするほど鬼への憎しみが湧いた。
そもそも鬼がいるのが悪い。鬼という存在が良くない。鬼はいてはいけない存在だ。
いつぞやの憎しみが溢れて止まらない。杏寿郎さんを傷つけたあの鬼への。そして全ての鬼を生んだ首領への憎しみが。
もし感情で握っている日輪刀が変色するとしたら、闇のような黒に染まっていたろう。
そうだ。開始の時は『出会った鬼は討伐』と考えていたではないか。
私の刀は、他の子を守る為でなく鬼の頸をとるために振るうべきものだ。
ここで初めて、私は逃げてきた方へ踵を返した。
鬼は殺す。
日輪刀を抜いた瞬間、淡い焔色が翻った。
「たっ、助けてくれっ!」
鬼達は足の速い私を追うのを諦めていたか、他の人間を襲っていた。
フラッシュバックするのは、あの日の光景。
杏寿郎さんを殺した鬼、猗窩座……許せない。許せない許せない許せない!
鬼の表情も状況も何もかもがちがうのに、あの光景と目の前の光景がぴたりと重なる。
目の前が赤く染まった。
「醜い鬼どもめ……ッ!!」
「ギャッ!?」
型の名を紡ぐ暇なく、鋭い刃が一閃する。
次の瞬間には鬼の頸が宙を飛んでいた。
下に落ちる暇なく燃えるように消えていくそれを目にすることなく、もう一匹の頸も刎ねる。今度も地面に着かない内に燃え尽き消えた。
襲っていた鬼は二体のみ。これでここの鬼は討伐完了だ。
「あ、ありがとう……助かっ……ヒッ!!」
私に礼を言った男子が、顔を見て短く悲鳴を上げた。
何よ?人の顔見て悲鳴あげるって失礼すぎない?助けたのはこっちなんだけど。
一体私の何が怖いの……?
刀の峰部分、黒い刃に映る自身の姿をちらと確認する。そこにあったのは、鬼より鬼の形相をした自身の姿。
すでに私は般若の面を被ったかのような顔をしていた。
自嘲気味に鼻で笑うと「怖気ついたなら山を降りて」とだけ言い残し、そこをあとにする。山に残るか否かは個人にお任せする。
人様のこれからの人生、そして生き死ににまで責任が持てない。
そしてここに出る鬼は雑魚鬼レベル。
力を尽くせば確実に頸を取れる弱い鬼だと本能的にわかっているせいか、相対すれば鬼に対する恐怖は消え代わりに憎しみが湧いてくる。
「さっきの稀血だなぁ!?」
「食わせろぉぉ!!」
奥へ踏み込めばさらに鬼がいた。
弱い鬼は考えもなしに獲物に集う。その結果、群れのような形を取ることもある。……ま、獲物を殺してから奪い合えばいいだけだし。
鬼め、私の血に酔うがいい。
藤襲山に巣食う鬼共はほぼ男の鬼だ。だから私の稀血を嗅げば気持ちの悪い酔い方をしてくる。その様子は正直あまり見たくないけれど、腕に血が滲んでしまっている以上、鬼は勝手に酔っ払う。
それを活用しない手はない。
「その不思議な稀血……!さぞや甘く美味かろうな!」
「へへ、犯しながら食ってやるぞ……!」
値踏みするかのように上から下まで眺め、舌舐めずり。
酔いの効力は素晴らしいがただ、恐怖はなくとも気持ちが悪く、私は纏わりつく視線を斬り捨てるように刀を構え直す。
鬼を呼び寄せて斬る。次の最終選別に使う鬼が少なくなろうと構わない。
……現れた鬼は滅ぼしてやる。
「炎の呼吸、ーー炎山渦!!」
壱ノ型・不知火の素早さと位置、威力はそのままに横回転数を増やして渦を描いて斬る私だけの技。
鬼の頸がまとめてあっさり千切れ飛ぶさまは、恐ろしくもどこか清々しい。
放てるまでに速さが追いついた!この体で放ったのは初だけど上手くいったからだ。
私は速くならねばならなかった。
幼少期はトカゲの姿をした鬼を前に恐怖を覚え、ほとんど動けなかった。……体もだが、心が弱かった。
私は髪の毛一本たりとも、鬼に奪われてはならない。それもわかっていたし、すぐに動かなければならなかったのに。
結果、共にいた杏寿郎さんを傷つけてしまった。とても嫌な思い出だ。
今はあの頃より力がある。技も……大したものは使えないけれど一部使えるようになった。実戦の中で習得するものも多く、今放った炎山渦はその筆頭だ。
他に私が考案した伍ノ型ノ改炎虎乱咬みなんて、もう少し背が伸びて腕も長くならないと難しい。腕の長さと振り抜きのスピードが一定にならないと使えない。
自分の技なのに、過去に戻るたびに習得がリセットされるのは本当に嫌になる……。
幼い体には筋力も身に付いている経験が足りないためか、技どころか常中の習得すら上手くいかなかった。
もし、もしも『今回』も駄目で、『次』があるとしたら。その時もまた習得までの時間はこんなにかかるのだろうか。
ほんの少し、少〜しずつ『前』の時よりも強くなるまでの期間は短くなっているけれど、それは本当に微々たる差で。
一息つくと、鬼の頸だけが徐々に消えていく横で、胴体側が稀血欲しさに倒れ伏したままモゾモゾ動くのが目に入る。
死してなお、血を求めるか。なんと卑しい。
「死ね、消えてなくなれ!鬼は殺す、すべて殺してやる……!!」
ザクッザクッブシュッッ!
言葉を発さない鬼の胴体に日輪刀を突き立てる。何度も何度も何度も。
その肉が消えてなくなるその瞬間まで幾度となく突き立て続けた。
そうしていれば、他の鬼が集まるのは当然のことで。気がつけば鬼に囲まれていた。
全てが稀血を前に欲情し、ただでさえ気持ちの悪い鬼が余計に気持ち悪く成り果てている。
鬼殺の声と私の血の匂いで寄ってきた鬼どもめ、すべて無に帰してやる。
今度は、私が待ち焦がれた瞬間がやってくる番だった。