三周目 弐
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「朝緋」
久しぶりに槇寿朗さんから名前を呼ばれた。
その際部屋を覗かれそうになったため、咄嗟に日輪刀を押入れに隠したけど……大丈夫よね?
一応女子の部屋だし、勝手に押入れを開けるような真似はしないはず。
どきどきしながら返事をする。
「父様、なんでしょう」
「鬼殺隊に入ろうとするのはやめろ。杏寿郎はもう手遅れでも、お前はまだ入っていない。まだ間に合う。
良い家を選んでやるから嫁げ」
嫁げ?また釣り書きが来たのかしら。……大正の世ならそろそろ来てもおかしくないか。
槇寿朗さんの考えはいつもそうだ。
強い言葉を使うけれど、その根底には私達を想っての気持ちが見え隠れしている。
……もっと言葉を選べばいいのに。もっと気持ちをストレートに表現すればいいのに。
そんなんじゃ、かつて気持ちを聞いた私しかわからないって。
私は槇寿朗さんの心を覗くかのように、じっと目を見つめて聞いた。……が、見つめすぎた。
「今確信した。……お前、知っていたな?」
「?知っていたとは?」
「その目だ。お前はたまにその目をしていた。全てを見透かすようなその目だ。
朝緋、お前は炎の呼吸が日の呼吸に遠く及ばぬことを知っていたろう!!」
「はぁ!?」
私そんな目してた!?
何がきっかけで激昂するかわからぬ癇癪持ちに、槇寿朗さんはいつなった?いきなり大声を出されてこちらは困惑ばかりする。
「劣化の呼吸なのになぜ炎の呼吸を学び、使おうと思った。なぜ意味のないことをしようとする」
「……おっしゃってる意味がわかりません」
「蔵にいたことがあったろう。朝緋はあの後何かを考え込む様子があった」
あの時のことか。考え込む様子は……あったわ。けれど、そんなことまで槇寿朗さんは気をつけて見ていたってこと?
さすが柱の観察眼には目を見張る物がある。
「さあ?覚えていません。蔵に入り込んだのは確か私が小学校にも通わぬほど幼い頃のこと。文字も読めない子供になにを期待することがありましょう」
「お前は昔から文字を読めた」
「そんなまさか、読めたわけないでしょう」
うわバレてる。シラを切っても、どこまで誤魔化せるか。
「朝緋は本をよく読んでいた。
挿絵でしか内容を理解できないはずの朝緋が挿絵もない小難しい本まで読んでいるのを俺は目撃した」
……そこまでわかっているのね。
大人に近づこうと背伸びして、読んでいるふりしてたのかもしれないとは思わないのだろうか。
いや、そんな話に騙されるわけないか。柱である槇寿朗さんに、そんな誤魔化しは効かないね。
「読んでいる途中に父様がきたので蔵の中の書物についてはほとんど知りません。これは本当です。
父様こそ、何が書いてあったのかよく教えてくださいませんかね?何が気になってるんですか??
大切に保管されていたはずのその書をお部屋にまで持ち出して……よほど気に触る内容が書かれていたとみえます。
肝心なことを教えず鬼殺隊に入る目標を諦めろとは、いささか強引なのでは?
今からでも遅くはありません。父様のお気持ちをお話してくださいませんか。……杏寿郎兄さんにもね」
槇寿朗さんの表情が怒りに満ちていく。
ああ、怒るな。その内叩かれるかもしれないけれど、私は言いたいことは言う。
「……っ、口答えを……!
俺の話を勝手に変えやがって!話にならん!
いいからお前は鬼殺隊に入るな!!」
槇寿朗さんの怒声を聞きつけ、千寿郎が様子を見にきたのが見えた。喧嘩しているところを見せてごめんね千寿郎。けど止めてくれるな。
「いいえ父様!私は鬼殺隊に入るべくしてここまできております!!
何を言われようともその考えは絶対に曲げない、その心は絶対に折れない!!」
「……くっ、ならその剣直接折ってやる!
道場に来い!!」
腕を掴まれ立たされた。
お?なになに?木刀でめった打ちにでもする気かしら??
「あ、姉上っ!父上もやめてくださ、」
思い切り掴まれた私を心配し千寿郎が声をあげるが、何もしないよう目配せすれば眉根を下げながら口をつぐんだ。
そのまま連れられ、道場の床に放り投げられる。受け身をとって向かい合えば、直後に木刀を投げ渡された。
「構えろ」
「へぇ……柱である貴方からの師事ですか。
ありがたいですが、剣では叶わぬことは承知。私には足の速さと回避術しか勝てるものはありませんよ。それは他でもない貴方が私に言ったこと。
なので私はあなたの剣から逃げ切って見せましょう。それでどうですか?」
絶対に勝てない試合は避けるべきだ。挑んで負けて、鬼殺隊に入らないよう仕向けられでもしたらここまでやってきた意味がない。
少しでも勝算のある方向に持っていきつつ挑発すれば、頭に血の上った槇寿朗さんは上手い具合に釣れた。
「逃げ切ってみせる、か。……言ったな?
ならば俺は型三つを使って朝緋を仕留めにかかる。四半刻の間、逃げて逃げて、俺の剣を凌いでみせろ」
四半刻……三十分か。いける。
「お前が負けて気を遣ったら、鬼殺隊に入るのは諦めてもらうぞ。その程度で気を遣るようでは入ったところですぐに死……」
その瞬間、掛け声もなく参ノ型を槇寿朗さんに向けて振り下ろした。
だが軸足を動かさぬまま、それは体を捻るだけで受け流されて終わった。
「不意打ちとは卑怯な……」
「私から攻撃しないとは言ってません!……のでッ」
畳み掛けるようにそのまま弐ノ型で追撃。だけどそれすら避けられ、逆に胴を薙ぎ払われた。先日杏寿郎さんにやられたところだ!
めっちゃ痛い……!!
「確かにな!ならこちらも加減はせん!!」
現柱による猛攻が次々飛んできた。
壱ノ型に弐ノ型に、そして参ノ型の連続斬り。
上弦の参の攻撃と同じくらい重くて強力で、しっかり握っておかないと木刀が弾き飛ばされる。足も踏ん張らないとだめだ!
「どうした?朝緋からの攻撃はもう終いか?
反撃もできぬようでは隊士としてやっていくなど不可能!すぐ死ぬ!なぜならお前には才能は皆無だからだ!!
才能が皆無?そんなの自分が一番わかっていることだ。
私は槇寿朗さんの攻撃の間を上手く掻い潜り、懐に飛び込んで薙いだ。
正直、一撃は食らわせたと思った。けれどそれも読まれていて逆に弐ノ型・昇り炎天を叩きつけられ、体が宙を舞った。
「俺が本気を出していると思うか?このままではその内、本気すら出していない俺の攻撃に当たって気を遣ることになる。
さあ鬼殺隊になぞ入らぬと言え!!」
「う、ぐ……、この程度で気を失う?そんなわけない、です……。絶対に言いません……!」
「……ならば叩き潰すまでだ」
槇寿朗さんの呼吸音が独特のものになり、構えも見覚えのあるものに変わった。
見た瞬間、逃げなくちゃと思った。
「肺を傷め呼吸がままならなくなっても恨むなよ。ーー玖ノ型・煉獄ッ」
「なっ!?」
まさか、私如きに奥義を使うとは!
溜めの時間は杏寿郎さんが使ったものより短かった。すぐに逃げを選択しなかったら危うかったろう。
避ける際に擦りむきはしたが、間一髪のところでかわしきることができた。私がいたところが焦げたように黒く抉れている。虚空も熱く燃えているようだった。
当たっていたら、肺は潰されていた。
「ちょ、ちょっとぉ〜!四つの型を使うなんて、父様の方こそ卑怯なのでは?もし当たっていたら、内臓を傷めるどころじゃなかったかもしれませんよ!?」
「お前のためだ。それに鬼に向けるほど全力の奥義ではない」
お酒で呼吸が安定しないのか、玖ノ型のあと肩で息をしている槇寿朗さん。柱としての強さこそそのままだけど、呼吸の精度は落ちたな……。
それが少し寂しくて、そして残念だった。
「父様のお気持ちは理解しています。でも、私も何を仰られようと、気持ちを変えることはありません。
私は次の最終選別に行きます」
「死に急ぎの大馬鹿娘め……!」
その時、尚も相対する私達の間を鎹烏が旋回した。槇寿朗さんの烏だ。
肩に止まった烏が何事か伝え、槇寿朗さんが苦虫を噛み潰したかのような顔になる。
「勝手にしろ、俺はこれから任務へ行く。
斬れぬ刀は鈍だ。あの日輪刀はよく磨いておけ」
こりゃ、押し入れに隠した日輪刀のことバレてるな……。
でもよかった。任務をボイコットすることもあるけれど、今回は行ってくれるらしいもの。
木刀を入り口にいる千寿郎に渡し、槇寿朗さんは行ってしまわれた。
久しぶりに槇寿朗さんから名前を呼ばれた。
その際部屋を覗かれそうになったため、咄嗟に日輪刀を押入れに隠したけど……大丈夫よね?
一応女子の部屋だし、勝手に押入れを開けるような真似はしないはず。
どきどきしながら返事をする。
「父様、なんでしょう」
「鬼殺隊に入ろうとするのはやめろ。杏寿郎はもう手遅れでも、お前はまだ入っていない。まだ間に合う。
良い家を選んでやるから嫁げ」
嫁げ?また釣り書きが来たのかしら。……大正の世ならそろそろ来てもおかしくないか。
槇寿朗さんの考えはいつもそうだ。
強い言葉を使うけれど、その根底には私達を想っての気持ちが見え隠れしている。
……もっと言葉を選べばいいのに。もっと気持ちをストレートに表現すればいいのに。
そんなんじゃ、かつて気持ちを聞いた私しかわからないって。
私は槇寿朗さんの心を覗くかのように、じっと目を見つめて聞いた。……が、見つめすぎた。
「今確信した。……お前、知っていたな?」
「?知っていたとは?」
「その目だ。お前はたまにその目をしていた。全てを見透かすようなその目だ。
朝緋、お前は炎の呼吸が日の呼吸に遠く及ばぬことを知っていたろう!!」
「はぁ!?」
私そんな目してた!?
何がきっかけで激昂するかわからぬ癇癪持ちに、槇寿朗さんはいつなった?いきなり大声を出されてこちらは困惑ばかりする。
「劣化の呼吸なのになぜ炎の呼吸を学び、使おうと思った。なぜ意味のないことをしようとする」
「……おっしゃってる意味がわかりません」
「蔵にいたことがあったろう。朝緋はあの後何かを考え込む様子があった」
あの時のことか。考え込む様子は……あったわ。けれど、そんなことまで槇寿朗さんは気をつけて見ていたってこと?
さすが柱の観察眼には目を見張る物がある。
「さあ?覚えていません。蔵に入り込んだのは確か私が小学校にも通わぬほど幼い頃のこと。文字も読めない子供になにを期待することがありましょう」
「お前は昔から文字を読めた」
「そんなまさか、読めたわけないでしょう」
うわバレてる。シラを切っても、どこまで誤魔化せるか。
「朝緋は本をよく読んでいた。
挿絵でしか内容を理解できないはずの朝緋が挿絵もない小難しい本まで読んでいるのを俺は目撃した」
……そこまでわかっているのね。
大人に近づこうと背伸びして、読んでいるふりしてたのかもしれないとは思わないのだろうか。
いや、そんな話に騙されるわけないか。柱である槇寿朗さんに、そんな誤魔化しは効かないね。
「読んでいる途中に父様がきたので蔵の中の書物についてはほとんど知りません。これは本当です。
父様こそ、何が書いてあったのかよく教えてくださいませんかね?何が気になってるんですか??
大切に保管されていたはずのその書をお部屋にまで持ち出して……よほど気に触る内容が書かれていたとみえます。
肝心なことを教えず鬼殺隊に入る目標を諦めろとは、いささか強引なのでは?
今からでも遅くはありません。父様のお気持ちをお話してくださいませんか。……杏寿郎兄さんにもね」
槇寿朗さんの表情が怒りに満ちていく。
ああ、怒るな。その内叩かれるかもしれないけれど、私は言いたいことは言う。
「……っ、口答えを……!
俺の話を勝手に変えやがって!話にならん!
いいからお前は鬼殺隊に入るな!!」
槇寿朗さんの怒声を聞きつけ、千寿郎が様子を見にきたのが見えた。喧嘩しているところを見せてごめんね千寿郎。けど止めてくれるな。
「いいえ父様!私は鬼殺隊に入るべくしてここまできております!!
何を言われようともその考えは絶対に曲げない、その心は絶対に折れない!!」
「……くっ、ならその剣直接折ってやる!
道場に来い!!」
腕を掴まれ立たされた。
お?なになに?木刀でめった打ちにでもする気かしら??
「あ、姉上っ!父上もやめてくださ、」
思い切り掴まれた私を心配し千寿郎が声をあげるが、何もしないよう目配せすれば眉根を下げながら口をつぐんだ。
そのまま連れられ、道場の床に放り投げられる。受け身をとって向かい合えば、直後に木刀を投げ渡された。
「構えろ」
「へぇ……柱である貴方からの師事ですか。
ありがたいですが、剣では叶わぬことは承知。私には足の速さと回避術しか勝てるものはありませんよ。それは他でもない貴方が私に言ったこと。
なので私はあなたの剣から逃げ切って見せましょう。それでどうですか?」
絶対に勝てない試合は避けるべきだ。挑んで負けて、鬼殺隊に入らないよう仕向けられでもしたらここまでやってきた意味がない。
少しでも勝算のある方向に持っていきつつ挑発すれば、頭に血の上った槇寿朗さんは上手い具合に釣れた。
「逃げ切ってみせる、か。……言ったな?
ならば俺は型三つを使って朝緋を仕留めにかかる。四半刻の間、逃げて逃げて、俺の剣を凌いでみせろ」
四半刻……三十分か。いける。
「お前が負けて気を遣ったら、鬼殺隊に入るのは諦めてもらうぞ。その程度で気を遣るようでは入ったところですぐに死……」
その瞬間、掛け声もなく参ノ型を槇寿朗さんに向けて振り下ろした。
だが軸足を動かさぬまま、それは体を捻るだけで受け流されて終わった。
「不意打ちとは卑怯な……」
「私から攻撃しないとは言ってません!……のでッ」
畳み掛けるようにそのまま弐ノ型で追撃。だけどそれすら避けられ、逆に胴を薙ぎ払われた。先日杏寿郎さんにやられたところだ!
めっちゃ痛い……!!
「確かにな!ならこちらも加減はせん!!」
現柱による猛攻が次々飛んできた。
壱ノ型に弐ノ型に、そして参ノ型の連続斬り。
上弦の参の攻撃と同じくらい重くて強力で、しっかり握っておかないと木刀が弾き飛ばされる。足も踏ん張らないとだめだ!
「どうした?朝緋からの攻撃はもう終いか?
反撃もできぬようでは隊士としてやっていくなど不可能!すぐ死ぬ!なぜならお前には才能は皆無だからだ!!
才能が皆無?そんなの自分が一番わかっていることだ。
私は槇寿朗さんの攻撃の間を上手く掻い潜り、懐に飛び込んで薙いだ。
正直、一撃は食らわせたと思った。けれどそれも読まれていて逆に弐ノ型・昇り炎天を叩きつけられ、体が宙を舞った。
「俺が本気を出していると思うか?このままではその内、本気すら出していない俺の攻撃に当たって気を遣ることになる。
さあ鬼殺隊になぞ入らぬと言え!!」
「う、ぐ……、この程度で気を失う?そんなわけない、です……。絶対に言いません……!」
「……ならば叩き潰すまでだ」
槇寿朗さんの呼吸音が独特のものになり、構えも見覚えのあるものに変わった。
見た瞬間、逃げなくちゃと思った。
「肺を傷め呼吸がままならなくなっても恨むなよ。ーー玖ノ型・煉獄ッ」
「なっ!?」
まさか、私如きに奥義を使うとは!
溜めの時間は杏寿郎さんが使ったものより短かった。すぐに逃げを選択しなかったら危うかったろう。
避ける際に擦りむきはしたが、間一髪のところでかわしきることができた。私がいたところが焦げたように黒く抉れている。虚空も熱く燃えているようだった。
当たっていたら、肺は潰されていた。
「ちょ、ちょっとぉ〜!四つの型を使うなんて、父様の方こそ卑怯なのでは?もし当たっていたら、内臓を傷めるどころじゃなかったかもしれませんよ!?」
「お前のためだ。それに鬼に向けるほど全力の奥義ではない」
お酒で呼吸が安定しないのか、玖ノ型のあと肩で息をしている槇寿朗さん。柱としての強さこそそのままだけど、呼吸の精度は落ちたな……。
それが少し寂しくて、そして残念だった。
「父様のお気持ちは理解しています。でも、私も何を仰られようと、気持ちを変えることはありません。
私は次の最終選別に行きます」
「死に急ぎの大馬鹿娘め……!」
その時、尚も相対する私達の間を鎹烏が旋回した。槇寿朗さんの烏だ。
肩に止まった烏が何事か伝え、槇寿朗さんが苦虫を噛み潰したかのような顔になる。
「勝手にしろ、俺はこれから任務へ行く。
斬れぬ刀は鈍だ。あの日輪刀はよく磨いておけ」
こりゃ、押し入れに隠した日輪刀のことバレてるな……。
でもよかった。任務をボイコットすることもあるけれど、今回は行ってくれるらしいもの。
木刀を入り口にいる千寿郎に渡し、槇寿朗さんは行ってしまわれた。