幕間 ノ 伍
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それは少し前のこと。
願掛けのような意味合いもあって、『以前』の私は髪を切らずに伸ばし続けていた。
それは黒い髪が、炎の呼吸という観篝によって今のこの色彩に変わってしまったから始まった行いでもあった。
けれど『今』の私が始まった時には、髪の色はすでにこの黒に煉獄家カラーが混じり合う中途半端な焔色。本当の意味で煉獄家の一員になりたいというその願掛けも、もう必要がない。
どちらにせよ直接の血のつながりはないし、家族の一員なんて願うことすら烏滸がましかった。
必要がない『今世』。髪を伸ばし続ける必要はない。
髪は女の命?そんな考えは古い古い。腰の下まで伸びた髪は鬼殺においても邪魔なだけ。毛先の傷みが顕著でみっともないし。
切ってしまってもいいと思うのよね。
床屋に行くのも面倒なので自分で切ろうかと、鋏を手に持つ。
髪に鋏を差し込み、いざ!
……というところで。
「何をしている」
怒気強めの杏寿郎さんが背後に立っていた。
驚いてしまい、しゃきりと閉じた鋏で二、三本の髪の毛が切れて下に落ちた。
「……あ」
「………………」
はらり、はらり。落ちたそれを二人、じっと見下ろす。
先に顔を上げたらしい杏寿郎さんの怒りに満ちた視線が、私の頭に突き刺さる。
杏寿郎さんからの沈黙が痛い。目から日輪刀飛ばしてない?怖いんだけれど!?
怖いなぁと思いつつゆっくり顔をあげて杏寿郎さんの顔を見たところで、目の前の大魔神様が口を開いた。
「俺は何をしていると聞いたんだが。
その鋏をどうする?よもや髪を切ろうというのではなかろうな!」
えっこれもしかして、切っちゃ駄目な感じ?
この人、髪長いのそんなに好きだったっけ??私の黒髪を好きだった、と言われたことはあるけど。
でもなんと言われようとも、私は井戸の中の髪の長い某女幽霊のこの状態から抜け出すのだ。
毛先が傷んでいるし、ついでに言うと鬼殺の際にも邪魔になってきている。だからこの長ったらしい髪を、すぱすぱ切ってスッキリー!させるのだ。
「そのよもやですよ。髪の毛を切るんです」
鋏の音をシャキシャキ響かせながら、きっぱりすっぱりと言い切る。
やはりというかなんというか、杏寿郎さんは止めてきた。
「なっなんだと!?駄目だ!絶対切らせない!!」
羽交締めにされた上で、鋏を持つ手を掴まれる。鋏が取られるううぅアッ胸に杏寿郎さんの手がむにっと触れたうわ何をするやめ。
「どこ触ってんですか!ええい離せぇぇい!!
毛先が傷んでるんですって。少しだけでいいから切らないとなんですよ!大体前髪は切ってるじゃん!?」
「触ってすまん!だが前髪はよくとも他はだめだ!!傷んでいるならそれを癒せばいい!呼吸で!!」
胸については謝罪一言で終わった。それよりもお互い今は髪のことで精一杯。
あっ鋏取られた……くそぅ。
てか呼吸で髪戻ると思ってるの?キューティクルにまで効果出る??出たらおかしいでしょ!!
「呼吸だなんて無理言わないで!?
大体、私の髪は長すぎるんですよ。そろそろ少し切らないと鬼殺の際に邪魔で危険です!」
「なら、俺が切る!……いや、俺が君の髪の毛の傷みをなんとかする!つるつるの髪になれば上にも纏めやすかろう!
とにかくすぐどうにかするから、しばし待て!!」
「え、ちょっ」
ドーン!と胸を張り高らかに叫び、そして杏寿郎さんは出かけて行った。柱たる移動速度で。
いやそれ以前に行動が早すぎる。
行ってらっしゃいも言えなかったんですが?
そもそも毛の傷みがなんとかできるわけないと思うけど……。この時代ってトリートメントそんなに進歩してないし。
うーん、卵白で洗うとかだっけ。
それに、つるつるになって纏めやすくなろうと、長いから邪魔なのには変わりないのに。
……怒られそうだけど、杏寿郎さんが戻る前に切ってしまおう。めっちゃ怒られそうだけど。
「って、あ!?」
やられた!杏寿郎さんたら、鋏までご丁寧に没収していった!
日輪刀で切る、という手もあるけれどさすがに刀で切る勇気は私にない。絶対変な髪型になる。
男の人はそうしてる人もいるみたいだけど、私は男じゃない。これでも見た目には気を配っているのだ。
願掛けのような意味合いもあって、『以前』の私は髪を切らずに伸ばし続けていた。
それは黒い髪が、炎の呼吸という観篝によって今のこの色彩に変わってしまったから始まった行いでもあった。
けれど『今』の私が始まった時には、髪の色はすでにこの黒に煉獄家カラーが混じり合う中途半端な焔色。本当の意味で煉獄家の一員になりたいというその願掛けも、もう必要がない。
どちらにせよ直接の血のつながりはないし、家族の一員なんて願うことすら烏滸がましかった。
必要がない『今世』。髪を伸ばし続ける必要はない。
髪は女の命?そんな考えは古い古い。腰の下まで伸びた髪は鬼殺においても邪魔なだけ。毛先の傷みが顕著でみっともないし。
切ってしまってもいいと思うのよね。
床屋に行くのも面倒なので自分で切ろうかと、鋏を手に持つ。
髪に鋏を差し込み、いざ!
……というところで。
「何をしている」
怒気強めの杏寿郎さんが背後に立っていた。
驚いてしまい、しゃきりと閉じた鋏で二、三本の髪の毛が切れて下に落ちた。
「……あ」
「………………」
はらり、はらり。落ちたそれを二人、じっと見下ろす。
先に顔を上げたらしい杏寿郎さんの怒りに満ちた視線が、私の頭に突き刺さる。
杏寿郎さんからの沈黙が痛い。目から日輪刀飛ばしてない?怖いんだけれど!?
怖いなぁと思いつつゆっくり顔をあげて杏寿郎さんの顔を見たところで、目の前の大魔神様が口を開いた。
「俺は何をしていると聞いたんだが。
その鋏をどうする?よもや髪を切ろうというのではなかろうな!」
えっこれもしかして、切っちゃ駄目な感じ?
この人、髪長いのそんなに好きだったっけ??私の黒髪を好きだった、と言われたことはあるけど。
でもなんと言われようとも、私は井戸の中の髪の長い某女幽霊のこの状態から抜け出すのだ。
毛先が傷んでいるし、ついでに言うと鬼殺の際にも邪魔になってきている。だからこの長ったらしい髪を、すぱすぱ切ってスッキリー!させるのだ。
「そのよもやですよ。髪の毛を切るんです」
鋏の音をシャキシャキ響かせながら、きっぱりすっぱりと言い切る。
やはりというかなんというか、杏寿郎さんは止めてきた。
「なっなんだと!?駄目だ!絶対切らせない!!」
羽交締めにされた上で、鋏を持つ手を掴まれる。鋏が取られるううぅアッ胸に杏寿郎さんの手がむにっと触れたうわ何をするやめ。
「どこ触ってんですか!ええい離せぇぇい!!
毛先が傷んでるんですって。少しだけでいいから切らないとなんですよ!大体前髪は切ってるじゃん!?」
「触ってすまん!だが前髪はよくとも他はだめだ!!傷んでいるならそれを癒せばいい!呼吸で!!」
胸については謝罪一言で終わった。それよりもお互い今は髪のことで精一杯。
あっ鋏取られた……くそぅ。
てか呼吸で髪戻ると思ってるの?キューティクルにまで効果出る??出たらおかしいでしょ!!
「呼吸だなんて無理言わないで!?
大体、私の髪は長すぎるんですよ。そろそろ少し切らないと鬼殺の際に邪魔で危険です!」
「なら、俺が切る!……いや、俺が君の髪の毛の傷みをなんとかする!つるつるの髪になれば上にも纏めやすかろう!
とにかくすぐどうにかするから、しばし待て!!」
「え、ちょっ」
ドーン!と胸を張り高らかに叫び、そして杏寿郎さんは出かけて行った。柱たる移動速度で。
いやそれ以前に行動が早すぎる。
行ってらっしゃいも言えなかったんですが?
そもそも毛の傷みがなんとかできるわけないと思うけど……。この時代ってトリートメントそんなに進歩してないし。
うーん、卵白で洗うとかだっけ。
それに、つるつるになって纏めやすくなろうと、長いから邪魔なのには変わりないのに。
……怒られそうだけど、杏寿郎さんが戻る前に切ってしまおう。めっちゃ怒られそうだけど。
「って、あ!?」
やられた!杏寿郎さんたら、鋏までご丁寧に没収していった!
日輪刀で切る、という手もあるけれどさすがに刀で切る勇気は私にない。絶対変な髪型になる。
男の人はそうしてる人もいるみたいだけど、私は男じゃない。これでも見た目には気を配っているのだ。