幕間 ノ 伍
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煉獄家では非常に嫌がられる季節がある。
雨が多い季節。梅雨だ。
色とりどり花咲く紫陽花が美しく、雨がしとしとと降る様は風情があって私は好きだ。
だけれども、煉獄家。特に男性達からは来て欲しくない季節だと、ある意味鬼よりも嫌がられている。
梅雨はものが傷むのが早いから?ううんそうじゃない。傷む前に食べ終えてるから問題ない。
瑠火さんが亡くなった季節だから?いいえ違う。瑠火さんがお亡くなりになられたのは違う季節だ。
呼吸で現れる炎が消えるから?それも違う。あれはいわば剣技より発生する効果なだけであって、実際に炎が出ているわけじゃない。なぜだか近くにいると熱いけど。
指パッチンして炎を使う、どこかの世界の錬金術師と同じに思ってはいけない。
ちなみに私はその状態の杏寿郎さんも大好きだ。千寿郎も槇寿朗さんもある程度その状態になるけれど、一番すごい状態なのは杏寿郎さん。
だからこそ余計めちゃくちゃ大大大好きである。この気持ち、その状態を気にしている杏寿郎さんには決して言わないけれど。
本当ならば人様に見られたくないであろうその御姿。
私はほら……小さい頃から一緒に過ごす家族だし?どうしても見てしまうというか、私に目撃されても仕方ないというか。
すでに『一番最初の時』から見てますとも。ええ。
ものすごーく偶然にも目撃してしまった鬼殺隊士はこう言う。
何かの血鬼術?
蟲柱の薬の実験台になった?
音柱の爆発に巻き込まれた?
自分の呼吸で燃えてしまった?
全部違う。それこそが梅雨のせい。
「朝緋!髪をなんとかしてくれ!!」
梅雨の時期の雨がザアザア降る朝。
炎柱邸の自室より起きてきた杏寿郎さんは、へにょへにょ眉毛の困り顔で私の部屋の襖をいきなりバーン!と開ける。
私の着替え中だったとしてもお構いなし。でも実際に着替え中だった時はないから、多分音でちゃんと確認してるんだと思う。
「湿気のせいだからもうしばらく我慢するしかないのではないかと」
そう。湿度が高い朝、杏寿郎さんの髪の毛はアフロヘアーもかくや、というほど爆発しているのだった。
あちらこちらに跳ねた髪の毛が、くるくると絡まり合い、爆発に巻き込まれた人かのよう。
「だが今日は昼から柱合会議だぞ!この有様で顔を出せると思うか!?」
「……それは、顔が出しにくいですね」
何度も言うがどんな杏寿郎さんも好きである。
私が同じ柱だったならいろんな杏寿郎さんが見られて嬉しいし、髪がボフンとしたまま会議に参加しちゃった杏寿郎さんの愛くるしい一面が見られて幸せ〜って思って終わりだと思う。
でも私相手とは違って他の柱が相手だし、なんなら下の者や隠とも行き合う可能性がある中でこの状態はまずい。柱なのにこの身なりでは上の者としての示しがつかない。悲鳴嶼さんあたりに怒られそう。
それに何より、お館様の前に出るのにこれはちょっと恥ずかしいよねぇ。
うーん。任務がないならそのままでもいいんじゃないかな!とかいつも思ってるんだけど。あ、任務なくてもそのままじゃだめ?
「頼む、上手く整えてまとめてくれ」
この際いつもと違う結び方でもいい。そう言われ、渡された櫛を受け取る。
「……しょうがないですね。
お客さま、少しお時間かかりますがよろしいでしょうか?」
「ああ、その分の給金は弾ませてもらおう!あいすくりんを十皿でどうだ!」
「んふふ!はい喜んでー!!」
それで剛毛と化した杏寿郎さんの髪をまとめるためにと、鏡台に座ってもらったんだけど……。
鏡に映る杏寿郎さんと目が合う。
髪の毛の惨状を見ていつもの杏寿郎さんからは考えられないほど不安そう。
んんんんかわいい。なんかこう、凛々しくて頼りになるゴールデンレトリバーが、突如としてトリミング前で不安げに見上げてくるもこもこトイプードルになったみたい。わしゃわしゃしてみたくなる。
「はわーーー……」
「はわー?その声は一体なんだ?」
杏寿郎さんが話すと頭の上のもこもこ爆発ヘアーまでもふわふわ揺れる。余計かわいい。
だめだ、我慢よ。
わしゃわしゃしない代わりに、私は家族及び継子特権でその御髪を整えさせてもらえる喜びに今!ありつけている!!それで満足せねば。
ああんでも幸福感で手に持った櫛がバキッと割れてしまいそう〜。
この状態の杏寿郎さんの姿を見るのはもう毎年のことでも、実はこうして櫛を手渡されて彼専属の美容師よろしくお任せされるのは今年が初だったりする。
歳を重ねるごとにまるで盛炎のうねりの如く激しさを増した爆発加減。
去年まではご自分でなんとかしていたそれも今年は鬼のような強敵で、とうとう私にお役目が回ってきた。
だからちょっぴり堪能したい気持ち、わかるでしょおー?
ぼふんとして、もふもふふわふわのそれに指を入れてみる。
絡みまくっているからゴワゴワしてるかと思ったらそうでもない。普段の杏寿郎さんの髪と同じだ〜。ふわふわして……んんん気持ちいい〜〜!
わしゃわしゃしないからちょっとだけ、ね!
もふもふもふもふふわふわふわふわ〜〜。
「…………朝緋?」
遊んでいたら怒られた。
髪をいじられると気持ちがいいのかうっとりと目を細め、私の手に頭を押し付けるような動きを見せる杏寿郎さん。
うわあ珍しい目の閉じ方……!わんこが甘えてきてる時そっくりだ!!
新たに見られた杏寿郎さんのレアな表情に胸がときめく。今なら恋の呼吸も使えそう。
蜜璃、私に呼吸を教えて!!
どうにかして櫛を入れるため、水、それから 瓊姿香 を使って丁寧にほぐし、そして解かしていく。
「む、その匂いは……」
ふんわりと優しく香る瓊姿香独特の匂いが鼻に届いたのだろう、薄く目を開ける。
鏡の中に映る杏寿郎さんと目があった。
雨が多い季節。梅雨だ。
色とりどり花咲く紫陽花が美しく、雨がしとしとと降る様は風情があって私は好きだ。
だけれども、煉獄家。特に男性達からは来て欲しくない季節だと、ある意味鬼よりも嫌がられている。
梅雨はものが傷むのが早いから?ううんそうじゃない。傷む前に食べ終えてるから問題ない。
瑠火さんが亡くなった季節だから?いいえ違う。瑠火さんがお亡くなりになられたのは違う季節だ。
呼吸で現れる炎が消えるから?それも違う。あれはいわば剣技より発生する効果なだけであって、実際に炎が出ているわけじゃない。なぜだか近くにいると熱いけど。
指パッチンして炎を使う、どこかの世界の錬金術師と同じに思ってはいけない。
ちなみに私はその状態の杏寿郎さんも大好きだ。千寿郎も槇寿朗さんもある程度その状態になるけれど、一番すごい状態なのは杏寿郎さん。
だからこそ余計めちゃくちゃ大大大好きである。この気持ち、その状態を気にしている杏寿郎さんには決して言わないけれど。
本当ならば人様に見られたくないであろうその御姿。
私はほら……小さい頃から一緒に過ごす家族だし?どうしても見てしまうというか、私に目撃されても仕方ないというか。
すでに『一番最初の時』から見てますとも。ええ。
ものすごーく偶然にも目撃してしまった鬼殺隊士はこう言う。
何かの血鬼術?
蟲柱の薬の実験台になった?
音柱の爆発に巻き込まれた?
自分の呼吸で燃えてしまった?
全部違う。それこそが梅雨のせい。
「朝緋!髪をなんとかしてくれ!!」
梅雨の時期の雨がザアザア降る朝。
炎柱邸の自室より起きてきた杏寿郎さんは、へにょへにょ眉毛の困り顔で私の部屋の襖をいきなりバーン!と開ける。
私の着替え中だったとしてもお構いなし。でも実際に着替え中だった時はないから、多分音でちゃんと確認してるんだと思う。
「湿気のせいだからもうしばらく我慢するしかないのではないかと」
そう。湿度が高い朝、杏寿郎さんの髪の毛はアフロヘアーもかくや、というほど爆発しているのだった。
あちらこちらに跳ねた髪の毛が、くるくると絡まり合い、爆発に巻き込まれた人かのよう。
「だが今日は昼から柱合会議だぞ!この有様で顔を出せると思うか!?」
「……それは、顔が出しにくいですね」
何度も言うがどんな杏寿郎さんも好きである。
私が同じ柱だったならいろんな杏寿郎さんが見られて嬉しいし、髪がボフンとしたまま会議に参加しちゃった杏寿郎さんの愛くるしい一面が見られて幸せ〜って思って終わりだと思う。
でも私相手とは違って他の柱が相手だし、なんなら下の者や隠とも行き合う可能性がある中でこの状態はまずい。柱なのにこの身なりでは上の者としての示しがつかない。悲鳴嶼さんあたりに怒られそう。
それに何より、お館様の前に出るのにこれはちょっと恥ずかしいよねぇ。
うーん。任務がないならそのままでもいいんじゃないかな!とかいつも思ってるんだけど。あ、任務なくてもそのままじゃだめ?
「頼む、上手く整えてまとめてくれ」
この際いつもと違う結び方でもいい。そう言われ、渡された櫛を受け取る。
「……しょうがないですね。
お客さま、少しお時間かかりますがよろしいでしょうか?」
「ああ、その分の給金は弾ませてもらおう!あいすくりんを十皿でどうだ!」
「んふふ!はい喜んでー!!」
それで剛毛と化した杏寿郎さんの髪をまとめるためにと、鏡台に座ってもらったんだけど……。
鏡に映る杏寿郎さんと目が合う。
髪の毛の惨状を見ていつもの杏寿郎さんからは考えられないほど不安そう。
んんんんかわいい。なんかこう、凛々しくて頼りになるゴールデンレトリバーが、突如としてトリミング前で不安げに見上げてくるもこもこトイプードルになったみたい。わしゃわしゃしてみたくなる。
「はわーーー……」
「はわー?その声は一体なんだ?」
杏寿郎さんが話すと頭の上のもこもこ爆発ヘアーまでもふわふわ揺れる。余計かわいい。
だめだ、我慢よ。
わしゃわしゃしない代わりに、私は家族及び継子特権でその御髪を整えさせてもらえる喜びに今!ありつけている!!それで満足せねば。
ああんでも幸福感で手に持った櫛がバキッと割れてしまいそう〜。
この状態の杏寿郎さんの姿を見るのはもう毎年のことでも、実はこうして櫛を手渡されて彼専属の美容師よろしくお任せされるのは今年が初だったりする。
歳を重ねるごとにまるで盛炎のうねりの如く激しさを増した爆発加減。
去年まではご自分でなんとかしていたそれも今年は鬼のような強敵で、とうとう私にお役目が回ってきた。
だからちょっぴり堪能したい気持ち、わかるでしょおー?
ぼふんとして、もふもふふわふわのそれに指を入れてみる。
絡みまくっているからゴワゴワしてるかと思ったらそうでもない。普段の杏寿郎さんの髪と同じだ〜。ふわふわして……んんん気持ちいい〜〜!
わしゃわしゃしないからちょっとだけ、ね!
もふもふもふもふふわふわふわふわ〜〜。
「…………朝緋?」
遊んでいたら怒られた。
髪をいじられると気持ちがいいのかうっとりと目を細め、私の手に頭を押し付けるような動きを見せる杏寿郎さん。
うわあ珍しい目の閉じ方……!わんこが甘えてきてる時そっくりだ!!
新たに見られた杏寿郎さんのレアな表情に胸がときめく。今なら恋の呼吸も使えそう。
蜜璃、私に呼吸を教えて!!
どうにかして櫛を入れるため、水、それから
「む、その匂いは……」
ふんわりと優しく香る瓊姿香独特の匂いが鼻に届いたのだろう、薄く目を開ける。
鏡の中に映る杏寿郎さんと目があった。