一周目 壱
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最初の記憶は、あまり思い出したくもない……悪夢よりも悪夢。
その全てが悪夢を体現したようなものだった。
夢の初めは良い。けれどその最期はつらく、悲しいもの。
目を閉じれば、衝撃的だった最初の記憶は今でも鮮明に瞼の裏へ蘇ってくる。
見たくはない悪夢だったけれど、貴方を救うための糸口になればと、何度も何度も思い出して私は悪夢に身を投じた。
その日。
何人もの人間が消え、向かった隊士が消息を絶ったとの事で、私と師範ーー炎柱・煉獄杏寿郎に回ってきたのが、無限列車に巣食うと言われる鬼の討伐任務だった。
駅舎で売っていた駅弁をどっさり買い込み、切符も買ってきた私たちは指定された座席へと腰を下ろす。
ふかふかした長椅子が気持ちいい。煙突から噴き上がる煙の音。木目の床も材木とコーティング剤の独特の匂いがする。
それは、どこかへ旅をする者。遠くの場所へ帰る者。乗っている人々の心をいたく高揚させる。
私もまた少しだけウキウキした。任務の事を考えた瞬間に、その気持ちは消えたけど。
「はー。任務でなければ良い気分転換の旅行になったのに……」
「そう言うな。来たかったら後日改めて来ればいい!」
後日だなんて、任務任務の連続ばかりで絶対に来ない。柱ならば尚更、列車を使っていけるような場所への旅行なんて到底無理な話。
はあ、とまたため息ひとつ。
私の姿をも通り過ぎて進行方向の先の先まで見据えるような、杏寿郎さんのまっすぐな視線。
どこをみているかわからないなどと怖がられているらしいけれど、私にはどの辺が怖いのかわからない。
杏寿郎さんの暖かな太陽のような瞳が私は一等大好きだし、幼少期から一緒にいるから慣れているというのも大きいかも。
あーあ。その視線で隠れている鬼を見つけ出せたらいいのになあ、そしたら頸をさっと斬ってすぐ帰れるのに。
などとないものねだりもしてみる。
そんなことを頭の中では考えながら、杏寿郎さんの真向かいに座り、後方の座席を見渡す。
前方の煉獄杏寿郎、後方の私。
前方も後方も注視していればどちらの車両から鬼が現れても、これで対処のしようがあるというものだ。
私、煉獄朝緋は幼少期に当時炎柱だった煉獄槇寿郎に救われ、それ以来彼の家のお世話になっていた。
苗字は煉獄だが、養子に迎え入れられたわけではなく、私の家は煉獄家の遠い親戚だったため、同じ煉獄の苗字を持っていたにすぎない。
鬼籍に入ってしまった瑠火さんもまた、遠く遡れば同じ煉獄家の出にあたり私と遠縁にあたる。
そのためか、私の目元は少しだけ瑠火さんと似ている。ちょっぴり嬉しい。
それでも、この煉獄家の一員だ、などと言う烏滸がましい望みを、私は決してもってはいけないのだ。
「夜の便は休んでいる人も多いし、いつもの声量だと少しばかり他の乗客の迷惑になりそうです。潜む鬼に会話を聞かれてこちらの情報などを気取られる可能性もある……なるべくは静かに会話しましょう?」
「そうだな。気をつけようか。
ところで、本当に弁当は一つで足りるのか?」
「師範の食べる量が多いんですよ〜」
杏寿郎さんは一般的に見れば食べ過ぎな気がしないでもない。
座席には塔のように積み上げられた駅弁の箱。
その数、十四だ。その内一つが私の分。
だがこの数が通常運転。友人であり恋柱である女性は、これより食べる。それはもう、めっちゃ食べる。
杏寿郎さんも、その女性も心底美味しそうに食べてくれるからいいけどね。
まあ、私もそれなりに食べる方ではあるけれども駅弁は一つでいい。私がたくさん食べるのは、特定の好物だけだし。
でも、炎の呼吸を使った者はみんな健啖家の遺伝子を持つのかもしれないとは思っている。
「とはいえ、腹が減っては戦はできぬ。しっかり食べて、任務にあたりましょう。
はい、お茶です」
そしてこんな私がどうして柱である杏寿郎さんと任務に当たっているか。
それは私が炎柱の継子だからにすぎない。師範などと呼んでいることからもわかるかもね。
継子だからといって同じ任務になることも少ないが、あたらめて今回幸か不幸か同じ任務を仰せ付かった。
柱と、柱直属の継子の二人。なかなかに難易度の高い任務ということだ。
油断すれば、やられるのはこちら。
「うむ!ありがとう」
お茶を受け取り「うまい!うまい!」と言いながらものすごい勢いで駅弁を平らげていく杏寿郎さん。
あらら、声は控えめにしようと言ったばかりなのにもう声が大きい。
きっと止めても無駄だし、これからどんどん声量は大きくなるんだろうなあ。鼓膜が破れそうなほどでなければそれでいいか。
何よりきちんと食べ物を飲み込んでから言葉を発しているからご飯粒が飛んでくることもないし、姿勢も箸の持ち方も綺麗でどの所作も美しい。
ちょっぴり声が大きいくらいなら、迷惑かかってないよね!多分!
周りの客の唖然とする顔は見ないふり。
身内贔屓とは違う。杏寿郎さんはいつもかっこいいが、食事をする姿も本当にかっこいいのだ。
それにしても、まだ出発前なのに良く食べるなあ。とは思う。気持ちの良い食べっぷりだ。
よく考えたら鬼がいつ襲ってくるかわからないんだし、私も今のうちに食べておいた方が良さそう。
「いただきます」
駅弁の一つを手に取り、蓋を開ける。
ふわりとたつ湯気と共に鼻腔に届く食欲をそそる香り。
「ん、美味しいっ」
「うむ!うまいな!!うまい!うまい!」
まだあたたかい牛鍋弁当は、牛肉に煮卵に焼き豆腐、葱も濃いめの味付けで、そのタレの味がほどよくしみたご飯がまたとてもおいしかった。
たくさん食べれちゃう気持ちもわかる。
あいすくりんや稲荷寿司だったら、私も確実にたくさん食べてただろうな。
稲荷寿司食べて、あいすくりん食べて、また稲荷寿司食べてあいすくりん……。
無限に食べられる気しかしない!
お弁当は一つなので私が食べ終わるのも早く。
刀を上手く羽織に隠しながら、席を立った。
「む。どこかへ行くのか!」
「列車の連結部位を今一度見てこようかと。
車内で戦闘になった時に、車両を切り離すこともあるかもしれないなと思って」
「ならば俺も行こう!」
「いえ。師範はそのまま食事を続けていてください。すぐに戻ります」
「だが……いや、気をつけてな」
杏寿郎さんは私の『血』が心配なのだろう。
私は所謂、稀血だから。
鬼に私が稀血であることが発覚すれば、狙われるのは私だ。食われれば、一気に鬼を何十倍にも強くする。それは鬼殺隊側の敗北に繋がることもある。
私の命も体も、すでに私だけのものではない。
その全てが悪夢を体現したようなものだった。
夢の初めは良い。けれどその最期はつらく、悲しいもの。
目を閉じれば、衝撃的だった最初の記憶は今でも鮮明に瞼の裏へ蘇ってくる。
見たくはない悪夢だったけれど、貴方を救うための糸口になればと、何度も何度も思い出して私は悪夢に身を投じた。
その日。
何人もの人間が消え、向かった隊士が消息を絶ったとの事で、私と師範ーー炎柱・煉獄杏寿郎に回ってきたのが、無限列車に巣食うと言われる鬼の討伐任務だった。
駅舎で売っていた駅弁をどっさり買い込み、切符も買ってきた私たちは指定された座席へと腰を下ろす。
ふかふかした長椅子が気持ちいい。煙突から噴き上がる煙の音。木目の床も材木とコーティング剤の独特の匂いがする。
それは、どこかへ旅をする者。遠くの場所へ帰る者。乗っている人々の心をいたく高揚させる。
私もまた少しだけウキウキした。任務の事を考えた瞬間に、その気持ちは消えたけど。
「はー。任務でなければ良い気分転換の旅行になったのに……」
「そう言うな。来たかったら後日改めて来ればいい!」
後日だなんて、任務任務の連続ばかりで絶対に来ない。柱ならば尚更、列車を使っていけるような場所への旅行なんて到底無理な話。
はあ、とまたため息ひとつ。
私の姿をも通り過ぎて進行方向の先の先まで見据えるような、杏寿郎さんのまっすぐな視線。
どこをみているかわからないなどと怖がられているらしいけれど、私にはどの辺が怖いのかわからない。
杏寿郎さんの暖かな太陽のような瞳が私は一等大好きだし、幼少期から一緒にいるから慣れているというのも大きいかも。
あーあ。その視線で隠れている鬼を見つけ出せたらいいのになあ、そしたら頸をさっと斬ってすぐ帰れるのに。
などとないものねだりもしてみる。
そんなことを頭の中では考えながら、杏寿郎さんの真向かいに座り、後方の座席を見渡す。
前方の煉獄杏寿郎、後方の私。
前方も後方も注視していればどちらの車両から鬼が現れても、これで対処のしようがあるというものだ。
私、煉獄朝緋は幼少期に当時炎柱だった煉獄槇寿郎に救われ、それ以来彼の家のお世話になっていた。
苗字は煉獄だが、養子に迎え入れられたわけではなく、私の家は煉獄家の遠い親戚だったため、同じ煉獄の苗字を持っていたにすぎない。
鬼籍に入ってしまった瑠火さんもまた、遠く遡れば同じ煉獄家の出にあたり私と遠縁にあたる。
そのためか、私の目元は少しだけ瑠火さんと似ている。ちょっぴり嬉しい。
それでも、この煉獄家の一員だ、などと言う烏滸がましい望みを、私は決してもってはいけないのだ。
「夜の便は休んでいる人も多いし、いつもの声量だと少しばかり他の乗客の迷惑になりそうです。潜む鬼に会話を聞かれてこちらの情報などを気取られる可能性もある……なるべくは静かに会話しましょう?」
「そうだな。気をつけようか。
ところで、本当に弁当は一つで足りるのか?」
「師範の食べる量が多いんですよ〜」
杏寿郎さんは一般的に見れば食べ過ぎな気がしないでもない。
座席には塔のように積み上げられた駅弁の箱。
その数、十四だ。その内一つが私の分。
だがこの数が通常運転。友人であり恋柱である女性は、これより食べる。それはもう、めっちゃ食べる。
杏寿郎さんも、その女性も心底美味しそうに食べてくれるからいいけどね。
まあ、私もそれなりに食べる方ではあるけれども駅弁は一つでいい。私がたくさん食べるのは、特定の好物だけだし。
でも、炎の呼吸を使った者はみんな健啖家の遺伝子を持つのかもしれないとは思っている。
「とはいえ、腹が減っては戦はできぬ。しっかり食べて、任務にあたりましょう。
はい、お茶です」
そしてこんな私がどうして柱である杏寿郎さんと任務に当たっているか。
それは私が炎柱の継子だからにすぎない。師範などと呼んでいることからもわかるかもね。
継子だからといって同じ任務になることも少ないが、あたらめて今回幸か不幸か同じ任務を仰せ付かった。
柱と、柱直属の継子の二人。なかなかに難易度の高い任務ということだ。
油断すれば、やられるのはこちら。
「うむ!ありがとう」
お茶を受け取り「うまい!うまい!」と言いながらものすごい勢いで駅弁を平らげていく杏寿郎さん。
あらら、声は控えめにしようと言ったばかりなのにもう声が大きい。
きっと止めても無駄だし、これからどんどん声量は大きくなるんだろうなあ。鼓膜が破れそうなほどでなければそれでいいか。
何よりきちんと食べ物を飲み込んでから言葉を発しているからご飯粒が飛んでくることもないし、姿勢も箸の持ち方も綺麗でどの所作も美しい。
ちょっぴり声が大きいくらいなら、迷惑かかってないよね!多分!
周りの客の唖然とする顔は見ないふり。
身内贔屓とは違う。杏寿郎さんはいつもかっこいいが、食事をする姿も本当にかっこいいのだ。
それにしても、まだ出発前なのに良く食べるなあ。とは思う。気持ちの良い食べっぷりだ。
よく考えたら鬼がいつ襲ってくるかわからないんだし、私も今のうちに食べておいた方が良さそう。
「いただきます」
駅弁の一つを手に取り、蓋を開ける。
ふわりとたつ湯気と共に鼻腔に届く食欲をそそる香り。
「ん、美味しいっ」
「うむ!うまいな!!うまい!うまい!」
まだあたたかい牛鍋弁当は、牛肉に煮卵に焼き豆腐、葱も濃いめの味付けで、そのタレの味がほどよくしみたご飯がまたとてもおいしかった。
たくさん食べれちゃう気持ちもわかる。
あいすくりんや稲荷寿司だったら、私も確実にたくさん食べてただろうな。
稲荷寿司食べて、あいすくりん食べて、また稲荷寿司食べてあいすくりん……。
無限に食べられる気しかしない!
お弁当は一つなので私が食べ終わるのも早く。
刀を上手く羽織に隠しながら、席を立った。
「む。どこかへ行くのか!」
「列車の連結部位を今一度見てこようかと。
車内で戦闘になった時に、車両を切り離すこともあるかもしれないなと思って」
「ならば俺も行こう!」
「いえ。師範はそのまま食事を続けていてください。すぐに戻ります」
「だが……いや、気をつけてな」
杏寿郎さんは私の『血』が心配なのだろう。
私は所謂、稀血だから。
鬼に私が稀血であることが発覚すれば、狙われるのは私だ。食われれば、一気に鬼を何十倍にも強くする。それは鬼殺隊側の敗北に繋がることもある。
私の命も体も、すでに私だけのものではない。