三周目 弐
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杏寿郎さんが最終選別を合格し、鬼殺隊に入隊した。
藤襲山の中では鬼の頸を幾つか取った上に怪我もほとんどなかったようで、鬼殺隊士として幸先の良いスタートを切った。煉獄家の名も大きいからか、期待のホープと言われているらしい。
しかし、実際はそんなんじゃなかった。私もかつて経験した事だが、煉獄家の名が有名すぎた。
他の隊士からの嫉妬は大きく、頑張っても煉獄家なら当たり前と言われ、根も歯もない噂も飛び交い孤立気味と聞いた。
明るくていつも笑顔の杏寿郎さんが、孤立……?
私には想像がつかなかった。周りにたくさんの人が集まってくる人。それが煉獄杏寿郎という男のイメージだ。
今まで知らなかっただけで『前』もそんな状態だったのだろうか?
でも、まだ鬼殺隊に入っていない私にはどうしようもない。
そんな中、杏寿郎さんが唯一心を許せていた鬼殺隊の同期が亡くなった。
『前』は初任務だと伝えられていた、山に潜む翁の姿をした鬼との戦闘で増員として呼ばれた杏寿郎さん。合流した時にはすでに遅く、最終選別を共にした同期が亡くなっていたそうだ。
耳を負傷して煉獄家に身を寄せた杏寿郎さんが教えてくれた。
「大したものになれない。柱は俺の代で終わり。そう言われたことを思い出した。
俺は柱になれるのだろうか……」
生家に帰れば父からの怒号。私のような稀血を持つ厄介な妹にまだ幼く弱い弟。
鬼殺隊での殺伐とした鬼との命の取り合いに、周りからの圧ややっかみ。
心を許せる同期はおらず、心は休まらない。
どれほど辛いものだろう。
なのに杏寿郎さんは気にせずただひたすら前を向き、刀を振り続けた。
結果、よく怖がられていたというどこを見ているかわからぬ笑顔が、また顔に張り付いたように見える。
……私でなかったら本当の笑顔との区別はつかないほどで。
こうして、ここで思いを吐露してくれるのがその証拠かも。
「貴方は柱になれる。
たまにそうして燻ることがあっても、貴方の炎は消えない」
瑠火さんからの言葉をどこかに置き忘れた杏寿郎さんが、ほんの一瞬立ち止まる姿を私は見た。
それを支える役目を私は託された。癒すのも役目ならまた立ち上がって進むため、心を燃やす為の酸素を投下するのも私の役目。
「すまん……。
そうだな。そのために頑張っているのだったな。早くあの炎柱の羽織をこの背に纏いたいものだ」
「んふふ、父様から炎柱の座をもらうってことになりますね!」
「そうだな!俺が父上に代わり、炎柱としてより多くの人を救えるよう務めたい!!」
「マッ!そんな大きいこと言って。
鬼殺隊に入って欲しくないと仰っていた父様が、それを許すとは到底思えませんよ。
父様を頷かせるには、杏寿郎兄さんが父様よりも強くならなくてはいけません。
でも、貴方にならできる。貴方はじきに父様を超える強さになります。私は信じてます」
「朝緋…………。ありがとう」
杏寿郎さんが私を抱きしめる。私は杏寿郎さんの背をぽんぽん叩いて励ました。
……それに何より、槇寿朗さんはお酒の飲み過ぎで、呼吸がままならなくなってきている。このまま行けば確実に『前』同様に呼吸が安定せず、剣士としての生命は……。
悲しいことだけれど、この事実もまた私にはどうすることもできない。
止められるのは、槇寿朗さん自身の意志だ。
それからの杏寿郎さんは、任務後に私へお土産をと、届けに来るようになった。
ホワーイ?どういう風の吹き回し??貴方の心にどんな化学変化があったの??
それに生家に何度も帰ってくるだなんて。鬼殺隊に入ったばかりの杏寿郎さんに、生家に寄る余裕なんてある?
私は女性というのがあったから『前』に鬼殺隊に所属していた時、融通を利かせてもらっていた。この時代では女は弱いものとして扱われていたし男尊女卑はあったけれど、それがこの時ばかりは役に立った。鬼殺隊に男尊女卑はあまりなかったものの、生家を拠点にしたいと申し出ればすんなりと通る世の中だったのだ。
聞けば、生家に近い場所での任務なんてごく僅か。わざわざこっち方面に帰ってきてるという事になる。
その度に稽古をつけてもらえるから私も千寿郎も助かってはいるけれど……うーん??
ま、杏寿郎さんの元気な顔が見られるなら嬉しいけどね。
「朝緋が喜ぶと思ってな!帝都の方では甘味がたくさん売っている!」
なぁんて、初めてのお給金で帝都の甘味をたくさん買ってきてくださったことも嬉しい。女の子に贈るのに装飾品じゃなくて初っ端から食べ物関係なあたりが杏寿郎さんらしいよね。
初給金が化けたのは、令和の時代でも結構なお値段がするとらやの羊羹がたくさんだったっけ……。
夜の梅、美味しいよねぇ。いつか一本丸のまま丸齧りしてみたいって思ってた。これだけ買ってきてくれたならいくらでもできそうだと感じた。
ただ、そんなことしようとしたらみっともない!って止められるけど。煉獄家は礼儀にうるさい。
その後も菓子だけにあらずお花、身につけるものに至るまで、私が好きそうなものを杏寿郎さんは私に貢ぐようにして贈り続けた。
男の人が女性に物を贈る。
さすがにその意味はちょっぴりわかったけれど、私はそれに応えるわけにいかない。
私が望むのは貴方が生きる未来だから、今は強くなることしか考えられない。
最初に目指す目標は、鬼殺隊に入る。それのみだ。
だから、私に対する杏寿郎さんの想いは、妹溺愛説を推しておこう。なんだそれただのシスコンじゃん?
というか、杏寿郎さんがシスコンなのは元々だったし今更か。なら、物をくれたのは恋愛の気持ちでなく純粋に妹に貢ぎたいだけだったのかもしれない。
あらやだ私ったら自意識過剰!!
藤襲山の中では鬼の頸を幾つか取った上に怪我もほとんどなかったようで、鬼殺隊士として幸先の良いスタートを切った。煉獄家の名も大きいからか、期待のホープと言われているらしい。
しかし、実際はそんなんじゃなかった。私もかつて経験した事だが、煉獄家の名が有名すぎた。
他の隊士からの嫉妬は大きく、頑張っても煉獄家なら当たり前と言われ、根も歯もない噂も飛び交い孤立気味と聞いた。
明るくていつも笑顔の杏寿郎さんが、孤立……?
私には想像がつかなかった。周りにたくさんの人が集まってくる人。それが煉獄杏寿郎という男のイメージだ。
今まで知らなかっただけで『前』もそんな状態だったのだろうか?
でも、まだ鬼殺隊に入っていない私にはどうしようもない。
そんな中、杏寿郎さんが唯一心を許せていた鬼殺隊の同期が亡くなった。
『前』は初任務だと伝えられていた、山に潜む翁の姿をした鬼との戦闘で増員として呼ばれた杏寿郎さん。合流した時にはすでに遅く、最終選別を共にした同期が亡くなっていたそうだ。
耳を負傷して煉獄家に身を寄せた杏寿郎さんが教えてくれた。
「大したものになれない。柱は俺の代で終わり。そう言われたことを思い出した。
俺は柱になれるのだろうか……」
生家に帰れば父からの怒号。私のような稀血を持つ厄介な妹にまだ幼く弱い弟。
鬼殺隊での殺伐とした鬼との命の取り合いに、周りからの圧ややっかみ。
心を許せる同期はおらず、心は休まらない。
どれほど辛いものだろう。
なのに杏寿郎さんは気にせずただひたすら前を向き、刀を振り続けた。
結果、よく怖がられていたというどこを見ているかわからぬ笑顔が、また顔に張り付いたように見える。
……私でなかったら本当の笑顔との区別はつかないほどで。
こうして、ここで思いを吐露してくれるのがその証拠かも。
「貴方は柱になれる。
たまにそうして燻ることがあっても、貴方の炎は消えない」
瑠火さんからの言葉をどこかに置き忘れた杏寿郎さんが、ほんの一瞬立ち止まる姿を私は見た。
それを支える役目を私は託された。癒すのも役目ならまた立ち上がって進むため、心を燃やす為の酸素を投下するのも私の役目。
「すまん……。
そうだな。そのために頑張っているのだったな。早くあの炎柱の羽織をこの背に纏いたいものだ」
「んふふ、父様から炎柱の座をもらうってことになりますね!」
「そうだな!俺が父上に代わり、炎柱としてより多くの人を救えるよう務めたい!!」
「マッ!そんな大きいこと言って。
鬼殺隊に入って欲しくないと仰っていた父様が、それを許すとは到底思えませんよ。
父様を頷かせるには、杏寿郎兄さんが父様よりも強くならなくてはいけません。
でも、貴方にならできる。貴方はじきに父様を超える強さになります。私は信じてます」
「朝緋…………。ありがとう」
杏寿郎さんが私を抱きしめる。私は杏寿郎さんの背をぽんぽん叩いて励ました。
……それに何より、槇寿朗さんはお酒の飲み過ぎで、呼吸がままならなくなってきている。このまま行けば確実に『前』同様に呼吸が安定せず、剣士としての生命は……。
悲しいことだけれど、この事実もまた私にはどうすることもできない。
止められるのは、槇寿朗さん自身の意志だ。
それからの杏寿郎さんは、任務後に私へお土産をと、届けに来るようになった。
ホワーイ?どういう風の吹き回し??貴方の心にどんな化学変化があったの??
それに生家に何度も帰ってくるだなんて。鬼殺隊に入ったばかりの杏寿郎さんに、生家に寄る余裕なんてある?
私は女性というのがあったから『前』に鬼殺隊に所属していた時、融通を利かせてもらっていた。この時代では女は弱いものとして扱われていたし男尊女卑はあったけれど、それがこの時ばかりは役に立った。鬼殺隊に男尊女卑はあまりなかったものの、生家を拠点にしたいと申し出ればすんなりと通る世の中だったのだ。
聞けば、生家に近い場所での任務なんてごく僅か。わざわざこっち方面に帰ってきてるという事になる。
その度に稽古をつけてもらえるから私も千寿郎も助かってはいるけれど……うーん??
ま、杏寿郎さんの元気な顔が見られるなら嬉しいけどね。
「朝緋が喜ぶと思ってな!帝都の方では甘味がたくさん売っている!」
なぁんて、初めてのお給金で帝都の甘味をたくさん買ってきてくださったことも嬉しい。女の子に贈るのに装飾品じゃなくて初っ端から食べ物関係なあたりが杏寿郎さんらしいよね。
初給金が化けたのは、令和の時代でも結構なお値段がするとらやの羊羹がたくさんだったっけ……。
夜の梅、美味しいよねぇ。いつか一本丸のまま丸齧りしてみたいって思ってた。これだけ買ってきてくれたならいくらでもできそうだと感じた。
ただ、そんなことしようとしたらみっともない!って止められるけど。煉獄家は礼儀にうるさい。
その後も菓子だけにあらずお花、身につけるものに至るまで、私が好きそうなものを杏寿郎さんは私に貢ぐようにして贈り続けた。
男の人が女性に物を贈る。
さすがにその意味はちょっぴりわかったけれど、私はそれに応えるわけにいかない。
私が望むのは貴方が生きる未来だから、今は強くなることしか考えられない。
最初に目指す目標は、鬼殺隊に入る。それのみだ。
だから、私に対する杏寿郎さんの想いは、妹溺愛説を推しておこう。なんだそれただのシスコンじゃん?
というか、杏寿郎さんがシスコンなのは元々だったし今更か。なら、物をくれたのは恋愛の気持ちでなく純粋に妹に貢ぎたいだけだったのかもしれない。
あらやだ私ったら自意識過剰!!