三周目 弐
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でもまさか、槇寿朗さんが齢十ほどの小さい私に手をあげるとは思わなかった。我まだお子様ランチ食べられる歳ぞ?しかも 女児ぞ??
ぽろぽろと涙をこぼしながら千寿郎が冷たい手拭いで私の頬を冷やしてくれている。
冷たくって気持ちいいけどしみる〜!白い手拭いに結構な血が滲んでるわ。意外に傷が深いのかも。
……あーあ、まだ幼い千寿郎に心配をかけちゃったなぁ。まーたみっともないところ見せちゃったし怖がらせちゃった。
キレた槇寿朗さん怖いよねぇ……私は普段怒らない杏寿郎さんが怒った時の方が怖いけど。
姉として不甲斐なし、穴があったら入りたい。
「朝緋ッ!なんだその怪我は!!?」
そしてそれは、山に鍛錬へと繰り出していた杏寿郎さんに見られてしまった。もう帰ってきたんだね、はや〜い。
ついでに採ってきてくれたのだろう、笊いっぱいの本しめじが斜めになった笊から下にぽろぽろ落ちていく。毒きのこじゃないな、よしよし。
気になるのはわかるけど、とりあえずまず拾ってください。じゃないとさつまいもとしめじ、それに油揚げたっぷりのお味噌汁作りませんからね。
目線で気がついたのだろう、きのこを拾って縁側に置き、そしてもう一度私に掴みかかる勢いで問い詰めてくる。
「血が出ている!頬を切った!?……いや、腫れている!叩かれた!??
誰だ!誰にだ!!朝緋を叩く不届き者はどこのどいつなんだ!!俺が成敗してくれる!!」
頼もしいけど勢い良すぎだし、成敗だなんてどこのモンスターペアレントなの。ううん、この場合はモンスターブラザー??
人はそれをシスコンという。
「なんだと……。ち、父上が朝緋に手をあげた……?」
理由を話せば、帰ってきた時よりも狼狽えていた。大きく見開いた目玉がこぼれ落ちそう。
さすがに父親に楯突いてまで成敗するなんてことはできないのか、腕を組んで悩みながら私の心配をしてくれた。
というか成敗なんて、力量的にも無理。
今は千寿郎に引き続いて、部屋で介抱してくれている。
杏寿郎さん、ガァゼの貼り方上手になったなあ……。あ、でも少しよれてる。
杏寿郎さんはそのまま、心配でたまらないのか、私と千寿郎どちらも布団に引き入れてぎゅうぎゅうに抱きしめた。
「俺はあとひと月と少しで最終選別に行く」
千寿郎が寝入った頃、杏寿郎さんが静寂を裂くように言葉を漏らした。
前まではその日を待ち侘びていたのに、今は違う。
行くのが心苦しいと言いたげだった。
「正直に言う!俺は朝緋と千寿郎を家に残して行くのが心配になった。
よもや、朝緋が父上に叩かれてこんなに頬を腫らしているとは。俺がいなかったばかりに……すまない」
「謝らないで。杏寿郎兄さんのせいじゃないでしょ」
それにこんなこと、心配する必要ないのだから。
傷のあるガァゼを貼った部分を避けて、優しく頬を撫でてくる。いなかったのだから仕方ないと言っても、杏寿郎さんはどうしても自分のせいと言って聞かなかった。
「痛むよな……?」
「そりゃまあ、叩かれて半日ほどしか経ってませんから。でも、私だって呼吸を使っています。こんなのすぐ治ります」
「治るからなんだというのだ。朝緋はもっと自分を大切にするべきだぞ!」
注意しながらそのまま頬をむにむにされた。
「……ほへんははい」
ごめんなさいがよく言えないんですけど。
「それにしても任務に酒瓶を持ち込むなど。父上には困ったものだ!」
「あはは……」
なっがいため息を吐き出して、私の頬を尚もむにむにしながら言う。もしや気持ちいい?気に入ってる??杏寿郎さんだから許すけど。
にしても槇寿朗さんやい……私だけでなく杏寿郎さんにも呆れられてますわよ。
しかし、杏寿郎さんは呆れているだけではなかった。
いつも明るく笑顔の杏寿郎さんは、今明らかに憤慨していた。
「任務に酒を持ち込んだだけでない。……父上は本日鬼を逃してしまわれた」
鬼を逃した……?それって、『前』にも聞いた話だわ。お玉を落としたから覚えてる。
その言葉に顔を上げる私。杏寿郎さんが頬をむにむにするのをやめた。
「もしかして先程やってきた鎹烏の言伝は、それだったんですか?」
夜、槇寿朗さんの烏が杏寿郎さんの肩に止まり、何事か伝えていた。その時の杏寿郎さんはとっても険しい顔をしていたわ。
「いかにも。
そのまま父上は次の任務地へ向かったそうだ。だが、この分ではまた鬼を取り逃すだろう」
「なんで?次は倒すのでは?
人間誰しも失敗はあると思う。鬼を一匹逃してしまったのはもう仕方ないとして、次は逃さないでしょーよ」
「いや……炎の呼吸には『不知火』がある。
あの速い剣技があるのに、柱である父上に倒せぬ鬼?そのような強い鬼が相手なら、なぜ父上は五体満足なのだ?
怪我はしていないと報告があった!父上はわざと鬼を逃した!!」
「んーーー。お酒飲んでたからじゃない?」
槇寿朗さんはお酒を浴びるように飲むけれど、アルコールに強くない体だ。
酔うことで心を誤魔化し、全てを忘れるほどぐでんぐでんになろうとしてるんだろうけれど……。
そんな泥酔に近い状態で鬼殺に向かうなんて、柱でなかったら死んでてもおかしくないし、鬼の一匹くらい逃しても当然かなと思う。
下の者に示しがつかないから、あまりいい傾向じゃないけどね。
「酒が理由になるものか!
柱としてあってはならない失態だ!
処罰は追って知らせるとの話だが、鬼殺隊の他の者が許そうとも、俺はその一点は許せぬ!!
逃した鬼には炎の呼吸を使うところを見られているそうだ!なら危険なのはうちだ!この煉獄家だ!!」
炎の呼吸=煉獄家は結びつきやすい上、報復するなら所在の割れたこの家になる。
炎柱邸でも他の柱の邸でもなく、煉獄家の生家。そしてここにはまだ一般人の私達がいる。
藤の木は植えてあっても今の時期には花はなく。あるといえば藤のお香。あれも鬼避けとして絶対ではない。
となると。
「特に危険なのは稀血の朝緋だ」
「そうなりますね。煉獄家で一番狙われやすいのが私なのは間違いないでしょう」
鬼に見つかれば稀血は最優先で狩られる存在だもんね。稀血やめたい。
「でも鬼なんて来ないと思います。
だってわざとだろうがわざとじゃなかろうが、鬼側からすれば逃げる事が出来たから頸を落とされずに済んだんでしょ。少なくとも今、わざわざ煉獄家を襲いにくるわけない。
来ても今度こそ父様に斬られそうになるだけ。普通、そんな恐ろしい真似する?私なら怖いからしない」
「しかしだな朝緋……!!」
声が大きくなってきた。千寿郎の寝顔にしわが寄る。
「杏寿郎兄さん、いい加減にして?千寿郎が起きちゃうよ。もうちょい声落としてよ」
「……う、すまん」
「杏寿郎兄さんは自分のことを心配しないと。私達の心配なんかしてたら、最終選別で鬼にやられちゃうよ?だから気にしないで自分のことだけ考えてほしい。
最終選別で生き残るのがどれほど大変なのか、前に父様から聞いたでしょ?」
炭治郎が参加した回でいえば、二十人ほどいた参加者の内、突破したのは五人だったそうだ。私が見てきた限りでも、半数以上は脱落する。
「それにですよ、私に手を上げたことに関しては父様も自分の手が信じられないって顔してましたから、悪気があってしたわけじゃないんです。
私もひどいこと言ったからおあいこなんです」
「だからといって、暴力に訴えていいわけがない。それも、女子の顔に!!」
興奮気味なのか、また声が大きくなっている。落ち着かせようと、私は杏寿郎さんの肩をぽんぽん叩いた。
「千寿郎起きちゃうってば。落ち着いて?
たしかに最近の父様は態度もとても悪いし、家族に心配させるようなことばかりしてる。いいところなんてひとっつもない。褒められそうなところなんて、今でも母様を思ってることくらいよ。
杏寿郎兄さんの怒りの矛はおさめてよ。私が喧嘩してよく言ってきたところなんだから。……ね?」
その結果叩かれてたらざまあないけど。
「むう、朝緋が……そう言うのなら……」
それでも顔は納得がいかないと言いたげのもので。
何か杏寿郎さんの心が他所に散らせるものはないかと、話題を探す。
お、あるわ。話題あるわ。
「そうだ。今、近くの能楽堂で『羽衣』の演目がやっているそうですよ。
母様の好きだったあの演目です。父様がお休みの日に、誘って皆で行ってみませんか?刀の修行のこと、鬼殺隊のこと、鬼のこと。そういうの一日くらい忘れて。
母様の思い出を巡りながら、家族でゆっくり過ごすのは良いことだと思います」
「母上の好きな演目……。
修行のことを忘れることはできないが、行ってみたいものだな!……父上が行くといえば俺も行こう。あの父上が素直に言ってくれたらだがな!!」
「もー。そんな言い方して……」
素直じゃないのは貴方も一緒ね。
ぽろぽろと涙をこぼしながら千寿郎が冷たい手拭いで私の頬を冷やしてくれている。
冷たくって気持ちいいけどしみる〜!白い手拭いに結構な血が滲んでるわ。意外に傷が深いのかも。
……あーあ、まだ幼い千寿郎に心配をかけちゃったなぁ。まーたみっともないところ見せちゃったし怖がらせちゃった。
キレた槇寿朗さん怖いよねぇ……私は普段怒らない杏寿郎さんが怒った時の方が怖いけど。
姉として不甲斐なし、穴があったら入りたい。
「朝緋ッ!なんだその怪我は!!?」
そしてそれは、山に鍛錬へと繰り出していた杏寿郎さんに見られてしまった。もう帰ってきたんだね、はや〜い。
ついでに採ってきてくれたのだろう、笊いっぱいの本しめじが斜めになった笊から下にぽろぽろ落ちていく。毒きのこじゃないな、よしよし。
気になるのはわかるけど、とりあえずまず拾ってください。じゃないとさつまいもとしめじ、それに油揚げたっぷりのお味噌汁作りませんからね。
目線で気がついたのだろう、きのこを拾って縁側に置き、そしてもう一度私に掴みかかる勢いで問い詰めてくる。
「血が出ている!頬を切った!?……いや、腫れている!叩かれた!??
誰だ!誰にだ!!朝緋を叩く不届き者はどこのどいつなんだ!!俺が成敗してくれる!!」
頼もしいけど勢い良すぎだし、成敗だなんてどこのモンスターペアレントなの。ううん、この場合はモンスターブラザー??
人はそれをシスコンという。
「なんだと……。ち、父上が朝緋に手をあげた……?」
理由を話せば、帰ってきた時よりも狼狽えていた。大きく見開いた目玉がこぼれ落ちそう。
さすがに父親に楯突いてまで成敗するなんてことはできないのか、腕を組んで悩みながら私の心配をしてくれた。
というか成敗なんて、力量的にも無理。
今は千寿郎に引き続いて、部屋で介抱してくれている。
杏寿郎さん、ガァゼの貼り方上手になったなあ……。あ、でも少しよれてる。
杏寿郎さんはそのまま、心配でたまらないのか、私と千寿郎どちらも布団に引き入れてぎゅうぎゅうに抱きしめた。
「俺はあとひと月と少しで最終選別に行く」
千寿郎が寝入った頃、杏寿郎さんが静寂を裂くように言葉を漏らした。
前まではその日を待ち侘びていたのに、今は違う。
行くのが心苦しいと言いたげだった。
「正直に言う!俺は朝緋と千寿郎を家に残して行くのが心配になった。
よもや、朝緋が父上に叩かれてこんなに頬を腫らしているとは。俺がいなかったばかりに……すまない」
「謝らないで。杏寿郎兄さんのせいじゃないでしょ」
それにこんなこと、心配する必要ないのだから。
傷のあるガァゼを貼った部分を避けて、優しく頬を撫でてくる。いなかったのだから仕方ないと言っても、杏寿郎さんはどうしても自分のせいと言って聞かなかった。
「痛むよな……?」
「そりゃまあ、叩かれて半日ほどしか経ってませんから。でも、私だって呼吸を使っています。こんなのすぐ治ります」
「治るからなんだというのだ。朝緋はもっと自分を大切にするべきだぞ!」
注意しながらそのまま頬をむにむにされた。
「……ほへんははい」
ごめんなさいがよく言えないんですけど。
「それにしても任務に酒瓶を持ち込むなど。父上には困ったものだ!」
「あはは……」
なっがいため息を吐き出して、私の頬を尚もむにむにしながら言う。もしや気持ちいい?気に入ってる??杏寿郎さんだから許すけど。
にしても槇寿朗さんやい……私だけでなく杏寿郎さんにも呆れられてますわよ。
しかし、杏寿郎さんは呆れているだけではなかった。
いつも明るく笑顔の杏寿郎さんは、今明らかに憤慨していた。
「任務に酒を持ち込んだだけでない。……父上は本日鬼を逃してしまわれた」
鬼を逃した……?それって、『前』にも聞いた話だわ。お玉を落としたから覚えてる。
その言葉に顔を上げる私。杏寿郎さんが頬をむにむにするのをやめた。
「もしかして先程やってきた鎹烏の言伝は、それだったんですか?」
夜、槇寿朗さんの烏が杏寿郎さんの肩に止まり、何事か伝えていた。その時の杏寿郎さんはとっても険しい顔をしていたわ。
「いかにも。
そのまま父上は次の任務地へ向かったそうだ。だが、この分ではまた鬼を取り逃すだろう」
「なんで?次は倒すのでは?
人間誰しも失敗はあると思う。鬼を一匹逃してしまったのはもう仕方ないとして、次は逃さないでしょーよ」
「いや……炎の呼吸には『不知火』がある。
あの速い剣技があるのに、柱である父上に倒せぬ鬼?そのような強い鬼が相手なら、なぜ父上は五体満足なのだ?
怪我はしていないと報告があった!父上はわざと鬼を逃した!!」
「んーーー。お酒飲んでたからじゃない?」
槇寿朗さんはお酒を浴びるように飲むけれど、アルコールに強くない体だ。
酔うことで心を誤魔化し、全てを忘れるほどぐでんぐでんになろうとしてるんだろうけれど……。
そんな泥酔に近い状態で鬼殺に向かうなんて、柱でなかったら死んでてもおかしくないし、鬼の一匹くらい逃しても当然かなと思う。
下の者に示しがつかないから、あまりいい傾向じゃないけどね。
「酒が理由になるものか!
柱としてあってはならない失態だ!
処罰は追って知らせるとの話だが、鬼殺隊の他の者が許そうとも、俺はその一点は許せぬ!!
逃した鬼には炎の呼吸を使うところを見られているそうだ!なら危険なのはうちだ!この煉獄家だ!!」
炎の呼吸=煉獄家は結びつきやすい上、報復するなら所在の割れたこの家になる。
炎柱邸でも他の柱の邸でもなく、煉獄家の生家。そしてここにはまだ一般人の私達がいる。
藤の木は植えてあっても今の時期には花はなく。あるといえば藤のお香。あれも鬼避けとして絶対ではない。
となると。
「特に危険なのは稀血の朝緋だ」
「そうなりますね。煉獄家で一番狙われやすいのが私なのは間違いないでしょう」
鬼に見つかれば稀血は最優先で狩られる存在だもんね。稀血やめたい。
「でも鬼なんて来ないと思います。
だってわざとだろうがわざとじゃなかろうが、鬼側からすれば逃げる事が出来たから頸を落とされずに済んだんでしょ。少なくとも今、わざわざ煉獄家を襲いにくるわけない。
来ても今度こそ父様に斬られそうになるだけ。普通、そんな恐ろしい真似する?私なら怖いからしない」
「しかしだな朝緋……!!」
声が大きくなってきた。千寿郎の寝顔にしわが寄る。
「杏寿郎兄さん、いい加減にして?千寿郎が起きちゃうよ。もうちょい声落としてよ」
「……う、すまん」
「杏寿郎兄さんは自分のことを心配しないと。私達の心配なんかしてたら、最終選別で鬼にやられちゃうよ?だから気にしないで自分のことだけ考えてほしい。
最終選別で生き残るのがどれほど大変なのか、前に父様から聞いたでしょ?」
炭治郎が参加した回でいえば、二十人ほどいた参加者の内、突破したのは五人だったそうだ。私が見てきた限りでも、半数以上は脱落する。
「それにですよ、私に手を上げたことに関しては父様も自分の手が信じられないって顔してましたから、悪気があってしたわけじゃないんです。
私もひどいこと言ったからおあいこなんです」
「だからといって、暴力に訴えていいわけがない。それも、女子の顔に!!」
興奮気味なのか、また声が大きくなっている。落ち着かせようと、私は杏寿郎さんの肩をぽんぽん叩いた。
「千寿郎起きちゃうってば。落ち着いて?
たしかに最近の父様は態度もとても悪いし、家族に心配させるようなことばかりしてる。いいところなんてひとっつもない。褒められそうなところなんて、今でも母様を思ってることくらいよ。
杏寿郎兄さんの怒りの矛はおさめてよ。私が喧嘩してよく言ってきたところなんだから。……ね?」
その結果叩かれてたらざまあないけど。
「むう、朝緋が……そう言うのなら……」
それでも顔は納得がいかないと言いたげのもので。
何か杏寿郎さんの心が他所に散らせるものはないかと、話題を探す。
お、あるわ。話題あるわ。
「そうだ。今、近くの能楽堂で『羽衣』の演目がやっているそうですよ。
母様の好きだったあの演目です。父様がお休みの日に、誘って皆で行ってみませんか?刀の修行のこと、鬼殺隊のこと、鬼のこと。そういうの一日くらい忘れて。
母様の思い出を巡りながら、家族でゆっくり過ごすのは良いことだと思います」
「母上の好きな演目……。
修行のことを忘れることはできないが、行ってみたいものだな!……父上が行くといえば俺も行こう。あの父上が素直に言ってくれたらだがな!!」
「もー。そんな言い方して……」
素直じゃないのは貴方も一緒ね。