三周目 壱
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「父上の話は終わったのか?」
寝巻きになり部屋にゆくと、布団から顔を出した杏寿郎さんが待っていた。……顔だけ出てるのかわいい。
「はい、話も七草粥の準備も終わりました」
「なんと!それはお疲れ様だ!あんなにたくさんの七草をとったのだし、明日はたくさん食べられるな。楽しみだ!
ささ、あたためておいたから入るといい」
促されるまま、開けてくれた布団の隙間から中へと潜り込む。そこは杏寿郎さんの体温のおかげであたたかくて天国だった。
「わああったか〜い。ぬっくぬくだ」
「むむ!朝緋の体は冷たいな!?氷のようで、せっかく温かくなったのに全て持っていかれそうだ」
困った風に笑いながらも私の冷えた体をあたためてくれようと、ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。ちょっぴり恥ずかしいけど、相手も私もまだ子供の体だからと我慢する。
そうして私の体がぽかぽかし出した頃、耳元で囁くように杏寿郎さんが言葉を発した。
「……俺は鬼を許さん。憎くて憎くてたまらない」
これまでは鬼殺隊に入るにあたり生業だから。責務だから。という気持ちで隊士を目指してきた杏寿郎さんに、鬼を憎む気持ちが生まれている。
鬼は人を食うから確かに許せないけれど、どんな心境の変化だろう?あの鬼に歯が立たなかったのが、そんなに悔しくて憎たらしく感じたのだろうか。
「そんなに悔しかった?」
「そんなにとは何だ!?違うッ!朝緋を傷つけたからだ!これから先、朝緋を狙ってくる鬼共も、俺は決して許さんからな!!」
「ひゃー!耳元でおっきな声出さないで!今何時だと思ってるんですか!?」
「君も声が大きい!」
たしなめようと顔を突き合わせて怒ると、私の顔を見た杏寿郎さんは眉間に皺を寄せて悲しそうな顔をした。ぴとり、私の頬に手が乗せられ、慈しむように撫でられる。
「ほら、女子なのに顔に傷が……」
「ひゃ、」
恥ずかしさにやめてもらおうと口を開くと、杏寿郎さんが心の内を吐露した。
「朝緋を傷つけた鬼が憎い。それと同時に、自分の力の足りなさに悔しくなった。もっともっと精進しなくては。父上のような立派な柱にならなくては……」
私と同じだ。
今の私は恐怖が勝ってしまい憎しみや怒りが薄れていたけれど、これまでは己の弱さこそが悔しく憎く、怒りの気持ちで満ちていた。杏寿郎さんも圧倒的な鬼という強者を前にして、私と同じ気持ちを抱いていたんだね。
杏寿郎さんに負けないよう、私も頑張らないと。
気持ちを確認したところで、改めてその手をゆっくりと下ろさせる。
「すぐ治るから気にしないで。それに隊士になったらこんな傷は日常茶飯事になります」
「は?」
「だって、私も鬼殺隊の入隊を目指してるじゃない?」
返ってきた答えは私が危惧したものと同じ……鬼殺隊に入ることをあまり望んでいないと言いたげなものだった。
「何言ってるんだ!?君は稀血だろう!正気か!?」
目を見開き、信じられないものを見るかのように再び見てくる。肩に置かれた手が食い込んで痛い。
「最終的には許可してくれましたが、父様と同じこと言うんですね……。杏寿郎兄さんにまで言われるなんて悲しいや」
「あ、いや……朝緋が日夜強くなろうと努力しているのは知っている。なのにそれを否定するようなことを言ってしまった!すまん!!
……でもできることなら、危険な真似はさせたくない。朝緋の分も鬼を倒すから、大人しく守られていてほしいと思ったんだ。
稀血である君は普通の人間よりも鬼に狙われる。鬼と対峙させて何かあったら……もしも朝緋を失ってしまったらと思うと、俺は怖くてたまらない」
見た目が幼女だから効力はないに等しいだろうがしおらしい女人の如く、よよよ……と悲しんで見せれば兄である杏寿郎さんの心に響いたようだった。肩から手が下された代わりに手を握られ、杏寿郎さんの恐怖するものを教えられた。
でもね、気持ちはわかるけどそれって鬼と会ったことのある人間なら誰しも思うことなんだよ。槇寿朗さんだって、同じことを言っていた。
「鬼が憎い。嫌い。怖い。
それは他の人間だって思うこと。誰だって自分や、自分の周りの人、家族を奪われたくないと鬼を恐怖する。
人が鬼に対して抱くその憂いや恐怖を払うため、私は刃をふるい、鬼を滅したいなって思ってる。ほかの人が平和に笑って暮らせる、夜を怖がらなくていい世の中にしたいの」
考えを話せば聞こえないくらいとても小さな、本当に小さな声で杏寿郎さんが呟いた。
「…………俺は他の者でなく、朝緋が平和に笑って暮らせる世の中であればそれでいい」
けれど鬼殺隊で鍛えた五感は今も健在なためか、その小さな声もしっかりと私の耳に届いてしまっていた。
その願いはいけない。柱となる人物は、鬼殺隊に身を置くような身内よりも力を持たぬ一般の人々を優先しなければ。その願いは、どうか胸の奥にしまっておいてね。
「ま、朝緋の望みが俺の隣で鬼に立ち向かう事ならば仕方ない!俺はもうこれ以上何も言うまい!共に強くなろう!!」
握られた手が未だ薄い体にまわされる。幼い体同士では抱かれるというより、相撲をとるようにしか見えず先ほどまであった恥ずかしさはどこかへ行ってしまった。
「もー!お相撲じゃないんだから!」
「ははは!相撲は好きだぞ!!この状態だとさしずめ『寄り切り』といったところだろうか!!近所の連中ととることもあるが、たまには朝緋も参加するか!?」
「お断りします!」
杏寿郎さんの負け知らずな相撲を見るのは好きだけど、近所の男の子達に混じって私が四股を踏むのは少し気恥ずかしい。私は見る専門でお願いしたいところ。
でも杏寿郎さんのあたたかさは、かつてのものと同じ温度。懐かしくて心地よくて……離れたくない。
それはこのままでいたいなどと、わがままな思いを抱いてしまうほどで。
今回初めてしっかり目撃した鬼の恐ろしさを前にした恐怖や、槇寿朗さんの鬼への憤怒具合を目にした事、草摘みや帰ってからの七草叩き、そしてお話などで疲労が重なったことも大きいと思うけれど、その日はそのままいつもよりぎゅうぎゅうとお団子のようにくっついてぐっすり眠った。
そのさまはまるで抱き枕状態で、寝返りを打てない姿勢は起きた時に寝違えたかのように体が痛かったっけ……。
寝巻きになり部屋にゆくと、布団から顔を出した杏寿郎さんが待っていた。……顔だけ出てるのかわいい。
「はい、話も七草粥の準備も終わりました」
「なんと!それはお疲れ様だ!あんなにたくさんの七草をとったのだし、明日はたくさん食べられるな。楽しみだ!
ささ、あたためておいたから入るといい」
促されるまま、開けてくれた布団の隙間から中へと潜り込む。そこは杏寿郎さんの体温のおかげであたたかくて天国だった。
「わああったか〜い。ぬっくぬくだ」
「むむ!朝緋の体は冷たいな!?氷のようで、せっかく温かくなったのに全て持っていかれそうだ」
困った風に笑いながらも私の冷えた体をあたためてくれようと、ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。ちょっぴり恥ずかしいけど、相手も私もまだ子供の体だからと我慢する。
そうして私の体がぽかぽかし出した頃、耳元で囁くように杏寿郎さんが言葉を発した。
「……俺は鬼を許さん。憎くて憎くてたまらない」
これまでは鬼殺隊に入るにあたり生業だから。責務だから。という気持ちで隊士を目指してきた杏寿郎さんに、鬼を憎む気持ちが生まれている。
鬼は人を食うから確かに許せないけれど、どんな心境の変化だろう?あの鬼に歯が立たなかったのが、そんなに悔しくて憎たらしく感じたのだろうか。
「そんなに悔しかった?」
「そんなにとは何だ!?違うッ!朝緋を傷つけたからだ!これから先、朝緋を狙ってくる鬼共も、俺は決して許さんからな!!」
「ひゃー!耳元でおっきな声出さないで!今何時だと思ってるんですか!?」
「君も声が大きい!」
たしなめようと顔を突き合わせて怒ると、私の顔を見た杏寿郎さんは眉間に皺を寄せて悲しそうな顔をした。ぴとり、私の頬に手が乗せられ、慈しむように撫でられる。
「ほら、女子なのに顔に傷が……」
「ひゃ、」
恥ずかしさにやめてもらおうと口を開くと、杏寿郎さんが心の内を吐露した。
「朝緋を傷つけた鬼が憎い。それと同時に、自分の力の足りなさに悔しくなった。もっともっと精進しなくては。父上のような立派な柱にならなくては……」
私と同じだ。
今の私は恐怖が勝ってしまい憎しみや怒りが薄れていたけれど、これまでは己の弱さこそが悔しく憎く、怒りの気持ちで満ちていた。杏寿郎さんも圧倒的な鬼という強者を前にして、私と同じ気持ちを抱いていたんだね。
杏寿郎さんに負けないよう、私も頑張らないと。
気持ちを確認したところで、改めてその手をゆっくりと下ろさせる。
「すぐ治るから気にしないで。それに隊士になったらこんな傷は日常茶飯事になります」
「は?」
「だって、私も鬼殺隊の入隊を目指してるじゃない?」
返ってきた答えは私が危惧したものと同じ……鬼殺隊に入ることをあまり望んでいないと言いたげなものだった。
「何言ってるんだ!?君は稀血だろう!正気か!?」
目を見開き、信じられないものを見るかのように再び見てくる。肩に置かれた手が食い込んで痛い。
「最終的には許可してくれましたが、父様と同じこと言うんですね……。杏寿郎兄さんにまで言われるなんて悲しいや」
「あ、いや……朝緋が日夜強くなろうと努力しているのは知っている。なのにそれを否定するようなことを言ってしまった!すまん!!
……でもできることなら、危険な真似はさせたくない。朝緋の分も鬼を倒すから、大人しく守られていてほしいと思ったんだ。
稀血である君は普通の人間よりも鬼に狙われる。鬼と対峙させて何かあったら……もしも朝緋を失ってしまったらと思うと、俺は怖くてたまらない」
見た目が幼女だから効力はないに等しいだろうがしおらしい女人の如く、よよよ……と悲しんで見せれば兄である杏寿郎さんの心に響いたようだった。肩から手が下された代わりに手を握られ、杏寿郎さんの恐怖するものを教えられた。
でもね、気持ちはわかるけどそれって鬼と会ったことのある人間なら誰しも思うことなんだよ。槇寿朗さんだって、同じことを言っていた。
「鬼が憎い。嫌い。怖い。
それは他の人間だって思うこと。誰だって自分や、自分の周りの人、家族を奪われたくないと鬼を恐怖する。
人が鬼に対して抱くその憂いや恐怖を払うため、私は刃をふるい、鬼を滅したいなって思ってる。ほかの人が平和に笑って暮らせる、夜を怖がらなくていい世の中にしたいの」
考えを話せば聞こえないくらいとても小さな、本当に小さな声で杏寿郎さんが呟いた。
「…………俺は他の者でなく、朝緋が平和に笑って暮らせる世の中であればそれでいい」
けれど鬼殺隊で鍛えた五感は今も健在なためか、その小さな声もしっかりと私の耳に届いてしまっていた。
その願いはいけない。柱となる人物は、鬼殺隊に身を置くような身内よりも力を持たぬ一般の人々を優先しなければ。その願いは、どうか胸の奥にしまっておいてね。
「ま、朝緋の望みが俺の隣で鬼に立ち向かう事ならば仕方ない!俺はもうこれ以上何も言うまい!共に強くなろう!!」
握られた手が未だ薄い体にまわされる。幼い体同士では抱かれるというより、相撲をとるようにしか見えず先ほどまであった恥ずかしさはどこかへ行ってしまった。
「もー!お相撲じゃないんだから!」
「ははは!相撲は好きだぞ!!この状態だとさしずめ『寄り切り』といったところだろうか!!近所の連中ととることもあるが、たまには朝緋も参加するか!?」
「お断りします!」
杏寿郎さんの負け知らずな相撲を見るのは好きだけど、近所の男の子達に混じって私が四股を踏むのは少し気恥ずかしい。私は見る専門でお願いしたいところ。
でも杏寿郎さんのあたたかさは、かつてのものと同じ温度。懐かしくて心地よくて……離れたくない。
それはこのままでいたいなどと、わがままな思いを抱いてしまうほどで。
今回初めてしっかり目撃した鬼の恐ろしさを前にした恐怖や、槇寿朗さんの鬼への憤怒具合を目にした事、草摘みや帰ってからの七草叩き、そしてお話などで疲労が重なったことも大きいと思うけれど、その日はそのままいつもよりぎゅうぎゅうとお団子のようにくっついてぐっすり眠った。
そのさまはまるで抱き枕状態で、寝返りを打てない姿勢は起きた時に寝違えたかのように体が痛かったっけ……。