三周目 壱
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
でもまさか、決意を新たにしたばかりで杏寿郎さんへ溢れる想いの蓋をこじ開けようとされるとは、全くもって思いもしなかった。
私が密閉したはずの心の蓋は、超簡単に開け閉めできてしまうジップロック製だったのだろう。杏寿郎さんや槇寿朗さんの力でバリバリ破けて中身が弾け飛んだ。
何があったっていうと、瑠火さんとでもなく槇寿朗さんとでもなく杏寿郎さんと一緒に寝ろ、だってさ。あと一年程してからだったけれど、『前』は添い寝してくれたのだって槇寿朗さんだったのにぃ!いや、杏寿郎さんともお昼寝とかはしたけどさぁ〜!
瑠火さんは乳飲み子の千寿郎と二人で。槇寿朗さんは基本的に任務のことでいつ布団に入れるかどうかわからず一人で。
なので心配な一人娘は杏寿郎と共に眠るように!との話になっている。
心配かあ。
私を煉獄家に連れて帰った時、私は寒さのせいか風邪をひいていた。今では風邪なんてひかない超健康優良児だというのに、あれから私イコール寒さには弱い。などという鬼殺隊に入ろうとする者にあるまじきレッテルを貼られてしまったのだ。
まあ多分、心配しているのは幼い姿の今の内だけだろうけれど、弱いなどと心外だ!
そりゃ、この時代ではまだ『七つになるまでは神のもの』と言われているけどね。
それほどまでに、すくすくと問題なく子らが育つのは難しい時代だった。確かこれがお七夜を祝う由縁だっけ?
だから親側の気持ちはよくわかる。
けれど考えてみてよ。『前回』私は杏寿郎さんと恋仲にまでのぼり詰めた。男女の営みも経験した。
そんな中、あれからそうそう時間が空いていない内から杏寿郎さんの隣だなんて、意識しちゃって絶対眠れない。それが例えまだ幼い杏寿郎さんだとしても!
恋心が芽生えてぽんぽん花咲きそうになるイベントをいきなり投下しないでほしい。
私、どんな顔とどんな気持ちで杏寿郎さんに向き合えばいいの?
もやもやと悩んでいる内にとっぷりと日が暮れ夜になり、気がつけば杏寿郎さんのお部屋。
わたしるかさんがつくったおゆうはんのあじおぼえてなぁい……。
ごはんの味の感想を言うのが私のルーティンなのに、言えていないであろうことにかなりのショックを感じる。
そして落ち込んだ私はドナドナよろしく引き入れられ、あれよあれよの間に杏寿郎さんのお部屋どころか、布団の中に入れられてぽんぽんと上から叩かれていた。
あるぇ〜いつのまに〜〜?
部屋の中の行灯は消えてるし月明かりがあること以外真っ暗だし、普段なら眠っている刻限。
そんな中で目をパチパチさせて杏寿郎さんの顔を見ると、眠っていないことに驚かれてしまった。
私そんなおやすみ三秒じゃないんだけど?
「朝緋は眠れないのか?自分の布団ならもう眠っている時間だ。
はっ!もしかして俺の布団が狭い!?」
「そ、そんなことないよ広ぉい〜!」
うん広いからそんなにぴったりぎゅうぎゅうにくっつかなくていいよ。もうすでに杏寿郎さんは私より上背があるんだから!
この覆いかぶさられる感じは、恋仲時代に後ろからゼロ距離で抱きしめられて朝まで離してもらえなかった日を思い出してしまい、すごくつら……い!?
「むむ、体が冷えているぞ?あと心臓が早い!」
「ビャッ!?」
後ろから抱くようにして腕を回され、心臓の音を確認するためだろうが、胸に手が……!
いや、今の私の胸はないに等しい物だしそこに色っぽさは皆無だけれどね!?でも今の私はこの年齢の体に戻って間もないせいか、精神的にはセブンティーン真っ只中のお年頃なの!
そんなことされれば杏寿郎さん本人からかつて与えられた、めくるめく愛欲のあれこれが頭に蘇って止まらない。鼻血出そう。
「冷たいのも心臓が早いのもまた風邪をひいてるからか?だいじょうぶか?
俺の体は人よりあたたかいらしいぞ。だからこそ俺は父上に朝緋を任されているんだ」
「か、風邪じゃないですぅ……」
「蚊の鳴くような声だな。風邪じゃないならよかったが、なら緊張か?」
トドメとばかりに、次いで熱い吐息がうなじにかかる。夜だからかあまり大声を出してはならないと思い出したか、ボリュームを落とした声音のせいだ。
ぞわぞわするからそこでおしゃべりしないで。
「俺は怖い鬼でも妖怪でもなく兄だぞ?何も危険はないから緊張する必要なし。暖も移せるよう、こうして抱いて寝るから安心して休むといい」
「ちょっ……、杏寿郎さ……、兄さん!」
私の首に顔を埋め、あろうことか足を絡めてきた。
あったかいけれどゼロ距離どころじゃない!足や首筋から燃えてしまいそう。
いくら杏寿郎さんに邪な感情が乗っていないとしても、私の方は色々と意識しちゃってこれは無理すぎる。
私の呼吸よそして鼓動よ落ち着けぇ!常中常中常中……あっ無理まだ全集中できてないんだった。
「うーん、あたたかくなってきたようだなあ」
髪をすくように、ゆるりと撫でられる。
本当にそこに邪なものは乗って来ない。……ないというになんだろう?杏寿郎さんの指先から、愛しい気持ちがあふれ伝わるかのよう。撫で方が妹でなく恋人のそれに感じるのは……熱のこもったような視線が私の背にも突き刺さっているのは、ただの私の勘違い?
「よしでは寝る!おやすみ!!」
しばらくそうしてから、言い切った杏寿郎さんが即寝た。
えええー!?おやすみ三秒は杏寿郎さんの方だった!さすがは寝起きも早いだけある!
鬼殺隊では夜に長く活動する分、短い待機時間や昼の間や、移動中などでこまめに寝ておくことも大事だけどさあ……。ううん、これもまた強くなるための近道なのかも。
まだまだ困惑していた私だが、彼のぽかぽか高い体温は堪え難いし、隣にいて世界で一番安心できる男性……杏寿郎さんの匂いに心が安らぎ、いつしか眠りに落ちていた。
そうして、私は幼少期のしばらくはこの悶々とした葛藤と共に夜を杏寿郎さんのもとで過ごすことになってしまった。
杏寿郎さんは本当に他の人より体温が少し高く温かく。冬の寒い日に温めてくれる湯たんぽのようだったから仕方ないのかも。
……やっぱり杏寿郎さんのことだーい好きなのよねぇ。気持ちを押し込めて隠すなんて、なかなかに難しい。
北風と太陽のお話を思い出す。こんな熱を与えられたら、どうやったって抗えない。あのお話の旅人さんみたいに、太陽の暖かさを前に衣服を脱いでしまう。私の場合は、心に纏った衣だけれど。
太陽に負けないようにこの気持ちを表に出さないようにするには、もっともっと自分に厳しくしていかないとだめなのだろうか。
この幼い体では本当の気持ちと、気持ちを抑えなくてはという心とで葛藤激しく、答えは見つからなかった。
私が密閉したはずの心の蓋は、超簡単に開け閉めできてしまうジップロック製だったのだろう。杏寿郎さんや槇寿朗さんの力でバリバリ破けて中身が弾け飛んだ。
何があったっていうと、瑠火さんとでもなく槇寿朗さんとでもなく杏寿郎さんと一緒に寝ろ、だってさ。あと一年程してからだったけれど、『前』は添い寝してくれたのだって槇寿朗さんだったのにぃ!いや、杏寿郎さんともお昼寝とかはしたけどさぁ〜!
瑠火さんは乳飲み子の千寿郎と二人で。槇寿朗さんは基本的に任務のことでいつ布団に入れるかどうかわからず一人で。
なので心配な一人娘は杏寿郎と共に眠るように!との話になっている。
心配かあ。
私を煉獄家に連れて帰った時、私は寒さのせいか風邪をひいていた。今では風邪なんてひかない超健康優良児だというのに、あれから私イコール寒さには弱い。などという鬼殺隊に入ろうとする者にあるまじきレッテルを貼られてしまったのだ。
まあ多分、心配しているのは幼い姿の今の内だけだろうけれど、弱いなどと心外だ!
そりゃ、この時代ではまだ『七つになるまでは神のもの』と言われているけどね。
それほどまでに、すくすくと問題なく子らが育つのは難しい時代だった。確かこれがお七夜を祝う由縁だっけ?
だから親側の気持ちはよくわかる。
けれど考えてみてよ。『前回』私は杏寿郎さんと恋仲にまでのぼり詰めた。男女の営みも経験した。
そんな中、あれからそうそう時間が空いていない内から杏寿郎さんの隣だなんて、意識しちゃって絶対眠れない。それが例えまだ幼い杏寿郎さんだとしても!
恋心が芽生えてぽんぽん花咲きそうになるイベントをいきなり投下しないでほしい。
私、どんな顔とどんな気持ちで杏寿郎さんに向き合えばいいの?
もやもやと悩んでいる内にとっぷりと日が暮れ夜になり、気がつけば杏寿郎さんのお部屋。
わたしるかさんがつくったおゆうはんのあじおぼえてなぁい……。
ごはんの味の感想を言うのが私のルーティンなのに、言えていないであろうことにかなりのショックを感じる。
そして落ち込んだ私はドナドナよろしく引き入れられ、あれよあれよの間に杏寿郎さんのお部屋どころか、布団の中に入れられてぽんぽんと上から叩かれていた。
あるぇ〜いつのまに〜〜?
部屋の中の行灯は消えてるし月明かりがあること以外真っ暗だし、普段なら眠っている刻限。
そんな中で目をパチパチさせて杏寿郎さんの顔を見ると、眠っていないことに驚かれてしまった。
私そんなおやすみ三秒じゃないんだけど?
「朝緋は眠れないのか?自分の布団ならもう眠っている時間だ。
はっ!もしかして俺の布団が狭い!?」
「そ、そんなことないよ広ぉい〜!」
うん広いからそんなにぴったりぎゅうぎゅうにくっつかなくていいよ。もうすでに杏寿郎さんは私より上背があるんだから!
この覆いかぶさられる感じは、恋仲時代に後ろからゼロ距離で抱きしめられて朝まで離してもらえなかった日を思い出してしまい、すごくつら……い!?
「むむ、体が冷えているぞ?あと心臓が早い!」
「ビャッ!?」
後ろから抱くようにして腕を回され、心臓の音を確認するためだろうが、胸に手が……!
いや、今の私の胸はないに等しい物だしそこに色っぽさは皆無だけれどね!?でも今の私はこの年齢の体に戻って間もないせいか、精神的にはセブンティーン真っ只中のお年頃なの!
そんなことされれば杏寿郎さん本人からかつて与えられた、めくるめく愛欲のあれこれが頭に蘇って止まらない。鼻血出そう。
「冷たいのも心臓が早いのもまた風邪をひいてるからか?だいじょうぶか?
俺の体は人よりあたたかいらしいぞ。だからこそ俺は父上に朝緋を任されているんだ」
「か、風邪じゃないですぅ……」
「蚊の鳴くような声だな。風邪じゃないならよかったが、なら緊張か?」
トドメとばかりに、次いで熱い吐息がうなじにかかる。夜だからかあまり大声を出してはならないと思い出したか、ボリュームを落とした声音のせいだ。
ぞわぞわするからそこでおしゃべりしないで。
「俺は怖い鬼でも妖怪でもなく兄だぞ?何も危険はないから緊張する必要なし。暖も移せるよう、こうして抱いて寝るから安心して休むといい」
「ちょっ……、杏寿郎さ……、兄さん!」
私の首に顔を埋め、あろうことか足を絡めてきた。
あったかいけれどゼロ距離どころじゃない!足や首筋から燃えてしまいそう。
いくら杏寿郎さんに邪な感情が乗っていないとしても、私の方は色々と意識しちゃってこれは無理すぎる。
私の呼吸よそして鼓動よ落ち着けぇ!常中常中常中……あっ無理まだ全集中できてないんだった。
「うーん、あたたかくなってきたようだなあ」
髪をすくように、ゆるりと撫でられる。
本当にそこに邪なものは乗って来ない。……ないというになんだろう?杏寿郎さんの指先から、愛しい気持ちがあふれ伝わるかのよう。撫で方が妹でなく恋人のそれに感じるのは……熱のこもったような視線が私の背にも突き刺さっているのは、ただの私の勘違い?
「よしでは寝る!おやすみ!!」
しばらくそうしてから、言い切った杏寿郎さんが即寝た。
えええー!?おやすみ三秒は杏寿郎さんの方だった!さすがは寝起きも早いだけある!
鬼殺隊では夜に長く活動する分、短い待機時間や昼の間や、移動中などでこまめに寝ておくことも大事だけどさあ……。ううん、これもまた強くなるための近道なのかも。
まだまだ困惑していた私だが、彼のぽかぽか高い体温は堪え難いし、隣にいて世界で一番安心できる男性……杏寿郎さんの匂いに心が安らぎ、いつしか眠りに落ちていた。
そうして、私は幼少期のしばらくはこの悶々とした葛藤と共に夜を杏寿郎さんのもとで過ごすことになってしまった。
杏寿郎さんは本当に他の人より体温が少し高く温かく。冬の寒い日に温めてくれる湯たんぽのようだったから仕方ないのかも。
……やっぱり杏寿郎さんのことだーい好きなのよねぇ。気持ちを押し込めて隠すなんて、なかなかに難しい。
北風と太陽のお話を思い出す。こんな熱を与えられたら、どうやったって抗えない。あのお話の旅人さんみたいに、太陽の暖かさを前に衣服を脱いでしまう。私の場合は、心に纏った衣だけれど。
太陽に負けないようにこの気持ちを表に出さないようにするには、もっともっと自分に厳しくしていかないとだめなのだろうか。
この幼い体では本当の気持ちと、気持ちを抑えなくてはという心とで葛藤激しく、答えは見つからなかった。