三周目 壱
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見た目で『前』と違うところがあった。
この幼少に戻った瞬間からだろうか。私の黒かった髪はすでに炎の呼吸に染まった、メッシュが入ったような馴染みのあの色に変わっていた。目も同じだ。煉獄家の男性達と同じ金環の目。
これは槇寿朗さん、そして杏寿郎さんの炎の呼吸を見続けたおかげで染まった物なので、早くから変わっているのは『前』との繋がりが見えて嬉しいような……それでいて変わる過程の日がわからなくて寂しいような。
杏寿郎さんは黒髪の私も好きと言ってくれていたから、やっぱりちょっとだけ残念かも。
「髪の一部と目が俺と揃いの色合いなのだな!朝緋も芋を食べすぎてそうなったのだろう?妹になった朝緋とお揃いのものがあって俺は嬉しい!!」
幼い杏寿郎さんは芋の食べ過ぎで焔色の髪と目になったのだと思っているようだ。たしかに見方によっては中がほくほく黄金色、皮は赤じゃなくて赤紫だけどもさつまいも……の食べ過ぎに見えなくもない。それか海老天の食べ過ぎとか。
これは観篝で染まったものなんだけどなあ。
そんな微笑ましい想像はかつての私もした。似るものだなぁと内心くすくす笑いながら言葉を返す。私も嬉しいです、と。
だが、杏寿郎さんの顔は嬉しそうなそれから、すぐに翳りを帯びたものに変わる。
「けれど君は怖いと思ったりしていないだろうか……」
「……?杏寿郎兄さん??」
不安げに私に聞いてくるその理由は、聞いたことのあるものと同じ内容だった。
どこを見ているのかわからないような大きな目が怖い。まるでフクロウが獲物を狙うよう。そう、学舎に通う同級生の子たちから、言われるのだと。
だから私もまた、俺のこの目を怖がっていやしないかと思ったそうだ。
『前』も聞かれたけど、私が杏寿郎さんの目を怖がる?
そんなこと天地がひっくり返ったってあるわけない。そりゃあ嫌悪と侮蔑の目で睨まれたりしたら怖いし悲しくて嫌だけど、普段の目でしょ。大好きに決まってる。
特に今の幼い杏寿郎さんの目なんて、おっきくてくりくりして可愛いくらい。
どこを見てるかわからない?そんなことはない。芯の強い瞳が真っ直ぐこっちを向いているでしょーよ!
そんな悪口言う子は、学校に乗り込んでぶちのめしてやりたいわ。
「ちゃんと見せて!」
杏寿郎さんの頬を両の手で挟み、こちらをぐいと向かせる。
居心地悪そうにしばらく視線を彷徨わせてから、私の目をようやくまっすぐに見てくれた。……ああなんて綺麗な目。
「ぜんっぜん怖くない!私は好き!
太陽や向日葵みたいで。きらきらしてあったかくて。杏寿郎兄さんの目も顔も全部、ぜーんぶ!大好きです」
ずっと、ずっと大好き。
幾度となく聞かれようと私が何度でも「怖くない」と伝える。貴方を愛しているという気持ちをこっそりとだけ乗せて。
太陽の目同士の視線が絡み合った。
その時、心のどこかでカチリと音がしたような気がした。合わせてどくん、と心臓が鼓動を大きくする。
それはどんな鍵も合わなかった扉にたった一つ合う鍵が見つかった時のような、ようやく扉が開け放たれたような。待ち侘びた世界が広がるような感覚だ。しっくりくる。
見れば杏寿郎さんも同じような気持ちなのか、同じような顔で私のことをじっと見つめていた。
杏寿郎さんの瞳の中に、同じ表情の私が映っている。
幼い顔幼い瞳の中にはそれだけではない、とろりとした甘さも垣間見えた。『前』に寝所を共にした時と同じ甘さに近いそれ。
小さくても杏寿郎さんは杏寿郎さんだった。すでに、飢えた肉食獣のような光がほんのりと底の方に灯っていた。
「不思議だ……初めて言われた気がしない」
私がしているように、杏寿郎さんも両手を私の頬に当てる。その手は燃えるように熱い。射抜くように見つめて紡がれた言葉を前に身動きが取れなかった。
私が『前』にも言ったその言葉を、懐かしんでくれている。
杏寿郎さんが覚えているはずがないのに、まるで知ってくれているようで。恋仲となったあの貴方が目の前にいるようで。
私の中から恋情が湧いてくる。ああ、どうしよう。好きが止まらない。
でもだめ。私からのその感情は無視しなくちゃいけない。
「やだなぁ、こんな事初めて言いましたよ!」
恋情への拒絶に近い言葉で締めくくった。きっとまだ、幼い杏寿郎さんには私の真意はわからないだろうと踏んで。
だからね、杏寿郎さん。杏寿郎さんも私なんかに興味を持っちゃだめだよ。
杏寿郎さんの頬から手を離し、自分の頬にあった杏寿郎さんの手をようやく離させる。
この話はお終いだ。
この幼少に戻った瞬間からだろうか。私の黒かった髪はすでに炎の呼吸に染まった、メッシュが入ったような馴染みのあの色に変わっていた。目も同じだ。煉獄家の男性達と同じ金環の目。
これは槇寿朗さん、そして杏寿郎さんの炎の呼吸を見続けたおかげで染まった物なので、早くから変わっているのは『前』との繋がりが見えて嬉しいような……それでいて変わる過程の日がわからなくて寂しいような。
杏寿郎さんは黒髪の私も好きと言ってくれていたから、やっぱりちょっとだけ残念かも。
「髪の一部と目が俺と揃いの色合いなのだな!朝緋も芋を食べすぎてそうなったのだろう?妹になった朝緋とお揃いのものがあって俺は嬉しい!!」
幼い杏寿郎さんは芋の食べ過ぎで焔色の髪と目になったのだと思っているようだ。たしかに見方によっては中がほくほく黄金色、皮は赤じゃなくて赤紫だけどもさつまいも……の食べ過ぎに見えなくもない。それか海老天の食べ過ぎとか。
これは観篝で染まったものなんだけどなあ。
そんな微笑ましい想像はかつての私もした。似るものだなぁと内心くすくす笑いながら言葉を返す。私も嬉しいです、と。
だが、杏寿郎さんの顔は嬉しそうなそれから、すぐに翳りを帯びたものに変わる。
「けれど君は怖いと思ったりしていないだろうか……」
「……?杏寿郎兄さん??」
不安げに私に聞いてくるその理由は、聞いたことのあるものと同じ内容だった。
どこを見ているのかわからないような大きな目が怖い。まるでフクロウが獲物を狙うよう。そう、学舎に通う同級生の子たちから、言われるのだと。
だから私もまた、俺のこの目を怖がっていやしないかと思ったそうだ。
『前』も聞かれたけど、私が杏寿郎さんの目を怖がる?
そんなこと天地がひっくり返ったってあるわけない。そりゃあ嫌悪と侮蔑の目で睨まれたりしたら怖いし悲しくて嫌だけど、普段の目でしょ。大好きに決まってる。
特に今の幼い杏寿郎さんの目なんて、おっきくてくりくりして可愛いくらい。
どこを見てるかわからない?そんなことはない。芯の強い瞳が真っ直ぐこっちを向いているでしょーよ!
そんな悪口言う子は、学校に乗り込んでぶちのめしてやりたいわ。
「ちゃんと見せて!」
杏寿郎さんの頬を両の手で挟み、こちらをぐいと向かせる。
居心地悪そうにしばらく視線を彷徨わせてから、私の目をようやくまっすぐに見てくれた。……ああなんて綺麗な目。
「ぜんっぜん怖くない!私は好き!
太陽や向日葵みたいで。きらきらしてあったかくて。杏寿郎兄さんの目も顔も全部、ぜーんぶ!大好きです」
ずっと、ずっと大好き。
幾度となく聞かれようと私が何度でも「怖くない」と伝える。貴方を愛しているという気持ちをこっそりとだけ乗せて。
太陽の目同士の視線が絡み合った。
その時、心のどこかでカチリと音がしたような気がした。合わせてどくん、と心臓が鼓動を大きくする。
それはどんな鍵も合わなかった扉にたった一つ合う鍵が見つかった時のような、ようやく扉が開け放たれたような。待ち侘びた世界が広がるような感覚だ。しっくりくる。
見れば杏寿郎さんも同じような気持ちなのか、同じような顔で私のことをじっと見つめていた。
杏寿郎さんの瞳の中に、同じ表情の私が映っている。
幼い顔幼い瞳の中にはそれだけではない、とろりとした甘さも垣間見えた。『前』に寝所を共にした時と同じ甘さに近いそれ。
小さくても杏寿郎さんは杏寿郎さんだった。すでに、飢えた肉食獣のような光がほんのりと底の方に灯っていた。
「不思議だ……初めて言われた気がしない」
私がしているように、杏寿郎さんも両手を私の頬に当てる。その手は燃えるように熱い。射抜くように見つめて紡がれた言葉を前に身動きが取れなかった。
私が『前』にも言ったその言葉を、懐かしんでくれている。
杏寿郎さんが覚えているはずがないのに、まるで知ってくれているようで。恋仲となったあの貴方が目の前にいるようで。
私の中から恋情が湧いてくる。ああ、どうしよう。好きが止まらない。
でもだめ。私からのその感情は無視しなくちゃいけない。
「やだなぁ、こんな事初めて言いましたよ!」
恋情への拒絶に近い言葉で締めくくった。きっとまだ、幼い杏寿郎さんには私の真意はわからないだろうと踏んで。
だからね、杏寿郎さん。杏寿郎さんも私なんかに興味を持っちゃだめだよ。
杏寿郎さんの頬から手を離し、自分の頬にあった杏寿郎さんの手をようやく離させる。
この話はお終いだ。