三周目 壱
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「うわ、本当にまた戻ってきてる」
小さい手。小さい足。ここまで走ったのだろう疲れ切った体がそこにあった。失ったはずの左腕も戻っている。
……ただし、過去に戻るからといって次に猗窩座と戦いに陥ったとしても、体の一部を欠損するような無茶を何度もするわけにはいかない。もちろん、杏寿郎さんを死なせるのは論外ね。
失敗したらまた戻ればいい?
そんなことは一つも考えない。あんな便利な血鬼術はそう何度も使えるとは思えない。回数制限があって然るべきだ。もし何度もやり直しが可能だとしても、自分の命も他の命も軽んじてはならない。今回で終わらせるつもりで。
いつでも全力で挑まねば、あの鬼は倒せない。
決意新たにする私の鼻先に、紫の花弁がふわりと落ちる。あま〜い匂い、いい匂い。
ここは駒澤村付近からは約六十二里ほどの、歩けば二日半程はかかるであろう遠い距離。
私と明槻は紅葉が綺麗なこの地、この時代で生まれた。
裏のお山には紅葉の他に立派な藤の木も生え、よくよく花穂を揺らしては甘い香りを運んでくる。秋になって紅葉と藤が鮮やかなさまは言葉にできないくらい見事なものだった。
普通は秋に藤?と疑問だろう。この藤達は一年中藤が咲き乱れる、かの山より移植したらしいことを槇寿朗さんからちらりと聞いた。真相は定かではないが。
そんな藤の花が私を守るように頭上で揺れている。……この光景は前と変わらない。
鬼が来ることが出来ない藤の近くは安心できる。
何てったって、今の私は年端もいかぬただの五、六歳児。武器もなければ力もなく、呼吸も使えないのだから。
ましてや鬼舞辻無惨相手?無理だわー難易度ルナティックどころじゃない。どう足掻いても即終了。コンテニュー不可のゲームオーバーへ一直線。
ただ、せめて家族は助けたかったなあ。今力なんかあったところでなーんにもならないことはわかってるけれど。
ここに逃げる前には戻れないんだよね。明槻が鬼になる瞬間にしか戻れないとの話だし、ならどうやったってその更にちょっぴり前には飛べない。
そうなると杏寿郎さんと会えなくなるかもしれないけれど、今世での両親が死なずに助かればもっともっと嬉しいのに。無限列車の中で見た家族もともに笑い合う夢。あの、叶うことのない夢は実質ただの悪夢だ。
だって夢や現実がどうであれ杏寿郎さんに会えなければ私は私で鬼殺隊に入るし、私から会いに行けばいい。杏寿郎さんに死の運命が付き纏うなら、もちろんその馬鹿馬鹿しい運命をぶち壊しにどこまでも赴く。
親も杏寿郎さんも、他の鬼殺隊士にいたるまで。救える命は多ければ多いほど良いというのが、私の持論なのだから。
両親の話で思い出した。炭治郎の使うヒノカミ神楽は、私の親達が使う炎の神楽舞に少しだけ似ている。
だから既視感があったのだろうし、私の適性がより炎の呼吸に向いていたのかも。かと言って私に親が使う神楽も、炭治郎のヒノカミ神楽も全くもって使えないけれど。
私には何の力もない。何の取り柄もない。
今だってほら、疲れからなのかそれともこの肌寒い夜の下で風に晒されているからか、寒いのに熱い。頬がぽっぽと熱を帯びていて、風邪の症状を訴えてきている。『前回』は記憶を取り戻したせいの頭痛もあったけど、今も単純に頭が痛くてたまらない。
寝巻きに染みた親達の血も冷えて寒い。認識してしまうと、自分の血じゃないのに失血した時のように血の気がひいて余計寒く感じる。
あ〜寒い時に寝ちゃだめだ。眠ったら死ぬぞ。ここは雪山だ。いや違うでしょ雪山じゃないよ。普通の低い山だよ。富士山より低いわ。
でもとにかく眠い……だってこの体の私ならとうに寝ている時間でしょ?子供だもの。
体を温めるにも呼吸法は役に立つ。よし!使えないなりに呼吸もどきを使ってみよ、
「んすぅーー……ゲホゴホオェッ」
だめだ炎の呼吸咽せた。肺が仕上がってない。
とはいえ、これは幸先がいい。
『前』よりも『その前』よりも、この年齢にしては基礎体力は引き継がれているような気がする。体の底から力が湧くようだ。
そんな気がするだけかもしれないけれど、私は自分を信じたい。
これなら常中が身につくのも早いかも。また鍛錬あるのみの生活開始!だね。体を動かすことは好きだし、自分が鍛錬や修行が嫌いなタイプじゃなくてよかった。
でもさ、私こんな年端も行かない内から鍛錬好きとか、どこのアスリートなんだろうね?
うん……今回こそ、杏寿郎さんを死なせない。あの鬼をしとめる。闇をはらう。
でも今はこの寒さと眠気なんとかして!!
足をすり合わせて耐えてはいたが限界はすぐに訪れ、眠りに落ちていた。
目を覚ました場所は『以前』同様煉獄家。まぁた熱が出て寝込んでいたみたいだけれど、その時間が三日から二日に短くなっている。上々。
そうしてあれよあれよの間に、私はまた煉獄家の長女として迎え入れられた。
「俺は煉獄槇寿朗。朝緋、君は今日からうちの娘だ。父親と思ってくれて構わない」
「母の煉獄瑠火です。こちらは千寿郎とその兄の杏寿郎。杏寿郎、妹と仲良くするのですよ」
優しい父親の槇寿朗さん。美しい母親の瑠火さん。まだまだ小さい千寿郎。
また……また大好きな人達に会えた。
そして。
「兄の煉獄杏寿郎だ!朝緋、これからよろしく頼む!!」
幼い姿の杏寿郎さんから、太陽のような笑みをまた向けられた。
ウッ眩しい……!貴方の周りときたら、相変わらずきらきらと輝いて見えるのね。
私の命なんかよりよほど大事な存在の杏寿郎さん。
今は『あの時』のようにどこも怪我をしていないようで。どこも痛いところはなさそうで。ふくふくと健康そうに育って。
小さい杏寿郎さんは『前』も見た姿なのに、こんなに元気な姿を目にすると、ほっとすると同時に涙が出てきてしまう。
当たり前か。だって、あの無限列車の任務についたのは私からしたら二ヶ月もたっていない、つい最近のことだものね。
「よろしくお願いします、杏寿郎兄さん」
「ああ!……朝緋?どうした??なんで泣いてるんだ!?」
溢れる涙はそのままに返事を返してしまい、その態度は変だったと気がついた。
けれど私の涙は止まるところを知らず、泣き止むまでにはかなりの時間がかかり杏寿郎さんや他の家族を大層困惑させてしまった。
三度目の今回はもっと言動に気をつけなければ。『二度目』では子供らしからぬ部分も多かったし言い間違いも多かった。
それに杏寿郎さんへの愛が大きすぎて、恋愛にうつつを抜かしてしまっていた。今思えばそんな暇はなかったのに。
杏寿郎さんの生存、そして猗窩座討伐こそが私の目的。杏寿郎さんが生きる未来が見られるなら、その隣にいる女性が私でなくても……、本当は嫌だけど我慢できる。嫌だけど。
燃え上がる恋情になんて、蓋をして埋めてしまおう。私はそう、ただの妹。妹なの。
でも、嬉しかった……共にいられることも、囲まれることも、こうして心配してくださる姿も。
小さい手。小さい足。ここまで走ったのだろう疲れ切った体がそこにあった。失ったはずの左腕も戻っている。
……ただし、過去に戻るからといって次に猗窩座と戦いに陥ったとしても、体の一部を欠損するような無茶を何度もするわけにはいかない。もちろん、杏寿郎さんを死なせるのは論外ね。
失敗したらまた戻ればいい?
そんなことは一つも考えない。あんな便利な血鬼術はそう何度も使えるとは思えない。回数制限があって然るべきだ。もし何度もやり直しが可能だとしても、自分の命も他の命も軽んじてはならない。今回で終わらせるつもりで。
いつでも全力で挑まねば、あの鬼は倒せない。
決意新たにする私の鼻先に、紫の花弁がふわりと落ちる。あま〜い匂い、いい匂い。
ここは駒澤村付近からは約六十二里ほどの、歩けば二日半程はかかるであろう遠い距離。
私と明槻は紅葉が綺麗なこの地、この時代で生まれた。
裏のお山には紅葉の他に立派な藤の木も生え、よくよく花穂を揺らしては甘い香りを運んでくる。秋になって紅葉と藤が鮮やかなさまは言葉にできないくらい見事なものだった。
普通は秋に藤?と疑問だろう。この藤達は一年中藤が咲き乱れる、かの山より移植したらしいことを槇寿朗さんからちらりと聞いた。真相は定かではないが。
そんな藤の花が私を守るように頭上で揺れている。……この光景は前と変わらない。
鬼が来ることが出来ない藤の近くは安心できる。
何てったって、今の私は年端もいかぬただの五、六歳児。武器もなければ力もなく、呼吸も使えないのだから。
ましてや鬼舞辻無惨相手?無理だわー難易度ルナティックどころじゃない。どう足掻いても即終了。コンテニュー不可のゲームオーバーへ一直線。
ただ、せめて家族は助けたかったなあ。今力なんかあったところでなーんにもならないことはわかってるけれど。
ここに逃げる前には戻れないんだよね。明槻が鬼になる瞬間にしか戻れないとの話だし、ならどうやったってその更にちょっぴり前には飛べない。
そうなると杏寿郎さんと会えなくなるかもしれないけれど、今世での両親が死なずに助かればもっともっと嬉しいのに。無限列車の中で見た家族もともに笑い合う夢。あの、叶うことのない夢は実質ただの悪夢だ。
だって夢や現実がどうであれ杏寿郎さんに会えなければ私は私で鬼殺隊に入るし、私から会いに行けばいい。杏寿郎さんに死の運命が付き纏うなら、もちろんその馬鹿馬鹿しい運命をぶち壊しにどこまでも赴く。
親も杏寿郎さんも、他の鬼殺隊士にいたるまで。救える命は多ければ多いほど良いというのが、私の持論なのだから。
両親の話で思い出した。炭治郎の使うヒノカミ神楽は、私の親達が使う炎の神楽舞に少しだけ似ている。
だから既視感があったのだろうし、私の適性がより炎の呼吸に向いていたのかも。かと言って私に親が使う神楽も、炭治郎のヒノカミ神楽も全くもって使えないけれど。
私には何の力もない。何の取り柄もない。
今だってほら、疲れからなのかそれともこの肌寒い夜の下で風に晒されているからか、寒いのに熱い。頬がぽっぽと熱を帯びていて、風邪の症状を訴えてきている。『前回』は記憶を取り戻したせいの頭痛もあったけど、今も単純に頭が痛くてたまらない。
寝巻きに染みた親達の血も冷えて寒い。認識してしまうと、自分の血じゃないのに失血した時のように血の気がひいて余計寒く感じる。
あ〜寒い時に寝ちゃだめだ。眠ったら死ぬぞ。ここは雪山だ。いや違うでしょ雪山じゃないよ。普通の低い山だよ。富士山より低いわ。
でもとにかく眠い……だってこの体の私ならとうに寝ている時間でしょ?子供だもの。
体を温めるにも呼吸法は役に立つ。よし!使えないなりに呼吸もどきを使ってみよ、
「んすぅーー……ゲホゴホオェッ」
だめだ炎の呼吸咽せた。肺が仕上がってない。
とはいえ、これは幸先がいい。
『前』よりも『その前』よりも、この年齢にしては基礎体力は引き継がれているような気がする。体の底から力が湧くようだ。
そんな気がするだけかもしれないけれど、私は自分を信じたい。
これなら常中が身につくのも早いかも。また鍛錬あるのみの生活開始!だね。体を動かすことは好きだし、自分が鍛錬や修行が嫌いなタイプじゃなくてよかった。
でもさ、私こんな年端も行かない内から鍛錬好きとか、どこのアスリートなんだろうね?
うん……今回こそ、杏寿郎さんを死なせない。あの鬼をしとめる。闇をはらう。
でも今はこの寒さと眠気なんとかして!!
足をすり合わせて耐えてはいたが限界はすぐに訪れ、眠りに落ちていた。
目を覚ました場所は『以前』同様煉獄家。まぁた熱が出て寝込んでいたみたいだけれど、その時間が三日から二日に短くなっている。上々。
そうしてあれよあれよの間に、私はまた煉獄家の長女として迎え入れられた。
「俺は煉獄槇寿朗。朝緋、君は今日からうちの娘だ。父親と思ってくれて構わない」
「母の煉獄瑠火です。こちらは千寿郎とその兄の杏寿郎。杏寿郎、妹と仲良くするのですよ」
優しい父親の槇寿朗さん。美しい母親の瑠火さん。まだまだ小さい千寿郎。
また……また大好きな人達に会えた。
そして。
「兄の煉獄杏寿郎だ!朝緋、これからよろしく頼む!!」
幼い姿の杏寿郎さんから、太陽のような笑みをまた向けられた。
ウッ眩しい……!貴方の周りときたら、相変わらずきらきらと輝いて見えるのね。
私の命なんかよりよほど大事な存在の杏寿郎さん。
今は『あの時』のようにどこも怪我をしていないようで。どこも痛いところはなさそうで。ふくふくと健康そうに育って。
小さい杏寿郎さんは『前』も見た姿なのに、こんなに元気な姿を目にすると、ほっとすると同時に涙が出てきてしまう。
当たり前か。だって、あの無限列車の任務についたのは私からしたら二ヶ月もたっていない、つい最近のことだものね。
「よろしくお願いします、杏寿郎兄さん」
「ああ!……朝緋?どうした??なんで泣いてるんだ!?」
溢れる涙はそのままに返事を返してしまい、その態度は変だったと気がついた。
けれど私の涙は止まるところを知らず、泣き止むまでにはかなりの時間がかかり杏寿郎さんや他の家族を大層困惑させてしまった。
三度目の今回はもっと言動に気をつけなければ。『二度目』では子供らしからぬ部分も多かったし言い間違いも多かった。
それに杏寿郎さんへの愛が大きすぎて、恋愛にうつつを抜かしてしまっていた。今思えばそんな暇はなかったのに。
杏寿郎さんの生存、そして猗窩座討伐こそが私の目的。杏寿郎さんが生きる未来が見られるなら、その隣にいる女性が私でなくても……、本当は嫌だけど我慢できる。嫌だけど。
燃え上がる恋情になんて、蓋をして埋めてしまおう。私はそう、ただの妹。妹なの。
でも、嬉しかった……共にいられることも、囲まれることも、こうして心配してくださる姿も。