一周目 弐
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立ち向かうも何もない。完全に頭に血が昇っていた。
「ひどいひどいひどい……許せない…………ッ!絶対に許さないからね、この格闘馬鹿鬼……!
鬼にならないなら殺すなんて馬鹿な事をのたまい!勝手に呼び捨てにするには飽き足らず!この人の体を……綺麗な目をよくも潰してくれたな…………!……殺すッ」
怒りで我を忘れそうであったが、不思議と頭の中は冷静だった。
全集中、炎の呼吸。瞬間的に呼吸を足と手に集中させ、足の動きと手の動きを爆発させてより強く、加速する。
「また貴様か!女はひっこんでいろ!!」
掴まれそうになるそれを掻い潜り、猗窩座の間合いの内側へ。
「くっ……!壱ノ型・不知火ッ!!」
これ以上ないほど低姿勢からの全体重をかけた高速の不知火が、先程よりも深く入る。
目には目を。そう……刃は猗窩座の左眼の参の字を貫き斬り伏せた。
「小癪な真似を。目など治すのは一瞬のことだ。だが褒めてやろう、弱き肉体でこの俺に傷をつけたことを!」
たしかに一瞬で治ってしまった。それでもこんな私でも上弦に傷をつけられた。その自信は大事だし、真打は私ではない。
なんとでも言うがいい。そうやって笑っていられるのは絶対今のうちだ。
「参ノ型・気炎万象!肆ノ型・盛炎のうねり!」
すぐ退いた私の攻撃に続くよう、杏寿郎さんが技を次々に放った。
嬉々として拳を繰り出す猗窩座を確実に滅するべく、とうとう伍ノ型までも打ち放つ。出し惜しみはしていられない。
「伍ノ型・炎虎ッ!!」
大きく振り抜いた刃に、炎でできた猛虎の像が浮かんで見える。
炎の虎が、猗窩座に向かう。
奴もまた、乱式という拳の乱れ打ちで炎虎に対抗しようとした。その表情はどこまでも杏寿郎さんと戦えることを楽しむ戦闘狂の物だった。
炎虎は強い。だが、あの乱れ打ちはまずいと思った。死地に飛び込むが如く、私も遅れて炎虎を放つ。
「炎の呼吸、伍ノ型・炎虎改乱咬み !」
複数の技に対抗するための、こちらも素早く何度も斬りつける技だ。
本来の炎虎は虎が大口を開けて噛み付くが如く大きく抉り斬るものだが、今の私にはそこまでの力がない。だからこそ斬撃の軌跡はそのままに、複数回に分けて素早く振り抜いて相手に噛み付くのだ。
それはまるで、子虎が親虎の狩りの真似事をして何度も噛み付くようなもの。
威力は大したものでなくとも、猗窩座にしてみれば楽しき戦いに邪魔が入り鬱陶しいだろう。その怒気が、こちらに逸れてきた。
「俺は女は殺さんッ!邪魔だ退けぇ!!」
「ッ朝緋!!」
杏寿郎さんが叫んだ時には遅く、猗窩座の腕に私の足が捕らえられた。
ーーバキッ!
「ああぁ゛っ!」
凄まじい握力で足の骨を折られた!
そのまま思い切り投げ飛ばされ、私の体は戦闘域から大きく外れた。強制退場だ。
なぜ殺さない?
激痛で意識が飛びそうだったが、投げ飛ばされる中、『女は殺さない』ーー。その意味と理由を考える余裕はあった。
だがそれよりも。宙を舞う中見えてしまった戦いの結果に、驚愕してしまった。
「う、そ…………、ガフッ!?」
ドシャッ!
折れた足のせいというよりも見えた光景を前に受け身はうまく取れずに、地に体を強かに打ち付けてしまった。幸いなことに炭治郎達のすぐ近くに落ちたようで、私の体は彼らによって起こされた。
「し、師範……師範が…………!」
助けは借りず、刀を杖にして自力で立ち上がる。目だけは、杏寿郎さんの方を真っ直ぐ凝視していた。、
「朝緋さん!足が……!無理しちゃ駄目です!」
「出血してないからこんなの軽症よ!」
「血が出てないからって…………足が折れてるんですよ!?」
本当は泣きたいほど痛いし、誰かに縋りたい。けれど、でも。
「足が折れたくらいどうってことない!それより師範が!」
「もしや勝ったのか?ギョロギョロ目ん玉の勝ちか!?」
「いいえ、あれは違う…………!」
静止の声も手も振り払う。
唇をぎゅと噛み締めながら見つめた先にいる杏寿郎さんは肩で大きく息をしていた。
ぶつかり合った炎虎と拳。炎虎が打ち消され、猗窩座の拳撃が杏寿郎さんを襲って終わったのだ。
私への攻撃で多少の拳撃は逸れたようだが、それでも杏寿郎さん渾身の炎虎は猗窩座の頸に届かなかった。
痛みでか、それとも握力が入りづらくされたか、杏寿郎さんの刀を持つ手が小さく震えていた。
血が、ぽたり、ぽたりと滴り落ちていた。
誰かの絶望の吐息が、聞こえた気がした。
杏寿郎さんの呼吸音が聞こえるだけの静かな夜の空気が流れる中、猗窩座の淡々とした声が紡がれる。
今もなお、杏寿郎さんを鬼になるように誘っている。攻撃は無駄だったと言っている。
炎虎により猗窩座に与えられた数々の刀傷もまた、瞬きの間に塞がってしまった。
その反対に杏寿郎さんは。
「潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓。もう取り返しがつかない」
だから鬼はずるいんだ。
こちらは、命をかけて戦っているのに、鬼はそうではない。
人間は傷が簡単に治らない。目や内臓を一度失えば元に戻ることはない。
致命傷を負えばそれまでなのに。
だからこそ鬼になって傷を癒やし、生きてほしい。こんなところで終わってほしくない。その気持ちは少しだけわからないでもないが、その傷は猗窩座により負ったものだ。お前が言うな、である。
目が潰れ内臓がやられた以上、杏寿郎さんの柱としての生命は終わってしまうかもしれない。それがひどく悔しくて悔しくてたまらなかった。
こらえるように俯いた時、気がついた。
猗窩座の話を全て無視する杏寿郎さんの口から聞こえる呼吸音。
これは。この呼吸の仕方は。
呼吸を整え、大きく息を吸い息を吐く。体の隅々まで、煮え滾る熱湯のように熱い力を巡らせる。
この繰り返しを行う呼吸は。
ごうごうと燃える燃える。巨大な篝火の如く。
杏寿郎さんの体から、燃え盛る炎の闘気が立ち昇る。
猗窩座が練り上げられた物だと絶賛していたように、杏寿郎さんを包む強大な闘気が私の目にも見えるようだ。
共鳴するかのように大気が震え立ち、私にもそして猗窩座にもその激しさが全身の毛が逆立つ事で伝わってきた。
「俺は。俺の激務を全うする!!
ここにいる者は誰も死なせない!!」
大きく足を踏み込み、刀を斜めに構える。
この型は。この構えは。
私が未だに覚えられないあの型だ。
「炎の呼吸、奥義……!」
心を燃やして、肉体の限界を超えるんだ。
そうすれば放てる大技だ!諦めるな!がんばれ!
かつて、貴方はそう私に教え、力一杯頭を撫でてくれた……。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎!玖ノ型・煉獄!!」
「ーー破壊殺、滅式!」
最終奥義の『煉獄』で決める気だ。
轟音を立てて地を蹴り踏み込み、相手の肉を抉り、そして確実に頸を斬る技。
怒れる龍となった焔が、猗窩座を覆い尽くす。
そうだ。あれなら、あの奥義なら、きっと……きっと!
「ひどいひどいひどい……許せない…………ッ!絶対に許さないからね、この格闘馬鹿鬼……!
鬼にならないなら殺すなんて馬鹿な事をのたまい!勝手に呼び捨てにするには飽き足らず!この人の体を……綺麗な目をよくも潰してくれたな…………!……殺すッ」
怒りで我を忘れそうであったが、不思議と頭の中は冷静だった。
全集中、炎の呼吸。瞬間的に呼吸を足と手に集中させ、足の動きと手の動きを爆発させてより強く、加速する。
「また貴様か!女はひっこんでいろ!!」
掴まれそうになるそれを掻い潜り、猗窩座の間合いの内側へ。
「くっ……!壱ノ型・不知火ッ!!」
これ以上ないほど低姿勢からの全体重をかけた高速の不知火が、先程よりも深く入る。
目には目を。そう……刃は猗窩座の左眼の参の字を貫き斬り伏せた。
「小癪な真似を。目など治すのは一瞬のことだ。だが褒めてやろう、弱き肉体でこの俺に傷をつけたことを!」
たしかに一瞬で治ってしまった。それでもこんな私でも上弦に傷をつけられた。その自信は大事だし、真打は私ではない。
なんとでも言うがいい。そうやって笑っていられるのは絶対今のうちだ。
「参ノ型・気炎万象!肆ノ型・盛炎のうねり!」
すぐ退いた私の攻撃に続くよう、杏寿郎さんが技を次々に放った。
嬉々として拳を繰り出す猗窩座を確実に滅するべく、とうとう伍ノ型までも打ち放つ。出し惜しみはしていられない。
「伍ノ型・炎虎ッ!!」
大きく振り抜いた刃に、炎でできた猛虎の像が浮かんで見える。
炎の虎が、猗窩座に向かう。
奴もまた、乱式という拳の乱れ打ちで炎虎に対抗しようとした。その表情はどこまでも杏寿郎さんと戦えることを楽しむ戦闘狂の物だった。
炎虎は強い。だが、あの乱れ打ちはまずいと思った。死地に飛び込むが如く、私も遅れて炎虎を放つ。
「炎の呼吸、伍ノ型・炎虎改
複数の技に対抗するための、こちらも素早く何度も斬りつける技だ。
本来の炎虎は虎が大口を開けて噛み付くが如く大きく抉り斬るものだが、今の私にはそこまでの力がない。だからこそ斬撃の軌跡はそのままに、複数回に分けて素早く振り抜いて相手に噛み付くのだ。
それはまるで、子虎が親虎の狩りの真似事をして何度も噛み付くようなもの。
威力は大したものでなくとも、猗窩座にしてみれば楽しき戦いに邪魔が入り鬱陶しいだろう。その怒気が、こちらに逸れてきた。
「俺は女は殺さんッ!邪魔だ退けぇ!!」
「ッ朝緋!!」
杏寿郎さんが叫んだ時には遅く、猗窩座の腕に私の足が捕らえられた。
ーーバキッ!
「ああぁ゛っ!」
凄まじい握力で足の骨を折られた!
そのまま思い切り投げ飛ばされ、私の体は戦闘域から大きく外れた。強制退場だ。
なぜ殺さない?
激痛で意識が飛びそうだったが、投げ飛ばされる中、『女は殺さない』ーー。その意味と理由を考える余裕はあった。
だがそれよりも。宙を舞う中見えてしまった戦いの結果に、驚愕してしまった。
「う、そ…………、ガフッ!?」
ドシャッ!
折れた足のせいというよりも見えた光景を前に受け身はうまく取れずに、地に体を強かに打ち付けてしまった。幸いなことに炭治郎達のすぐ近くに落ちたようで、私の体は彼らによって起こされた。
「し、師範……師範が…………!」
助けは借りず、刀を杖にして自力で立ち上がる。目だけは、杏寿郎さんの方を真っ直ぐ凝視していた。、
「朝緋さん!足が……!無理しちゃ駄目です!」
「出血してないからこんなの軽症よ!」
「血が出てないからって…………足が折れてるんですよ!?」
本当は泣きたいほど痛いし、誰かに縋りたい。けれど、でも。
「足が折れたくらいどうってことない!それより師範が!」
「もしや勝ったのか?ギョロギョロ目ん玉の勝ちか!?」
「いいえ、あれは違う…………!」
静止の声も手も振り払う。
唇をぎゅと噛み締めながら見つめた先にいる杏寿郎さんは肩で大きく息をしていた。
ぶつかり合った炎虎と拳。炎虎が打ち消され、猗窩座の拳撃が杏寿郎さんを襲って終わったのだ。
私への攻撃で多少の拳撃は逸れたようだが、それでも杏寿郎さん渾身の炎虎は猗窩座の頸に届かなかった。
痛みでか、それとも握力が入りづらくされたか、杏寿郎さんの刀を持つ手が小さく震えていた。
血が、ぽたり、ぽたりと滴り落ちていた。
誰かの絶望の吐息が、聞こえた気がした。
杏寿郎さんの呼吸音が聞こえるだけの静かな夜の空気が流れる中、猗窩座の淡々とした声が紡がれる。
今もなお、杏寿郎さんを鬼になるように誘っている。攻撃は無駄だったと言っている。
炎虎により猗窩座に与えられた数々の刀傷もまた、瞬きの間に塞がってしまった。
その反対に杏寿郎さんは。
「潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓。もう取り返しがつかない」
だから鬼はずるいんだ。
こちらは、命をかけて戦っているのに、鬼はそうではない。
人間は傷が簡単に治らない。目や内臓を一度失えば元に戻ることはない。
致命傷を負えばそれまでなのに。
だからこそ鬼になって傷を癒やし、生きてほしい。こんなところで終わってほしくない。その気持ちは少しだけわからないでもないが、その傷は猗窩座により負ったものだ。お前が言うな、である。
目が潰れ内臓がやられた以上、杏寿郎さんの柱としての生命は終わってしまうかもしれない。それがひどく悔しくて悔しくてたまらなかった。
こらえるように俯いた時、気がついた。
猗窩座の話を全て無視する杏寿郎さんの口から聞こえる呼吸音。
これは。この呼吸の仕方は。
呼吸を整え、大きく息を吸い息を吐く。体の隅々まで、煮え滾る熱湯のように熱い力を巡らせる。
この繰り返しを行う呼吸は。
ごうごうと燃える燃える。巨大な篝火の如く。
杏寿郎さんの体から、燃え盛る炎の闘気が立ち昇る。
猗窩座が練り上げられた物だと絶賛していたように、杏寿郎さんを包む強大な闘気が私の目にも見えるようだ。
共鳴するかのように大気が震え立ち、私にもそして猗窩座にもその激しさが全身の毛が逆立つ事で伝わってきた。
「俺は。俺の激務を全うする!!
ここにいる者は誰も死なせない!!」
大きく足を踏み込み、刀を斜めに構える。
この型は。この構えは。
私が未だに覚えられないあの型だ。
「炎の呼吸、奥義……!」
心を燃やして、肉体の限界を超えるんだ。
そうすれば放てる大技だ!諦めるな!がんばれ!
かつて、貴方はそう私に教え、力一杯頭を撫でてくれた……。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎!玖ノ型・煉獄!!」
「ーー破壊殺、滅式!」
最終奥義の『煉獄』で決める気だ。
轟音を立てて地を蹴り踏み込み、相手の肉を抉り、そして確実に頸を斬る技。
怒れる龍となった焔が、猗窩座を覆い尽くす。
そうだ。あれなら、あの奥義なら、きっと……きっと!