二周目 拾
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「俺が思い出したのは、鬼の血が入る瞬間だった」
明槻の話が続く。
煉獄家、そして瑠火さんのご実家どちらからも遠い遠い分家に、双子として生まれた私達。
とある神職に関係する家で細々と、だが年に数回あった炎の舞を奉納するお役目を担って暮らしていた。独自なものに変えた炎の呼吸を使う、特殊な舞だ。
……そして藤の花に囲まれて生きていた。なぜなら稀血の多い一家だったから。現に私とそして明槻が稀血。両親もそうだったかもしれない。
藤が一、二本しか花穂を揺らさなかったある年に、鬼舞辻無惨が襲ってきたそうだ。
炎の呼吸を使うというところで目をつけられた可能性が高く、また、あまりの稀血率の高さに特別な鬼ができるかもーーと、両親、そして明槻に血を与えて鬼化の道を辿らせた。残念ながら両親は鬼化せず死亡。明槻は、晴れて鬼になった。
稀血の身内の血肉を食べて強くなるがいいなどとのたまい、鬼舞辻は消えたそうだ。
そんな中私が生き残ったのは、兄である明槻が唯一咲いた藤の花に逃げるよう指示してくれたおかげだ。
逃げていなければ今頃は良くて死ぬか悪くて鬼と化していた。……多分、鬼になる方が悪いことよね?だって、杏寿郎さんに頸刎ねられちゃうもの。
私の世界は今日も杏寿郎さんで回っている。
「そして俺は何年かかかって血鬼術を得た。記憶を有したまま過去に戻れるという素晴らしいものだ。
本当なら鬼殺隊や日光から逃げるための緊急回避用血鬼術なんだろうけど、小さい頃に戻るんじゃもっと有効活用しないとな」
回避用……なんだかわかる気がする。明槻って逃げ足がおかしいくらい早いからなあ。
その有効活用とやらについても教えてもらった。
明槻はその物語全てを愛している。けれども推しは鬼側より鬼殺隊側。中でも柱……とりわけ煉獄家が大のお気に入りとのことだ。
悲しいことに物語の途中では推しがそれはもうたくさん亡くなるそうで、その中で特につらいのが、何を隠そう煉獄杏寿郎の死。
杏寿郎さんの死があらかじめ決められていたことと知り、私のショックは計り知れぬものだったのは言うまでもない。
けれどそこに現れたのが、私達。そして煉獄家に引き取られて炎柱継子にまでなってしまった私というとんでもない異物。
推しを。煉獄杏寿郎を救う為には、私の協力が必要不可欠。推しを生かして未来を変える。そのために幼少期からやり直せ。
そういうことらしい。
『前』に言われた間違えるな、の意味もここにある。歴史を変えろ。過去を変えろ。上手く動けーー。
本当なら自分でやりたかったろうに、鬼である自分にそれはできず。推し達を救い、その果てに鬼舞辻無惨を亡き者にするために私に強くなれ、か。
まあ、私も杏寿郎さんが生きる未来が得られるなら、協力は惜しまない。絶対に諦めない。
……ところでその口ぶり、救うのは杏寿郎さんだけじゃないんだよね?鬼の首領も倒せってことだよね?
これから苦労しそうな気がする。
「でもようやくわかった。だから禰󠄀豆子ちゃんのことも知っていたわけか」
「そそ!なんてったって、主人公の妹だからな。めちゃくちゃかわいいし一度見たら忘れんよ」
「え?なんて?」
「だからかわいいし一度見「の、前!」……主人公の妹?」
つまり、その話の主人公は炭治郎。
彼の家族は鬼に殺され、妹は鬼に。それがきっかけで鬼殺隊に入ったはずで、そして鬼殺を繰り返す中で強く成長していくことだろう。
ということは、きっと物語上において杏寿郎さんの死はとても重要な意味を持つのではなかろうか。
ふとよぎる不安。
けれども私の決意はかたく、杏寿郎さんを救うためなら何でもすると申し出た。
「いやしかし、今思えば鬼って日光に当たれないあたり映画のグ●ムリンみたいだよな」
どこから水と茶葉、それに湯呑みまで用意したのだろう。いつの間にかお茶を入れて明槻が茶をしばいている。くつろぎすぎじゃない?でも聞くところによると、紅茶を飲むことができる鬼も世の中にはいるらしい。オシャンティだね……。
なら明槻がお茶飲んでても別におかしくないか。ただしもらってみたら千寿郎のものと比べると月と塵芥レベルに不味い。
「すんごくマイナーなところいったね……日の光が苦手っていうとまず吸血鬼が出てくるのが普通じゃないの」
「吸血鬼なら藤じゃなくて大蒜……ニンニクの臭いが嫌いでも良いんだけどな。俺平気」
ニンニクが苦手なのは鬼じゃなくて炭治郎だと思う。彼は稀血の匂いや感情すら嗅ぎ分ける。
相変わらずくつろぎまくっている明槻のゆる〜い話ぶりに毒気も抜かれ、ついでに鬼への憎しみも一旦保留にして私も足を崩す。
幼馴染であり双子の兄妹である相手に、気を張っていてもしかたない。たまには家族として過ごしても罰は当たらなかろう。
人を襲わない鬼だし。
「こっちに来てからお前と双子として会えた事もびっくりだけど、同じ稀血だとか鬼になってから知ってめちゃくちゃ驚いたわ」
「そうね。でもよく我慢できたね。目の前に母と父の亡骸あって、食べなかったんでしょ。鬼なのに偉いよ」
「ああ、襲いかけたけど前世?令和の時代のことを思い出したからか、びびって逃げた。タマヒュンしてしばらく食欲なんざ吹っ飛んだわ……」
ゲッソリしながら言っている。食べなくて済んでよかったけど。
「言葉が汚い!意味がわかる自分も嫌だけど。……今は?」
「そりゃあ腹は空くけど、別にお前を食べようとか思ってないな。あ、でも血は見せないでくれよ。稀血無理こわい」
そばにあった襤褸布団を手繰り寄せてコタツムリのようになって小さくなっている。
そうかそうか、そこまで人の血を口にするのが怖いか。いいことだけどこの鬼弱そう。
「そういえばなんで成長してるのかも気になるわね……。鬼って普通、鬼になった時の大きさに近い見た目してるよね」
「ばっかお前、そんなの禰󠄀豆子ちゃんシステムで小さくなったり大きくなったり出来るだけだよ。だから俺、本当はこの姿じゃないの。お前に合わせてるだけで、本当は……」
お?おお?
布団がしゅるしゅると萎んでいく。こんもり布の塊から出てきたのは、五歳ほどの子供だった。
「これくらいのこどものすがたなんだよ」
「お兄ちゃんが鬼いちゃんで弟?うわかわいい私の小さい頃みたいにそっくり」
片腕がなくて抱っこできないのが悔やまれる……。私は小さい子や下の子を抱っこしたりいい子いい子したりするのが大好きだ。
「こっちじゃ双子だからな…しかもお前ベースの。令和の俺と今の俺って、声と能力以外共通点ないわ。
ってこら、わしゃわしゃするな!」
頭を撫で回していると、威嚇する猫みたいに途中で逃げられた。……残念だ。
逃げる時、明槻のうなじに紅葉に似た模様があったような気がする。下弦の壱にも頬に謎マークあったし、鬼にはよく変な模様があるからあの類いかな。
体の大きさを私同様のものに直し、再び膝を突き合わす。
「さて」
「うん。もう一度幼少期に戻ったら私は何をすればいい。どうすれば杏寿郎さんを助けられる?
明槻、今度は途中で来てくれるの?」
これこそが本題だ。
「俺も一度幼少期に逆戻りするから行くのは無理だわ。一定期間の飢餓状態に入るから、その間に耐えに耐え抜いて俺は人を食わずに済む体、そして血鬼術を得る。
朝緋は戻ったら、……まあ、今は頑張れ?としか言えないわな。俺も助ける方法まで思いつかない。とにかく、煉獄杏寿郎を死なせるな」
ん〜〜〜大雑把すぎる〜〜〜!
でも頑張ろう。なんてったって、杏寿郎さんは私の、
「お前の好い人、なんだろ?」
ブハッ!
さすが双子というべきか。いや、タイミングが合ってしまっただけだ。でもその人を揶揄うような顔は腹立たしい!!
「そのにやにやした顔刻むよ」
「そりゃまた今度。グッドラック!!」
明槻が血鬼術を発動した。
明槻の話が続く。
煉獄家、そして瑠火さんのご実家どちらからも遠い遠い分家に、双子として生まれた私達。
とある神職に関係する家で細々と、だが年に数回あった炎の舞を奉納するお役目を担って暮らしていた。独自なものに変えた炎の呼吸を使う、特殊な舞だ。
……そして藤の花に囲まれて生きていた。なぜなら稀血の多い一家だったから。現に私とそして明槻が稀血。両親もそうだったかもしれない。
藤が一、二本しか花穂を揺らさなかったある年に、鬼舞辻無惨が襲ってきたそうだ。
炎の呼吸を使うというところで目をつけられた可能性が高く、また、あまりの稀血率の高さに特別な鬼ができるかもーーと、両親、そして明槻に血を与えて鬼化の道を辿らせた。残念ながら両親は鬼化せず死亡。明槻は、晴れて鬼になった。
稀血の身内の血肉を食べて強くなるがいいなどとのたまい、鬼舞辻は消えたそうだ。
そんな中私が生き残ったのは、兄である明槻が唯一咲いた藤の花に逃げるよう指示してくれたおかげだ。
逃げていなければ今頃は良くて死ぬか悪くて鬼と化していた。……多分、鬼になる方が悪いことよね?だって、杏寿郎さんに頸刎ねられちゃうもの。
私の世界は今日も杏寿郎さんで回っている。
「そして俺は何年かかかって血鬼術を得た。記憶を有したまま過去に戻れるという素晴らしいものだ。
本当なら鬼殺隊や日光から逃げるための緊急回避用血鬼術なんだろうけど、小さい頃に戻るんじゃもっと有効活用しないとな」
回避用……なんだかわかる気がする。明槻って逃げ足がおかしいくらい早いからなあ。
その有効活用とやらについても教えてもらった。
明槻はその物語全てを愛している。けれども推しは鬼側より鬼殺隊側。中でも柱……とりわけ煉獄家が大のお気に入りとのことだ。
悲しいことに物語の途中では推しがそれはもうたくさん亡くなるそうで、その中で特につらいのが、何を隠そう煉獄杏寿郎の死。
杏寿郎さんの死があらかじめ決められていたことと知り、私のショックは計り知れぬものだったのは言うまでもない。
けれどそこに現れたのが、私達。そして煉獄家に引き取られて炎柱継子にまでなってしまった私というとんでもない異物。
推しを。煉獄杏寿郎を救う為には、私の協力が必要不可欠。推しを生かして未来を変える。そのために幼少期からやり直せ。
そういうことらしい。
『前』に言われた間違えるな、の意味もここにある。歴史を変えろ。過去を変えろ。上手く動けーー。
本当なら自分でやりたかったろうに、鬼である自分にそれはできず。推し達を救い、その果てに鬼舞辻無惨を亡き者にするために私に強くなれ、か。
まあ、私も杏寿郎さんが生きる未来が得られるなら、協力は惜しまない。絶対に諦めない。
……ところでその口ぶり、救うのは杏寿郎さんだけじゃないんだよね?鬼の首領も倒せってことだよね?
これから苦労しそうな気がする。
「でもようやくわかった。だから禰󠄀豆子ちゃんのことも知っていたわけか」
「そそ!なんてったって、主人公の妹だからな。めちゃくちゃかわいいし一度見たら忘れんよ」
「え?なんて?」
「だからかわいいし一度見「の、前!」……主人公の妹?」
つまり、その話の主人公は炭治郎。
彼の家族は鬼に殺され、妹は鬼に。それがきっかけで鬼殺隊に入ったはずで、そして鬼殺を繰り返す中で強く成長していくことだろう。
ということは、きっと物語上において杏寿郎さんの死はとても重要な意味を持つのではなかろうか。
ふとよぎる不安。
けれども私の決意はかたく、杏寿郎さんを救うためなら何でもすると申し出た。
「いやしかし、今思えば鬼って日光に当たれないあたり映画のグ●ムリンみたいだよな」
どこから水と茶葉、それに湯呑みまで用意したのだろう。いつの間にかお茶を入れて明槻が茶をしばいている。くつろぎすぎじゃない?でも聞くところによると、紅茶を飲むことができる鬼も世の中にはいるらしい。オシャンティだね……。
なら明槻がお茶飲んでても別におかしくないか。ただしもらってみたら千寿郎のものと比べると月と塵芥レベルに不味い。
「すんごくマイナーなところいったね……日の光が苦手っていうとまず吸血鬼が出てくるのが普通じゃないの」
「吸血鬼なら藤じゃなくて大蒜……ニンニクの臭いが嫌いでも良いんだけどな。俺平気」
ニンニクが苦手なのは鬼じゃなくて炭治郎だと思う。彼は稀血の匂いや感情すら嗅ぎ分ける。
相変わらずくつろぎまくっている明槻のゆる〜い話ぶりに毒気も抜かれ、ついでに鬼への憎しみも一旦保留にして私も足を崩す。
幼馴染であり双子の兄妹である相手に、気を張っていてもしかたない。たまには家族として過ごしても罰は当たらなかろう。
人を襲わない鬼だし。
「こっちに来てからお前と双子として会えた事もびっくりだけど、同じ稀血だとか鬼になってから知ってめちゃくちゃ驚いたわ」
「そうね。でもよく我慢できたね。目の前に母と父の亡骸あって、食べなかったんでしょ。鬼なのに偉いよ」
「ああ、襲いかけたけど前世?令和の時代のことを思い出したからか、びびって逃げた。タマヒュンしてしばらく食欲なんざ吹っ飛んだわ……」
ゲッソリしながら言っている。食べなくて済んでよかったけど。
「言葉が汚い!意味がわかる自分も嫌だけど。……今は?」
「そりゃあ腹は空くけど、別にお前を食べようとか思ってないな。あ、でも血は見せないでくれよ。稀血無理こわい」
そばにあった襤褸布団を手繰り寄せてコタツムリのようになって小さくなっている。
そうかそうか、そこまで人の血を口にするのが怖いか。いいことだけどこの鬼弱そう。
「そういえばなんで成長してるのかも気になるわね……。鬼って普通、鬼になった時の大きさに近い見た目してるよね」
「ばっかお前、そんなの禰󠄀豆子ちゃんシステムで小さくなったり大きくなったり出来るだけだよ。だから俺、本当はこの姿じゃないの。お前に合わせてるだけで、本当は……」
お?おお?
布団がしゅるしゅると萎んでいく。こんもり布の塊から出てきたのは、五歳ほどの子供だった。
「これくらいのこどものすがたなんだよ」
「お兄ちゃんが鬼いちゃんで弟?うわかわいい私の小さい頃みたいにそっくり」
片腕がなくて抱っこできないのが悔やまれる……。私は小さい子や下の子を抱っこしたりいい子いい子したりするのが大好きだ。
「こっちじゃ双子だからな…しかもお前ベースの。令和の俺と今の俺って、声と能力以外共通点ないわ。
ってこら、わしゃわしゃするな!」
頭を撫で回していると、威嚇する猫みたいに途中で逃げられた。……残念だ。
逃げる時、明槻のうなじに紅葉に似た模様があったような気がする。下弦の壱にも頬に謎マークあったし、鬼にはよく変な模様があるからあの類いかな。
体の大きさを私同様のものに直し、再び膝を突き合わす。
「さて」
「うん。もう一度幼少期に戻ったら私は何をすればいい。どうすれば杏寿郎さんを助けられる?
明槻、今度は途中で来てくれるの?」
これこそが本題だ。
「俺も一度幼少期に逆戻りするから行くのは無理だわ。一定期間の飢餓状態に入るから、その間に耐えに耐え抜いて俺は人を食わずに済む体、そして血鬼術を得る。
朝緋は戻ったら、……まあ、今は頑張れ?としか言えないわな。俺も助ける方法まで思いつかない。とにかく、煉獄杏寿郎を死なせるな」
ん〜〜〜大雑把すぎる〜〜〜!
でも頑張ろう。なんてったって、杏寿郎さんは私の、
「お前の好い人、なんだろ?」
ブハッ!
さすが双子というべきか。いや、タイミングが合ってしまっただけだ。でもその人を揶揄うような顔は腹立たしい!!
「そのにやにやした顔刻むよ」
「そりゃまた今度。グッドラック!!」
明槻が血鬼術を発動した。