二周目 拾
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今回の任務地は無限列車の脱線跡地が近かった。
まだあれから二ヶ月も経っていない今、私の気持ちはまだまだ落ち着いてはいない。……いない、が、近いならば私のやることは一つだ。
ずっときていなかったこの地に、花を手向ける。私がもっと前に進むために。
鬼を倒し終えた朝近い夜の中。脱線の痕跡は拭われ線路も元通り。
薄く生えはじまった雑草の揺れる、戦闘で抉れた大地に花を置く。
『前』では、私は柱になり、この地で炎柱の羽織を身に付けたっけ。
……そういえば、その時に明槻に会ったなあ。
奇跡としか思えないような不思議な血鬼術を使って、杏寿郎さんともう一度やり直せるというひとときの夢を私に見せてくれた。どうせなら、ハッピーエンドで終わって欲しかったな。
ああだめだ。また涙ぐみそうになる。
私がすべきはあの鬼を殺すことなのだから泣いていちゃだめだ。そんな暇あれば刃を振れ!!
そう、自分の気持ちに燃えていると。
「仇討ちに燃えるのはいいけどさ、煉獄杏寿郎が生きてる未来のほうが嬉しくないかぁ?」
近くの木の上から声が降ってきた。
微弱ながらも鬼独特の気配に、日輪刀の鯉口を切り盛炎のうねりで斬り飛ばす。
太い木がすっぱりと一刀両断。一匹の鬼が悲鳴と共に落ちてきた。
「あばばばば!首をはねるのは待った!俺は誰も食べてない!!」
「……知ってる」
命乞いをしてきた鈍臭い鬼は私の肉親で、鬼となった兄の明槻だった。
つい反射で刀を抜いてしまったけれど、その声を認識すれば斬る気は失せる。それはあまりの弱っちさに、刀を振るのも勿体無いと思うほどで。
「じゃあ何その顔やめて!鬼より鬼みたいで怖いんだけど!?ちょっと鏡見てこいよ!!」
「鬼の形相ですみませんね」
うるさい。ギャーギャー加減が誰かに似ている気がするけど、誰だろうなあ。
あと普段の任務時に鏡なんて持ち歩いていない。杏寿郎さんとの任務では私も一端の乙女らしく、見目を気にして懐に入れていたが。
いや、それより……。
「いきなり時を戻すとか、ちゃんと説明してからにしてくれないと困るんだけれど。色々と話してもらうわよ」
それに、時が戻ってからも一度たりとも理由を言いに私のところ来なかった……が、これは仕方ないか。だって、私ところなんて来たら頸ちょんぱされるからなあ。いつ来ても槇寿朗さんか杏寿郎さんという最強の盾がいただろうし。
とりあえず斬る気はなくとも刃は向ける。
「このポーズだと尋問に近くない?もうすぐ朝が来るから俺死ぬよね?」
「貴方が勝手にハンズアップしてるんでしょ。……しょうがないなぁ、行くよ」
怖がる鬼、明槻のために刀を仕舞い、その腕を持ち上げて立たす……あ、左じゃだめだわ。右手で立ち上がらせた。
「お前、その左腕どうしたよ……」
「…………鬼殺の際にね。気にしないで」
揺れる羽織から風にたなびくような袖が見えたのだろう、顔を顰められた。
森の中に見つけた誰も住んでいないであろうボロボロの小屋を一晩の間拝借する。私は話が終わったら帰るけど、明槻は鬼だから昼間に出るわけにいかないもんね。
季節は冬本番。ボロボロの割に使えそうな囲炉裏に火を入れると、鬼でも寒いのか縮こまりながら火のそばにきた。いくら鬼でも襤褸を着てないでもっと重ね着しろ。
「『あの時』の朝緋、ぜんっぜん話をきいてくれなさそうだったからつい説明もなしに血鬼術使っちゃったんだよなぁ」
「それは……ごめんなさい。
ええと、なんだっけ?時空なんとかだったよね」
あの時は気持ちも鬼への憎しみもいっぱいいっぱいだったから……って、憎しみは今もか。
「『時空逃走』別に名前はなかったんだけど、なんとなくつけといたんだ。実は初めて使った。自分の血鬼術だからかな、どう使えばいいのかも、どう作用するのかもわかっててな」
「こちとら幼少期に戻ってびっくりだわ」
「仕方ないだろ。今のところは俺が鬼になった時に戻っちゃうんだから!」
今のところ、というのが引っかかるがそれよりもその続きだった。
何かしらの記憶が戻ったのかと聞かれ頷く。戻った幼少期の事はもちろん、かつて二人が令和の時代を生きた話の事とわかったから。
そうしてどういうことなのかわからないけれど、過去に生まれてしまった。未来ではなく、過去の時代に。
そう呟けば、ただの過去じゃないと言われる。
「だって、歴史を勉強した中に鬼なんて存在はいたか?」
「いたけれどあれは架空の存在で、昔の疫病や災害という形の見えぬ魔物を表すものだった。実際にはいなくって、人喰い鬼の記述なんてひとつもなかったよね」
「そう。だけどここは世界も違う。鬼のいる世界。そして令和では漫画にもなっていた世界だ。俺の愛読書の一つでもあった世界」
「え、じゃあ、ここって物語なの?こんなに悲しい思いや、つらい思い、痛い思いしてるのに。杏寿郎さんとの思い出もすべて、ただの泡沫の夢……?
現実じゃない、の……?」
あの辛く悲しい記憶。杏寿郎さんの死。すべてがまるで下弦の壱の血鬼術のごとく、夢の一部……。
とんでもないことを耳にし、頭がぐらぐらガンガンする。揺れ動く私を現に戻そうと、頭に拳骨が落とされた。
「ちゃんと聞けよ!落ち着け、現実だ。全て本物。痛みは?」
「ある。落ち着いた」
鬼の全力拳骨は痛い。
「漫画と舞台はほぼ同じだが、その中で違うものが紛れている。俺達は異物 だ。異物がいる以上、そこは結末や辿る道が違ってもいいと俺は思っている。
日本一かなしくってやさしい鬼退治を、大切な人間が誰も死なないものにしたいだけなんだよ、俺は」
かなしくてやさしい鬼退治……一度私に勧めてきたあの本だ。
かつて令和の時代でオタクだった明槻は、幼馴染である私に自身の愛読書の数々を勧めてきた。
馬鹿みたいに足の速い明槻に勝てるわけもなく、逃げ足もやたら速いこの男に押し付けられるようにして本を読まされていたっけ。
まあ、私もそこそこ足は早かったけれど私は教室や家で勉強や読書が好きなタイプだったし、ぱらぱらと読んでは返し結局内容を延々と聞かされるというのを繰り返していた。
その中の一つに、その物語はあった。……気がする。
あ、ごめんタイトルしか覚えてないや。
逆に私が覚えているのはかつての学校生活。
勉強はあまりできなくとも運動神経が良く足が早く、そして人懐っこくて明るくてルックスもなかなかの明槻はそれはもうモテた。オタクだというのもこの時代には人気が増す理由の一つだったというのか、話しかけやすくとっつきやすくて女の子に好かれていた。
本人は、友達や私とつるむ方が好きだったようだけど。
そして性格が暗いわけじゃないけれども、明槻と反対に少しきつそうな目で、典型的な物静かな優等生もどきの私。
何がきっかけだったかいじめの対象になり、共に車に轢かれ、気が付いたら明槻と一緒に大正時代にててーん!と生まれ落ちていた。それも双子として。
まさか私達が生まれたここが、その世界の大正時代とは。頭が混乱する。血鬼術で幼少期に戻された時よりはましだけど、頭が痛くて熱でも出そうだ。
まだあれから二ヶ月も経っていない今、私の気持ちはまだまだ落ち着いてはいない。……いない、が、近いならば私のやることは一つだ。
ずっときていなかったこの地に、花を手向ける。私がもっと前に進むために。
鬼を倒し終えた朝近い夜の中。脱線の痕跡は拭われ線路も元通り。
薄く生えはじまった雑草の揺れる、戦闘で抉れた大地に花を置く。
『前』では、私は柱になり、この地で炎柱の羽織を身に付けたっけ。
……そういえば、その時に明槻に会ったなあ。
奇跡としか思えないような不思議な血鬼術を使って、杏寿郎さんともう一度やり直せるというひとときの夢を私に見せてくれた。どうせなら、ハッピーエンドで終わって欲しかったな。
ああだめだ。また涙ぐみそうになる。
私がすべきはあの鬼を殺すことなのだから泣いていちゃだめだ。そんな暇あれば刃を振れ!!
そう、自分の気持ちに燃えていると。
「仇討ちに燃えるのはいいけどさ、煉獄杏寿郎が生きてる未来のほうが嬉しくないかぁ?」
近くの木の上から声が降ってきた。
微弱ながらも鬼独特の気配に、日輪刀の鯉口を切り盛炎のうねりで斬り飛ばす。
太い木がすっぱりと一刀両断。一匹の鬼が悲鳴と共に落ちてきた。
「あばばばば!首をはねるのは待った!俺は誰も食べてない!!」
「……知ってる」
命乞いをしてきた鈍臭い鬼は私の肉親で、鬼となった兄の明槻だった。
つい反射で刀を抜いてしまったけれど、その声を認識すれば斬る気は失せる。それはあまりの弱っちさに、刀を振るのも勿体無いと思うほどで。
「じゃあ何その顔やめて!鬼より鬼みたいで怖いんだけど!?ちょっと鏡見てこいよ!!」
「鬼の形相ですみませんね」
うるさい。ギャーギャー加減が誰かに似ている気がするけど、誰だろうなあ。
あと普段の任務時に鏡なんて持ち歩いていない。杏寿郎さんとの任務では私も一端の乙女らしく、見目を気にして懐に入れていたが。
いや、それより……。
「いきなり時を戻すとか、ちゃんと説明してからにしてくれないと困るんだけれど。色々と話してもらうわよ」
それに、時が戻ってからも一度たりとも理由を言いに私のところ来なかった……が、これは仕方ないか。だって、私ところなんて来たら頸ちょんぱされるからなあ。いつ来ても槇寿朗さんか杏寿郎さんという最強の盾がいただろうし。
とりあえず斬る気はなくとも刃は向ける。
「このポーズだと尋問に近くない?もうすぐ朝が来るから俺死ぬよね?」
「貴方が勝手にハンズアップしてるんでしょ。……しょうがないなぁ、行くよ」
怖がる鬼、明槻のために刀を仕舞い、その腕を持ち上げて立たす……あ、左じゃだめだわ。右手で立ち上がらせた。
「お前、その左腕どうしたよ……」
「…………鬼殺の際にね。気にしないで」
揺れる羽織から風にたなびくような袖が見えたのだろう、顔を顰められた。
森の中に見つけた誰も住んでいないであろうボロボロの小屋を一晩の間拝借する。私は話が終わったら帰るけど、明槻は鬼だから昼間に出るわけにいかないもんね。
季節は冬本番。ボロボロの割に使えそうな囲炉裏に火を入れると、鬼でも寒いのか縮こまりながら火のそばにきた。いくら鬼でも襤褸を着てないでもっと重ね着しろ。
「『あの時』の朝緋、ぜんっぜん話をきいてくれなさそうだったからつい説明もなしに血鬼術使っちゃったんだよなぁ」
「それは……ごめんなさい。
ええと、なんだっけ?時空なんとかだったよね」
あの時は気持ちも鬼への憎しみもいっぱいいっぱいだったから……って、憎しみは今もか。
「『時空逃走』別に名前はなかったんだけど、なんとなくつけといたんだ。実は初めて使った。自分の血鬼術だからかな、どう使えばいいのかも、どう作用するのかもわかっててな」
「こちとら幼少期に戻ってびっくりだわ」
「仕方ないだろ。今のところは俺が鬼になった時に戻っちゃうんだから!」
今のところ、というのが引っかかるがそれよりもその続きだった。
何かしらの記憶が戻ったのかと聞かれ頷く。戻った幼少期の事はもちろん、かつて二人が令和の時代を生きた話の事とわかったから。
そうしてどういうことなのかわからないけれど、過去に生まれてしまった。未来ではなく、過去の時代に。
そう呟けば、ただの過去じゃないと言われる。
「だって、歴史を勉強した中に鬼なんて存在はいたか?」
「いたけれどあれは架空の存在で、昔の疫病や災害という形の見えぬ魔物を表すものだった。実際にはいなくって、人喰い鬼の記述なんてひとつもなかったよね」
「そう。だけどここは世界も違う。鬼のいる世界。そして令和では漫画にもなっていた世界だ。俺の愛読書の一つでもあった世界」
「え、じゃあ、ここって物語なの?こんなに悲しい思いや、つらい思い、痛い思いしてるのに。杏寿郎さんとの思い出もすべて、ただの泡沫の夢……?
現実じゃない、の……?」
あの辛く悲しい記憶。杏寿郎さんの死。すべてがまるで下弦の壱の血鬼術のごとく、夢の一部……。
とんでもないことを耳にし、頭がぐらぐらガンガンする。揺れ動く私を現に戻そうと、頭に拳骨が落とされた。
「ちゃんと聞けよ!落ち着け、現実だ。全て本物。痛みは?」
「ある。落ち着いた」
鬼の全力拳骨は痛い。
「漫画と舞台はほぼ同じだが、その中で違うものが紛れている。俺達は
日本一かなしくってやさしい鬼退治を、大切な人間が誰も死なないものにしたいだけなんだよ、俺は」
かなしくてやさしい鬼退治……一度私に勧めてきたあの本だ。
かつて令和の時代でオタクだった明槻は、幼馴染である私に自身の愛読書の数々を勧めてきた。
馬鹿みたいに足の速い明槻に勝てるわけもなく、逃げ足もやたら速いこの男に押し付けられるようにして本を読まされていたっけ。
まあ、私もそこそこ足は早かったけれど私は教室や家で勉強や読書が好きなタイプだったし、ぱらぱらと読んでは返し結局内容を延々と聞かされるというのを繰り返していた。
その中の一つに、その物語はあった。……気がする。
あ、ごめんタイトルしか覚えてないや。
逆に私が覚えているのはかつての学校生活。
勉強はあまりできなくとも運動神経が良く足が早く、そして人懐っこくて明るくてルックスもなかなかの明槻はそれはもうモテた。オタクだというのもこの時代には人気が増す理由の一つだったというのか、話しかけやすくとっつきやすくて女の子に好かれていた。
本人は、友達や私とつるむ方が好きだったようだけど。
そして性格が暗いわけじゃないけれども、明槻と反対に少しきつそうな目で、典型的な物静かな優等生もどきの私。
何がきっかけだったかいじめの対象になり、共に車に轢かれ、気が付いたら明槻と一緒に大正時代にててーん!と生まれ落ちていた。それも双子として。
まさか私達が生まれたここが、その世界の大正時代とは。頭が混乱する。血鬼術で幼少期に戻された時よりはましだけど、頭が痛くて熱でも出そうだ。