二周目 拾
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報告書を手に、私は臨時の柱合会議に参加した。
柱ではないし本当は参加したくないけれど、あの任務での隊長は今や私。上弦の情報を共有するためにもしかたないことだった。
私の書いた報告書をまわし情報が柱達に伝えられる中、私はお館様や柱の放つ言葉を信じられない顔で聞いていた。
お館様には絶対の忠誠は誓っているし他の柱のことも尊敬しているが、ほんの一つ二つの言い回しや言葉が癪に触ることは人間なら誰にでもあることだろう。
私の場合は、それが杏寿郎さんに関わることだった。
どうしても許せなかった。
私はここでは初めてお館様や柱に楯突いた。
「彼らしい最期だったって、なに?彼の死によって他の隊士が強くなりそうで何より?どうせなら上弦の参を倒していけ?
ふざけんじゃないわよ」
それはまるで杏寿郎さんの死が良かったことのようで、死をたたえているようで、そして命を賭して戦いぬいた杏寿郎さんを罵倒しているようで。私の中の猛虎の尾を何度も踏みぬく言葉達を前に、立ち上がって冷ややかな、だけど怒りに満ちた目をお館様や柱に向ける。
だがそれに黙っていなかったのが、盲目的といえるほどにお館様に絶大な信頼を置いている風柱の不死川さんだ。
「おいお前ェエ、お館様になんて口の聞き方してやがる!!
まず座れェ!座れないなら俺が座らせてやろうかァア!?」
やろうかと言っているくせに、言い終わらぬうちから殴りかかってきた。けれどどこか凍てついた怒りの前ではそれは止まって見えて。
拳を受け流して逆に投げ飛ばせば、不死川さんは目を白黒させながら、地に伏した。
もちろん、不死川さんが鬼を相手にする時のように本気だったら、投げ飛ばすなんて出来なかっただろうけれど。
他の柱のざわつく気配がする。
「右腕だけで不死川を投げ飛ばすたぁ、やるなアイツ」
「さすが朝緋ちゃん、素敵だわ〜」
その中で唯一声を出したのは、宇髄さんと蜜璃ちゃんか。どこかずれているなあ。
「駄目だよ実弥」
「……申し訳ありません」
不死川さんは怒り心頭で立ち上がって再び殴りかかるところだったらしい。だがお館様の鶴の一声で止まった。
「朝緋。気に障ることを言ってしまったようでごめんね。でも僕らには君の心の内がどのように荒れているのかわからない。君の気持ちを聞かせてくれるかい?」
これは私も矛をしまい従うべきだろう。ゆっくりとまた座り直す。
「私の心の核となるのは今も昔もこの先も元炎柱、煉獄杏寿郎です。彼を貶める言葉は誰であろうと許さない。
ですが別に鬼殺隊をやめるだとか裏切る気は私に一つもありませんし、隊士同士の私闘は御法度。売られた喧嘩は買いはしても私から喧嘩をしかけることはあり得ません。
私が憎み、喧嘩を売り、頸を斬るのは鬼のみです」
つまるところ私はただ、悪しき鬼。鬼舞辻無惨や猗窩座への憎しみで怒りを募らせているのみなのだ。
悲しみで泣く時間はとうに過ぎた。悲しむ暇などない。そんな時間があるならば、判断素早く最善の策を講じすべき事に身を投じろ。
私は炎の呼吸と杏寿郎さんの思いを継いだ者。杏寿郎さんの教え通りにしなくては。
「上弦の参は私が斬ります。あの鬼の頸は私のもの。他の柱や隊士には譲らない」
「左腕がないのに斬れるのかな?」
「まだ右腕があります。腕がなかったら足がある。それもなければ頭がある。喰らいついたら頸をとるまで絶対に離さない」
槇寿朗さんや私は般若と称したが、羅刹と言ってもいいかもしれない。本当、心のうちだけでいえば私こそが鬼だった。
「そう……君は杏寿郎といい仲だったからね。
その気持ちは私にすら変えられない。怒りの想いは力に変わる。体を動かす原動力に。朝緋の好きなようにやりなさい。
でも、復讐にばかり気を取られてはいけないよ。稀血の君を鬼に喰われるわけにはいかないのだから」
「はい。存じております」
私の覚悟を察してか、会議後にまた不死川さんに絡まれることもなかった。
その後、炎柱邸をお館様へと返上した。歴代の炎柱の休憩どころでもあったとのことで返す必要はないと言われたが、あそこには杏寿郎さんとの思い出がありすぎる。
もともと私の私物もほとんどないしそのまま処分して欲しいと申し出た。
そうして腕の喪失にも慣れた私がしたこと。それは鬼殺の任務に他ならない。最初の内は癸の隊士もびっくりな、両腕がある頃の一割にも満たない弱さに戻っていたが、西に東にとボロボロになりながら奔走し続けていれば、実力も全盛期の頃の七割ほどには戻っていた。
力がなければ速さと技術を磨け。結局のところやることはいつも変わらない。
顔つきも少し変わったかもしれない。あまり笑わなくなった。
いや?笑ってるけれど、任務となると以前の比ではないほど鬼への憎しみ、怒りで鬼の形相をしているらしく他の隊士がよりつかない。任務の後もしばらくは怖いようで、いつしか私の任務は単独のものが増えた。同期の獪岳ですら近寄らない。
そんなにも恐ろしい今の私は根無草。生家にも帰らず、私の寝床はもっぱらその時々の藤の家か野宿だった。
今の私の鬼殺の仕方も変わった。
死んで消える前の鬼の亡骸にも、刃を振るうようになった。肉塊になるまで刺して刺して刺し続ける。時には朝になるまで続けるので、隊服はいつも私の血ではなく鬼の血に濡れてどろどろだった。
遺体をいたぶる様は、さぞや恐ろしかったろう。隠のみなさんが合流してくれる時間もどんどん遅くなっていった。
まあ、都合はいいけれど。
鬼舞辻無惨は他の鬼の目を通して物事が見えるらしい。だからこそ、自分の名という呪いを発動する裏切り者の鬼が出ないかを見張れるわけで。
殺した鬼の目に向かって、私はいつも呼びかける。その先の鬼の首領の魂までにも届くかのように。
「鬼舞辻無惨。見えている?見えるんだよね?上弦の参の猗窩座に伝えろ。
お前の頸は私がもらう。頸を洗って待っていろ、と」
今の私の強さでは届かない。
けれどこの思いは、刃はいつか届く。
柱ではないし本当は参加したくないけれど、あの任務での隊長は今や私。上弦の情報を共有するためにもしかたないことだった。
私の書いた報告書をまわし情報が柱達に伝えられる中、私はお館様や柱の放つ言葉を信じられない顔で聞いていた。
お館様には絶対の忠誠は誓っているし他の柱のことも尊敬しているが、ほんの一つ二つの言い回しや言葉が癪に触ることは人間なら誰にでもあることだろう。
私の場合は、それが杏寿郎さんに関わることだった。
どうしても許せなかった。
私はここでは初めてお館様や柱に楯突いた。
「彼らしい最期だったって、なに?彼の死によって他の隊士が強くなりそうで何より?どうせなら上弦の参を倒していけ?
ふざけんじゃないわよ」
それはまるで杏寿郎さんの死が良かったことのようで、死をたたえているようで、そして命を賭して戦いぬいた杏寿郎さんを罵倒しているようで。私の中の猛虎の尾を何度も踏みぬく言葉達を前に、立ち上がって冷ややかな、だけど怒りに満ちた目をお館様や柱に向ける。
だがそれに黙っていなかったのが、盲目的といえるほどにお館様に絶大な信頼を置いている風柱の不死川さんだ。
「おいお前ェエ、お館様になんて口の聞き方してやがる!!
まず座れェ!座れないなら俺が座らせてやろうかァア!?」
やろうかと言っているくせに、言い終わらぬうちから殴りかかってきた。けれどどこか凍てついた怒りの前ではそれは止まって見えて。
拳を受け流して逆に投げ飛ばせば、不死川さんは目を白黒させながら、地に伏した。
もちろん、不死川さんが鬼を相手にする時のように本気だったら、投げ飛ばすなんて出来なかっただろうけれど。
他の柱のざわつく気配がする。
「右腕だけで不死川を投げ飛ばすたぁ、やるなアイツ」
「さすが朝緋ちゃん、素敵だわ〜」
その中で唯一声を出したのは、宇髄さんと蜜璃ちゃんか。どこかずれているなあ。
「駄目だよ実弥」
「……申し訳ありません」
不死川さんは怒り心頭で立ち上がって再び殴りかかるところだったらしい。だがお館様の鶴の一声で止まった。
「朝緋。気に障ることを言ってしまったようでごめんね。でも僕らには君の心の内がどのように荒れているのかわからない。君の気持ちを聞かせてくれるかい?」
これは私も矛をしまい従うべきだろう。ゆっくりとまた座り直す。
「私の心の核となるのは今も昔もこの先も元炎柱、煉獄杏寿郎です。彼を貶める言葉は誰であろうと許さない。
ですが別に鬼殺隊をやめるだとか裏切る気は私に一つもありませんし、隊士同士の私闘は御法度。売られた喧嘩は買いはしても私から喧嘩をしかけることはあり得ません。
私が憎み、喧嘩を売り、頸を斬るのは鬼のみです」
つまるところ私はただ、悪しき鬼。鬼舞辻無惨や猗窩座への憎しみで怒りを募らせているのみなのだ。
悲しみで泣く時間はとうに過ぎた。悲しむ暇などない。そんな時間があるならば、判断素早く最善の策を講じすべき事に身を投じろ。
私は炎の呼吸と杏寿郎さんの思いを継いだ者。杏寿郎さんの教え通りにしなくては。
「上弦の参は私が斬ります。あの鬼の頸は私のもの。他の柱や隊士には譲らない」
「左腕がないのに斬れるのかな?」
「まだ右腕があります。腕がなかったら足がある。それもなければ頭がある。喰らいついたら頸をとるまで絶対に離さない」
槇寿朗さんや私は般若と称したが、羅刹と言ってもいいかもしれない。本当、心のうちだけでいえば私こそが鬼だった。
「そう……君は杏寿郎といい仲だったからね。
その気持ちは私にすら変えられない。怒りの想いは力に変わる。体を動かす原動力に。朝緋の好きなようにやりなさい。
でも、復讐にばかり気を取られてはいけないよ。稀血の君を鬼に喰われるわけにはいかないのだから」
「はい。存じております」
私の覚悟を察してか、会議後にまた不死川さんに絡まれることもなかった。
その後、炎柱邸をお館様へと返上した。歴代の炎柱の休憩どころでもあったとのことで返す必要はないと言われたが、あそこには杏寿郎さんとの思い出がありすぎる。
もともと私の私物もほとんどないしそのまま処分して欲しいと申し出た。
そうして腕の喪失にも慣れた私がしたこと。それは鬼殺の任務に他ならない。最初の内は癸の隊士もびっくりな、両腕がある頃の一割にも満たない弱さに戻っていたが、西に東にとボロボロになりながら奔走し続けていれば、実力も全盛期の頃の七割ほどには戻っていた。
力がなければ速さと技術を磨け。結局のところやることはいつも変わらない。
顔つきも少し変わったかもしれない。あまり笑わなくなった。
いや?笑ってるけれど、任務となると以前の比ではないほど鬼への憎しみ、怒りで鬼の形相をしているらしく他の隊士がよりつかない。任務の後もしばらくは怖いようで、いつしか私の任務は単独のものが増えた。同期の獪岳ですら近寄らない。
そんなにも恐ろしい今の私は根無草。生家にも帰らず、私の寝床はもっぱらその時々の藤の家か野宿だった。
今の私の鬼殺の仕方も変わった。
死んで消える前の鬼の亡骸にも、刃を振るうようになった。肉塊になるまで刺して刺して刺し続ける。時には朝になるまで続けるので、隊服はいつも私の血ではなく鬼の血に濡れてどろどろだった。
遺体をいたぶる様は、さぞや恐ろしかったろう。隠のみなさんが合流してくれる時間もどんどん遅くなっていった。
まあ、都合はいいけれど。
鬼舞辻無惨は他の鬼の目を通して物事が見えるらしい。だからこそ、自分の名という呪いを発動する裏切り者の鬼が出ないかを見張れるわけで。
殺した鬼の目に向かって、私はいつも呼びかける。その先の鬼の首領の魂までにも届くかのように。
「鬼舞辻無惨。見えている?見えるんだよね?上弦の参の猗窩座に伝えろ。
お前の頸は私がもらう。頸を洗って待っていろ、と」
今の私の強さでは届かない。
けれどこの思いは、刃はいつか届く。