二周目 拾
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蝶屋敷でしのぶさんを待つ間、報告書のためと炭治郎達の病室を訪れた私。
「朝緋さんっ!うわあああっ!無事でよかった……っ!」
善逸と伊之助は眠っていたが、炭治郎は私の無事をとても喜んで快く病室に迎え入れてくれた。
目が覚めてから私の病室に行ったけれど当の本人もいない、説明してくれそうな人もちょうどいなくて心配していたらしい。
涙して飛びついてくるほどとは、よほど心配をかけてしまったようで申し訳ないことをした。
「今更だけどありがとう。それと任務お疲れ様。
心配してくれて嬉しいけれど、炭治郎もお腹を刺されて重症でしょ。まず自分を治さないとね」
「はいっ!」
いい返事だ。
若手隊士の質が落ちている、だなんて噂が回ってきていたけれど、炭治郎達を見る限りそんなことはなさそうで安心する。杏寿郎さんもこんなに素直で頑張り屋の炭治郎達だからこそ、最期までよくしたんだろうな……。
うう、杏寿郎さん……っ。
「それで休んでいるところ悪いんだけど、今回の任務についての報告書をあげるのに手伝ってもらいたいの」
「報告書を?俺に手伝えるかな……」
「炭治郎達は五感が鋭いでしょう?それによって気がついたことなどを教えてほしいの。
上弦の参はともかくとして、下弦の壱……ああいった特殊な血鬼術を使う鬼が今後出ないとも限らない。情報というものは時に刀より強い力となるから」
『一度目』は報告書どころではなかった。今よりももっともっと精神的に沈んでいた。だから書けなかったそれ。今だって本当は報告書を書くのさえつらい。どうやっても杏寿郎さんのことを思い出してしまうから。
けれど、任務に参加した者の中で今一番階級の高いのは私で、責任者も私。なら、私が書くほかないのだ。無限列車に乗り込む前の切り裂き魔の鬼のことだって書かなくちゃいけないし。
「なるほど……わかりました。俺にできることならいくらでも!」
机と椅子を運び炭治郎のベッドの脇につける。片手だから家具を動かす音が盛大にたってしまったが、善逸達は起きなかった。
「本当は善逸と伊之助にも話は聞きたかったけれどね」
「起こしましょうか?」
「ううん、いいよ。
それに、善逸は眠れば眠るほど強くなるんでしょ?」
「え!?あー……そういうのとはちょっと違うような……?」
善逸の鼻提灯を見やり、伊之助のいびきを聞いて私達は苦笑した。
それぞれの夢の内容については、プライバシーの侵害にあたりそうなので無理に聞き出すのはやめにした。炭治郎は善逸と伊之助の夢の内容を聞いたらしいが、三人の夢の内容を聞けば私の夢だって教えなければフェアじゃない。
あんなの……あんなの、恥ずかしくって教えられない。
それより、炭治郎のよく利く鼻のおかげで収穫がたくさんあった。
「……切符と縄に鬼の血や術か」
「はい!切符に下弦の壱の血が混じっていて、切り込みを入れられたことで血鬼術が発動したと思われます。縄にもまた、あの鬼の匂いが染み付いていました。日輪刀で斬るのはいけないと感じ、鬼の部分だけを燃やすことができる禰󠄀豆子に燃やしてもらったんです」
「なるほどね」
警戒心が強いというか、準備が入念というか……。自分で手を下さずに人間を使うあたり、嫌な鬼だ。対処もしにくくやりにくい。
「二度と相手にしたくない種類の鬼ね」
「そうですね……禰󠄀豆子がいなかったらどうなっていたか」
そう言ってベッドの傍に置かれた禰󠄀豆子ちゃんが入った箱を愛おしげに見つめる兄、炭治郎。
私もつられて禰󠄀豆子ちゃんの箱を見つめ、そして彼女自身を撫でるかのように箱を指で撫でた。音はしない。今は寝てるのかな?
禰󠄀豆子ちゃんのあの桃色の炎は、鬼の部分を燃やせる。そこでわかったことがある。
『前』や今回、伊之助や私が握っていて、禰󠄀豆子ちゃんが燃やせた何か。あれはもしかしなくても切符だ。
あれさえ燃やして外側から術を破ってしまえば、杏寿郎さんも早くに起きたかもしれない。
そうなればおはようの熱い口づけなんてなかったかもしれないけれど、もっと早く鬼が倒せたかも。杏寿郎さんが死ぬこともなかったかも。
……もう過ぎたことだが、そう思った。
「切符がそんななら、やっぱり切符を切った車掌さん……あの人も鬼の協力者だったわけか。運転士もがっつり鬼の協力者だったし、あの鉄道会社どうなってるの?
鬼舞辻無惨の息でもかかってるのかしら……」
「それはないです!!鬼舞辻無惨の嫌な匂いなら、遠くからでも俺がよくわかっているので逃がしません!!」
「そ、そう……」
むうむう唸って考えていたら、炭治郎が胸を叩いてキッパリ言い切った。
そんな曇りなき眼で言わなくても……まあいいか。私も炭治郎の嗅覚には目を見張るものがある。信頼していいものだ。
しかし無惨の匂いってそんなに嫌な匂いなんだ。そもそも鬼の匂いって基本的にどんなものなんだろう?下弦の壱の肉は臭いけどさ。
本当に気になるよねえ。
それから、鬼が直接使ってきた血鬼術についても教えてもらった。
まあ、私は下弦の壱が使ってきた催眠の囁きとやらや、おめめごろごろくっついた眼なんていう血鬼術にかからないで終わったものね。教えてもらわなくては報告書が完成しない。
術にかかり眠りに落ちた時は自分の頸を斬り、自害するしかないらしい。また、目覚めた瞬間にもう一度眠らされたりもしたらしく、目を閉じたまま覚醒することが必須のようだ。
たしかに自害は私も夢の中で一度やった手だけど、やはり鬼が嫌悪する『頸斬り』が手立てだったか。
私は強引すぎる方法で跳ね除けてしまったけれど、普通なら血鬼術にかかって当たり前だったろうなあ。
夢の中とはいえ何度も自害するのは恐怖だし、寝なくてよかった〜〜〜!
「すごく、すごく厄介な血鬼術でした……」
「うん、本当だよね」
上弦の参についても気になったことや気がついたこと、記憶のすり合わせをして私は炭治郎とともに報告書をまとめ終えた。
お礼にと、お土産やお八つに最近私がご執心のカステラをぽんと渡す。
「ありがとうね、炭治郎。すごく助かった!」
「報告書ですから力を貸すのは当たり前です!なのにかすてぃらまでもらってしまって……ご馳走様です!ありがたく頂戴します!!」
炭治郎の明るい笑顔を見ていると癒されるなあ。
みんなでいっぱい食べて早く良くなるんだよ……。そんな気持ちを込めて、ついつい炭治郎の頭を千寿郎にやるようにわしゃわしゃと撫でてしまった。
「ちょ、やめてくださいよ!」
そういえば、列車の中で撫でたら怒られたんだった。怒られないうちに手を引っ込めた私賢い。
「こほん。
それと、炭治郎は師範に煉獄家へ行ってみろと言われなかった?ヒノカミ神楽のことで」
「!?っなんでそれを……?」
「えっと、……師範ならそう言うんじゃないかな〜って思って。
ただ、残念だけど生家では大した収穫はないと思う。それどころか痛い目をみるかも……」
「それでも少しでも可能性があるなら。ヒノカミ神楽を使いこなし、強くなれる可能性があるなら!俺は煉獄さんの生家にお邪魔したいです!!」
「うん、行くなら止めはしない。案内は師範や私の鎹烏を近くに置いておくから頼んでね」
真っ直ぐに自分の意見を言ってくる炭治郎を前に、私は好きにさせた。願わくば槇寿朗さんが炭治郎に掴みかかりませんように。
そう願いながら、病室から出ようと立ち上がる。
「それじゃ、炭治郎、善逸、伊之助、そして禰󠄀豆子ちゃん。今回の任務、お疲れ様でした。
……後は任せてね」
この『後は』には報告書のことだけではない。私は絶対に上弦の参を見つけ出してその頸をとるという覚悟の意味が込められている。
「朝緋さん……」
匂いで感情のわかる炭治郎には、私の思いは伝わっているかもしれない。
「朝緋さんっ!うわあああっ!無事でよかった……っ!」
善逸と伊之助は眠っていたが、炭治郎は私の無事をとても喜んで快く病室に迎え入れてくれた。
目が覚めてから私の病室に行ったけれど当の本人もいない、説明してくれそうな人もちょうどいなくて心配していたらしい。
涙して飛びついてくるほどとは、よほど心配をかけてしまったようで申し訳ないことをした。
「今更だけどありがとう。それと任務お疲れ様。
心配してくれて嬉しいけれど、炭治郎もお腹を刺されて重症でしょ。まず自分を治さないとね」
「はいっ!」
いい返事だ。
若手隊士の質が落ちている、だなんて噂が回ってきていたけれど、炭治郎達を見る限りそんなことはなさそうで安心する。杏寿郎さんもこんなに素直で頑張り屋の炭治郎達だからこそ、最期までよくしたんだろうな……。
うう、杏寿郎さん……っ。
「それで休んでいるところ悪いんだけど、今回の任務についての報告書をあげるのに手伝ってもらいたいの」
「報告書を?俺に手伝えるかな……」
「炭治郎達は五感が鋭いでしょう?それによって気がついたことなどを教えてほしいの。
上弦の参はともかくとして、下弦の壱……ああいった特殊な血鬼術を使う鬼が今後出ないとも限らない。情報というものは時に刀より強い力となるから」
『一度目』は報告書どころではなかった。今よりももっともっと精神的に沈んでいた。だから書けなかったそれ。今だって本当は報告書を書くのさえつらい。どうやっても杏寿郎さんのことを思い出してしまうから。
けれど、任務に参加した者の中で今一番階級の高いのは私で、責任者も私。なら、私が書くほかないのだ。無限列車に乗り込む前の切り裂き魔の鬼のことだって書かなくちゃいけないし。
「なるほど……わかりました。俺にできることならいくらでも!」
机と椅子を運び炭治郎のベッドの脇につける。片手だから家具を動かす音が盛大にたってしまったが、善逸達は起きなかった。
「本当は善逸と伊之助にも話は聞きたかったけれどね」
「起こしましょうか?」
「ううん、いいよ。
それに、善逸は眠れば眠るほど強くなるんでしょ?」
「え!?あー……そういうのとはちょっと違うような……?」
善逸の鼻提灯を見やり、伊之助のいびきを聞いて私達は苦笑した。
それぞれの夢の内容については、プライバシーの侵害にあたりそうなので無理に聞き出すのはやめにした。炭治郎は善逸と伊之助の夢の内容を聞いたらしいが、三人の夢の内容を聞けば私の夢だって教えなければフェアじゃない。
あんなの……あんなの、恥ずかしくって教えられない。
それより、炭治郎のよく利く鼻のおかげで収穫がたくさんあった。
「……切符と縄に鬼の血や術か」
「はい!切符に下弦の壱の血が混じっていて、切り込みを入れられたことで血鬼術が発動したと思われます。縄にもまた、あの鬼の匂いが染み付いていました。日輪刀で斬るのはいけないと感じ、鬼の部分だけを燃やすことができる禰󠄀豆子に燃やしてもらったんです」
「なるほどね」
警戒心が強いというか、準備が入念というか……。自分で手を下さずに人間を使うあたり、嫌な鬼だ。対処もしにくくやりにくい。
「二度と相手にしたくない種類の鬼ね」
「そうですね……禰󠄀豆子がいなかったらどうなっていたか」
そう言ってベッドの傍に置かれた禰󠄀豆子ちゃんが入った箱を愛おしげに見つめる兄、炭治郎。
私もつられて禰󠄀豆子ちゃんの箱を見つめ、そして彼女自身を撫でるかのように箱を指で撫でた。音はしない。今は寝てるのかな?
禰󠄀豆子ちゃんのあの桃色の炎は、鬼の部分を燃やせる。そこでわかったことがある。
『前』や今回、伊之助や私が握っていて、禰󠄀豆子ちゃんが燃やせた何か。あれはもしかしなくても切符だ。
あれさえ燃やして外側から術を破ってしまえば、杏寿郎さんも早くに起きたかもしれない。
そうなればおはようの熱い口づけなんてなかったかもしれないけれど、もっと早く鬼が倒せたかも。杏寿郎さんが死ぬこともなかったかも。
……もう過ぎたことだが、そう思った。
「切符がそんななら、やっぱり切符を切った車掌さん……あの人も鬼の協力者だったわけか。運転士もがっつり鬼の協力者だったし、あの鉄道会社どうなってるの?
鬼舞辻無惨の息でもかかってるのかしら……」
「それはないです!!鬼舞辻無惨の嫌な匂いなら、遠くからでも俺がよくわかっているので逃がしません!!」
「そ、そう……」
むうむう唸って考えていたら、炭治郎が胸を叩いてキッパリ言い切った。
そんな曇りなき眼で言わなくても……まあいいか。私も炭治郎の嗅覚には目を見張るものがある。信頼していいものだ。
しかし無惨の匂いってそんなに嫌な匂いなんだ。そもそも鬼の匂いって基本的にどんなものなんだろう?下弦の壱の肉は臭いけどさ。
本当に気になるよねえ。
それから、鬼が直接使ってきた血鬼術についても教えてもらった。
まあ、私は下弦の壱が使ってきた催眠の囁きとやらや、おめめごろごろくっついた眼なんていう血鬼術にかからないで終わったものね。教えてもらわなくては報告書が完成しない。
術にかかり眠りに落ちた時は自分の頸を斬り、自害するしかないらしい。また、目覚めた瞬間にもう一度眠らされたりもしたらしく、目を閉じたまま覚醒することが必須のようだ。
たしかに自害は私も夢の中で一度やった手だけど、やはり鬼が嫌悪する『頸斬り』が手立てだったか。
私は強引すぎる方法で跳ね除けてしまったけれど、普通なら血鬼術にかかって当たり前だったろうなあ。
夢の中とはいえ何度も自害するのは恐怖だし、寝なくてよかった〜〜〜!
「すごく、すごく厄介な血鬼術でした……」
「うん、本当だよね」
上弦の参についても気になったことや気がついたこと、記憶のすり合わせをして私は炭治郎とともに報告書をまとめ終えた。
お礼にと、お土産やお八つに最近私がご執心のカステラをぽんと渡す。
「ありがとうね、炭治郎。すごく助かった!」
「報告書ですから力を貸すのは当たり前です!なのにかすてぃらまでもらってしまって……ご馳走様です!ありがたく頂戴します!!」
炭治郎の明るい笑顔を見ていると癒されるなあ。
みんなでいっぱい食べて早く良くなるんだよ……。そんな気持ちを込めて、ついつい炭治郎の頭を千寿郎にやるようにわしゃわしゃと撫でてしまった。
「ちょ、やめてくださいよ!」
そういえば、列車の中で撫でたら怒られたんだった。怒られないうちに手を引っ込めた私賢い。
「こほん。
それと、炭治郎は師範に煉獄家へ行ってみろと言われなかった?ヒノカミ神楽のことで」
「!?っなんでそれを……?」
「えっと、……師範ならそう言うんじゃないかな〜って思って。
ただ、残念だけど生家では大した収穫はないと思う。それどころか痛い目をみるかも……」
「それでも少しでも可能性があるなら。ヒノカミ神楽を使いこなし、強くなれる可能性があるなら!俺は煉獄さんの生家にお邪魔したいです!!」
「うん、行くなら止めはしない。案内は師範や私の鎹烏を近くに置いておくから頼んでね」
真っ直ぐに自分の意見を言ってくる炭治郎を前に、私は好きにさせた。願わくば槇寿朗さんが炭治郎に掴みかかりませんように。
そう願いながら、病室から出ようと立ち上がる。
「それじゃ、炭治郎、善逸、伊之助、そして禰󠄀豆子ちゃん。今回の任務、お疲れ様でした。
……後は任せてね」
この『後は』には報告書のことだけではない。私は絶対に上弦の参を見つけ出してその頸をとるという覚悟の意味が込められている。
「朝緋さん……」
匂いで感情のわかる炭治郎には、私の思いは伝わっているかもしれない。