二周目 玖
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左腕が、ない……。
「あ゛ああああっ!?」
その有り様を認めた瞬間、激痛が襲ってきた。
同時に耳も鼻も感覚が戻り、私の鼓動、叫びも聞こえる。血の匂いも鼻に届いた。
流れ出る夥しい量の血。
それを食い止めようと、炭治郎と伊之助が必死で押さえつけ止血を試みてくれている。
炭治郎の市松模様の羽織が腕に巻きつき、吹き飛んだ腕は伊之助が持ってきたのか、ご丁寧にも私の羽織に包まれていた。
「朝緋さん!しっかりしてください!!」
「まだら!傷は浅……くはねぇが、耐えろ!!腕くらいで死ぬんじゃねぇぞ!」
呼びかけてくれる二人には悪いけど、返事をする余裕もない。
あああ!痛い痛い痛い!
こんな痛みは未だかつて味わったことがない!!
でもだめだ、こんなことくらいで……。
炭治郎のしっかりしろという言葉通り。伊之助の死ぬなという言葉通り。
しっかりしろ、こんなことでショック死するような柔な鍛え方していないでしょ!
私は鬼殺隊士、痛みには強く出来ている……!!
腕がないのがなんだ!倒れてる場合か!?
これくらい我慢しなさい!!
歯を食いしばって、足に力を入れて、立ち上がるの!!
でも心を強く保たないと、今にも気を失ってしまいそうだ!
今寝ているわけにはいかないのに!!
「うう、くっ……はっ」
「え、朝緋さん!?」
「おまっ、死ぬなとは言ったが、起き上がるにははえーぞ!!」
「い……、いいの……っ」
心配する炭治郎達に支えられてようやく身体を起こし顔を向けた先。
『また』傷ついた貴方がいる。土煙が晴れた先に立ちすくんでいる杏寿郎さんの姿。
呼吸の精度が上がってきている。
玖ノ型・煉獄の独特の呼吸音がここまでも聞こえてくるかのようだ。
……朝も近い。もう『その時』がそこまで来ている!
運命の時間がもうすぐだ。このままだと間に合わない!!
ああ、杏寿郎さん!杏寿郎さん!杏寿郎さん!!
思い出すのは最悪最恐の悪夢。
黎明に散ってしまう、貴方の姿。
腕だろうが足だろうが、失おうと折れようと這ってでも動かなければいけない!
今しかないの。今動かなかったら、私は一生後悔する!!
ビシビシと痛み続ける体も、無くなった腕の切り口から血が滲むのも構わず、立ち上がる。
無理に動く私の腰を押さえ、二人が待ったをかけた。
「だめだっ!そんな体で動いちゃ……っ」
「まだら!無茶だ!!」
心配してくれているのはわかる。
私が炭治郎や伊之助でもそうしただろう。
自分の怪我の程度も、力量も計れず、再び戦いの場に向かう事ほどの愚行はない。
「うぁぁぁ゛ッ!!!!お願いどいてっっ!!」
制止する炭治郎や伊之助を突き飛ばして振り切り、私は杏寿郎さんの元へと足をもつれさせながら急ぐ。
左腕なんてなくても、右腕に握る日輪刀さえあれば十分だ。
だから。
あの構えだけはだめ、だめなの。それを放ったら、貴方はーー。
「待って、杏寿郎さん……っ、お願いだから、待っ……!!」
だが、私の願い虚しく、奥義はこの地に放たれた。
「玖ノ型・煉獄!!」
杏寿郎さんの炎が天まで届くほどの鮮やかさで闇夜に咲いた。
いつか見た紅葉のような、ううん。もっともっと赤い、命を燃やす赤き炎。
「破壊殺・滅式!!」
杏寿郎さんの技と猗窩座の技が激しくぶつかり合う様は、まるで火柱が昇るかのよう。
そして、毒々しいまでに血色をした花が美しい炎に紛れ、散らされる。
ーー悪夢と同じ色。悪夢と同じ匂い。
悪夢と同じ光景。
その背に鬼の腕が貫通しているのが見えた。
「あ、あ、……、ゃ、あ…………っ」
ああ、そんな。そんなそんなそんな!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!
杏寿郎さんの口から吐き出される大量の血。
腕が貫通してもなお、鬼の頸をとらんと刀を振るうその気概。
決して諦めず、命と引き換えにして、その最期の力をすべて込めた刃。
……責務を全うしようとする杏寿郎さんの心。
そんな気概はいらない!
命と引き換えになんてしなくていい!
責務が大事なのはわかる!!でも貴方が生きる未来が、私にとって一番大切で一番必要なことなの!!
……けど、もうだめだ。
だめだった。間に合わなかった。変えられなかった。また『前』と同じ結果だ。
私は貴方の生きる未来を夢見ることすら許されないの?
伸ばしても伸ばしても届かないこの手が憎らしい。左手はなくとも右手はあったのに!
また何もできなかった。私は何者にもなれない。
あんなに流れ出ていた血も、全て氷のように固まり止まってしまいそう。全身がひどく冷えきっている。
全集中の呼吸が完全に途切れた。
それでも目の前の光景のせいか、痛みは遠く、感じないほど。
その場に膝をついた私は、貴方の奮闘も見れず最期の言葉も聞けず、滲み溶ける視界の名中でそのまま気を失ってしまった。
「あ゛ああああっ!?」
その有り様を認めた瞬間、激痛が襲ってきた。
同時に耳も鼻も感覚が戻り、私の鼓動、叫びも聞こえる。血の匂いも鼻に届いた。
流れ出る夥しい量の血。
それを食い止めようと、炭治郎と伊之助が必死で押さえつけ止血を試みてくれている。
炭治郎の市松模様の羽織が腕に巻きつき、吹き飛んだ腕は伊之助が持ってきたのか、ご丁寧にも私の羽織に包まれていた。
「朝緋さん!しっかりしてください!!」
「まだら!傷は浅……くはねぇが、耐えろ!!腕くらいで死ぬんじゃねぇぞ!」
呼びかけてくれる二人には悪いけど、返事をする余裕もない。
あああ!痛い痛い痛い!
こんな痛みは未だかつて味わったことがない!!
でもだめだ、こんなことくらいで……。
炭治郎のしっかりしろという言葉通り。伊之助の死ぬなという言葉通り。
しっかりしろ、こんなことでショック死するような柔な鍛え方していないでしょ!
私は鬼殺隊士、痛みには強く出来ている……!!
腕がないのがなんだ!倒れてる場合か!?
これくらい我慢しなさい!!
歯を食いしばって、足に力を入れて、立ち上がるの!!
でも心を強く保たないと、今にも気を失ってしまいそうだ!
今寝ているわけにはいかないのに!!
「うう、くっ……はっ」
「え、朝緋さん!?」
「おまっ、死ぬなとは言ったが、起き上がるにははえーぞ!!」
「い……、いいの……っ」
心配する炭治郎達に支えられてようやく身体を起こし顔を向けた先。
『また』傷ついた貴方がいる。土煙が晴れた先に立ちすくんでいる杏寿郎さんの姿。
呼吸の精度が上がってきている。
玖ノ型・煉獄の独特の呼吸音がここまでも聞こえてくるかのようだ。
……朝も近い。もう『その時』がそこまで来ている!
運命の時間がもうすぐだ。このままだと間に合わない!!
ああ、杏寿郎さん!杏寿郎さん!杏寿郎さん!!
思い出すのは最悪最恐の悪夢。
黎明に散ってしまう、貴方の姿。
腕だろうが足だろうが、失おうと折れようと這ってでも動かなければいけない!
今しかないの。今動かなかったら、私は一生後悔する!!
ビシビシと痛み続ける体も、無くなった腕の切り口から血が滲むのも構わず、立ち上がる。
無理に動く私の腰を押さえ、二人が待ったをかけた。
「だめだっ!そんな体で動いちゃ……っ」
「まだら!無茶だ!!」
心配してくれているのはわかる。
私が炭治郎や伊之助でもそうしただろう。
自分の怪我の程度も、力量も計れず、再び戦いの場に向かう事ほどの愚行はない。
「うぁぁぁ゛ッ!!!!お願いどいてっっ!!」
制止する炭治郎や伊之助を突き飛ばして振り切り、私は杏寿郎さんの元へと足をもつれさせながら急ぐ。
左腕なんてなくても、右腕に握る日輪刀さえあれば十分だ。
だから。
あの構えだけはだめ、だめなの。それを放ったら、貴方はーー。
「待って、杏寿郎さん……っ、お願いだから、待っ……!!」
だが、私の願い虚しく、奥義はこの地に放たれた。
「玖ノ型・煉獄!!」
杏寿郎さんの炎が天まで届くほどの鮮やかさで闇夜に咲いた。
いつか見た紅葉のような、ううん。もっともっと赤い、命を燃やす赤き炎。
「破壊殺・滅式!!」
杏寿郎さんの技と猗窩座の技が激しくぶつかり合う様は、まるで火柱が昇るかのよう。
そして、毒々しいまでに血色をした花が美しい炎に紛れ、散らされる。
ーー悪夢と同じ色。悪夢と同じ匂い。
悪夢と同じ光景。
その背に鬼の腕が貫通しているのが見えた。
「あ、あ、……、ゃ、あ…………っ」
ああ、そんな。そんなそんなそんな!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!
杏寿郎さんの口から吐き出される大量の血。
腕が貫通してもなお、鬼の頸をとらんと刀を振るうその気概。
決して諦めず、命と引き換えにして、その最期の力をすべて込めた刃。
……責務を全うしようとする杏寿郎さんの心。
そんな気概はいらない!
命と引き換えになんてしなくていい!
責務が大事なのはわかる!!でも貴方が生きる未来が、私にとって一番大切で一番必要なことなの!!
……けど、もうだめだ。
だめだった。間に合わなかった。変えられなかった。また『前』と同じ結果だ。
私は貴方の生きる未来を夢見ることすら許されないの?
伸ばしても伸ばしても届かないこの手が憎らしい。左手はなくとも右手はあったのに!
また何もできなかった。私は何者にもなれない。
あんなに流れ出ていた血も、全て氷のように固まり止まってしまいそう。全身がひどく冷えきっている。
全集中の呼吸が完全に途切れた。
それでも目の前の光景のせいか、痛みは遠く、感じないほど。
その場に膝をついた私は、貴方の奮闘も見れず最期の言葉も聞けず、滲み溶ける視界の名中でそのまま気を失ってしまった。